糠漬け

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洗って盛り付けた糠漬け

糠漬け(ぬかづけ)とは、米糠乳酸菌発酵させて作った糠床(ぬかどこ)の中に野菜などを漬けこんで作る日本を代表する漬物の一つである。糠味噌漬け(ぬかみそづけ)・どぶ漬けどぼ漬けとも呼ばれ、また漬け込む方法のことを指す場合もある。一般に胡瓜茄子大根といった水分が多い野菜を漬けこむことが多いが、[1]ゆで卵蒟蒻なども利用される。あまり漬かっていないものは浅漬け、一夜漬けと呼ばれ、漬かりすぎたものは古漬け、ひね漬けなどと呼ばれる。また、干した大根を糠に漬けたものを沢庵という。

歴史[編集]

現在の形の糠漬けが出来たのは、江戸時代初期と言われている。もともとは、奈良時代に須須保利(すずほり)という漬床として臼で挽いた穀類大豆を使った漬物があったという。江戸時代になって、精米の際に出る米糠をこの穀類と大豆の代わりに使ったのが糠漬けである。糠のビタミンB1が野菜に吸収されるのを利用して、当時流行していた脚気の被害をある程度防いだと考えられている。

製法[編集]

漬物屋店頭の糠漬け

伝統製法による方法では、まず糠床を作る。適量の糠(炒ってから使う場合もある)に一度煮沸してから冷した15%濃度の食塩水を加える。水の量は糠床が味噌よりもやや固めになるぐらいである。

一昼夜程度の短期間で仕上がる速醸製法では、一例として糠の70%程度のと7%の食塩を添加し水分量を50%に調整する[2]

塩のはたらき[編集]

塩のはたらきは浸透圧による脱水作用で野菜などの食材中にある水分を細胞外に出す働きがある。また、pHを下げ[3]菌をコントロールする作用もあり、塩の濃度により、漬物をおいしくする乳酸菌など有用菌の働きを活発にし食べ物を腐敗させる菌を抑える効果もある。野菜などを漬ける前に塩で揉むと、色素が安定し色が引き立ち、脱水作用により水分がぬけた食材の細胞の中に入り込んで食材に味をつける。[4]

糠と塩と水以外にぬか床に入れるもの[編集]

唐辛子昆布とともにタッパー等に詰め、表面を平らにならして糠床の準備ができる。これに野菜くずを1週間ほど毎日取りかえて漬けると、野菜についていた乳酸菌等が繁殖し、一応、完成である。しかしこの段階では糠床は熟成していないため、漬物の風味は少ない。野菜を漬けこみ毎日手入れすることで発酵がすすみ、風味が増していくのである。場なら2ヶ月、場なら4ヶ月ほどでおいしい糠床が完成する。

もっとも大型食料品店などで熟成済みの糠床が入れ物ごと売られているので、これを利用すれば手間がかからない。また、熟成した糠床を少量分けてもらうこと(床分けという)で短期間で熟成した糠床を作ることもできる。風味付けに果物の皮を漬ける人もいる。

野菜の漬け込み[編集]

完成した糠床に、よく洗ってで揉んだ野菜を漬けると糠漬けの完成である。漬けこむ時間は野菜の大きさや季節によっても変わるが、丸のままの胡瓜なら半日ほどで漬けあがる。あまり漬かっていなければ醤油をたらして食べ漬かり過ぎている場合は細かく刻んで軽く絞り、お茶漬けチャーハンの具にしてもよい。普通は洗ってから切って食べるが、洗わずに糠味噌のついたまま食べる場合もある。

ヨーグルト漬け[編集]

糠漬けの味を手軽に早く実現する方法として、ヨーグルト漬けがしばしばメディアで紹介された。ただし、植物では繁殖する乳酸菌の種類が違う為、糠床にヨーグルトを入れても熟成しない[要出典]

ぬか漬けができるメカニズム[編集]

ぬか漬けができるメカニズムには発酵と浸透がある。漬け込むことで糠に含まれる豊富な栄養が材料に浸透し、乳酸菌や酵母による発酵で甘みと香りが増す。[5]

発酵[編集]

糠と塩と水で作られるぬか床に野菜を日々出し入れすることにより独特の風味が形成される。[6]

ぬか床が作られた当初は土壌由来の大腸菌が80%を占めるが、1ヶ月後には大腸菌は姿を消し、乳酸菌が卓越するようになる。乳酸菌が生成する乳酸と添加している食塩により、腐敗菌は抑制される。[6]

2ヶ月後には野菜由来の酵母が出現し始めるとほぼ同時にぬか床が独特のの香りを持ち始める。[7]

ぬか床の脂質と野菜、乳酸菌と酵母の働きでぬか漬けの独特の香味が作られていると考えられている。[7]

浸透[編集]

手入れ[編集]

糠床の腐敗を防ぐため、毎日底からかき混ぜて空気に触れていた部分を奥へと混ぜ込む必要がある。温度の高い夏には、1日2度かき混ぜないといけない場合もある。かき混ぜ終わったら平らにならしてふちについた糠を拭き、蓋を軽く置いておく。また、野菜を漬けていると糠床が水っぽくなり腐敗しやすくなるので1週間に1度は窪みを作って布巾で吸い取るか、新たに糠と塩を加えて硬さを元に戻しておく。

旅行などでどうしても長期間手入れが出来ないときには、表面に塩を多めに振って冷蔵庫に入れておくとしばらくは腐敗が防げる。発酵が進み過ぎて糠漬けが酸っぱくなったときは、の殻を砕いて入れる。茄子の皮の色を綺麗に出したいときは鉄か専用の鉄製器具が売られているのでそれを入れておく。鉄釘を入れる場合、先端が尖ったまま入れてしまうとかき混ぜるときに負傷する恐れがあるので、手を傷つけない程度に丸めておく必要がある。強い刺激臭(セメダイン臭とかシンナー臭とも形容される)がする場合は、塩水を入れてよくかき混ぜるとよい。

茄子の糠漬けの色を鮮やかにする[編集]

茄子の色素のナスニンというものでアントシアン系の色素の一種で、これがアルミニウムや鉄のイオンと結びつくと色が鮮やかな紫色になることが知られている。これは古釘から出る鉄イオンやミョウバンのアルミニウムイオンがナスニンの分子に直接結びついて青紫色の化合物を作るため。ただし、ミョウバンは入れすぎると味を悪くする。[8]

ぬか床の保管場所[編集]

なお、きちんと手入れされた糠床は不快ではないが若干独特の発酵臭がするため、冷暗所で換気の良いところに置いた方がよい。

ぬか床の細菌叢[編集]

細菌叢(微生物叢)は主に乳酸菌の Lactobacillus 属で構成されるが、漬け込む食材と時間経過によって大きく変化する。発酵初期には、環境由来の発酵とは無関係な環境菌群が多いが、次第に塩分の多い環境に適応した Pediococcus pentosaceus といった好塩乳酸球菌が存在し、発酵が進むと L. plantarum , L. brevis 等の乳酸桿菌へ菌叢が変化する[9][10]熟成した漬け床では、好気性球菌や酵母が乳酸球菌よりも優勢であることもある[11][1]L. plantarum のほかには L. acetotoleransL. namurensis など30種以上の細菌で複雑に構成されている。

一方、魚を漬け込んだぬか床では有害菌としてヒスタミン生産菌が増殖する事もあり[12]、生産菌由来の不揮発性アミンが含有される事がある[13]

健康維持[編集]

糠漬けは保存食品でありナトリウムが多いが、同時にカリウムも多く含まれるため食べ過ぎなければ問題がない。また乳酸菌酵母により有害物質を分解する効力が高く、内を清浄に保ち健康維持に大変良い[要出典]。ただし高血圧症腎臓病などの疾病により、ナトリウムやカリウムの摂取量に制限がある場合には、医師の指導に従う。

糠漬けされた食品一例[編集]

参考文献[編集]

  • 『すべてが分かる!「発酵食品」事典』 小泉武夫、金内誠、舘野真知子、世界文化社2013年
  • 『食で総合学習 みんなで調べて作って食べよう!5 漬け物』 金の星社2001年
  • 杉田浩一 『新装版「こつ」の科学』 柴田書店2006年
  • 今井正武「漬物のかぐわしい香り」、『食生活』第107巻1号、月刊「食生活」編集部、2014年1月

関連項目[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ a b 久田孝、宮本浩衣、坂尻誠ほか、石川県で製造された魚介類の糠漬け製品中の微生物フローラ 日本水産学会誌 Vol.67 (2001) No.2 P.296-301, doi:10.2331/suisan.67.296
  2. ^ 深井洋一、塚田清秀、速醸糠漬けの品質特性の検討―糠漬けの品質特性に関する研究―(第1報) 日本調理科学会誌 Vol.40 (2007) No.1 p.22-26, doi:10.11402/cookeryscience1995.40.1_22
  3. ^ 畑明美、南光美子、長谷川明子、『野菜漬物中の無機成分の変化』 The scientific reports of the Kyoto Prefectural University. Natural science and living science 37, 63-71, 1986-11-15, NAID 110000058106
  4. ^ みんなで調べて作って食べよう!5 漬け物, p. 16.
  5. ^ すべてが分かる!「発酵食品」事典, p. 67.
  6. ^ a b 漬物のかぐわしい香り, p. 42.
  7. ^ a b 漬物のかぐわしい香り, p. 43.
  8. ^ こつの科学, p. 253.
  9. ^ 今井正武、平野進、饗場美恵子、糠床の熟成に関する研究 熟成中の菌叢および糠床成分の変化 日本農芸化学会誌 Vol.57 (1983) No.11 P.1105-1112, doi:10.1271/nogeikagaku1924.57.1105
  10. ^ 中川弘、水野竹美、清水隆浩、漬物の乳酸菌叢に関する検討 日本食品微生物学会雑誌 Vol.18 (2001) No.2 P.61-66, doi:10.5803/jsfm.18.61
  11. ^ 小野浩、中山二郎、次世代シーケンサーを用いた発酵食品の細菌叢解析 ―見えてきた複雑系の深部― 日本乳酸菌学会誌 Vol.25 (2014) No.1 p.3-12, doi:10.4109/jslab.25.3
  12. ^ 八並一寿、越後多嘉志、市販いわし糠漬けからの耐塩性ヒスタミン生成菌の分離 日本水産学会誌 Vol.57 (1991) No.9 P.1723-1728, doi:10.2331/suisan.57.1723
  13. ^ 八並一寿、越後多嘉志、市販いわし糠漬けの不揮発性アミン含量 食品衛生学雑誌 Vol.33 (1992) No.3 P.310-313_1, doi:10.3358/shokueishi.33.310

外部リンク[編集]