海上自衛隊の電子戦装置

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「ありあけ」における装備要領。NOLQ-3は、上部にESM装置、下方両舷にECM装置が配されている。

本項では、海上自衛隊が現在ないし過去に運用していた電子戦装置について扱う。

電子戦支援(ESM)のための電波探知装置にはOLRまたはNOLR電子対抗手段(ECM)のための電波妨害装置にはOLT、両方を兼用できる電波探知妨害装置にはNOLQのシステム区分が付与されている。


第0世代 (AN/BLR-1)[編集]

戦後日本初の国産戦闘艦であるはるかぜ型護衛艦にはOLR-3(のちにOLR-4に改装)が搭載されたが、資料・技術ともに乏しかったことから、性能的には非常に限定的なものであった[1]

このことから、続いて建造されたあやなみ型およびむらさめ型はさしあたり電子戦器材を搭載せずに竣工し、またこれらのうち昭和32年度計画艦では、アメリカ製のAN/BLR-1が輸入によって装備された[2]。アンテナは後檣に設置されており、監視(intercept)用の無指向性アンテナ4基と、レドームに収容された方向探知(DF)用の指向性アンテナ2基から構成されていた。周波数監視は機械的掃引方式によっていた[3]

第1世代 (AN/WLR-1)[編集]

「おおい」「とかち」。いずれも後部マスト上にNOLR-1(2つのドーム)を搭載しているが、「とかち」では改良型のNOLR-1Bとなっている

初の本格的な国産機として開発されたのがNOLR-1である。これはアメリカのAN/WLR-1におおむね相当するとされており、あきづき型護衛艦より装備化された。また昭和37年度計画艦からはNOLR-1B、昭和43年度計画艦からはNOLR-5と、順次に改良されており[4]、NOLR-5ではAN/WLR-1Gにおおむね相当するとされている[5]。またこの間、たかつき型2・3番艦(39・40DDA)では、AN/WLR-1Cが輸入により装備された[6]

当初、対応周波数は11ギガヘルツまでとされていたが、ASMDの必要に応じて、18ギガヘルツの高周波まで拡大された[7]

搭載艦艇

第2世代 (ASMD対応)[編集]

NOLQ-1のECM用アンテナ
NOLR-6の指向性アンテナ
OLT-3
OLR-9B

1970年前後より、アメリカの趨勢にあわせて、スーパーヘテロダイン受信機(SHR)による電子的周波数掃引能力を備えた機種が実用化されはじめた[3][7]

まず、ミサイル護衛艦(DDG)・ヘリコプター護衛艦(DDH)向けの電波探知妨害装置としてNOLQ-1が開発された。これはASMDを主目的として、SHRとともに、瞬時周波数計測(IFM)装置と電波妨害装置を統合したものとされており[7][8]、受信機1・2、送信機部1・2、信号処理器、指示制御部、監視アンテナ、方位アンテナから構成されている。探知した信号の分析・評価・記録などを行い、必要に応じて妨害電波を発射する。到来電波の情報処理は電子計算機によって行われるが、メモリーされた識別テーブルに合致した場合は、自動的に妨害電波を発射できる[9]昭和48年度計画艦より装備化された[10]。製作者は三菱電機であった[9]

汎用護衛艦(DD)および護衛艦(DE)向けの電波探知装置としてはNOLR-6が開発された。周波数・パルス幅・パルス繰返し周波数(PRF)や到来方位および変調方式など、脅威電波の情報を探知・分析できる。受信部は、マスト頂部の「かんざし」状の無指向性アンテナと、その下方両舷に配置された回転式の指向性アンテナから構成されており、前者はドップラー方式によるV/UHFの方向探知を、後者はレーダー波の分析を担当すると見られている[5]。特に前者の装備により、かなり広範囲の周波数をカバーできるようになったとされている[3]。また操作部については、受信切替操作や受信信号表示など運用に必要な部分は一体化されてコンソールに組み込まれており、ワンマン・コントロールが可能となっている。主要機能は監視受信系と分析受信系の2つに分けられる[9]。本機はアメリカのAN/WLR-8におおむね相当するとされており[5]、まず1979年に「あおくも」に換装によって搭載されたのち[11]、昭和52年度計画艦(DD・DE)より艦隊配備された[12][13]。こちらの製作者は日本電気であった[9]

また対艦ミサイル防御(ASMD)の要請が高まっていたこともあり、NOLQ-1とNOLR-6では、ミサイル警報装置RWR)としてOLR-9Bも併載された。これはアメリカ製のAN/WLR-11に相当するものとされている[7]。同一レベルに4基のレドームを配しており、瞬時周波数計測を可能としている[3]

その後、DDにも電子攻撃能力を付与するため、電波探知装置とは別体の電波妨害装置が開発された。まず開発されたOLT-2は、1977年に「もちづき」に搭載された[3]ほか、NOLQ-1の送信機部との関連も指摘されている。続いて開発されたOLT-3は昭和54年度計画艦より装備化された[13]。これは、ほぼアメリカのAN/SLQ-17に匹敵する性能を有するとされている[7]

搭載艦艇


第3世代 (水電妨)[編集]

NOLQ-2のECMアンテナ。
NOLQ-2BのECMアンテナ。
NOLQ-3のECMアンテナ。
NOLQ-3DのECMアンテナ。
NOLQ-3のESMアンテナ群。
NOLQ-3DのESMアンテナ(DF)。
NOLQ-3DのESMアンテナ。

技術研究本部第4室では、ASMDに対応した次世代の電子戦装置として、昭和50年度より「水上艦用電波探知妨害装置」(水電妨)の開発に着手していた。これは瞬時探知・妨害を目標としており、昭和5253年度には部分試作、昭和5455年度には本試作を経て、昭和56年度から59年度にかけて、「ゆきかぜ」において技術・実用試験が行われた[13]

昭和58年度には開発を完了した[14]ものの、護衛艦に装備するには非常に大型となり、また開発期間中に技術的に陳腐化した部分も多かったことから、まずその技術を応用した電波探知装置としてNOLR-8が開発された。このような経緯があったことから、これは従来の電波探知装置とはまったく別系列で、対艦ミサイル防御(ASMD)を重視しており、通信波帯ESM機能を削除する一方で、ミサイル・シーカー波の瞬時探知・全方位同時捜索などの機能を備えていた。また戦術情報処理装置やOLT-3電波妨害装置との連接にも対応していた。昭和60年度艦より装備化されたものの、公試中から早くも長短両面が顕在化したことから、海上幕僚監部主導のもと、官民合同の戦力化検討会が設けられ、改良が重ねられた[13]

一方、水電妨を元にした電波探知妨害装置の開発も継続され、まずこんごう型(63DDG)よりNOLQ-2が装備化された[14]。これは海上自衛隊のイージス艦において標準的な電子戦器材となり、あたご型護衛艦でも、一回り小型化するなどした改正型であるNOLQ-2Bが搭載された[15]

またDD・DDH向けとしてはNOLQ-3が開発された。これはむらさめ型(03DD)より装備化され[14]たかなみ型(10DD)にも搭載されるなど、第2世代DDで標準的な装備となった[16]

その後、デジタル化など最新の信号処理技術を適用したNOLQ-3Dに発展し、これは平成19年度計画艦から装備化された。受信系については、指向性アンテナを従来の回転式から固定式に変更し、従来のチャネライズド受信機をデジタル化することで感度向上をはかるとともに、探知距離の延伸を実現している。また方向探知の方式は、従来の振幅比較方式に対して位相差方式に変更し、精度向上を図っている[17][18]

このほか、ミサイル艇用の小型の電波探知装置として、NOLR-9も開発された。電波封止状況での捜索手段として用いられる[19]

搭載艦艇

参考文献[編集]

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  1. ^ 香田洋二「国産護衛艦建造の歩み(第4回)ようやく始まった国産護衛艦建造(その2)」、『世界の艦船』第776号、海人社、2013年4月、 154-161頁、 NAID 40019596551
  2. ^ 香田洋二「国産護衛艦建造の歩み 第5回」、『世界の艦船』第778号、海人社、2013年5月、 146-153頁、 NAID 40019640953
  3. ^ a b c d e 大野鷹雄「レーダー/ESM・ECM (電波兵器/主機/艦載ヘリコプター)」、『丸スペシャル』第78号、潮書房、1983年8月、 5-17頁。
  4. ^ 多田智彦「4 レーダー/電子戦機器 (海上自衛隊の艦載兵器1952-2010)」、『世界の艦船』第721号、海人社、2010年3月、 100-105頁、 NAID 40016963809
  5. ^ a b c Norman Friedman (2006). The Naval Institute guide to world naval weapon systems. Naval Institute Press. pp. 372-373. ISBN 9781557502629. http://books.google.co.jp/books?id=4S3h8j_NEmkC. 
  6. ^ 香田洋二「国産護衛艦建造の歩み(第11回)2次防(その3)「たかつき」型/国産新装備」、『世界の艦船』第787号、海人社、2013年11月、 152-159頁、 NAID 40019810632
  7. ^ a b c d e Norman Friedman (1997). The Naval Institute guide to world naval weapon systems 1997-1998. Naval Institute Press. ISBN 9781557502681. http://books.google.co.jp/books?id=l-DzknmTgDUC. 
  8. ^ Desmond Ball, Regional Strategic Studies Programme (Institute of Southeast Asian Studies) (1993). Signals intelligence in the post-cold war era: developments in the Asia-Pacific region. Institute of Southeast Asian Studies. ISBN 9789813016378. http://books.google.co.jp/books?id=TvpdLDMcaJ4C. 
  9. ^ a b c d 『自衛隊装備年鑑 2011-2012』 朝雲新聞社2011年、351-352頁。ISBN 978-4750910321
  10. ^ 香田洋二「国産護衛艦建造の歩み 第15回 3次防その3 「たちかぜ」型その2, 「はるな」型」、『世界の艦船』第793号、海人社、2014年3月、 148-155頁、 NAID 40019955100
  11. ^ 香田洋二「国産護衛艦建造の歩み 第12回 2次防その4「やまぐも」型「みねぐも」型 2次防艦の電気部/SQS-35VDS」、『世界の艦船』第788号、海人社、2013年12月、 150-157頁、 NAID 40019837845
  12. ^ 香田洋二「国産護衛艦建造の歩み(第22回)ポスト4次防の新装備(FCS-2,62口径76ミリ速射砲),いしかり/ゆうばり型DE」、『世界の艦船』第805号、海人社、2014年10月、 157-165頁、 NAID 40020191677
  13. ^ a b c d 香田洋二「国産護衛艦建造の歩み(第25回)ポスト4次防の新装備(短SAMおよび発射装置)はつゆき型DD(その3)あさぎり型DD(その2)」、『世界の艦船』第810号、海人社、2015年1月、 194-201頁、 NAID 40020274355
  14. ^ a b c 技術開発官(船舶担当) 『技術研究本部50年史』(PDF)、2002年、72-115頁。2012年8月25日閲覧。
  15. ^ 「ウエポン・システム (特集・最新鋭イージス艦「あたご」) -- (最新鋭イージス護衛艦「あたご」のすべて)」、『世界の艦船』第678号、海人社、2007年8月、 86-93頁、 NAID 40015530277
  16. ^ 「兵装・戦闘システム (特集 新DD「たかなみ」型のすべて)」、『世界の艦船』第614号、海人社、2003年8月、 82-89頁、 NAID 80015998320
  17. ^ 「ウエポン・システム (特集・進水目前! 注目の「19DD」) - (「19DD」の技術的特徴)」、『世界の艦船』第732号、海人社、2010年11月、 94-99頁、 NAID 40017318662
  18. ^ 東郷行紀「4. ウェポン・システム (新型DDH「いずも」のハードウェア)」、『世界の艦船』第787号、海人社、2013年11月、 98-101頁、 NAID 40019810473
  19. ^ 石井幸祐「海上自衛隊の最新鋭ミサイル艇「はやぶさ」型のすべて (特集・ミサイル艇)」、『世界の艦船』第597号、海人社、2002年6月、 88-97頁、 NAID 40002156363

関連項目[編集]

  • AN/SLQ-32 - アメリカ海軍の電子戦装置。