松永和紀

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松永 和紀
(まつなが わき)
誕生 1963年[1]
長崎県長崎市
職業 新聞記者サイエンス・ライター
最終学歴 京都大学大学院農学研究科農芸化学専攻)
ジャンル ノンフィクション
主題 食品健康疑似科学環境問題放射能汚染
代表作メディア・バイアス』(2007年)
主な受賞歴 科学ジャーナリスト賞(2008年)
デビュー作食卓の安全学』(2005年)
公式サイト WAKILAB 公式
FOOD COMMUNICATION COMPASS (FOOCOM) 松永が編集長
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松永 和紀(まつなが わき、1963年 - )は、日本の科学ジャーナリスト、食の安全や農業技術などのテーマを主に執筆している[2]。2021年より食品安全委員会委員で、リスクコミュニケーションを担当[3][4]

京都大学大学院農学研究科農芸化学専攻で修士を修めた後、毎日新聞社の記者を経てフリーランスのライターとなる[5][3]。官公庁の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会、内閣府消費者委員会 食品表示部会などの委員を務める[6][7]。2011年に消費者団体フードコミュニケーションコンパス(FOOCOM)を立ち上げ、2016年まで初代代表を務めた[8][3]

著書『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞受賞[9][10]。他に、『食卓の安全学 - 「食品報道」のウソを見破る』(家の光協会)、『効かない健康食品 危ない自然・天然』(光文社新書)、『お母さんのための「食の安全」教室』(女子栄養大学出版部)、『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)など多数[9][11]

略歴[編集]

長崎県長崎市生まれ、東京都育ち[12]東京都立西高等学校京都大学農学部卒業[3]京都大学大学院農学研究科農芸化学専攻)修士課程修了[3]

毎日新聞社に就職し、西日本本社の記者として10年勤務した後に退職[13][9]。2000年から科学ライターとして活動[5]。『買ってはいけない』などの健康情報に誤りがあるとして、著書『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』で科学ジャーナリスト賞2008を受賞した[10][14]2011年には、消費者団体フードコミュニケーションコンパス(FOOCOM、読みはフーコム)を設立し、2016年半ばまで代表を務めた[8][3]。FOOCOMは食生活ジャーナリストの会による「食生活ジャーナリスト大賞」を受賞し、毎日新聞社の小島正美は「科学的な根拠に基づく確かな情報発信が評価された」と述べている[15]

島根県の消費者啓発講座など、「食の安全」に関する勉強会で講師を務めている[16][10][11][6]
2011年、福島原子力発電所事故後は、食品報道から起こるリスクにも目を向けている[17]。北九州市の災害廃棄物(東日本大震災のガレキ)の受入に関する検討会では、学識経験者(環境リスク)として参加した[18]。第10期北九州市環境審議会委員(2014年7月31日まで)[19]

2012年、文部科学省の科学技術・学術審議会にオブザーバーとして参加した[20]
2013年、厚生労働省の「薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会・乳肉水産食品部会食肉等の生食に関する調査会」では委員を務めた[21]
2013年12月に起きたアクリフーズ農薬混入事件で、第三者委員会報告書格付け委員会の委員を務めた[22]
2017年、環境庁中央環境審議会委員[23]
2018年、内閣府の消費者委員会食品表示部会の委員[24]、また新開発食品調査部会の委員[25]
2021年より、内閣府の食品安全委員会委員(リスクコミュニケーション担当)[3]

受賞[編集]

見解[編集]

  • 農芸化学は、生命・食料・環境に対するアプローチを持つ研究を行っており、現実に対応して修正もされていく学問だとして、農芸化学に携わってきた人たちは、一般市民に科学情報を伝えていく大きな役割を持っていると考えている[26]
  • ダイエット情報をはじめとして科学的根拠に欠ける健康情報の報道などに見られるマスコミの姿勢を批判している[27]
  • DDTを例に、リスクを認識した上でリスクとベネフィット(利益・恩恵)を科学的に検討して利用することの重要性を訴えている[28]
  • 遺伝子組換え作物について、「ハワイのパパイヤをウイルスから救った遺伝子組換え技術」を紹介し、遺伝子組換え技術の有益性を主張している[29]
  • 食品添加物に対し、「最近メディアで添加物が悪い根拠として取り上げられていることのほとんどは、学術的に完全に否定されていることや古い研究結果の誤った解釈、思いこみに基づく根拠のない主張である」「食品添加物に関する最近の報道には、科学的な誤りがあまりにも多過ぎる」と述べている[30][31]
  • 福島原発事故から1ヶ月あまり後の2011年4月24日に、「『100 mSv未満の放射線被曝は、実際上影響なし』とするのが現在の疫学者の大多数の結論である」と述べている[32]。一方、「疫学的な見解の大多数が『100 mSv未満は、実際的な健康影響はない』であるとしても、そのまま100 mSvという数字を元に規制措置を講じるようなことは、どの国際機関も勧めていないし政府機関もしていない」と述べている[32]。また、食品汚染状況に関する報道状況をまとめ、団体や個人の間でのリスクコミュニケーションから見て、必要な情報が市民に届いていないことを科学ライターとしての実感から語った[33]
  • 欧州連合ネオニコチノイド農薬ミツバチに対する毒性が問題になり、3種の農薬(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)が、蜂群崩壊症候群との関連で使用規制を受けることになり、「EUが禁止しているのに日本はなぜ、ネオニコチノイド系農薬を使うのか」と非難する市民団体があることに触れ、「EUで禁止なのだから日本でもネオニコ禁止を」という論法については、科学的な思考でないと批判した[34]。その上で、予防原則も必要だという意見を認めつつ、科学的に検証して不確実性がどこにあるかを明らかにし、代替策のリスクまで検討して包括的に対策を決める姿勢の重要性を説いた[34]

著作[編集]

単著[編集]

  • 『食卓の安全学―「食品報道」のウソを見破る』家の光協会、2005年7月。ISBN 4-259-54677-5 
  • 『踊る「食の安全」―農薬から見える日本の食卓』家の光協会、2006年7月。ISBN 4-259-54693-7 
  • 『メディア・バイアス―あやしい健康情報とニセ科学』光文社光文社新書〉、2007年4月。ISBN 978-4-334-03398-9 
  • 『植物で未来をつくる』化学同人〈植物まるかじり叢書 5〉、2008年3月。ISBN 978-4-7598-1185-8 
  • 『食の安全と環境―「気分のエコ」にはだまされない』日本評論社〈シリーズ 地球と人間の環境を考える11〉、2010年4月。ISBN 978-4-535-04831-7 
  • 『お母さんのための「食の安全」教室』女子栄養大学出版部、2012年12月。ISBN 978-4-7895-5354-4 
  • 『効かない健康食品危ない自然・天然』光文社〈光文社新書885〉、2017年5月。ISBN 978-4-334-03991-2 
  • ゲノム編集食品が変える食の未来』ウェッジ、2020年11月18日。ISBN 978-4863102316 

共著[編集]

脚注[編集]

  1. ^ トランス脂肪酸をめぐるファクトを確認してください[食の安全と健康:第15回 文・松永和紀]”. おいしい健康 (2022年3月25日). 2023年6月16日閲覧。
  2. ^ 【日本農薬】レイミーが科学ジャーナリスト松永和紀さんと対談しました!”. 農業女子プロジェクト (2020年5月7日). 2023年6月16日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g 食品安全委員会 委員名簿(2022年4月現在)”. 食品安全委員会. 2023年6月16日閲覧。
  4. ^ 松永 和紀(まつなが・わき)”. PRESIDENT. 2023年6月17日閲覧。
  5. ^ a b 松永 2007, p. 6.
  6. ^ a b 《農薬についての学習会》 科学的な思考で、農薬について正しい知識を学ぼう!!”. 東都生協協同組合 (2021年2月21日). 2023年6月16日閲覧。
  7. ^ 【研究開発】第4回 食品表示部会を開催、9社20名以上が参加しました。”. ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会 (2019年8月8日). 2023年6月16日閲覧。
  8. ^ a b 第1回「食生活ジャーナリスト大賞」受賞者決定』(PDF)(プレスリリース)食生活ジャーナリストの会、2017年3月16日http://www.jfj-net.com/wp-content/uploads/2016/2016jfjgrandprize.pdf2018年8月8日閲覧 
  9. ^ a b c 「明日の農業女子を考える日農」プロジェクト 【対談】レイミー×科学ジャーナリスト松永和紀さん(前編)”. 日本農薬株式会社. 2023年6月16日閲覧。
  10. ^ a b c 食品安全衛生講演会” (PDF). 労働者福祉中央協議会 (2011年12月7日). 2023年7月21日閲覧。
  11. ^ a b 「食の『メディア・バイアス』の何が問題か」の報告”. 食生活ジャーナリストの会 (2007年9月5日). 2023年6月16日閲覧。
  12. ^ 松永 2007, p. 著者紹介.
  13. ^ 間藤徹、松永和紀、水谷正治、大野香織「2,4-ジニトロ-1,8-ナフタレンジオールを用いるホウ素の徴量定量法」『日本土壌肥料学雑誌』第64巻第1号、1993年、71-73頁、doi:10.20710/dojo.64.1_71 
  14. ^ a b 科学ジャーナリスト賞 日本科学技術ジャーナリスト会議
  15. ^ 毎日新聞社 生活報道部 編集委員 小島正美 (2017年3月16日). “食生活ジャーナリスト大賞:新ネット媒体「フーコム」受賞”. 毎日新聞. https://mainichi.jp/articles/20170317/k00/00m/040/029000c 2018年8月8日閲覧。 
  16. ^ 島根県消費者センター (2011年11月). “一年のあゆみ第40集” (PDF). 2018年8月5日閲覧。
  17. ^ 古田悦子「食の安全と安心を考える―氾濫する情報をどう読み解くか;
    松永 和紀(まつながわき)
    」『日本放射線安全管理学会誌』第12巻第2号、2013年、91-91頁、doi:10.11269/jjrsm.12.91
     
  18. ^ 北九州市環境局 (2012年5月24日). “報道発表資料:第2回「災害廃棄物の受入に関する検討会」の開催について” (PDF). 2013年10月28日閲覧。
  19. ^ 北九州市環境局 (2013年). “概要・委員名簿”. 2013年10月29日閲覧。
  20. ^ 科学技術・学術審議会 > 基本計画推進委員会”. 文部科学省 (2012年7月24日). 2018年8月4日閲覧。
  21. ^ 2013年12月26日 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会食肉等の生食に関する調査会議事録”. 厚生労働省 (2013年12月26日). 2018年8月4日閲覧。
  22. ^ 委員経歴/委員会について”. 第三者委員会報告書格付け委員会. 2018年8月4日閲覧。
  23. ^ 中央環境審議会 環境保健部会 委員名簿”. 環境庁 (2017年8月). 2018年8月4日閲覧。
  24. ^ 食品表示部会 委員名簿”. 内閣府 (2018年5月30日). 2018年8月4日閲覧。
  25. ^ 新開発食品調査部会 委員名簿”. 内閣府 (2017年11月17日). 2018年8月4日閲覧。
  26. ^ 松永和紀「社会・産業界は農芸化学に期待する-3 : 積極的な科学コミュニケーションを」『化学と生物』第46巻第11号、2008年11月1日、800-803頁、doi:10.1271/kagakutoseibutsu.46.800 
  27. ^ 松永 2007, pp. 13–37.
  28. ^ 松永 2007, pp. 52–60.
  29. ^ 松永和紀 (2011年8月26日). “組換えパパイヤの輸入は始まるか? 大阪でのシンポジウムご案内”. FOOCOM.NET. 2013年10月28日閲覧。
  30. ^ 松永和紀 (2006年12月13日). “環境ホルモン騒動よりタチが悪い食品添加物問題”. FOOCOM.NET. 2013年10月28日閲覧。
  31. ^ 松永和紀 (2006年12月20日). “添加物報道がもたらす五つの不幸”. FOOCOM.NET. 2013年10月29日閲覧。
  32. ^ a b 松永和紀 (2011年4月24日). “超訳・放射能汚染1〜疫学が示す「100mSv未満は大丈夫」”. FOOCOM.NET. 2013年10月28日閲覧。
  33. ^ 松永和紀「原発事故後に市民の求めた情報とは~科学ライターの視点から」『日本リスク研究学会誌』第23巻第1号、2013年、21-27頁、doi:10.11447/sraj.23.21 
  34. ^ a b 松永和紀 (2013年9月20日). “ミツバチとネオニコチノイド系農薬、「予防原則」で思考停止にならないために”. FOOCOM.NET. 2013年10月29日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]