ネオニコチノイド

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ネオニコチノイド: neonicotinoid)は、クロロニコチニル系殺虫剤の総称。ニコチン様物質を意味し、イミダクロプリドアセタミプリドジノテフランなどが該当する。

現在、農薬として世界100カ国以上で販売されている。これまで使用されてきた有機リン系殺虫剤に比べ、人体への安全性が高く、また植物体への浸透移行性があり残効が長い利点があり、殺虫剤の散布回数を減らせるため、現在では世界各国において最も主流の殺虫剤となっている。一方で、ミツバチなどの減少の原因の一つであると指摘する声もある。

概要[編集]

ネオニコチノイド系殺虫剤は、各国において一般家庭のガーデニング用から農業用、シロアリ駆除、ペットシラミノミ取り、ゴキブリ駆除、スプレー殺虫剤、新築住宅の化学建材など広範囲に使用されている。

天然物であるニコチンニコチノイドは古くから殺虫剤として使われているが、人畜に対する毒性が高い。そこでこれらを元に毒性を低減すべく開発された。1979年に初めて開発されたニチアジンは光に弱いという欠点があったため、改良が加えられた。構造の中にシアノイミン (=N-CN)、ニトロイミン (-C=N-NO2)、クロロピリジル基、クロロチアゾリル基フリル基を持つのが特徴。クロロ(塩素)を持つ構造が代表的なので(クロロを持たないものも含めて)クロロニコチニル系とも呼ばれる。水溶性、無味・無臭である。

ネオニコチノイドはシナプス部分の後膜に存在する神経伝達物質アセチルコリン受容体「ニコチン性アセチルコリン受容体 (nAChR)」に結合し、神経を興奮させ続けることで昆虫を死に至らしめる。

急性毒性は低いとされているが、昆虫には選択的に毒性を発揮する。など哺乳類には低濃度で単独使用した場合には比較的毒性が低いとされている。ただし、希釈前の薬剤についてはアセタミプリドなど医薬用外劇物に指定されているものもある。

また、アセチルコリンは、昆虫のみならず、ヒトでも神経伝達物質として自律神経系、神経筋接合部、中枢神経系において作用していることから、ネオニコチノイド系農薬のヒトのへの影響、とりわけ胎児小児など脆弱な発達中の脳への影響を懸念する意見もある[1][リンク切れ]

生態系への影響[編集]

ネオニコチノイド系殺虫剤はこれまで各国で主に使用されてきた有機リン系殺虫剤と比べ、人体や哺乳類鳥類爬虫類への安全性は高い。一方で昆虫に対する毒性は強く、また植物体への浸透移行性を持ち、さらに残効も長いことから殺虫成分が植物体内に長期間残る(葉面散布では2週間から1ヶ月程度。粒剤処理や灌注処理では3ヶ月程度。それに対し有機リン剤は3日程度)。

害虫予防や殺虫剤の散布回数削減のためにはこうした残効の長さは利点となるが、殺虫成分は葉や果実だけでなく花粉や蜜にまで移行するため、これらを餌とするミツバチなどの有用昆虫も長期に渡って巻き込まれる恐れもあるのではないかと危惧されている。

ミツバチ大量死・失踪との関係[編集]

1990年代初めから、世界各地でミツバチの大量死・大量失踪が報告され、すでに2007年春までに北半球から4分の1のハチが消えたとされている[2]。 ミツバチ大量死は、2010年現在、カナダアメリカ中国台湾インドウルグアイブラジルオーストラリア、そして日本など、全世界的な広がりをみせている[3][リンク切れ]

各国での研究報告では、ネオニコチノイド系農薬はこうした「蜂群崩壊症候群」(Colony Collapse Disorder, CCD) の原因の一つではないかと指摘されている。

なお、同じネオニコチノイド系農薬でもミツバチに対する毒性は商品により大きく異なる[4][リンク切れ][5]。クロチジアニン・イミダクロプリド・チアメトキサム・ジノテフランなどはミツバチへの急性毒性が高いが、アセタミプリド・チアクロプリドなどは毒性が低い[6]

トンボ[編集]

石川県立大学の上田哲行と宮城大学の神宮字寛の調査によれば、ネオニコチノイド系殺虫薬を使用した水田ではアキアカネの羽化が従来の30%ほどになったことが指摘されている[7]

各国の状況[編集]

  • EU

EUではミツバチ大量死事件を受けて、被害拡大を防止するために原因究明に精力的に取り組む一方、予防原則に基づいて、その原因の一つであると考えられるネオニコチノイド系農薬に対する規制を実施するなどの対策が講じられている。

EU圏内では2013年12月よりネオニコチノイド系農薬のうちクロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサムの3種に対する使用規制が導入された。ただし、開花時期以外での散布、温室ハウス内での散布、ミツバチのこない作物への使用、この3種以外のネオニコチノイド系殺虫剤の使用は禁止対象外である[8]

  • フランス

フランスはネオニコチノイド系農薬の使用規制にもっとも熱心な国である。1994年にイミダクロプリドによる種子処理(種子のコーティング)が導入された後、ミツバチ大量死事件が発生していた。そこで、1999年1月、予防措置として、イミダクロプリドによるヒマワリ種子処理を全国的に一時停止し、原因究明調査に着手。2002年、ミツバチ全滅事件発生。2003年、農業省の委託を受けた毒性調査委員会はイミダクロプリドの種子処理によるミツバチへの危険性を警告する報告書をまとめる。これを受けて、2004年に農業省は、イミダクロプリドを活性成分とするネオニコチノイド系殺虫剤ゴーシュの許可を取り消し、イミダクロプリドによるトウモロコシの種子処理も禁止。そして、2006年4月、最高裁の判決を受け、ネオニコチノイド系農薬ゴーシュ(イミダクロプリド)を正式に使用禁止。

2016年7月、フランス国民議会ネオニコチノイド系農薬の使用禁止などを盛り込んだ生物多様性法案を可決。2018年9月からネオニコチノイド剤は一部の例外を除き使用禁止となる。2020年7月からは例外使用規定が廃止され、全面禁止となる予定である[9]

  • オランダ

2000年、イミダクロプリドを開放系栽培での使用を禁止。

  • デンマーク

2000年、イミダクロプリドの販売禁止。

  • ドイツ

2006年にネオニコチノイド系農薬のクロチアニジンが広く市場に出回るようになると、ハチの大量死・大量失踪が初めて報告された。翌2007年から2008年にかけて被害がさらに深刻化、2008年、ドイツ連邦消費者保護・安全局 (BVL) は、イミダクロプリドとクロチアニジンの認可を取り消し、ネオニコチノイド系農薬7種類を販売禁止。

  • イタリア

2008年、農水省がイミダクロプリドやクロチアニジンによる種子コーティング処理を禁止。

  • アメリカ

農務省の見解では、さまざまなストレスと病原体が組み合わさって蜂群崩壊症候群が起きているとされ、ネオニコチノイド系の農薬については、特に規制を行っていない[10]

  • 日本

日本政府はネオニコチノイド系の農薬についての使用規制は特に行っていない。

主に北海道を中心とする北日本でミツバチ大量死が多発しており、水田でカメムシ対策に使われているネオニコチノイド系殺虫剤が原因との結論を畜産草地研究所が出している[11][リンク切れ]

ミツバチによる受粉が結実に必要なリンゴなどの果樹栽培を行っている地域を中心に、一部のJA自治体には開花期のネオニコチノイド系殺虫剤散布の自粛を農家に呼びかけているところもある[10]。なお、日本では、欧州食品安全機関でミツバチに影響があると公表された「ネオニコチノイド系農薬を種子表面に付着させる」コーティング処理という害虫対策は一般的ではない[12]

2015年5月19日に厚生労働省は、ネオニコチノイド系農薬の食品残留基準を緩和(ほうれんそうでは従来の13倍に緩和)した[13][14]

種類[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 木村-黒田純子・小牟田緑・川野仁 (2012) 新農薬ネオニコチノイド系農薬のヒト・哺乳類への影響. 臨床環境医学21(1): 46-56.(総説)
  2. ^ ローワン・ジェイコブスン 『なぜハチは大量死したのか』 文芸春秋 2009年 ISBN 9784163710303
  3. ^ 水野玲子 『世界に広がるミツバチ大量死 – 欧米諸国の対応』 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 ニュース・レター Vol.62 (2010)
  4. ^ 殺虫剤の選択性-ミツバチに対する選択性の不思議-(アグロサイエンス通信)
  5. ^ Mechanism for the differential toxicity of neonicotinoid insecticides in the honey bee, Apis mellifera
  6. ^ [1]
  7. ^ 半数以上の府県で1000分の1に減少!? 全国で激減するアキアカネ (2014年8月)、2016年6月25日閲覧
  8. ^ http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/staff/eu/blog/47604/
  9. ^ [2]
  10. ^ a b ミツバチとネオニコチノイド系農薬、「予防原則」で思考停止にならないために…”. 一般社団法人「Food Communication Compass」 (2013年9月20日). 2014年6月7日閲覧。
  11. ^ ミツバチ大量死、原因は害虫用殺虫剤 分析で成分検出 朝日新聞 2014年7月19日
  12. ^ 農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組”. 農林水産省 (2013年8月26日). 2014年6月7日閲覧。
  13. ^ [平成27年5月19日食安発0519第1号]食品衛生法施行規則の一部を改正する省令及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について(アセタミプリド、アプラマイシン、クレソキシムメチル、クロチアニジン、クロラントラニリプロール、ジクロベニル、ピリフルキナゾン、フルアジナム、フルオルイミド、マラチオン、マンデストロビン、メロキシカム、モサプリド)、厚生労働省、2015年5月19日、2016年2月17日閲覧
  14. ^ 厚労省、ネオニコチノイド系農薬の食品残留基準を緩和alterna

関連項目[編集]

- アセチルコリンの分解酵素や受容体等に結合して殺虫特性を示す薬剤にはネオニコチノイドの他にも有機リン化合物カルバミン酸系化合物、ニコチン剤など多種類がある。

主な製造販売企業

外部リンク[編集]