半大統領制
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半大統領制(はんだいとうりょうせい、英: semi-presidential system)とは、議院内閣制の枠組みを採りながら、より権限の大きな大統領を有する政治制度。
概説[編集]
半大統領制は議会と政府との関係の点から見た政治制度の分類の一つで[1]、議院内閣制の枠組みを採りながら大統領が大きな権限を持つ制度である。広義では、大統領制に分類される。
定義[編集]
フランスの政治学者モーリス・デュヴェルジェは、半大統領制の条件として以下の3点をあげている[2]。
- 選挙で選出される大統領がいること
- 大統領が憲法上大きな権限を持っていること
- 議会の過半数の支持により成立する首相と内閣があること(つまり大統領に制度上の首相任免権があっても、実際の選出や信任・不信任の決定は議会がこれを行い、大統領はただそれを踏襲するのみ)
イタリアの場合[編集]
イタリアの大統領は選挙といっても議会上下両院の議員と地方代表による間接選挙で選出され、国家元首としての権威はあっても行政や軍事に関する権限は首相のもとにある。その首相は大統領によって任命されるが、通常は議会が指名した首班をそのまま受け入れるにすぎず、事実上の首相の任命者は議会ということになる。このようにイタリアの政治体制を検証してみると、同国の大統領の権限は首相のそれに比べると微々たるものであることから、通常は議院内閣制に分類される。それではイタリアの大統領とはただの国家の象徴にすぎないのかというと実はそうでもなく、例えば議会の解散権は各方面との調整の上で機を見て大統領ひとりがこれを決断する専権事項となっており、また特例ではあるが首相の任命に関しても大統領大権によって議会に議席を持たない民間人を起用することが憲法上は可能となっている[3]。イタリアではこれらが政界再編に影響を及ぼすことが度々あった。上記の定義をもってすれば、イタリアは半大統領制の国と言えなくもない。
このように半大統領制とは「明らかな議院内閣制でも、明らかな大統領制でもない、共和制の一つの体制」という、いわばグレーゾーンにある政治制度であり、相当数の国がこれに当てはまる可能性がある。このため比較政治学においてもその定義にはコンセンサスが存在しないという、いわば玉虫色の制度と言うことができる[4]。
フランスの場合[編集]
フランスでは第二次大戦後制定された第四共和国憲法の下で、小党が分立して不安定な政府が連続したため、1958年にド・ゴール首相のもと、議院内閣制のシステムを採りながらも大幅に大統領権限を強化した第五共和国憲法を採用した。これにより、形式的・儀礼的な権限しか持たなかった大統領は「三権の総攬者」として議会解散権・閣僚任免権・条約批准権など大幅な権限を有することとなった。大統領に大きな権限があるにもかかわらず、議院内閣制の枠組みを取っていることから「半大統領制」あるいは「大統領制的議院内閣制(presidential-parliamentary system)」と呼ばれる。このフランスの政治体制が典型的な半大統領制と見なされている。
フランスでは大統領が首相の任免権を持つが、議会も首相の指名権・不信任権を持つため、実際には議会の多数党から首相が選ばれるのを常としている。権限の分担としては大統領は外交政策に、首相は内政に責任を有するとされている。
なお、半大統領制における大統領と首相が対立関係にある政党から選出されている状態をコアビタシオン(cohabitation、保革共存)と呼ぶ。これにより、両者の性格や政治信念、両政党のイデオロギー、そして支持層からの要求などによって両者の抑制と均衡が効果的に機能する場合もあれば、ひどい確執が国家の運営に大きな支障をきたす場合もある。
変化をたどる半大統領制[編集]
オーストリアの大統領やアイルランドの大統領には、憲法上フランスの大統領よりも強大な権限が与えられている。しかしこれらの国家では慣例として、大統領がそれら権限の多くを行使しようとしないため、実質的には一元主義型議院内閣制と同等の政治体制となっている。また、フィンランドはフランスの第五共和国憲法を模した制度を利用してきたが、2000年の新憲法により大統領権限は縮小され、大統領の専権事項だったいくつかの権限は首相が議会と協力して行なうことになった。これにより現在のフィンランドの政治は議院内閣制に近い体制となっている。
主要国で最初に半大統領制を導入したのはヴァイマル憲法時代のドイツ国(ヴァイマル共和政)であるが、ドイツの場合は前記デュヴェルジェの三条件のうち第三のものは特に必須ではなく、特にパウル・フォン・ヒンデンブルクの大統領時代には大統領の指名のみを基礎とするいわゆる大統領内閣(戦前の日本でいう超然内閣に相当)が継続していた。その後ナチス政権(ナチス・ドイツ)を経て、戦後の西ドイツ、再統一後の現在のドイツ連邦共和国の政治においては連邦大統領を象徴的存在とする議院内閣制を採用している。
主な半大統領制の国家[編集]
ウクライナ
スリランカ
セルビア
中華民国(台湾)
ニジェール
パキスタン
- 1998年以後パルヴェーズ・ムシャラフ大統領による実質的な軍事独裁政権が継続したが、ムシャラフが2008年に辞任に追い込まれると名実ともに民政移管となった。
フランス - 典型的な半大統領制。
ポルトガル
マダガスカル
モンゴル - ただし、大統領は議会解散権をもたない。
リトアニア
ルーマニア - 行政権は首相が負う。
レバノン
ロシア
- 首相は内政のみに責任を負い、外交や国防の関連省庁の所轄権限を保持しない。
など
補注[編集]
- ^ 芦部信喜 & 高橋和之 2011, p. 320.
- ^ Duverger, M. 1980. "A New Political-System Model." European Journal of Political Research 8 (2): 165-87.
- ^ 近年ではスカルファロ大統領が政界浄化の名のもと、共にイタリア中央銀行総裁で非議員だったカルロ・チャンピ(1993年)とランベルト・ディーニ(1995年)を首相に任命している。
- ^ たとえば、Shugart, M. S., and J. Carey. 1992. Presidents and Assemblies. Cambridge: Cambridge University Press; Shugart, M. S. 2006. "Comparative Executive-Legislative Relations." R. A. W. Rhodes, Sarah A. Binder, and Bert A. Rockman, eds, The Oxford Handbook of Political Institutions. Oxford: Oxford University Press: pp.346-67.
参考文献[編集]
- モーリス・デュヴェルジェ 『フランス憲法史』 時本義昭訳、みすず書房。
- Maurice Duverger, Les régimes semi-présidentiels, PUF(1 avril 1986)
関連項目[編集]
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