象徴天皇制

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

象徴天皇制(しょうちょうてんのうせい)とは、日本国憲法で規定された、天皇日本国及び日本国民統合の象徴とする制度を指していう。

日本国憲法における天皇[編集]

日本国憲法第1条は、天皇を日本国と日本国民統合の「象徴」と規定する。その地位は、主権者(主権在民)たる日本国民の総意に基づくものとされ(前文、第1条)、国会の議決する皇室典範に基づき、世襲によって受け継がれる(第2条)。天皇の職務は、国事行為を行うことに限定され(第7条)、内閣の助言と承認を必要とする(第3条)。国政に関する権能を全く有さない(第4条)。

なお、帝国憲法においても、元首たる天皇は、明文規定がなくとも、当然に国家の象徴であった。現行憲法においては、実質的な(=内閣総理大臣が行使する行政上の)権限がない点で帝国憲法と異なる。これを強調し、「象徴天皇制」という。

「象徴」の由来[編集]

白洲次郎は日本国憲法の「象徴」がどのように生まれた言葉であるのかを次のように述べている。 白洲次郎はGHQ草案の英語をGHQの一室内で外務省の翻訳を担当する官僚と一緒に缶詰になっており大急ぎで和訳をしていた。

この翻訳遂行中のことはあまり記憶にないが、一つだけある。原文に天皇は国家のシンボルであると書いてあった。翻訳官の一人が(この方は少々上方弁であったが)「シンボルって何というのや」と聞かれたから、私が彼のそばにあった英和辞典を引いて、この字引には「象徴」と書いてある、といったのが、現在の憲法に「象徴」と字が使っている所以である。余談になるが、後日学識高き人々はそもそも象徴とはなんぞやと大論戦を展開しておられるたびに、私は苦笑を禁じ得なかったことを付け加えておく。[1]

GHQの草案でsymbolの語を用いてあり、それを辞書で引いたら象徴とあった、とのことである。

天皇の地位[編集]

日本国と日本国民統合の「象徴」とされ、主権の存する日本国民の総意に基づくものとされる。

天皇が「元首」・また「君主」であるのか否か議論があるが、そもそも日本国憲法には、元首について何ら記載がない。よって、「元首」の定義いかんで結論が異なるとされることが多い。

なお、日本は、立憲君主制をとる国の1つと見られ、天皇は、諸外国から「君主」として扱われる。

天皇の国事行為[編集]

天皇は日本国憲法の定める国事に関する行為のみを行うとされ、国政に直接関与する権能を有しない。天皇の行う国事行為は以下の通り。

これらの天皇の国事行為は、内閣の助言と承認が必要とされ、内閣がその責任を負う(輔弼と同義)。

議論[編集]

「君主」に関する議論[編集]

象徴天皇制における天皇が、君主であるか否かは議論が存在している。

政府見解では象徴天皇制の日本を「立憲君主制と言っても差し支えないであろう」としている[2]

三島由紀夫は「日本は19世紀的な立憲君主国ではなくなったものの、憲法第1条に天皇に関する条項が存在するを根拠に一種の君主国である。」と考えた[3]

佐々木弘道の説では、「象徴天皇制は日本独自の形式的な君主制」とする。日本国憲法第1章上、天皇は、その権限を第6条の任命権と第7条国事行為の限定列挙(加えて第4条2項の国事行為の委任に関する規定を含めることもある)により量的に限定され、かつ質的にも、第3条により政治的決定権を剥奪され、また6条において実質的決定権の所在を規定することで天皇の行為が形式的なものであることを明らかにしている。かくして天皇の権限は名目的・形式的なものに限定されている。一般的な英国型立憲君主制イギリスの君主制)に比して、このような君主権力がよりいっそう消極的な、日本独特の君主制である「天皇制」を象徴天皇制としている[4]

芦部信喜の説では、日本国憲法下では天皇は「君主」では無いとする。まず「君主」の要件は以下と考える[5]

天皇は「象徴」という主権者の枠外におかれ(憲法第1条)、「国政に関する権能を有しない」者であると規定され(第4条)、国事行為においても「認証」「接受」という形式的・儀礼的行為しか認められていない。憲法1条の規定の主眼は、国の象徴たる役割を強調するというよりも、むしろ天皇が象徴以外の「君主」としての役割を持つことを積極的に禁止した、と解釈する。「国民主権」を原則とする以上、天皇に対し「象徴」以外の権能を、憲法改正等による主権者からの付託を伴わずに与えることには現行憲法上問題がある、とする。

「元首」に関する議論[編集]

象徴天皇制における天皇が、元首であるか否かについても議論が存在している。

象徴天皇制を規定した日本国憲法及びその他日本の法律には元首に関する規定が無い。日本政府の公式見解では「天皇は元首と言って差し支えない」「天皇は限定された意味における元首である」とし、外国でも天皇は国家元首待遇をされているが、学説においては天皇を元首ではないとする学説もある。

評価[編集]

世論[編集]

日本国憲法公布・施行前の1946年5月27日毎日新聞朝刊に結果が載った世論調査では、「象徴天皇制」を支持する回答が85%であった[6]

2009年NHKが行った世論調査では、「天皇は現在と同じく象徴でよい」を回答に選んだ人の割合が81.9%であった。また、「今の天皇が象徴としての役割を果たしていると思いますか」との質問に対しては、「十分に果たしている」「ある程度果たしている」が合わせて85.2%であった[7]

政党[編集]

自由民主党2010年に発表した「平成22年綱領」の中で、「我々は、日本国及び国民統合の象徴である天皇陛下のもと、今日の平和な日本を築きあげてきた」と好意的に言及、評価している[8]。また、2012年に発表した「日本国憲法改正草案」では、「前文」の中で「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家」と言及し、第1条では天皇が元首であることを明記した上で、象徴天皇の規定を維持する方針を採っている[9]

民進党2016年に発表した綱領の中で、「象徴天皇制のもと、新しい人権、統治機構改革など時代の変化に対応した未来志向の憲法を国民とともに構想する」と言及しており、象徴天皇制を維持する方針を示している[10]。なお、前身政党の一つである民主党の綱領では、「象徴天皇制のもと、自由と民主主義に立脚した真の立憲主義を確立するため、国民とともに未来志向の憲法を構想していく」と明記されていた[11]

メディア各社[編集]

産経新聞2013年に発表した憲法改正草案「国民の憲法」の第1条で、「日本国は、天皇を国の永続性および国民統合の象徴とする立憲君主国である」と明記し、象徴天皇の規定を維持することを提案している。また、第2条では「天皇は、日本国の元首であり、国を代表する」とし、元首明文化も同時に提案した。[12]

読売新聞は、象徴天皇の規定を維持した「憲法改正試案」を発表している[13]

ヨーロッパの君主制との比較[編集]

君主制をとる国で、日本の天皇のように君主に政治的な権限がない国は、北欧オランダスペインなどが挙げられる。

日本の天皇以上に政治的な権限が制限されている君主として、スウェーデン国王があげられる。1979年の憲法改正以後、首相任命権などの形式的な国事行為すら認められていない。政治から完全に分離され、国の対外的代表としての地位しかない。そのため、象徴君主制という新たな区分を設けるべきではないかとする意見がある。

その一方で、リヒテンシュタイン家は、象徴・儀礼的存在にとどまらず、強大な政治的権限を有している。そのため、ヨーロッパ最後の絶対君主制と言われる。

ウォルター・バジョットは「イギリス憲政論」で成文法の憲法を持たないイギリスヴィクトリア女王をsymbolと位置づける憲政論をしている。

出典[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 吉田茂は泣いている 白洲次郎「プリンシプルのない日本」電子増補版
  2. ^ 1973年(昭和48年)6月28日 参議院内閣委員会、政府委員・吉國一郎内閣法制局長官答弁、1988年(昭和63年)10月11日 参議院内閣委員会、大出峻郎内閣法制局第一部長答弁。ただし吉國も大出も断言表現は使用していない。
  3. ^ 決定版 三島由紀夫全集 41 我が国の自主防衛について(講演)
  4. ^ 山内敏弘編『新現代憲法入門』法律文化社、2004年、245頁以下
  5. ^ 「国家と法I」放送大学出版会
  6. ^ “毎日新聞1946:新憲法の政府草案を歓迎 改憲論争、50年代に原形”. 毎日新聞. (2016年2月8日). http://mainichi.jp/articles/20160208/ddm/004/040/012000c 2016年5月3日閲覧。 
  7. ^ 平成の皇室観|世論調査 - 社会や政治に関する世論調査|NHK放送文化研究所”. 2016年5月3日閲覧。
  8. ^ 平成22年(2010年)綱領|立党宣言・綱領|自民党について|自由民主党” (2010年1月14日). 2016年5月3日閲覧。
  9. ^ 日本国憲法改正草案|自由民主党 憲法改正推進本部” (2012年4月27日). 2016年5月3日閲覧。
  10. ^ 民進党綱領 - 民進党” (2016年3月27日). 2016年5月3日閲覧。
  11. ^ 民主党|民主党綱領” (2013年2月24日). 2016年5月3日閲覧。
  12. ^ “産経新聞80周年「国民の憲法」要綱 第一章 天皇(1/4ページ)”. 産経ニュース. (2013年4月26日). http://www.sankei.com/politics/news/141030/plt1410300026-n1.html 2016年5月5日閲覧。 
  13. ^ 読売憲法改正試案全文:会社案内サイト「読売新聞へようこそ」”. 2016年5月5日閲覧。

関連書籍[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]