ヴェールを剥がれたイシス

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ヴェールを剥がれたイシス』(Isis Unveiled)とは、。1877年に刊行されたヘレナ・P・ブラヴァツキーの初期の著作の一つである。基本的に古代ヘルメス哲学の復権を図ったもので、西欧の秘教オカルティズムの伝統に連なっている[1]。低調だった神智学協会の活動を盛り上がらせたヒット作となった[1]

ヨーロッパ、オリエント、アジアの宗教・神秘思想・哲学の様々な文献から引用を行って論を展開している。世界の全ての宗教には共通の源泉、古代叡智宗教があるとされ、それがヘルメス哲学とされている[1]。全二巻からなり、一巻では近代科学の絶対性に異議を唱え、二巻では宗教問題を扱い、スピリチュアリティと近代神智学を主張し、キリスト教神学を否定している。出版前から「仏教研究書」として宣伝され、ブラヴァツキー自身もインタビューに対して自分の宗旨が仏教であるとも公言しており、ブラヴァツキーの関心がエジプト関連の秘教だけでなく、インドとチベットをふくむヒマラヤへと向かっていることも示している[1]。仏教用語は散見されるとはいえチベット仏教大乗仏教についての直接の記述は少なく、具体的でもない[1]ヴェーダ以前のブラフマニズムが古代の叡智に当たると漠然と説かれ、インド、チベット、モンゴル、タタールなどに残っているが、西洋の似非の権威がそれを脅かしていると主張された[1]

人類学者の杉本良男は、「神智協会だけでなく、世界的な神秘主義やチベット仏教への関心などにも大きな刻印を残す歴史的な著作となった」と述べている[1]

全体に旧来のエジプト・オカルティズムの解説が中心であることから、薔薇十字会員でフリーメーソンのメンバーでもあったチャールズ・サザランの影響が大きいと考えられている[1]。実質的な著者はブラヴァツキーではないという意見もあり、サザラン、アルバート・ローソン(Albert Leighton Rawson, 1828–?)、英文校閲を行ったヘンリー・スティール・オルコットアレクサンダー・ワイルダー英語版(1823–1908)教授などが実質的な著者だとする説も有力だった[1]。また、元霊媒のエマ・ブリテンが同時期に書いた『Art Magic 』(人工魔術)と同一のソースに基づいていることも知られている[1]

David・ReigleとNancy Reigleの夫妻は本書を詳細に分析し、数々の初歩的な誤りがあり「それも驚くことに“god” と“spirit” と区別ができていないことや、釈尊仏陀が大雄(Mahavira)の弟子だとするなど、奥義を保持する叡智が背後にあるとは思えないような誤りが続出する」と指摘し、当時まだ英語が不自由だったブラヴァツキーとチベット仏教の知識がほとんどないオルコットとの合作であったためであろうとしている[1]。出版直後から改訂の必要性が唱えられていたといわれ、改訂版として『シークレット・ドクトリン』の執筆が始まった[1]。ブラヴァツキーはすべての宗教の共通の源泉を「失われた」古代の叡智に求めたが、それは本書の後には次第にヘルメス哲学からチベットに移っていった[1]

2011年1月から日本神智学協会の竜王文庫より日本語訳が刊行中。 ボリス・デ・ジルコフ編の版を定本とし、老松克博が翻訳を手がける。

翻訳[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m 杉田 2015.

参考文献[編集]

  • 大田俊寛 『現代オカルトの根源 - 霊性進化論の光と闇』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2013年ISBN 978-4-480-06725-8
  • 杉本良男「闇戦争と隠秘主義 : マダム・ブラヴァツキーと不可視の聖地チベット (特集 マダム・ブラヴァツキーのチベット)」、『国立民族学博物館研究報告』第40巻、国立民族学博物館、2003年12月10日、 267-309頁、 NAID 120005727192

外部リンク[編集]