ミャンマーの国家顧問

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
ミャンマーの旗 ミャンマー連邦共和国
国家顧問
မြန်မာနိုင်ငံတော်၏ အတိုင်ပင်ခံပုဂ္ဂိုလ်
State seal of Myanmar.svg
呼称閣下
His/Her Excellency the State Counsellor
官邸ネピドー
指名連邦議会
任命大統領
任期5年(現職の大統領と同期間)
創設2016年4月6日
初代アウンサンスーチー
最後アウンサンスーチー
廃止2021年2月19日(論争中
ウェブサイトwww.statecounsellor.gov.mm

ミャンマーの国家顧問(こっかこもん、ビルマ語: နိုင်ငံတော်၏ အတိုင်ပင်ခံပုဂ္ဂိုလ်英語: State Counsellor of Myanmar)は、かつてミャンマー政府に存在した役職の一つ。2011年に廃止された首相職と類似した役割を担うポストとされており[1]日本政府外務省は「国家最高顧問」と訳している[2]

2021年の軍事クーデター以降は空席となっており、クーデター勢力は同年2月19日に本ポストを事実上消滅させる一方、反クーデター勢力は本ポストを名目上存続させている(後述)。

歴史[編集]

創設の経緯[編集]

アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)は、2015年11月に行われた総選挙で地滑り的な勝利を収めたが、彼女の亡き夫マイケル・アリスと二人の息子が外国籍(イギリス国籍)を持っているため、2008年憲法の規定で大統領に就任することができなかった[3][4][5]。当初、アウンサンスーチーは新政権において役職に就かないという報道もなされたが[6]、結局は政権におけるさらなる権限を与えるため「国家顧問」という役職を新たに設置し、アウンサンスーチーが就任することとなった。

国家顧問の役職を創設するための法案は2016年4月1日民族代表院英語版(上院)、4月5日人民代表院英語版(下院)で可決され、4月6日ティンチョー大統領が署名し成立した[1][5][7]。審議の過程では議会の4分の1を占める軍人議員を中心に憲法違反との批判もあったが、与党NLDの賛成多数で可決された[1]

2021年のクーデター以降[編集]

2021年2月1日クーデター2021年ミャンマークーデター)が起きると、ミャンマー軍がアウンサンスーチーを軟禁状態に置いたため、国家顧問職は事実上空席となった。その後、軍が主導する統治機構・国家行政評議会(国家統治評議会)は2月19日付で国家顧問府の廃止を決定し、これに伴い国家顧問職も事実上廃止となった[8]

だが一方で、国民民主連盟が主導する連邦議会代表委員会(CRPH)[9]は国家顧問職の存続を主張し、2月9日には国家顧問法施行によってアウンサンスーチーの任期を延長した他[10]3月9日には臨時内閣副大統領代行英語版に選出された民族代表院英語版(上院)前議長のマン・ウィン・カイン・タン英語版が国家顧問職を代行すると宣言した[11][12]。その後、4月16日に発足した国民統一政府(NUG)は「連邦民主憲章(英語: Federal Democracy Charterビルマ語: ဖက်ဒရယ်ဒီမိုကရေစီ ပဋိညာဉ်)」の規定[13]に基づいて首相職と国家顧問職を併設し、アウンサンスーチーを国家顧問とする人事を発表した。だが、アウンサンスーチーの身柄が依然としてミャンマー軍に拘束されているため、NUGの国家顧問は名目のみの役職となっている。

役割と責任[編集]

国家顧問は、予算や必要に応じた会議を招集することができ、議会運営に関して助言する責務を負う[14]

行政のあらゆる分野を仕事の範疇とすることができ、また大統領と議会の調整役として機能するため、その役割は首相に似ている[14][15]。ミャンマーでは連邦議会の議員が閣僚に就任した場合、憲法の規定で閣僚と連邦議会議員との兼職が禁じられているため、連邦議会の議員職を自動的に失職することになるが、国家顧問になることにより引き続き立法への参加が可能となる[14]

任期は大統領と同じ5年間[14]。現職の大統領と等しい期間、その職務にあたる[16]

歴代の国家顧問[編集]

2021年ミャンマークーデター以降の状況については、国家行政評議会連邦議会代表委員会(CRPH)及び国民統一政府(NUG)の状況をそれぞれ併記する。

肖像 氏名
(生没年)
在職日数 所属政党 内閣 大統領 連邦議会
就任日 退任日 在職日数
ミャンマー連邦共和国(クーデター以前)
1 Remise du Prix Sakharov à Aung San Suu Kyi Strasbourg 22 octobre 2013-04 (cropped).jpg アウンサンスーチー
(1945年 – )
2016年4月6日 2021年2月1日 4年 + 301日 国民民主連盟 I NLD ティンチョー
ウィンミン
1 (2015)
外務大臣英語版大統領府大臣英語版国民民主連盟党首を兼務[4]
ミャンマー連邦共和国(国家行政評議会
空席(2021年2月1日-2月19日)
国家顧問ポスト廃止(2021年2月19日-現在)
ミャンマー連邦共和国(連邦議会代表委員会及び国民統一政府
臨時内閣樹立までの準備期間(2021年2月1日-3月2日)
1 Remise du Prix Sakharov à Aung San Suu Kyi Strasbourg 22 octobre 2013-04 (cropped).jpg アウンサンスーチー
(1945年 – )
2021年3月2日 現職(名目上) 199日 国民民主連盟 I 臨時政府 ウィンミン(名目上)[17] 1 (2020)
在職日数は臨時内閣の期間を含む。
クーデター以降ミャンマー軍に身柄を拘束されており、名目上の就任に留まる。
代行 Replace this image JA.svg マン・ウィン・カイン・タン英語版
(1952年 – )
2021年3月9日 2021年4月16日 38日 国民民主連盟 I 臨時政府 本人(代行) 1 (2020)
臨時内閣における人事。
国民統一政府樹立までの間、アウンサンスーチーに代り職務を代行。

出典[編集]

  1. ^ a b c “スー・チー氏「国家顧問」に=大統領が法案署名-ミャンマー”. AFPBB News (フランス通信社). (2016年4月6日). http://www.afpbb.com/articles/-/3083170 2016年4月26日閲覧。 
  2. ^ 外務省「ミャンマー連邦共和国 基礎データ」http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/myanmar/data.html
  3. ^ この条項自体が彼女の大統領就任を阻止するために当時の軍事政権国家平和発展評議会)が制定した物であった。
  4. ^ a b “ミャンマー、スー・チー氏が入閣 大統領府相や外相など兼務へ”. ロイター (ロイター). (2016年3月22日). http://jp.reuters.com/article/myanmar-aungsansuu-idJPKCN0WO0DA 2016年4月26日閲覧。 
  5. ^ a b “Suu Kyi consolidates power in parliament”. Sky News Australia. (2016年4月5日). http://www.skynews.com.au/news/world/asiapacific/2016/04/05/suu-kyi-consolidates-power-in-parliament.html 2016年4月26日閲覧。 
  6. ^ “スー・チー氏、ミャンマー新政権での肩書は持たない見通し=与党幹部”. ロイター (ロイター). (2016年3月22日). http://jp.reuters.com/article/myanmar-politics-idJPKCN0WO05P 2016年4月26日閲覧。 
  7. ^ “Aung San Suu Kyi becomes Myanmar state counselor: spokesman”. Xinhua News. (2016年4月6日). http://news.xinhuanet.com/english/2016-04/06/c_135256048.htm 2016年4月26日閲覧。 
  8. ^ “スー・チー氏の「国家顧問」役職廃止…国軍主導体制を強調か”. 読売新聞. (2021年2月24日). https://www.yomiuri.co.jp/world/20210224-OYT1T50231/ 2021年2月25日閲覧。 
  9. ^ 2020年ミャンマー総選挙で選出された連邦議会議員が樹立した政治組織で、クーデターと国家行政評議会の正統性を認めていない。
  10. ^ “ပြည်ထောင်စုလွှတ်တော်ကိုယ်စားပြုကော်မတီက အစိုးရဖွဲ့ဖို့ပြင်” (ビルマ語). BBC News မြန်မာ. https://www.bbc.com/burmese/burma-56000340 2021年2月9日閲覧。 
  11. ^ “スー・チー氏派組織、ミャンマーの副大統領代行を任命”. 日本経済新聞. (2021年3月10日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS09CY50Z00C21A3000000/?unlock=1 2021年3月14日閲覧。 
  12. ^ “ミャンマー治安部隊、スト中の鉄道職員の事務所を強制捜査”. ロイター通信. (2021年3月10日). https://jp.reuters.com/article/idJPKBN2B20CF 2021年3月14日閲覧。 
  13. ^ 小松健太 (2021年4月12日). “ミャンマー連邦民主主義憲章の仮訳 (2)”. note. 2021年4月17日閲覧。
  14. ^ a b c d “スー・チー氏を「国家顧問」に、ミャンマー与党が役職新設へ”. AFPBB News (フランス通信社). (2016年3月31日). http://www.afpbb.com/articles/-/3082449 2016年4月26日閲覧。 
  15. ^ http://www.skynews.com.au/news/world/asiapacific/2016/04/05/suu-kyi-consolidates-power-in-parliament.html
  16. ^ “Myanmar MPs approve Suu Kyi as ‘advisor to state'”. アナドル通信社. (2016年4月6日). http://aa.com.tr/en/politics/myanmar-mps-approve-suu-kyi-as-advisor-to-state-/549634 2016年4月26日閲覧。 
  17. ^ アウンサンスーチーと同様にミャンマー軍が身柄を拘束中のため、名目上の役職就任に留まっている。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]