ロバート・カーン

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ロバート・カーン
Robert kahn
ロバート・カーン(2013)
生誕 Robert Elliott Kahn
(1938-12-23) 1938年12月23日(85歳)
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ニューヨーク ブルックリン
国籍 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
研究分野 計算機科学
研究機関 ベル研究所
MIT
BBN
DARPA
Corporation for National Research Initiatives
出身校 ニューヨーク市立大学シティカレッジ(電気工学学士)、プリンストン大学(修士、博士)
主な業績 TCP/IP
主な受賞歴 アメリカ国家技術賞(1997)
アストゥリアス皇太子賞(2002)
チューリング賞(2004)
日本国際賞(2008)
IEEE栄誉賞(2024)
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ロバート・エリオット・カーンRobert Elliot Kahn, 1938年12月23日 - )は、アメリカ合衆国計算機科学者。ヴィントン・サーフと共にインターネットのデータ転送技術の基盤となっているTCP/IPプロトコルを開発した[1][2]。通称はボブ・カーンBob Kahn)。

初期の経歴[編集]

ニューヨークブルックリンで生まれる。父は高校の理事を務めていた[3][4][5]。父方の親戚として未来学者のハーマン・カーンがいる[3]

当初はニューヨーク市立大学クイーンズ校で化学を学ぶが、ニューヨーク市立大学シティカレッジに転校し、1960年電気工学の学士号を取得し、プリンストン大学で修士号(1962年)と博士号(1964年)を取得した。一時期ベル研究所に勤務した後、マサチューセッツ工科大学で電気工学の助教授となる。その後MITを離れ、BBNテクノロジーズに勤務するようになり、そこでIMPの開発に関わった。

1972年国防高等研究計画局(DARPA)に移り、同年10月、International Computer Communication Conferenceで20種類のコンピュータをARPANETで相互接続するデモンストレーションを行った。これがARPANETを一般に公開した最初の機会である[6]。その後、各種コンピュータネットワークの相互接続のためのTCP/IPプロトコル開発に関わった。DARPAのIPTO(Information Processing Techniques Office)のディレクターになり、米国政府最大のコンピュータ研究開発プログラムStrategic Computing Initiativeを開始させた。

DARPAで13年間過ごした後、1986年にCorporation for National Research Initiatives(CNRI)を創設し、2009年現在は会長、CEO、社長を務めている[7]。CNRIは、National Information Infrastructure(NII)のための研究や開発を指揮し資金提供する非営利組織である。

インターネット[編集]

人工衛星パケットネットワークプロジェクトに従事しているとき、カーンは後のTransmission Control Protocol(TCP)となる基本的着想を得た。これは従来のARPANETで使われていたNCPのネットワークプロトコルを置き換えることを指向したものであった。その研究を進めるうちにカーンはオープンアーキテクチャのネットワークの基礎作りに重要な役割を果たすようになった。オープンアーキテクチャのネットワークとは、各コンピュータのハードウェアやソフトウェアがどうであれ、あらゆるコンピュータを相互に接続して通信できるようなネットワークである。この目標を達成するため、TCPは以下のような特徴を持つよう設計された。

  • ネットワークのごく一部に関して、パケットを転送するだけの特殊なコンピュータを通して通信できるようにする(当初ゲートウェイと呼ばれたが、現在ではルーターと呼ばれている)。
  • ネットワークのどの部分も単一故障点とならないようにする。
  • ネットワーク経由で送られる情報の断片には順序を示す番号を付与し、受け取った側で正しい順序で処理したり、情報の抜けを検出するのに使用する。
  • 情報の送信側コンピュータは受信側から特別なパケットを受け取ることで正しく情報が受け取られたことを確認する。これをACK(Acknowledgement)と称する。
  • 送信途中の情報が失われた場合、それがタイムアウト(timeout)によって検出されると、情報は再送(retransmit)される。タイムアウトは一定時間ACKが返ってこないことで発生する。
  • 情報にはチェックサムを付与して内容の誤り検出を行う。チェックサムは送信側が付与し、最終受信者がチェックして途中で誤りが混入していないか確かめる。

ヴィントン・サーフ1973年春にカーンのプロジェクトに参加し、共同でTCPの最初のバージョンを完成させた。後にこれが二つの階層に分離され、下位層部分をInternet Protocol(IP)と呼ぶようになった。TCPとIPは合わせてTCP/IPと呼ばれ、インターネットの基盤となっている。

インターネット関連の標準策定、ポリシー策定、教育を目的とし、1992年、ヴィントン・サーフと共にインターネット協会を創設した。

また、大規模なネット検閲の実施と「インターネット主権」の主張で知られる中国政府が烏鎮で開催してる世界インターネット大会英語版にも参加している[8]

受賞歴[編集]

ジョージ・W・ブッシュ(右)から大統領自由勲章を授与されるヴィントン・サーフ(左)とカーン(中央)

名誉博士号[編集]

カーンはクアルコムの取締役も務めている[14]

参考文献[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b Robert E Kahn”. A. M. Turing Award. ACM (2004年). 2010年1月23日閲覧。 “For pioneering work on internetworking, including the design and implementation of the Internet's basic communications protocols, TCP/IP, and for inspired leadership in networking.”[リンク切れ]
  2. ^ IEEE Alexander Graham Bell Medal
  3. ^ a b アーカイブされたコピー”. 2010年7月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年7月24日閲覧。
  4. ^ Who's who in Frontiers of Science and Technology - Google Books
  5. ^ http://www.nytimes.com/1999/04/30/classified/paid-notice-deaths-kahn-lawrence.html
  6. ^ CBI oral history interview with Robert E. Kahn
  7. ^ CNRI Officers and Directors”. CNRI. 2009年2月25日閲覧。
  8. ^ 世界インターネット大会、中国の開放的な姿勢を示す”. 中国網 (2018年2月26日). 2017年12月4日閲覧。
  9. ^ Robert E Kahn”. ACM Fellows. ACM (2001年). 2010年1月23日閲覧。 “For leadership in the design of the Internet, strategic computing, digital libraries, digital object infrastructure and digital intellectual property protection technology.”
  10. ^ Citations for Recipients of the 2005 Presidential Medal of Freedom”. The White House. 2012年9月3日閲覧。
  11. ^ ジャパンプライズ(Japan Prize/日本国際賞)”. 国際科学技術財団. 2022年9月4日閲覧。
  12. ^ 2012 Inductees, Internet Hall of Fame website. Last accessed April 24, 2012
  13. ^ “Winners 2013 - Queen Elizabeth Prize for Engineering” (英語). Queen Elizabeth Prize for Engineering. http://qeprize.org/winners-2013/ 2017年2月2日閲覧。 
  14. ^ Qualcomm: Board of Directors”. 2011年2月14日閲覧。
  15. ^ [1]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]