ニカラグア運河

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2014年に具体化したニカラグア運河計画(青線) 星印:Brito and Camilo Locks
赤線はニカラグア(上)とコスタリカ(下)の国境線

ニカラグア運河(ニカラグアうんが、スペイン語: Canal de Nicaragua)は、HKNDグループ(香港ニカラグア運河開発投資有限公司)が建設中の、カリブ海太平洋大西洋を結ぶ 259.4 km(パナマ運河の3.5倍)の運河である。

2014年12月22日に着工式典を開催した。4年後の2019年に完成予定である[1]。プロジェクトの実現可能性を疑問視する声も多いが、オルテガ大統領側は工事が生み出す5万もの雇用の経済効果を強調している[2]

歴史[編集]

アメリカによる運河構想[編集]

1899年に描かれたニカラグア運河構想図

狭い中米地峡に運河を作る構想は、スペインによるアメリカ大陸植民開始の直後からあり、19世紀始めにはナポレオン三世も「ニカラグア運河計画」の実現可能性が高いことを著した。もう一つの有力ルートであるパナマ運河は、フランスが開鑿に着手したが、19世紀末に頓挫。20世紀になって、大西洋と太平洋に国土がまたがるアメリカ合衆国が、中米運河計画に乗り出したが、ニカラグア運河にはモモトンボ火山の噴火による危険などを指摘する反対論があり、パナマ運河を1914年に開通させた。

太平洋に近いニカラグア湖と、そこからカリブ海に流れるサン・フアン川を利用するルートが想定されていた。

日本への影響[編集]

1891年1月27日、東京地学協会例会において、アメリカ合衆国海軍アジア艦隊(Asiatic Squadron)所属アライアンス号(USS Alliance)艦長ヘンリー・クレイ・テイラー(Henry Clay Taylor)が行った演説「ニカラガ運河開鑿企業に就て」[3]によって、建設計画が日本に知られることとなった。在京各紙は演説内容を報じ、福澤諭吉が執筆した『時事新報』社説など、世界交通路の変化が日本に国際貿易上の好機をもたらすとの期待を生じさせた[4]1894年7月から翌年3月にかけて外務省が根本正を派遣した中南米調査報告のなかにも、ニカラグア運河についての記述が残る[5]

建設の開始[編集]

赤線:2013年時点でのニカラグア運河の候補
青線:パナマ運河
2014年に建設が開始された運河は上から2番目のブルー・フィールズ英語版南側のルートに沿う。[6]

建設主体の決定[編集]

その後もニカラグア国内では運河の実現を夢見る動きが続いてきた。オルテガ政権は2013年6月、中華人民共和国政府と関係があると見られる、香港系企業に新運河の計画・建設・運営を認めることを決定した[7]。この香港企業(HKニカラグア運河開発投資会社:HKND)は、中華人民共和国で信威通信産業集団を経営する、大富豪・王靖が経営しており、プロジェクトの資金として、投資家から400億アメリカ合衆国ドルを既に集めて、2014年12月22日に着工された[2][8]

ルートの決定[編集]

6つのルートが検討の俎上に上ったが、このうちの第4ルートに決定され、2014年7月7日にHKND社が発表した[9][10]。このルートは、太平洋側のブリト(Brito)から始まり、ニカラグア湖と新しく建設される人工湖(Atlanta湖)を経て、大西洋・カリブ海のプンタ・ゴルダ(Punta Gorda)川付近へ至るもので、全長は259.44kmである[11][12]。なお、運河の延長として278km と記述され報道されることが多いが、これは、6つのルートが検討されていた段階での延長である。[2]

運河の詳細計画[編集]

以下の記述は、[13]による。

運河の総延長は前記のように、259.4kmである。これに加えて、太平洋側に1.7km、カリブ海側に14.4kmの航路浚渫延長があるのでこれらを含めると、275.5kmとなる。主に、西運河、ニカラグア湖、東運河の3区間に大別される。西運河区間は、全長25.9km、ニカラグア湖区間は106.8km、東運河区間は、126.7kmである。

幅員は、230m~280m、水深は、26.9m~29.0mであり、25000TEUコンテナ船(長さ500m、幅72m、喫水18m)や、40万トンの超巨大貨物船(ULBC)(長さ365m、幅65m、喫水23.5m)の通行が可能となる。

環境への影響[編集]

HKND社は環境・社会影響調査(ESIA)に基づき、2014年7月に運河沿線で7回の地元説明会を開催した[14]。しかし、ニカラグア湖には、ノコギリエイオオメジロザメのような希少な生物をはじめとする豊かな水棲動物群が生息している。太平洋や大西洋を通ってきた船が行き来することがニカラグア湖の生態系に打撃を与えるとして、なおも環境保護運動家などから運河建設に対する心配が寄せられている[2]

建設の進捗状況[編集]

ニカラグア運河プロジェクトの総予算は当初の400億ドルから500億ドルに訂正され、完成も2020年に改められた。パナマ運河はその拡張工事が完了し2016年6月26日に運用を開始したので、ニカラグア運河が開通しても採算性があるのか疑問視する声もある。総工費はニカラグアのGDPの5倍にもなる金額で、ニカラグア政府は中国主導による工事での波及効果を期待するが、強引な立ち退きや環境面への影響を危惧した住民による反対運動も続いている。

HKNDは2012年に香港に設立されたばかりのIT企業で、中南米でのインフラ関連事業のノウハウがあるのか疑問視されている。運河は開通後50年間の運営権がHKNDに与えられることが契約されており、さらに50年間の延長も可能になっている。HKNDには中国人民解放軍中国共産党の関与も指摘されており、事実上100年間にも及ぶ「中華人民共和国租借地」になってしまうという意見もある[15]

2015年11月5日、ニカラグア政府は運河建設計画の環境社会影響評価を承認し、これによりHKND社は500億ドル以上とされている巨大運河の建設を開始することが認められた[16]

脚注[編集]

  1. ^ ニカラグアの運河、12月着工 総延長パナマの3倍
  2. ^ a b c d パナマ運河を超えるニカラグア運河、まもなく着工予定”. WIRED.jp (2014年7月27日). 2014年8月11日閲覧。
  3. ^ 東京地学協会報告第10号、1891年1月。
  4. ^ 当該社説は、福澤諭吉著『実業論』(1893年刊)に再録されている。
  5. ^ 南米伯刺西爾・中米尼加拉瓦・瓦地馬拉・西印度ゴアデロプ探検報告』外務省通商局、1895年5月(同年3月付外務次官林董宛根本正探検復命書)のうち、第2編第13章
  6. ^ Oakland Ross (2014年7月14日). “Nicaragua-Chinese partnership announces planned route for proposed inter-oceanic canal”. Toronto Star. オリジナル2014年9月3日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140903184819/http://www.thestar.com/news/the_world_daily/2014/07/nicaragua_chinese_partnership_announces_planned_route_for_proposed_inter_oceanic_canal.html. "The eastern portion of the channel’s length will include the construction of a 400-square-kilometer lake, according to Chinese engineer Dong Yung Song. As a result, he said, the canal’s construction will not reduce the depth of Lake Nicaragua itself." 
  7. ^ 産経新聞2013年6月25日
  8. ^ Nicaragua announces start of China-backed canal to rival Panama ロイターBY GABRIEL STARGARDTER
  9. ^ [1] 在ニカラグア日本国大使館、ニカラグア定期報告(2014年7月)、3 経済
  10. ^ Canal de Nicaragua Ruta del futuro canalの全体図
  11. ^ 詳細なルート図 大西洋側の終点に、259.44kmと明記されている。
  12. ^ 紹介ビデオ 10分版
  13. ^ Nicaragua Canal Project Description
  14. ^ [2] 20140904_ERM_Nicaragua CanalPublic Consultations Overview(EN).pdf 2014年8月20日
  15. ^ 怒号飛び交う抗議デモ…中国系企業のニカラグア運河建設の波紋、米もいらだち 産経WEST 2015.5.7 17:00
  16. ^ ニカラグア定期報告(2015年11月)、「2 経済」の項 在ニカラグア日本大使館、2015年12月

関連文献[編集]

  • [3] HKNDグループによるプロジェクト説明のページ
  • 金澤宏明「中米地峡運河とハワイ--アメリカ海外膨張のレトリックと実態」太平洋学会誌98、2009年3月。
  • ニカラグア運河 中内清文と木島久恵、現地の様子の写真が多い