はてしない物語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Jump to navigation Jump to search
はてしない物語
Die unendliche Geschichte
作者 ミヒャエル・エンデ
ドイツの旗 ドイツ
言語 ドイツ語
ジャンル 児童文学ファンタジー
刊行 ドイツの旗1979年
日本の旗1982年
訳者 上田真而子佐藤真理子(1982年)
Portal.svg ウィキポータル 文学
テンプレートを表示

はてしない物語』(はてしないものがたり、Die unendliche Geschichte)は、ドイツ作家ミヒャエル・エンデによる、児童向けファンタジー小説である。1979年刊。

概要[編集]

前後半に分かれる2部構成。前半では主人公の少年・バスチアン(Bastian)がひょんなことから手にした本『はてしない物語』に描かれた世界「ファンタージエン」の崩壊を救い、後半ではバスチアン自身が「ファンタージエン」の世界に入り込み、そこでの旅を通じて本当の自分を探す。物語の本筋から反れた際に「これは別れの物語、いつかまた、別れのときにはなすことにしよう」という言葉で、本筋に戻ることが特徴。また、主に前半部分においては、バスチアンのいる現実世界ともう一人の主人公アトレーユが旅をする本の世界(ファンタージエン)の2つの世界を並行して描いており、現実世界でのストーリーは赤茶色の文字、ファンタージエンでのストーリーは緑色の文字で印刷されている(詳細後述)。

あらすじ[編集]

前半[編集]

読書と空想が好きなバスチアン・バルタザール・ブックスはデブでX脚の少年で学校のクラスメートからいじめを受けていた。また、母親を亡くしたことをきっかけに父親との間に心の壁が出来てしまい、居場所を失っていた。

ある日、いじめっ子に追い掛け回されたバスチアンはカール・コンラート・コレアンダーが経営する古本屋に逃げ込んだ。バスチアンはそこで、あかがね色の絹で装丁された表紙に互いの尾を咬み楕円を描いている明暗二匹の蛇の文様があしらわれた風変わりな本『はてしない物語』を目にし興味を抱く。しかし、お金を持っていなかったバスチアンは本を買うことができず、コレアンダーの目を盗んで本を店から盗み出し忍び込んだ学校の物置で読み始めるのであった。

本の世界では、幼ごころの君が支配する国「ファンタージエン」が「虚無」の拡大によって崩壊の危機に晒されていた。病に倒れた幼ごころの君と「ファンタージエン」を救うための方法を探す使者に指名された緑の肌族の少年・アトレーユは、女王の名代として「アウリン」を授けられ、「救い主」を求めて大いなる探索の旅に出る。

冒険を重ね、幸いの竜フッフールなどとの様々な出会いや数々の試練を経て、「救い主」とは人間のバスチアンであることに気づくアトレーユであったが、努力虚しく「ファンタージエン」は崩壊する。 幼ごころの君は最後の手段としてさすらい山の古老のもとを訪れる。さすらい山の古老は「ファンタージエン」を取り巻く全ての出来事を本に記しており、その内容は幼ごころの君との会話から次第にバスチアンのいる現実世界の話へと変わっていく。その物語は、バスチアンが古本屋に逃げ込む場面となり、そして「ファンタージエン」の崩壊、さすらい山の古老の場面と、延々と続くようになる。

現実と本の世界が交差する中、バスチアンは幼ごころの君に「月の子(モンデンキント)」という新たな名前を授け、「ファンタージエン」の世界に飛び込む。そして持ち前の想像力と女王から授けられた「アウリン」の力によって崩壊した「ファンタージエン」の世界を新たに作り上げていくのであった。

後半[編集]

こうして自ら再建した新たな「ファンタージエン」の世界に入り込んだバスチアンは、その後アトレーユやフッフールと友達になったり、「ファンタージエン」の住人や場所に名を与え物語を作ったりと「ファンタージエン」の世界を楽しんでいた。また、コンプレックスの塊であった自分をも「アウリン」の力を使い容姿端麗で強く立派な勇者のような姿に変えていった。しかし、バスチアンは「アウリン」の力を使う内、次第に現実世界の記憶を失っていってしまうのであった。

そして、幼ごころの君に再び再会したいという気持ちが芽生えたバスチアンは、女王の居住地であるエルフェバイン塔に行くがそこには幼ごころの君はいなかった。女魔術師・サイーデに唆されたバスチアンはファンタジーエンの新しい帝王になることを決意する。我を失い権力まで欲するようになったバスチアンを諭すアトレーユとフッフールであったが、バスチアンは彼らを裏切り者と見なし対立、遂には「ファンタージエン」から追放してしまう。

そして、バスチアンは帝王を宣言するが、アトレーユはその就任式でバスチアンを侵攻。 その後バスチアン達とアトレーユ達は戦争となり、アトレーユ達を追ったバスチアンは「元帝王の都」に辿り着く。そこではバスチアンと同じように現実世界から「ファンタージエン」に入り込み、「アウリン」によって願いを叶え続け、そのまま完全に記憶を失ってしまった元・「ファンタージエン」の王たちが徘徊していた。

やがてバスチアンは、自らの名前以外のほとんど全ての記憶を失うが、アトレーユとフッフールの助けで無事現実世界に生還を果たす。

現実に世界に戻ることができたバスチアンは、古書店へ本を返しに行く。そこで、コレアンダー氏も昔「ファンタージエン」の「救い主」だったことを明かし、二人はそれぞれの体験を語り合うのであった。

登場人物[編集]

主な登場人物[編集]

バスチアン・バルタザール・ブックス(Bastian Balthazar Bux)
現実世界に住む、デブでエックス脚ののろまな少年。一度留年をして、いつもいじめに遭っている主人公。イニシャルはBBB。本を読んだり、物語を作るのが好き。ファンタージエンでは美少年に姿を偽る。物語を作る能力を使用する内にだんだんと傲慢となり、最終的にファンタジーエンの帝王となろうとする。
アトレーユ(Atréju)
緑の肌族の少年。物語前半の主人公。「ファンタージエン」の危機を医師カイロンに告げられ、「救い主」を求めて大いなる探索の旅に出る。
幸いの竜フッフール(Glücksdrache Fuchur)
真珠貝色の鱗を持つ、東洋の龍のような姿の。常に希望と幸福と共にあり、青銅の鐘のような声を持つ。
幼ごころの君(Die Kindliche Kaiserin)
「ファンタージエン」の女王。「望みを統べたもう金の瞳の君」とも呼ばれている。

現実世界の人物[編集]

カール・コンラート・コレアンダー(Karl Konrad Koreander)
古本屋の店主。イニシャルはKKK。本を汚すからと子供を嫌っている。かつてバスチアンとは別の方法でファンタジーエンに行き、幼ごころの君に名前をつけたという過去を持つ。
バスチアンの父(Bastians Vater)
歯科技工士。本名は不明。バスチアンの母が死んでからバスチアンに対して無関心になってしまい、落第にすら何も言わなくなってしまった。
バスチアンの母
物語前に既に他界している。彼女が死亡してからバスチアンの家庭が暗くなってしまった。

「ファンタージエン」の住民[編集]

前半での登場人物[編集]

ブルッブ(Blubb)/ユックユック(Ückück)/ヴシュヴーズル(Wúschwusul)/ピョルンラハツァルク(Pjörnrachzarck)
「ファンタージエン」の危機を幼ごころの君に伝えにいく使節たち。順に、鬼火・ 豆小人・夜魔・岩喰い男。
カイロン(Caíron)
ケンタウロス。名高い医術の達人。幼ごころの君からアウリンを預かり、アトレーユに届ける。
アルタクス(Artax)
アトレーユの
太古の媼モーラ(Morla, die Uralte)
「ファンタージエン」のあらゆる生き物より、年をとった生き物。「憂いの沼」に生息している。
群集者イグラムール(Ygramul, die Viele)
死の山脈にある奈落の裂け目に棲む。無数の虫が群れて様々な姿をとる。1時間で死ぬが、「ファンタージエン」国のどこでも望む所に瞬時に行けるようになる毒を持つ。
南のお告げ所のウユララ(Uyulála, das südliche Orakel)
静寂の声。声だけの存在であり、語りかけるときは韻を踏んで詩にしなければならない。
エンギウック(Engywuck)/ウーグル(Urgl)
地霊小人の夫婦。夫のエンギウックはウユララについての研究をしており。妻のウーグルは薬草を扱うのが得意。
リル(Lirr)/バウレオ(Baureo)/シルク(Schirk)/マエストリル(Mayestril)
それぞれ、北・東・南・西を勢力範囲とする、大風坊主。
グモルク(Gmork)
人狼。自分の世界を持たない者であり、「ファンタージエン」を破滅させようとする者に仕えていた。大いなる探索の旅に出たアトレーユを追跡する。
さすらい山の古老(Der Alte vom Wandernden Berge)
「ファンタージエン」のありとあらゆる事柄をあかがね色の本に記録する老人。幼ごころの君と対となる存在とされる。

後半での登場人物[編集]

色のある死グラオーグラマーン(Graógramán, der Bunte Tod)
色の砂漠ゴアプの王。夜になると石になり、朝になると甦るライオン。ゴアプの色に合わせて体の色が変化する。
イハ(Jicha)
らば。バスチアンのお手馬となる。走るのは遅いが乗り心地が良い。また、ある種の直感に優れている。
勇士ヒンレック(Held Hynreck)/オグラマール姫(Prinzessin Oglámar)
バスチアンがファンタージエンで初めて出会った人達。姫は「すべての者を打ち負かした勇士でなければ結婚しない」という誓いを立てており、ヒンレックはその姫に恋心を抱いている。
ヒクリオン(Hýkrion)/ヒスバルト(Hýsbald)/ヒドルン(Hýdorn)
3人の騎士。ヒクリオンは黒い口ひげを生やした強力の持ち主、ヒスバルトは赤毛で華奢な迅速の持ち主、ヒドルンは背が高く痩せ形で粘りや持久力に長けている。バスチアンの親衛隊となる。
銀翁ケルコバート(Silbergreis Quérquobad)
銀の都アマルガントの長老。
アッハライ(Acharai)
種族名。「ファンタージエン」中で最も醜い生き物。その身の醜さを嘆いてたえず涙を流しているので、常泣虫(とこなきむし)とも呼ばれている。
シュラムッフェン(Schlamuffen)
種族名。道化蛾。派手な色をした、常にふざけている生き物。
イルアン(Illuán)
青い魔鬼。
サイーデ(Xayíde)
「ファンタージエン」中最も威力のある、最も性悪な女魔術師。その意思の力で黒甲冑を動かすことができる。「アウリン」によって我を忘れたバスチアンを唆した。
予感の母ウシュトゥー(Uschtu, die Mutter der Ahnung)/観照の父シルクリー(Schirkrie, der Vater der Schau)/怜悧の息子イージプー(Jisipu, der Sohn der Klugheit)
星僧院の院長、沈思黙考師の3人。体つきは人間であるが、それぞれふくろうの頭・鷲の頭・狐の頭を持っている。
アーガックス(Argax)
小さな灰色の猿。元帝王達の管理者で、房のついた黒い博士帽をかぶっている。飄々とした皮肉屋。
イスカールナリ(Yskálnari)
イスカールに住む人のことで、「いっしょ人」という意味をもつ。
アイゥオーラおばさま(Dame Aiuóla)
「変わる家」に住む。果物のなどの植物を着た風変わりな女性。
ヨル(Yor)
盲目の鉱夫。闇の中では盲目ではなくなるらしい。絵の採掘場ミンロウド坑から人間世界の忘れられた夢を採掘している。

道具[編集]

『はてしない物語』(Die unendliche Geschichte)
バスチアンがコレアンダーの古本屋から盗み出し、学校の物置で読み始める本。表紙はあかがね色の絹でできており、互いの尾を咬んで楕円になっている明暗二匹の蛇が描かれている。
アウリン(AURYN)
幼ごころの君の名代となるしるし。おひかり、宝のメダルとも呼ばれる。明暗二匹の蛇が互いに相手の尾を咬んで楕円になった形状(ウロボロス)をしており、裏側には「汝の欲することをなせ」という文字が刻印されている。授けられた者の願いを叶えることができるが、その一方で記憶を奪ってしまう。
シカンダ(Sikánda)
ファンタージエンにおいて最も強力な魔法の剣。ひとりでに手の中にとびこんでくるときのみ使用が可能で、なすべきことを自らの力でなすが、所有者の意思でさやからひきぬいたときには、所有者自身と「ファンタージエン」に大きな災いがもたらされるという。「ファンタージエン」に入り込んだバスチアンが所有していたが、アトレーユとの戦いにおいてバスチアンの意思で引き抜かれてしまう。
アル・ツァヒール(Al'Tsahir)
透明なガラスのように見える石。ある扉を封印していて、その名を唱えることで石が光を取り戻すと共に、扉の封印がとける。また、封印を解いたものがいま一度終わりから始めへとその名を唱えると、百年分の光を一瞬のうちに放つという。
ゲマルの帯(Der Gürtel Gémmal)
ガラスでできた、姿を見えなくする帯。サイーデがバスチアンに寄贈した。

エピソード[編集]

父親が著名な画家だったエンデは自身も絵を描いており、本の装丁にもこだわりを持っていた。17年にわたりエンデの編集者を務めたローマン・ホッケは「エンデは、この本を『魔法の本』と言っていました。だから装丁も、中に独立した世界があるような、特別なものでなければならない、と」と語っており、出版された本はその言葉通り表紙に2匹の蛇が描かれた布張りの本として装丁され、物語に入り込む入り口としての装置となった。読者は自身が手にした本が、作中でバスチアンが読んでいるものと同じものであると気がつき、主人公と一体化していくのである[1]

岩波書店発行の日本語版ハードカバーでも、本の中に登場する『はてしない物語』と同じく、ハードケースを外した中の書籍本体の装丁はあかがね色の布張りとなっており、がお互いの尻尾をくわえた「アウリン」の文様があしらわれている。さらに、文字も現実世界の部分はあかがね色、ファンタージエンの部分は緑色と刷り分けられている。岩波書店は出版・装丁にあたり布を特注、そのため価格は税込みで3千円を超える[1]。岩波少年文庫として文庫化された際には、上下巻の2分冊となり、文字色は黒色の1色刷りで、ファンタージエンの部分は本文の上部に装飾を施す形で表現されている。

日本語訳版[編集]

派生作品[編集]

映画[編集]

『ネバーエンディング・ストーリー』として映画化され、シリーズにもなった。しかし、シリーズ第1作のラストはエンデの意図に沿っておらず、彼はこれを嫌い、訴訟を起こした。

2作目以降のストーリーは原作のストーリーとはほとんど関係がない。

シェアワールド[編集]

『はてしない物語』をシェアワールド化した小説群『ファンタージエン』がある。

脚注[編集]

  1. ^ a b 「あかがね色の本、物語にも登場」朝日新聞2015年6月1日。