近代魔術

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近代西洋儀式魔術(きんだいせいようぎしきまじゅつ)[1]とは19世紀から20世紀にかけて主に黄金の夜明け団によって確立したヨーロッパの儀式魔術 (: Ritual magic, Ceremonial magic) であり、隠秘学ないし秘教の体系である。カバラ占星術タロットギリシアローマエジプトの神話などを総合したシンボリズムと形而上学[2]を枠組みとして、位階制とイニシエーション儀礼、および儀式と瞑想の技法を用いた霊的修練の体系を構築している。アレイスター・クロウリーは、1913年に発表された『第四の書』第二部において魔術の表記を magic から Magick に転換した。これは自分の提唱する魔術を手品や荒唐無稽な奇跡や洗練されていない旧来の魔術から区別するために、19世紀以前に用いられた近代英語の古い綴りを復活させたものであった[3]。英語では magic(k) の一般的な発音は [mædʒɪk] であるが、クロウリー流の Magick は、「マギ」の学術であるという意味において mage-ick [meɪdʒɪk] と発音する人もいる。同様に日本ではマギックともいう[4]

近代西洋儀式魔術の儀式スタイルや知識はアレイスター・クロウリーやイスラエル・リガルディーの出版物によってある程度広く知られるところとなり、現代の魔女宗アントン・ラヴェイサタニズムの成立にも直接または間接的に影響を与えている[5]

歴史

ルネサンス期、儀式魔術 (: Magia ceremonialis) という言葉は霊と交渉する魔術の類を指し、キリスト教的な通念では異端的な忌まわしいものとされていた。こうした古典的な儀式魔術はグリモワールと呼ばれる古い魔術書群に遺されている。一方、一部の人文主義者らは自然の理に基づいた賢者の知恵としての魔術、すなわち自然魔術 (: Magia naturalis) に言及している。中でもハインリヒ・コルネリウス・アグリッパが著した『隠秘哲学』三書は後代の魔術に大きな影響を与えた。

19世紀初頭、イギリスではフランシス・バーレットがアグリッパやグリモワールの魔術をまとめ上げ、The Magus を著した。19世紀半ばのフランスではエリファス・レヴィが『高等魔術の教理と祭儀』などを著し、魔術思想を説いた。そして19世紀末のイギリスにできた魔術結社、黄金の夜明け団は、メーソン薔薇十字的儀礼とカバラと古典的な儀式魔術とを総合・体系化し、魔術に新たな息吹を吹き込んだ。この出来事を魔術史家フランシス・X・キングは魔術の「復興」と表現している。

流派

  • 儀式魔術(Ritual magic)または高等魔術(High magic):アストラル界の秘密の首領により結社されたという。会員は魔法名で呼び、各自の位階の法衣を着て集まり儀式をおこなう。
  • セレマ:アレイスター・クロウリーが創始した宗教/実践哲学。聖典は『法の書』、儀式魔術とヨーガの実修、グノーシスミサという宗教儀礼などがある。
  • ウイッカ(魔女宗):復興した宗教。教典はジェラルド・B・ガードナー The Book of Shadows(影の書)、マーガレット・マリー『魔女術古代異教信仰・残存物説』による。自然主義的な意図により裸で儀式を行うとされるが、今日では服を着て儀式を行うグループが多い。
  • ウイッチクラフト(魔女宗、魔女術):ウイッカに該当しない個々のもの。[6]
  • 左道:セトの寺院 en:Temple of Set など。
  • サタニズム:アントン・ラヴェイ悪魔教会など。

黄金の夜明け系儀式魔術の道具

魔法日記 Magical Diary
行った訓練や儀式の内容、状況、感想などを記録。
ロータスワンド Lotus wand
いわゆる魔法の杖。術者が自分で聖別儀式をおこない作成。
四大元素武器 Elemental weapons
四大元素を象徴する火の棒、水の杯、風の短剣、地のペンタクル。流派によっては棒(杖)を風の象徴とし、短剣を火の象徴とする。
短剣 Dagger
小五芒星儀式などで用いられる汎用の短剣。元素武器の風の短剣とは区別される。
タロットカード Tarot pack

魔女宗の道具

アセイミーまたはアサメイ Athame
黒い柄の両刃のナイフ。
ペンタクル Pentacle
五芒星などが描かれた円盤状のもの。
チャリス Chalice
聖杯を模した杯。
コールドロン Cauldron
魔女の大釜。

行法

  • 逆向き瞑想 Reverse Meditation
  • リズム呼吸 Rhythmic Breathing四拍呼吸
  • 瞑想 Meditation:受動瞑想と能動瞑想
  • 日拝 Four Adorations
  • 小五芒星追儺儀式 the Lesser Banishing Ritual of the Pentagram 略称 LBRP
  • 中央の柱 the Middle Pillar

技法

儀礼

  • 儀式魔術
    • イニシエーション(秘儀参入の儀式)
    • 春分・秋分の儀式
  • 魔女宗
    • イニシエーション
    • サバト:年8回の季節の祝祭
    • エスバト:満月の夜の集会

組織

黄金の夜明け系儀式魔術
結社には上位組織と下位組織がありそれぞれに位階がある
結社内にアウター(外陣、5位階)、インナー(内陣、実質は5=6アデプタス・マイナー)の2層。
魔女宗
13人のカヴンである。13人以上になるとカヴンを分ける。

著名な魔術師

関連書

後注

  1. ^ 一般にはたんに「近代魔術」(Modern magic)や「儀式魔術」(Ritual magic)などと呼ばれるが、本項では東洋魔術や近代以前の儀式魔術などとの区別のため、便宜上、一般には通用していない「近代西洋儀式魔術」という複合的な限定的呼称を用いる。高等魔術 (High magic)、ヘルメス学 (Hermeticism)、Western mystery tradition (定訳はないが、西洋の密儀/神秘の伝統という意味) といった呼称も行われている。
  2. ^ この体系はたんにカバラと呼ばれることも多いが、ユダヤ教の正統的なカバラとは異なるものである。ヘルメス的カバラ en:Hermetic Qabalah ともいう。ユダヤ教カバラが Kabbalah、クリスチャンカバラが Cabbala と綴るのに対し、ヘルメス的カバラでは Qabalah と綴る傾向がある。魔術的カバラともいうが、ユダヤ教カバラにも魔術的カバラという部門があるため、混同しないよう注意を要する。
  3. ^ クロウリーの『第四の書』第二部(Book Four, Part II)の脚注に「マギの学をそのあらゆる紛い物から区別するために Magick という古い綴りを採用する」旨が記されている。
  4. ^ IMN「魔術の種類について」” (html). 2008年11月29日閲覧。
  5. ^ ただし、魔女宗にしろ、ラヴェイのサタニズムにしろ、基本的に宗教であり、魔術プロパーとはみなされない。
  6. ^ ウイッチクラフト、ウイッカ、魔女宗といった言葉の適用範囲については、楠瀬啓「ウイッカ、クラフト、ウイッチクラフト ~「魔女宗」の混乱~」を参照のこと。以下、本項ではウイッチクラフトとウイッカの双方を含むものとして魔女宗という呼称を用いることとする。

関連項目

外部リンク