辰巳ヨシヒロ
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辰巳 ヨシヒロ(たつみ ヨシヒロ、1935年6月10日 - )は、日本の漫画家、古書店経営者。大阪府大阪市天王寺区出身。本名、辰巳嘉裕。兄は、漫画家・漫画出版社経営者の桜井昌一。
貸本漫画家として活躍しながら、「劇画」という名称を提唱、「劇画」誕生にあたって重要な役割を果たした。
1970年代以降は、社会の下層に位置する人々の苦悩を陰鬱なタッチで描いた作品を多数発表。その作品は日本国外でも高く評価されている。
略歴
大阪市東門町に生まれるが、太平洋戦争の激化により、大阪府箕面へ。次いで豊中市蛍池に疎開して、豊中で育つ。
少年時代から漫画好きで、2歳年上の兄・義興(のちの桜井昌一)と共に、特に手塚治虫の漫画に熱中する。
実家の経済的困窮もあり、豊中第二中学校時代から、兄と共に、雑誌『漫画少年』他、多数の雑誌の読者投稿コーナーに盛んに投稿し、たびたび入選して賞金を獲得。1950年2月には、京都の丘西克明ら同年代の漫画家志望者6名で「子供漫画研究会」を作り、肉筆回覧雑誌『漫画の明星』を4号まで発行。また、同年9月には、毎日中学生新聞に掲載された「子供漫画家たちと手塚治虫の座談会」に出席。手塚の知遇を得て、その後の手塚の上京まで、何度も宝塚の手塚の実家を訪問する。
1951年に、大阪府立豊中高等学校に進学。同年、兄の勧めで大城のぼるに手紙を書いて返事をもらい、描き上げた中編・長編漫画を送って批評をもらうようになる。
1952年には、大城から上京して弟子になるよう勧められるが、悩んだ末断る。同年、執筆した長編「こどもじま」を大城に郵送したところ、大城から鶴書房に紹介され、1954年3月に単行本として刊行され、漫画家デビューとなる。
高校卒業を控えて、京都市立美術大学(現在の京都芸術大学)を受験するが、実家の経済的な事情を考えて、進学を断念。
高校卒業後の1954年、さまざまな大阪の貸本出版社に持ち込みをした後、八興社(日の丸文庫)を訪問。山田秀三社長・山田喜一専務の兄弟、顧問の久呂田まさみらに「七つの顔」が採用されて刊行。以後、ほぼ「日の丸文庫専属」のような形で貸本漫画を執筆するようになる(他社で仕事をする際は、ペンネームを用いた)。また、後にライバルとなる松本正彦とも出会う。
また、1955年の「開化の鬼」以降、映画的な表現を取り込んだシリアスな作品を発表。1956年4月から、久呂田の発案で日の丸文庫から短編雑誌『影』が発刊され、メイン作家として人気を博す。
だが日の丸文庫は、新たに企画した「大人漫画」の作家たちの新書版単行本の売り上げ不振で、1957年に倒産。久呂田の勧めで、名古屋のセントラル出版が企画した『街』に参加。だが同年秋に日の丸文庫が「光映社」として再建されたため、新生『影』の編集長に抜擢される。一方、貸本漫画業界は『影』の影響で探偵物の短編集ブームが起こり、さまざまな出版社の雑誌に寄稿。
1957年末、『街』に描いた作品「幽霊タクシー」にて、ハードボイルド小説の影響も多大に受けた自身のシリアスな作風を従来の「漫画」と区別するため、作品表紙に「劇画」という表記を使用(なお、この頃、同じように既成の漫画とは異なる表現を追求していた松本は、自身の漫画を「駒画」と呼んでいた)。
1958年には、セントラル出版の東京進出のための誘いもあり、さいとう・たかを、松本とともに上京し、国分寺に住まう。
1959年、兎月書房から新雑誌『摩天楼』の刊行にあたって、日の丸文庫出身の若手作家たちと「劇画工房」を結成。メンバーは辰巳、石川フミヤス、K・元美津、桜井、山森ススム、佐藤まさあき。後にさいとう、松本も参加した。
だが貸本漫画業界に訪れた劇画ブームのため、メンバーの足並みが揃わず、1960年に辰巳、さいとう、松本は「劇画工房」から脱退。
その後は、衰退する貸本業界の中で、1963年に自身の出版社「第一プロ」を設立(のち、「ヒロ書房」と改名し、1971年まで活動)。また、1960年代後半以降、『ガロ』やメジャー少年誌などで大々的な「劇画ブーム」が起こるが、劇画のオリジネーターである辰巳は、ブーム化して乱造された「劇画」に幻滅する。1968年には、「劇画と決別するための」の著書、『劇画大学』を刊行する。
以降、辰巳は主に社会の底辺に位置する人々を主人公とした陰鬱な短編作品を発表するようになる。また、1990年代以降は、主に仏教関係の漫画作品を発表している。一方で、1950年代SF短編の味わいの再現を狙った連作短編『SFもどき』など、時おり多彩な試みに挑むことも忘れてはいない。
1980年代以降は、日本国外に作品が紹介され、「下層労働者の心情を初めて、リアルに描写した漫画家」として高い評価を得るようになる。また国内でも、2002年に青林工藝舎から刊行された『大発見』以降、再評価が進んでいる。
1986年には、神保町で漫画専門の古書店「ドン・コミック」を開店。現在も営業を続けている(ただし、かつては店舗販売も行っていたが、2002年からは目録販売専門店となった)。
2008年には、1995年から2006年まで「まんだらけ」のカタログ誌に連載された半自伝漫画『劇画漂流』が刊行された。また、その続編をカナダの出版社からの依頼で、執筆予定である。
賞歴
- 1972年、日本漫画家協会賞努力賞(『人喰魚』)
- 2005年、アングレーム国際漫画祭特別賞。
- 2006年、サンディエゴ・コミック・コンベンション特別賞。
- 2006年度『タイム誌』ベストコミックス第2位
- 2009年、手塚治虫文化賞大賞(『劇画漂流』)
- 2010年、アイズナー賞最優秀アジア作品/最優秀実話作品受賞(『劇画漂流』)
作品リスト
国内
- こどもじま(鶴書房、1954年)
- 密林巨人(鶴書房、1954年)
- ビックと豆の木(鶴書房、1954年)
- 南海のQ島(鶴書房、1954年)
- 七つの顔(日の丸文庫、1954年)
- 鉄腕げん太(東光堂、1954年)※大和義郎名義
- 十三の眼(日の丸文庫、1954年)
- ピカドン先生(日の丸文庫、1954年)
- 21の指紋(日の丸文庫、1954年)
- 木刀先生(日の丸文庫、1955年)
- 霧の小次郎(榎本書店、1955年)※井上三平名義
- 紅孔雀(榎本書店、1955年)※井上三平名義
- 消えた峡谷(東光堂、1955年)※大和義郎名義
- アバラヤ殿下(日の丸文庫、1955年)
- 力道山物語(榎本書店、1955年)※井上三平名義
- 33の足跡(日の丸文庫、1955年)
- プロレス狂時代(日の丸文庫、1955年)
- 開化の鬼(日の丸文庫、1955年)
- 闇に笑う男(日の丸文庫、1955年)
- 声なき目撃者(日の丸文庫、1956年)
- 帰ってきた男(日の丸文庫、1956年)
- 黒い吹雪(日の丸文庫、、1956年)
- 銃弾の街角(日の丸文庫、1956年)
- 顔役(ボス)を倒せ!(セントラル文庫、1956年)
- 目撃者(セントラル文庫、1956年)
- 霧(兎月書房、1958年)
- 俺は待ってるぜ(兎月書房、1958年)
- 私は消えてゆく(わかば書房、1959年)
- 続・私は消えてゆく(わかば書房、1959年)
- 立ち上がる男(三洋社、1960年)
- 真夜中のドラム(日の丸文庫、1961年)
- 走り行く男(セントラル文庫、1961年)
- 墓場貸します(ホープ書房、1961年)
- 男ありて 1 - 4(三洋社、1961年)
- ものすごいやつら(日の丸文庫、1962年)
- マシンガン野郎(東京トップ社、1962年)
- 男だけの世界(日の丸文庫、1962年)
- オリにかえれ(東京トップ社、1962年)
- 犯罪横町(セントラル文庫、1962年)
- 墓場紳士(東京トップ社、1962年)
- けものの眼ざめ(東京トップ社、1962年)
- 葬式商人(セントラル文庫、1962年)
- 人間狩り(東考社、1962年)
- 四角い戦場(東京トップ社、1962年)
- 視界0(東考社、1962年)
- 悪人工場(やなぎプロ、1962年)
- めくら狼(東考社、1962年)
- やせ犬の詩(東京トップ社、1962年)
- 四角い野望(東考社、1962年)
- おとし穴作戦(東京トップ社、1963年)
- 死亡広告(東考社、1963年)
- 殴り込み四十七人(東京トップ社、1963年)
- 背骨にノック(東考社、1963年)
- あいつ売ります(東京トップ社、1963年)
- 熱い船(東考社、1963年)
- ギャング大統領(東京トップ社、1963年)
- この悪党ども(第一プロ、1963年)
- 殴ってサヨナラ(第一プロ、1963年)
- 男対男(第一プロ、1963年)
- 太陽をけとばせ(第一プロ、1963年)
- 悪党市場(第一プロ、1963年)
- ならず者(第一プロ、1963年)
- ぶっこわし作戦(第一プロ、1964年)
- 爆弾かかえて(第一プロ、1964年)
- ガチョン社員(第一プロ、1964年)※あさひ昇名義
- 荒野に叫べ(第一プロ、1964年)
- ホテル13号室(第一プロ、1964年)
- 夢見る探偵屋(第一プロ、1964年)
- 死者が会いに来る(第一プロ、1964年)
- 透明人間(第一プロ、1965年)
- 泣くな青春(第一プロ、1966年)
- 人間蒸発(第一プロ、1967年)
- 劇画大学(ヒロ書房、1968年)
- 青春山脈(ヒロ書房、1968年)
- 地球最後の日(ヒロ書房、1968年)
- 死者が歩く(ヒロ書房、1968年)
- 忍者火山(ヒロ書房、1968年)
- 進め!悪党(ヒロ書房、1968年)
- 青春に涙あり(ヒロ書房、1969年)
- 象の道(ヒロ書房、1969年)
- 爆発寸前(ヒロ書房、1969年)
- 男対男(ヒロ書房、1969年)
- 空気男(ヒロ書房、1969年)
- 泣くなおばけ(ヒロ書房、1969年)
- 学園大統領(ヒロ書房、1969年)
- 殴ってサヨナラ(ヒロ書房、1969年)
- 大空に泣け(ヒロ書房、1969年)
- 人喰魚(ヒロ書房、1970年)
- あんた誰や?(ナポレオンブックス、1971年)
- 群集のブルース(ナポレオンブックス、1971年)
- 人生なすび(ナポレオンブックス、1971年)
- 長い長い夏(ナポレオンブックス、1971年)
- 男一発(青林堂、1972年)
- 銭牝 1 - 3(原作:花登筐、芳文社、1975年)
- 紅摺大車輪勝負(土曜出版社、1975年)
- 鳥葬(小学館、1976年)
- コップの中の太陽(小学館、1976年)
- こどもじま よいまんが一年生(東考社、1976年7月)
- 声なき目撃者(東考社、1976年11月)
- ザ・ギャンブラー(原作:花登筐、少年画報社、1977年)
- トルコ野郎(芸文社、1978年)
- てっぺん○次 1 - 2(秋田書店、1978年)
- 懸賞狼 1 - 3(原作:梶川良、久保書店、1980年)
- 賞金雀鬼(『懸賞狼』を抜粋して雑誌形式でまとめたもの 原作:梶川良、芳文社、1981年)
- 地獄の軍団 1 - 6(実業之日本社、1982年 - 1983年)
- SFもどき(実業之日本社、1983年7月)
- まんがでわかる海外旅行トラベル・トラブル(集英社、1989年5月)
- 修験道のはなし ひろさちやの仏教コミックス(原作:ひろさちや、鈴木出版、1990年1月)
- ミックス(原作:ひろさちや、鈴木出版、1990年)
- 乾いた季節 1 - 2(秋田書店、1990年6月)
- ダルマ大師 禅を伝えた僧 ひろさちやの仏教コミックス(原作:ひろさちや、鈴木出版、1991年4月)
- 大日如来 宇宙のほとけ ひろさちやの仏教コミックス(原作:ひろさちや、鈴木出版、1992年10月)
- 密教のはなし ひろさちやの仏教コミックス(原作:ひろさちや、鈴木出版、1994年1月)
- 最澄の生涯 ひろさちやの仏教コミックス(原作:ひろさちや、鈴木出版、1994年9月)
- 最新!まんがでわかる刑法(原作:円山雅也、集英社、1994年11月)
- 栄西の生涯 ひろさちやの仏教コミックス(原作:ひろさちや、鈴木出版、1995年6月)
- 空海の宇宙 ひろさちやの仏教コミックス(原作:ひろさちや、鈴木出版、1996年9月)
- 歓喜天愛欲の神 ひろさちやの仏教コミックス(原作:ひろさちや、鈴木出版、1997年6月)
- 大発見(青林工藝舎、2002年11月)
- 大発掘(青林工藝舎、2003年9月)
- 懸賞狼 1 - 2(原作:梶川良、久保書店、2007年)
- 劇画漂流 上下(青林工藝舎、2008年)
- 劇画寄席 芝浜(バジリコ、2009年7月)
- 復刻版 黒い吹雪(青林工藝舎、2010年)
- 劇画暮らし(本の雑誌社、2010年10月)
- TATSUMI(青林工藝舎、2011年)
日本国外版
英語版
- GOOD-BYE(1988年)
- THE PUSH MAN(2005年)
- ABANDON THE OLD IN TOKYO(2006年)
- GOOD-BYE(2008年)
- A Drifting Life(2009年)
フランス語版
- COUPS D'ECLAT(2004年)
- Les larmes de la bête(2004年)
- GOOD BYE(2005年)
- L'ENFER(2008年)
スペイン語版
- QUE TRISTE ES LA VIDA
- LA GRAN REVELACION(2004年)
- VENGA SACA LASJOYAS(2005年)
- INFIERNO(2005年)
- GOOD BYE(2005年)
- Mujeres(2006年)
イタリア語版
- LAMPI(2004年)
インドネシア語版
- HANYUT(2010年)
ポルトガル語版
- MULHERES(2007年)
ポーランド語版
- kobiety(2008年)
中国語版
- 最澄大師(2004年)
脚注
参考資料
- 『大発見』巻末年譜
- 『劇画漂流』