超音速機

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超音速機(ちょうおんそくき)は、超音速で水平飛行が可能な航空機。実現されたのはすべて、可変翼を含む固定翼ジェット機、およびロケット機である。

なお、あえて「水平飛行」と断るのは、航空機は急降下ないし緩降下によって際限なく加速する事が可能であるからである。よって、超音速機には分類されない機体であっても、降下による加速によって一時的に音速を突破した例は存在する。

なお、歴史的にみて、ほとんどの超音速機はマッハ2級であり、マッハ1級・マッハ3級以上のものは少ない。これはジェットエンジン(高バイパス比ターボファンエンジンターボプロップエンジンは除く)はその特性上、高速になればなるほど効率が高まるため、1940年代実験機によって、1950年代実用機においてマッハ1を突破した後、ほどなくしてマッハ2級に達してしまったからである。一方、高速になればなるほど大気断熱圧縮によるが大きくなるため、マッハ3に近づいた辺りから急激に機体表面温度が上昇する(熱の壁)ため、マッハ3級機にはそれに耐え得る機体設計が必要になる。そのためには他の性能をかなり犠牲にする必要があり、ごく一部の機体を除いてマッハ3級機は実用足り得ないとされた。

歴史

1947年X-1が史上初めて、有人水平飛行での超音速を達成した。

用途別

戦闘機

現在、戦闘機のほとんどは超音速飛行が可能である。

ただし戦闘機の場合、アフターバーナーを使って一時的に超音速を出せるにすぎないものも多い(戦闘機は燃料搭載量が少ないため、燃料消費の多いアフターバーナーを常時使うことができない)。しかしながらこの事は特に問題視はされない。超音速領域においてはほとんどまっすぐに飛ぶ事しかできず、戦闘機に必須であるドッグファイトが不可能となるからである。目標が超音速飛行している場合においても、その時だけ短時間飛行できれば問題なく、長時間の超音速飛行によって追尾する必要は無いからである。また、その状態の目標物もほとんどまっすぐにしか飛行することができないため、戦闘機自体が超音速で飛行せずとも、現在ではミサイルによって撃墜が可能である。

したがって現代の戦闘機においては、超音速で飛行できるか否かは特に問題ではない。戦闘機に必要な上昇能力、加速性を得るために、結果として超音速飛行能力を持っているに過ぎない。ただしその事が意識されたのは第4世代ジェット戦闘機以降であり、第2世代ジェット戦闘機から第3世代ジェット戦闘機の頃には超音速飛行能力は戦闘機にとって必須の能力と考えられていた。

上述の通り、1950年代に最初に実用化した超音速戦闘機にマッハ1級の例が見られるものの、極めて少数であり、その後は大半の戦闘機はマッハ2級に移行した(マッハ1級機の開発を経験せず、一気にマッハ2級戦闘機を実用化した国もある)。またマッハ3級戦闘機の開発も試みられたものの、開発費用の高騰や、高速性能以外の性能の低さ、運用コストなどの問題が頻発し、実用化に至っていない。唯一の例外としてMiG-25が存在するが、実際にはマッハ3を超える飛行は機体の運用限界を超えたものであり、実際の最高速度はマッハ2.83とされる。また速度性能に特化しているため、戦闘機として必要となる機動性も実際には低いとされる。

第4世代ジェット戦闘機の時代に入ってからは、高速度性能が切り捨てられる傾向にあり、再びマッハ1級からマッハ2.0内外に留めた機体が増えている。とはいえマッハ1.5以上での飛行能力は必須であるとされており、作戦機であればマッハ1.6~1.8程度の最高速度を発揮できることが多い。

第5世代ジェット戦闘機の時代に入りつつある現在、超音速で常時飛行する能力(スーパークルーズ)に注目が集まりつつあるが、大半の機体は未だ開発途上であるため、将来的にどうなるかは未知数である。

偵察機

偵察機においては、敵戦闘機を振り切る能力が要求されたため、かつては戦闘機よりも一段と高い高速性能が要求される傾向にあった。

しかしながら偵察機として専用の機体が開発されることは少なく、大抵は既存の戦闘機からの改修型、あるいは戦闘機と同じ機体に偵察装備を装備したものがほとんどであるため、事情は戦闘機とほぼ同じである。戦闘機の中でも特に高速を誇る機体がこの任務に充てられており、上述のMiG-25などがこれにあたる。戦略偵察機として知られるSR-71ブラックバードも専用設計ではなく、戦闘機型の試作機YF-12と多くの設計を共有している。

しかし現在では、偵察衛星無人航空機の発達により、有人偵察機の必要性自体が減っている。また戦略偵察機においては、直接敵国上空を飛行しなくとも、その付近を飛行するだけでも、宇宙空間から情報収集を行う偵察衛星に比べれば遥かに多くの情報が得られるため、さほど高速性能は重要視されず、むしろ低速で長時間飛行する能力が重要視されるようになった。

爆撃機

超音速機が実用化された当初は、敵超音速戦闘機の要撃を振り切るためにも、爆撃機でも超音速性能が重要視された事があった。しかしながら攻撃機・爆撃機は、大量の爆弾ミサイルを搭載する必要があるため、高速性能の発揮には不利な要素が多い。

例えば最初の実用超音速爆撃機であるアメリカのB-58ハスラーは、高速性能の発揮のために余裕の無い設計であったため、発達著しい空対地ミサイルの搭載能力が無く、早々に退役する事となった。ソ連のTu-22Tu-22Mは機体内部への爆弾搭載能力が低く、機外への爆装時には音速を突破できないなど、中途半端な設計であった。

またドイツのゼンガー、アメリカのXB-70バルキリー、ソ連のT-4など、試作機、実験機の段階に留まり、実用化されなかった機体も多い。

実用化された本格的な超音速爆撃機としては、アメリカのB-1ランサー、ソ連のTu-160が制式化されている。しかし、高価なこと、またB-1Bにおいては第二次戦略兵器削減条約によって、配備は限られたものとなっている。

また現在は、戦闘機の性能向上が著しく、戦闘爆撃機マルチロール機として従来の爆撃機の任務をほぼ代替できるような状況である。そのような状況下において専用の大型爆撃機を開発する動機そのものが失われている。

現在において最新鋭の爆撃機はアメリカ空軍のB-2であるが、速度は亜音速に留めてステルス性を重視した仕様となっている。これが今後の爆撃機の一般的な趨勢になるかは未知数である。

輸送機・旅客機

ロケット

広義には、宇宙ロケット弾道ミサイルも、大気圏を飛んでいる間は超音速機といえる。スペースシャトルX-43に記録更新されるまで、世界最速の航空機として、ギネスブックに登録されていた。

関連項目