艦艇自衛システム
艦艇自衛システム(SSDS:Ship Self-Defence System)は、アメリカ海軍の戦闘システム・C4Iシステム。
来歴
SSDSは、SYQ-17 RAIDSの延長線上で開発されたもので、実際、RAIDSはのちにSSDS Mk.0と呼ばれるようになった。SYQ-17 RAIDS(Rapid Anti-Ship Cruise Missile Integrated Defense System)の開発は、その名称のとおり、対艦ミサイルより水上艦を防御する試みとして、1988年より始まった。その目的は、スターク被弾事件などで強く印象付けられた対艦ミサイル脅威に対抗するため、艦艇が既に装備している各種のセンサーと火力をネットワークによって統合することで、脅威への対処をより迅速化することにあり、スプルーアンス級駆逐艦およびオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートに適用される計画であった。
一方、1990年代初頭のNAAWS計画の崩壊を受けて、アメリカ海軍は、新戦闘システムを独自に開発継続することを決定した。アメリカ海軍は既に、世界最高水準の戦闘システムとしてイージスシステムを保有しており、これを搭載したアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の大量建造の目処もついており、水上戦闘艦向けの戦闘システムを新規開発する必要は薄かった。しかし一方で、1980年代後半から1990年代初頭にかけて行われたペルシア湾地域での作戦の結果、スプルーアンス級駆逐艦やペリー級フリゲートなどの非イージス搭載艦、さらに揚陸艦などの水上戦闘艦以外の艦種にも、イージスシステムのような統合戦闘システムを搭載する必要性が認識されていた。
これを受け、アメリカ海軍のNAAWSプロジェクト・オフィスは、RAIDSを元にした統合戦闘システムとしてSSDS(Ship Self-Defence System)の開発に移行することとなり、1991年には開発要求がなされた。その開発は、QRCC(Quick-Reaction Combat Capability)計画のもとに行なわれることとなった。
SSDS Mk.1
SSDS Mk.1は、1993年-1994年にかけて実用化された。これは、RAIDSと同様に、センサーや火力は既存のものを活用しており、戦術情報処理装置とネットワークのみが新規搭載された。
具体的には、AN/SPS-49 2次元レーダーとAN/SLQ-32 ESM装置を早期警戒センサーとして使用し、敵の攻撃を探知した場合には、Mk 36 SRBOCよりチャフ・フレアを展開するとともに、ファランクスCIWSの捜索レーダーによって目標を追尾、射撃指揮を行なって、RAM近接防御SAMおよびファランクスCIWSの射撃によって目標を撃破することを狙っていた。
これらのセンサーおよび火力は光ファイバー・ネットワークによって連接されており、さらに戦術情報処理装置として2基のAN/UYQ-70ワークステーションが追加され、RAMの射撃管制に用いられていたUYK-44 1基とともに、分散処理システムを構築した。なお、これはオープンアーキテクチャに基づいたシステムとして、初めて実用化されたものであり、イージスシステムのベースライン7に先がけるものであった。
これはNSWCダールグレンに設置され、運用試験においては、A-4艦上攻撃機が300ノットで曳航する目標、さらに450ノットで飛翔するBQM-34標的機を撃破することに成功した。これは、ホイッドビー・アイランド級ドック型揚陸艦に搭載されて就役したのち、ニミッツ級航空母艦に順次搭載されているが、その構成上、基本的には、既存の艦へのレトロフィットとなっている。
SSDS Mk.2
続くSSDS Mk.2は、さらに多くのサブシステムをとりこむことで、より包括的な統合戦闘システムとして開発されることとなっており、各センサー・武器システムは艦と統合されて、システム艦として構築されている。
全体的にいって、SSDS Mk.2は、最新版イージスシステム(ベースライン7)の軽武装・多用途化版となっている。SSDS Mk.2の最大の特徴が、艦の戦術情報処理装置(ACDS)を統合した戦闘情報システムを構築したことで、これにより、SSDS Mk.2は、TEWA機能を取り込むこととなった。さらに、Mk.23 TASとMk.91 GMFCSを統合し、あるいはその代替となるサブシステムも統合され、これによって、SSDS Mk.2は、艦の自衛火力のすべてを隷下に入れることになった。また、電子戦・対抗手段としては、従来より用いられてきたSLQ-32とMk.36 SRBOCの組み合わせに加えて、オーストラリア製の対ミサイル・デコイであるMk.53 Nulkaも取り入れられた。
SSDS Mk.2のなかで、各サブシステムは緊密に連接されている。これらは、ネットワーク中心の戦いのコンセプトに基づき、下記のとおりの機能別グリッドに分けることができる。
- センサー系
- 対空捜索レーダー
SSDS Mk.2を搭載する艦は、いずれもAN/SPS-48 3次元レーダー、AN/SPS-49 2次元レーダーなど、長距離探知が可能な対空センサーを備えている。これらの情報は、SSDS Mk.2の情報処理システムに入力されて早期警戒と目標の脅威度評価に役立てられ、続く対応行動への準備を迅速化する。 - AN/SLQ-32 電子戦装置
ESMにより、敵の電子的活動を探知する。艦が電子封鎖状態にあるときは、事実上、唯一のセンサーとなる。生成する情報は、おおむね、「探知・Cueingの精度」のものである。 - AN/SPQ-9B 目標捕捉レーダー
接近する航空目標を精密に捕捉・追尾して、「Trackingの精度」の情報を得るとともに、必要に応じてRAMなどの射撃指揮も行なう。イージスシステムにおけるAN/SPY-1のような役割であるが、長距離探知が困難であることから、むしろNAAWSのAPARに近い。SSDS Mk.1以前のMk.23 TASを代替するものである。 - AN/SPS-67 対水上レーダー
対水上目標の精密追尾を行なうものである。
- 対空捜索レーダー
- 情報系
- 海上用汎地球指揮統制システム(GCCS-M)
艦隊の基幹となるC4Iシステムであり、艦隊全体の戦闘統制をつかさどる。艦の戦闘指揮所(CDC)に装備されるほか、戦闘群司令所(TFCC)設置艦では、TFCCにも同時に設置されている。 - 先進戦闘指揮システム (ACDS)
戦闘指揮所(CDC)に装備されて、艦の戦闘統制をつかさどるシステムである。SSDSとオペレータとを連接するマンマシンインタフェースとしての役割を持っており、能力的には、イージスシステムで同様の役割をになうイージス・ディスプレイ・システムとほぼ同等のものである。なお、SSDSにおいてはAN/UYQ-70端末による分散処理を行なっていることから、ACDSに情報処理機能を含めて扱うことは少ない。また、イージスシステムにおいてもAN/UYQ-70による分散処理方式の採用が進んでおり、SSDSの導入によって、艦隊からは従来のUYK-43/UYK-44コンピュータは消滅することになる。
- 海上用汎地球指揮統制システム(GCCS-M)
- 交戦・脅威対処系
- Mk.57 NSSMS(NATO シースパロー・ミサイル・システム)
中距離から近距離の対空/対水上火力システムであり、ESSM 艦対空ミサイルおよびMk.91 GMFCSによって構成される。ドック型揚陸艦などには搭載されない場合もある。 - Mk.31 GMWS
RAM近接防空ミサイルによる短距離での火力システムで、SSDSの主力となる対空兵器のひとつである。 - Mk.15 CIWS
有名なファランクスで、20mm機関砲による近接距離での火力システムである。また、Mk.15 CIWSの一部となる目標追尾レーダーは、Mk.31 GMWSの射撃指揮にも使用される。 - Mk.36 SRBOC
昔から使われてきたチャフ・フレア発射機である。通常、SLQ-32と連接されており、電子戦対抗手段として用いられる。 - Mk.53 Nulka
新しく配備された対ミサイル・デコイである。
- Mk.57 NSSMS(NATO シースパロー・ミサイル・システム)
SSDS Mk.2は、基本的に新造艦への搭載となっており、航空母艦においては「ロナルド・レーガン」より搭載されているほか、ワスプ級強襲揚陸艦、サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦にも搭載されている。
参考文献
- Raytheon (2007年11月26日). “Ship Self-Defense System (SSDS) - A Combat Management System for When Seconds Count・” (PDF). 2009年9月12日閲覧。
- 大熊康之『軍事システム エンジニアリング』かや書房、2006年。ISBN 4-906124-63-1。
- 編集部「海上自衛隊のシステム艦隊化はどこまで進んでいるか」『世界の艦船』第594集、海人社、2002年4月、94-99頁。
- 野木恵一「システム艦からシステム艦隊へ」『世界の艦船』第594集、海人社、2002年4月、70-75頁。
- Norman Friedman (2006). The Naval Institute guide to world naval weapon systems. Naval Institute Press. ISBN 9781557502629