多重国籍

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。118.4.116.35 (会話) による 2011年11月6日 (日) 09:56個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎日本での制度と実情)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

緑:多重国籍を認めている国家
赤:多重国籍を認めていない国家

多重国籍(たじゅうこくせき)とは二つ以上の国籍を持っている状態のこと。国籍の積極的抵触ともいう。

概要

多重国籍の場合、複数の国家から国民としての義務の履行を要求されたり、いずれの国家の外交的保護を認めるかという点で紛糾を生じる場合がある。かつては、このような不都合を避けるために、人は必ず唯一の国籍を持つべきとする国籍単一の原則が基本原則として受入れられていた。しかし、グローバリズムに伴う人の交流の激化、多国間協調の深化とともに国籍単一の原則はもはや適用し得なくなっているという指摘もある。

現状においても原則、二重国籍を認めていない国が多いが[1]、近年では欧米などの特殊な状況下にある国々において制限、条件付きで多重国籍を容認するケースも存在する。

多重国籍を認めている国は、アメリカ合衆国ロシアカナダメキシココロンビアブラジルペルーパラグアイウルグアイイギリスアイルランドフランスイタリアスイスポルトガルフィンランドイスラエルトルコナイジェリアモロッコ南アフリカ共和国コートジボワールオーストラリアニュージーランド台湾フィリピンなどであるが、原則としては認めないが例外として認める場合や、条件付の場合など状況は各国において様々である。

例えばアメリカ合衆国は、国籍を選択しなければならないという法制度上での言及はなく事実上容認している状態であるが、二重国籍が問題を惹起することがある。より具体的には、二重国籍者が国籍を持つもう一方の国で困難に遭遇した場合、米国政府が自国民として援護出来る範囲は極力狭まるとして支持していない[1]イスラエルヨーロッパ諸国などでも条件付で二重国籍を容認している状況にある。また、ブラジルなどは国民の国籍離脱を認めていないため、他国の国籍を取得すると自動的に二重国籍となる。

また、多重国籍を認めている国でも、政府要職に就任する人物が多重国籍である場合は国家の権力行使において問題視されることがあるため、多重国籍者の政府要職者就任を禁止が規定されていることがある。

ヨーロッパのサッカー1部リーグで活躍する選手の中には、所属チームの外国人枠を空けるため、ヨーロッパの国籍を取得し二重国籍となる選手もいる(ボスマン判決も参照)。ブラジル代表経験のある有名選手を例に挙げると、ロマーリオオランダロナウドロナウジーニョロベルト・カルロスらはスペインカカエジミウソンイタリアの国籍を取得している。なお、EU域内のいずれかの国籍を有していれば、規定により、EU域内のどの国のクラブでも外国人とはみなされない。

日本での制度と実情

日本では国籍単一の原則から1984年国籍法改正で20歳に達する以前に日本国籍とは別の国籍を持つ資格がある多重国籍の状態になった場合は22歳に達するまで、20歳に達した後に多重国籍となった場合は多重国籍となった時から2年以内に国籍の選択をすべき期限とされているが、日本国籍を選択してもただちに他国の国籍を喪失するものではない点に注意が必要である。1985年またはそれ以降に、自己の志望によらずに、日本以外の国籍を取得した場合(出生など)、期限までに国籍の選択をしなかったときには、法務大臣から国籍選択の催告を受け、場合によって日本国籍を失う可能性がある。2008年の法務大臣の国会答弁によると、国籍選択の催告を受けた人はいままで存在しない。1984年以前に既に多重国籍であった日本人は、日本の国籍の選択の宣言をしたものとみなされる。詳細は多重国籍者の国籍選択制度を参照。

外務公務員については外務公務員法第7条1項で多重国籍者を欠格事由としており、国家公務員の採用試験の受験資格につき人事院規則八−一八第8条2項で多重国籍者を欠格事由としている。一方で、日本国籍を持つ多重国籍者が選挙に立候補することは公職選挙法上の規制は無く[2]、国公立大学の外国人教員については人事院規則一―七と外国人教員任用法で可能である。

日本の多重国籍者数は、「昭和59年の改正国籍法の施行前についてはちょっと把握はしておりません。(中略)昭和60年当時は年間約1万人程度でございましたが、次第にふえまして、平成4年ごろには2万人程度になりまして、平成14年では約3万3千人を超えているというのが私どもの把握している数でございます。」(平成16年6月2日衆議院法務委員会での房村法務省民事局長答弁)。

脚注

  1. ^ a b http://tokyo.usembassy.gov/j/acs/tacsj-dual.html
  2. ^ 例としてアルベルト・フジモリはペルー国籍と日本国籍を持つ二重国籍者として第21回参議院議員通常選挙に立候補をしている。

関連項目