ユール
ユール(英語:yule, Yule)とは、古代ヨーロッパのゲルマン民族の間で、冬至の頃に行われた祭りのこと。のちにキリスト教との混交が行われたが、北欧諸国では現在でもクリスマスのことをユールと呼ぶ。英語でもユールタイド(Yuletide)と呼び、クリスマスの祝祭自体を指す言葉となったが、現在は古語とされ、使われない。
各言語名称
ゲルマン祖語 | *jehwla, *jeghwula |
古ノルド語 | Jōl |
ノルウェー語 | jul |
デンマーク語 | jul |
スウェーデン語 | jul |
フィンランド語 | joulu |
エストニア語 | jõulud |
古英語 | gēol, gēohhol |
ドイツ語 | das Jul, Julfest(北ドイツ) |
概要
元々は北欧を含むゲルマン民族の祭りだった。ユールYuleという語は10世紀の文献には登場する。古北欧語からの借入語で、キリスト教以前の冬至祭のことを指し、北欧では今もクリスマスを指す言葉となっている。
冬至の、太陽が再び力強い生命を持つ日を新年とし、北欧神話の神々、それも豊穣と平和の神ヴァン神族ではなく、オーディンにビールや猪や豚などを捧げた。これは穀物霊に関わるためと言われている。現在でも北欧、ドイツのクリスマス料理は、豚肉がメインである。
クリスマスの料理を並べたテーブルは、ユール・ボードといい、この日に現れる霊たちに特別に用意された。季節や農作業のの変わり目、特に冬至は、死者の霊、悪魔、魔女などが大挙して現れるといわれ、夜は、ユールレイエン(ワイルドハント)が現れた。1月6日の公現節までユール・ボードを用意しないと縁起が悪いと言われていた[1]。
聖ルチア祭
ユールは、12月13日の聖ルチア祭から始まる。その家で一番若い娘が、白いドレスに赤い帯、太陽をあらわすロウソクの冠をつけ、サンタ・ルチアの歌を歌い、家族にケーキを贈る[2]。
ユール・ログ
ユール・ログ(Yule log。ユールの丸太の意味。Yule block、Yule clogとも)という。クリスマス前夜に炉で焚く大薪があり、現在もその習慣は残っている。森で巨木を伐採して、多くの場合リボンで飾られ、家へと運ばれる。家に運ぶ際、同行しているうちで最年少の者は、薪の上に乗ることができる[3]。この薪には魔力があり、太陽の輝きを助けるとともに、この火の影に頭がうつらなかったらその年に死ぬとか、灰は病気や雷に効き目があると信じられた。また、飼葉や土や井戸に入れると、牛が安産である、豊作になる、水の味が良くなるなどと言われた[3]。このユール・ログを模したケーキが(ブッシュ・ド・ノエル büche de Noël)である[1]。ユール・ログの一番古い記録は、1184年のドイツのものであるが、のちに、イタリアのアルプス地方、バルカン半島、北欧、フランス、イベリア半島でも、この習慣が見られるようになった[3]。
ユール・ゴート
ユールボックとも呼ばれるヤギ。元々は、吉凶の双方をもたらすとされる、日本のナマハゲのような存在であったが[4]、キリスト教と同化するにつれ、クリスマスプレゼントの運び手、後にユールトムテのそりを引く役目となった。また、ワラで作ったこのヤギを、クリスマスのデコレーションとして飾ったりもする[5]。巨大なユール・ゴートが、町中に飾られることもある[6]。またユールブックというものもある。これも直訳すると「クリスマスのヤギ」だが、実際はヤギではなく、ノルウェーの田舎と、アメリカのノルウェー人居住区域のクリスマス仮装大会である。子どもたちの格好は、ハロウィーンに仮装してお菓子をねだる子供のそれに似ている。クリスマス道化(Christmas Fooling)とも呼ばれる[5]。
ユールのサンタクロース
北欧のサンタクロースは、ユールトムテやユールニッセといわれる。ユールトムテはスウェーデンのサンタクロースである。元々はノームで、赤い帽子に、白く長いあごひげを蓄えている。ユールニッセはデンマークのサンタクロースで、やはりノームである。こちらは灰色の服に赤い帽子をかぶっている[7]。北欧のサンタたちは、煙突から入るのではなく、直接子供たちにプレゼントをくれる。ゲルマン民族の国ではないが、フィンランドのヨウルプッキは、玄関をノックして、良い子はいるかどうか確かめるといわれる[6]。
アイスランドのユール・ラッズ(ヨウラスヴェイナル)は「悪いサンタクロース」として有名である[8]。
ミトラ教との関連
キリスト教のライバルだったミトラ教は、ゾロアスター教発祥で、太陽神ミトラを崇拝しており、このミトラ神が再生する日が冬至(その当時は12月25日)であった。キリスト教は、旧約聖書の「マラキ書」の「義の太陽」にイエスをなぞらえ、ミトラ教同様に、12月25日を祝うようになった。325年のニカイア公会議で、キリスト教会は、12月25日をイエスの誕生日に正式決定する。キリスト教とミトラ教の融合、そして、冬至祭の伝統を持つケルト民族やゲルマン民族を統合する狙いがあったと言われる[9]。
また、真冬の時期で、えさの少ない小鳥のために、ユール・ネックと呼ばれる、麦の穂束を立てるならわしもある[5]。
ユール・ログ、ユール・ゴート、ユール・シンギング(家々や果樹園を訪ねてキャロルを歌うこと)その他のユールに関する系統のものは、キリスト教以前からの祭りで、はっきりした日付は分からないが、13世紀の時点では、11月14日から12月13日の間であったといわれる。その後、年末の時期となったが、ユールの時期を、いつかであるか特定するのは難しい。神々に供物をする時期は、他に参考となるものが見つからず、真冬の祭りに一体化させるというのが、一番信頼性があると思われる[10]。また、初期のゲルマン人の天文学は大雑把なものだったともいわれている[11]。
ローマの冬至祭であるサトゥルニアに起源があるともいわれる[12]。
新異教主義の宗教であるウィッカの信者は、それぞれの家庭でこの祭りを祝うとされる[13]。
参考資料
- Rouche, Michel, "Private life conquers state and society", in A History of Private Life vol I, Paul Veyne, editor, ハーバード大学出版(Harvard University Press)、1987年、ISBN 0-674-39974-9
脚注
- ^ a b 。ユール Yule 北欧、ゲルマンの神話・民話:幻想世界神話辞典
- ^ ルチア(ルシア)Lucia スウェーデンの神話・民話:幻想世界神話辞典
- ^ a b c ジェリー・ボウラー著 『図説 クリスマス百科事典』笹田裕子・成瀬俊一訳、中尾セツ子監修、柊風舎、2007年、553-557頁。
- ^ クリスマス・ゴート クリスマス小辞典
- ^ a b c ジェリー・ボウラー著 『図説 クリスマス百科事典』笹田裕子・成瀬俊一訳、中尾セツ子監修、柊風舎、2007年、553頁。
- ^ a b サンタクロースと仲間たち The Lyra’s Blue Star
- ^ ジェリー・ボウラー著 『図説 クリスマス百科事典』笹田裕子・成瀬俊一訳、中尾セツ子監修、柊風舎、2007年、552頁
- ^ 子どもたちを震え上がらせる、怖くて悪いサンタたち アイスランド AFPBBNews
- ^ 冬至とクリスマス2 The Lyre's Blue star
- ^ Simek, Rudolf (2007) translated by Angela Hall. Dictionary of Northern Mythology. D.S. Brewer ISBN 0-85991-513-1
- ^ ジェリー・ボウラー著 『図説 クリスマス百科事典』笹田裕子・成瀬俊一訳、中尾セツ子監修、柊風舎、2007年、550頁。
- ^ Jones, Prudence. Pennick, Nigel (1995). A History of Pagan Europe. Routledge. ISBN 0-415-09136-5
- ^ http://www.nytimes.com/1997/12/21/nyregion/celebrations-it-s-solstice-hanukkah-kwaanza-let-there-be-light.html?pagewanted=4&src=pm
関連項目