アクティブ防護システム

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ロシア製のAPS アリーナの動作概念図
1. 防御弾格納筒 2. レーダー 3. 防御弾の破裂 4. 飛来する対戦車誘導ミサイル 5. 探知波
図では1方向にのみ防御弾の破片が描かれているが、実際には周囲へも飛散する

アクティブ防護システム(アクティブぼうごシステム、: Active Protection System、アクティブ・プロテクション・システム)は、自衛用兵器の1種で、ミサイルや銃砲弾による攻撃から自身を守る装置である。アクティブ防御システム[1]とも呼ばれる。英語の略称は APS

戦闘車両用のものを指すのが一般的であるが、航空機用や艦艇用のものまで含める場合もある。

概要

広義のAPSは、飛来物による攻撃を受けた場合に、その弾がまだ空中にある間にこれを無力化するさまざまな装置全体を指し、多くは360度全周囲からの攻撃に対処するように設計されているが例外もある。広義ではこれを搭載する移動体、つまりプラットフォームの違いによって大別され、また、実現方法の大きな違いによっても2つに大別できる。

実現方法の違いによる分類の1つはソフトキル・システムであり、ジャミングデコイによってミサイルの誘導システムを混乱させ、無力化するものである。もう1つはハードキル・システムであり、飛来する飛翔体を検知して物理的に破壊するものである。ソフトキルの方が技術的にもコスト的にも簡易である分、攻撃側に逆対応されやすい事や砲弾RPGなどの非誘導兵器には無力である事から、ハードキルシステムの開発が活発になっている。

一般に単に「APS」と呼ばれる物は、戦車のような装甲戦闘車両が何らかの実体のある投射物を敵弾に当てて迎撃する事(ハードキル)で自らを守る防御兵器を指す。

2008年にはタイム誌で2008年の発明品トップ50の8位に「APS」が選ばれた[2]

戦闘車両用APS

戦車などの装甲戦闘車両装甲防御は、APFSDSなどの強力な戦車砲弾や対戦車ミサイルの進歩に対して、現状では大幅に立ち後れている。これは、装甲技術そのものの問題以上に、機動力など運用上の重量制限により許される装甲装備量が極めて限られた物になっている事が主な要因であり、特に近年の市街戦ゲリラ戦などにおいては車輌上面・後部の脆弱性が大きな問題となっている。そこで敵の攻撃その物を探知して無力化する事で、大きな重量増加を伴わずに全方位の防御を行えるAPSの有用性が謳われている。

ソフトキル(誘導かく乱)型

車両用のソフトキル・システムは湾岸戦争時にイラク軍によって使用された。ソフトキル・システムの1つは、現在、ロシア製のTShU-1-7 シュトーラ1がロシアとウクライナの戦車に装備されている。

なお、システムの構造上、RPG-7のような誘導装置を利用しない対戦車ロケットランチャー無反動砲などに対しては全く効果が無い。ただし、これら無誘導の火器は誘導装置を持つものに比べて命中精度は大きく劣る。

ハードキル(直接迎撃)型

ハードキル・システムはミリ波レーダーや他のセンサーによって接近する飛翔体が感知された瞬間に迎撃動作が開始される。飛来した弾を物理的に加害するか破壊する事を狙って、1秒以下の短時間で対抗する飛翔体が発射される。例えばイスラエル製のトロフィーアイアンフィスト米国製のクイックキル英語版ソ連/ロシア製のドロースト(恐らく実用としては世界初のシステム)や、アリーナ、ヨーロッパIBD製AMAP-ADS英語版である。

こういった戦闘車両用のハードキルAPSは、飛来する敵弾を空中で正確に撃墜する困難さだけでなく、その敵弾をなるべく遠くの位置で感知するためのセンサーとして常時レーダー波やレーザー波を放射すれば敵へ自らの位置を広く知らせてしまうという問題もあり、これらの放射波を出すアクティブ・センサーに代わって、赤外線可視光紫外線音響といった信号を出さないパッシブ・センサーで遠距離高速飛翔物を感知する技術が求められている。また、擲弾のような破片効果によって迎撃する場合には、鳥などの飛翔を誤認した場合などの僚車や随伴歩兵を含む周囲への付随被害も懸念される。

21世紀初頭現在は、今ある技術で実現可能な兵器として比較的低速で飛翔する携帯型対戦車ミサイルの迎撃を行なえるAPSの実用化が進んでおり、さらに高速な戦車砲弾や運動エネルギー型対戦車ミサイルに対する防御や、車輌単体でなく車輌隊列全体を防御する大規模なシステムの開発なども行われている。また、装甲車やソフトスキン(非装甲車輌)搭載用のより小型軽量で低コストなシステムも求められており、例としてRWS(車内から操作できるロボット銃座)に自動的に敵の攻撃音に反応して迎撃する機能を持たせた物や、センサー部に速度違反取締り用のスピードガンを応用した物なども研究開発されている。

しかし、新しい防御装備が登場するとその裏をかく攻撃手段が登場するのも歴史の流れであり、すでにロシアでは、APSを誤作動させる囮のロケット弾を発射した直後にメイン弾頭を発射する二段構え式の対戦車ロケットランチャーRPG-30が開発されている。

航空機用APS

21世紀現在の航空機に対する最大の脅威は敵戦闘機や地上から発射される対空ミサイルである。対航空機用のミサイルは直撃せずともその破片効果によって目標機に重大な損傷を与えることができるため、対空機関砲のような射程も速度も命中精度も低い兵器では効果的な迎撃は不可能である。飛来するミサイルをレーザーによって撃ち落す構想もある[3][4]が、弾体を破壊するに十分な出力を持ったレーザー発振装置を航空機に搭載する技術はもっぱら研究途上であり、航空機用のハードキル・システムは今のところ存在しないと云える。

一方で航空機用のソフトキル手段は多様であり、フレアチャフをはじめとして、電子的に誘導を妨害するECMも既に軍需技術としては一般化しており、赤外線誘導ミサイルや火器管制装置等の光学センサーを無力化する事により光学的に誘導を妨害する指向性エネルギー兵器であるレーザー照射技術はAN/ALQ-144汎用赤外線妨害計画英語版の一環としてDirectional Infrared Counter Measures英語版が既に配備の段階にある。民間航空機用では民間航空機ミサイル防衛システム英語版としてフライトガード英語版Northrop Grumman Guardian英語版のような赤外線誘導ミサイル追尾装置を無力化する装置が開発されている。

航空機用のこういったソフトキル兵器はAPSと呼ばれるよりも、カウンターメジャー(Countermeasure、カウンターメイジャー、対抗手段)と呼ばれるのが普通である。

艦艇用APS

戦闘用艦艇は以前から、小中口径機関砲弾(12.7-76mm)や誘導ミサイルによって接近するミサイルを破壊するハードキル・システムを備えていた。

代表的にはCIWS(Close-in weapon system、近接防御火器システム)があり、また、短射程ミサイルも対艦巡航ミサイルの迎撃に使用される。例えば、アメリカ製のファランクスオランダ製のゴールキーパーロシア製のカシュタン(Kashtan)、AK-630、米独共同製のRAMイギリス製のシーウルフ中国製の730型スイス製のシーゼニス(Sea Zenith)などがある。

艦艇用のこういったハードキル兵器はAPSと呼ばれるよりも、個艦防御システムと呼ばれるのが普通である。

艦艇用のソフトキル・システムにはフレアチャフECMがある。

出典・注記

  1. ^ 防衛省技術研究本部|研究開発|研究所・センタ- 陸上装備研究所
  2. ^ [1] - TIME's Best Inventions of 2008 "8. Bullets That Shoot Bullets" (英語、2008-11-03閲覧
  3. ^ 国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency、DARPA)が、ミサイルを破壊することが可能な計画として高エネルギー液体レーザー戦域防衛システム(High Energy Liquid Laser Area Defense System, HELLADS)を開発しているという情報もある
  4. ^ [2] - WIRED.jp「米軍が進める、各種のレーザー兵器プロジェクト」 (日本語、2008-11-03閲覧

関連項目

外部リンク

  • ×http://www.knox.army.mil/center/ocoa/ArmorMag/mj98/3aps98.pdf - US-Army "Active Protective Systems: Impregnable Armor or Simply Enhanced Survivability?" An overview of modern tank active protection systems (英語, PDF, リンク切れ
  • [3] - Defense Update.com "Active Protective Systems overview" (英語、2008-11-03閲覧
  • [4] - Defense Update.com "Soft Kill Active Protective Systems overview" (英語、2008-11-03閲覧