漸近巨星分枝

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異なった質量における恒星の進化がヘルツシュプルング・ラッセル図に表されている。漸近巨星分枝は、2太陽質量の線で、AGBと書かれている。

漸近巨星分枝(ぜんきんきょせいぶんし、Asymptotic giant branch)は、ヘルツシュプルング・ラッセル図において、進化中の小質量から中質量の恒星が集まる領域である。小質量から中質量(0.6から10太陽質量)の恒星は全て生涯の後半にこの段階を経る。

漸近巨星分枝は、赤色巨星として見える。内部の構造は、中心の不活性な酸素炭素によって特徴付けられ、ヘリウム核融合して炭素を形成する殻、水素が核融合してヘリウムを形成する殻、通常の恒星と似た組成の非常に大きな星周外層といった種類がある[1]

恒星の進化[編集]

恒星が核内での核融合によって水素を使い果たすと、核は収縮してその温度が上昇し、恒星の外層は膨張して冷える。恒星の光度は大きく上昇して赤色巨星になり、ヘルツシュプルング・ラッセル図上で右上の隅に移動する。

最終的に核の温度は約3×108Kに達し、ヘリウム核融合が始まる。核内でのヘリウム核融合の開始は、恒星の冷却を止めて光度を増し、恒星はヘルツシュプルング・ラッセル図上で左下の水平分枝レッドクランプの領域に移動する。核内でのヘリウム核融合が終わると、恒星は再び図上で右上に移動する。経路は、以前、赤色巨星になった時とほぼ同じであるため、漸近巨星分枝と呼ばれる。この段階の恒星は、AGB星(漸近赤色巨星)として知られる。

漸近巨星分枝段階[編集]

漸近巨星分枝段階は、初期と後期の2段階に分けられる。初期段階では、主要なエネルギー源は、主に炭素と酸素で構成される核の周りの殻の中でのヘリウム核融合である。この段階では、恒星は膨張し、再び赤色巨星になる。恒星の半径は、1天文単位程度にも大きくなる。ヘリウム殻が燃料を使い果たすと、後期が開始する。この段階では、恒星は、不活性化したヘリウム殻の内側の薄い殻で行われる水素の核融合からエネルギーを得るようになる。しかし1万年から10万年経つと、ヘリウム殻で再び核融合が始まり、ヘリウムフラッシュまたは熱パルスと呼ばれる過程が進行する。数千年続くこのパルスのせいで、核内の物質が外層と混ざって組成が変化する。そのせいで、AGB星は、スペクトル中にS過程の元素が見られる。さらにこの過程が続くと炭素星が形成される。

AGB星は典型的な長周期変光星であり、恒星風で大きな質量を失っている。恒星は、漸近巨星分枝の段階で質量の50%から70%を失う。

AGB星の星周外層[編集]

AGB星の大きな質量喪失は、これらが星周外層に取り囲まれていることを意味する。約100万年というAGB星の平均寿命と10km/sという外層の速度から、最大半径は約30光年と推定される。これは、恒星風が星間物質と混合し、恒星と星間ガスの速度が等しくなる最大の値である。

星周外層の温度は、ガスや塵の加熱冷却の過程で決まるが、2000Kから3000Kの光球からの距離に従って低下する。

AGB星の恒星風は、しばしばメーザー放出も伴う。メーザーとなる分子は、一酸化ケイ素ヒドロキシルラジカル等である。

これらの恒星が外層をほぼ失って核のみが残った後、短寿命の原始惑星状星雲になることがある。AGB星の外層は、最終的に惑星状星雲等になる。

後期熱パルス[編集]

漸近巨星分枝の段階を経た恒星の約4分の1は、再燃焼と呼ばれる過程に入る。炭素と酸素から構成される核は、水素の外殻を伴ったヘリウムに囲まれている。ヘリウムが再点火すると熱パルスが発生して恒星はすぐにAGB星に戻り、ヘリウムを燃焼し始め、水素の欠乏した天体になる[2]。熱パルスが発生した時に恒星に水素を燃焼する殻がまだ残っている場合には、後期熱パルスまたは超後期熱パルスと呼ばれる[3]

燃焼を再開した恒星の外層からは、再び恒星風が吹き出し、恒星は再びヘルツシュプルング・ラッセル図上で進化の過程をたどる。しかしこの段階は非常に短く、恒星が再び白色矮星に向かうまでの200年しか続かない。見かけ上は、後期熱パルスの段階の恒星は、ウォルフ・ライエ星のように見える[2]

参考文献[編集]

出典[編集]

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  1. ^ Lattanzio J. and Forestini, M. (1998), Nucleosynthesis in AGB Stars, IAU Symposium on AGB Stars, Montpellier
  2. ^ a b Aerts, C.; Christensen-Dalsgaard, J.; Kurtz, D. W. (2009). Asteroseismology. Astronomy and Astrophysics Library. Springer. pp. 37-38. ISBN 1-4020-5178-6. 
  3. ^ Christiaan Sterken, Donald W. Kurtz, ed (July 24-25, 2001). Observational aspects of pulsating B and A stars: proceedings of a workshop. Astronomical Society of the Pacific conference series. 256. University of Brussels, Brussels, Belgium,: Astronomical Society of the Pacific. p. 238. ISBN 1-58381-096-X. 

関連項目[編集]