強誘電体メモリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

強誘電体メモリ(きょうゆうでんたいメモリ、: Ferroelectric Random Access Memory, FeRAM)は、強誘電体ヒステリシス(履歴現象)を利用し正負の自発分極を1と0に対応させた、不揮発性の半導体メモリ。強誘電体膜の分極反転時間は速い(1ns以下)ためDRAM並みの高速動作が期待できる。

FRAMとも呼ばれるが、これはRamtron社の商標で、登録されている(富士通は同社とのライセンスによりFRAMの名称を使用している)。

構造と動作原理[編集]

セル構造[編集]

基本的なセル構成
2T2C型の等価回路
2T2C型の読み書きチャート

FeRAMには大きく分けて2種類のセル構成が提案されている。具体的には、強誘電体キャパシタ(=C)とセル選択用のMOSFET(=T)を組み合わせる方法(1T1C型、またはキャパシター型)と、ゲート絶縁膜が強誘電体からなるFETを用いる方法(1T型、またはトランジスタ型)である。それぞれの構造を右図に示す。

これら2種類の内では1T1C型の方が動作信頼性が高く、現在主に使われているのはこれをベースにした2T2C型である。これは右図のような構成をしており、2つのキャパシターを逆向きに分極させることでデータの信頼性を高めている。

動作原理[編集]

1T1C型[編集]

基本的にはDRAMと同じ原理で動作する。書き込み時にはワード線でセルを選択し、ビット線とプレート線の間に電圧をかけて強誘電体キャパシターを上または下向きに分極させる。読み出し時はパルス電圧を加えて分極反転による電流が流れたかどうかで1/0を判定する。この時、元の状態によらず分極は電圧方向を向く(同じ方向だったら電流が流れずそのまま、反対だったら反転して電流が生じる)ので、破壊読出しとなる。このため、読み出した情報を再書き込みしている。

DRAMと違うのはキャパシタが常誘電体でなく強誘電体である事で、このためFETにリーク電流があったり電源がOFFになったりしてもキャパシターの電荷(=情報)が消えない。つまり不揮発メモリであり、同時にリフレッシュ動作が不要なため消費電力が少ない。

1T型[編集]

ワード線とビット線の間に電圧を印加して強誘電体キャパシターを任意の方向に分極させる。分極の方向によってビット線に電圧をかけた際の電流の量が変わるので、これから1/0を判定する。読み出し時にキャパシターの電荷は変化しないので非破壊読み出しであり、かつ構造も単純なのが長所。しかしゲート絶縁膜部分の界面リーク電流が大きく、現時点での実用化は困難である。

2T2C型[編集]

1T1C型と同様、ワード線によってセルを選択する。書き込みはやはりプレート線への電圧印加によって行なうが、この時に時間差をかけて時刻t2から図のビット線2にも電圧を印加する。時刻t3にプレート線の電圧が0になると強誘電体キャパシタ2には負の電圧が印加されるため、もう一方の強誘電体キャパシタ1とは逆方向に自発分極が向く。こうして互いに異なる向きの分極が形成されるため、「0と1」または「1と0」という組み合わせで0/1を表す。

読み出し時にはやはりワード線とプレート線に電圧を印加し、ビット線のどちらの電圧変化が大きいか(どちらに変位電流が流れるか)を測定することで0/1を判定する。なお、この時に順方向の分極を持つ強誘電体キャパシタ1でも電圧が変化するのは分極の微小変位によるものである。 また、読み出し時に時刻t3でワード線より先にプレート線の電圧を0にすると、図のように強誘電体キャパシタ2に負の電圧が印加されて再書き込みが行なわれ、読み出し時の情報破壊を防ぐという1T1C型にはないメリットが得られる。

強誘電体キャパシタ材料[編集]

強誘電体材料に求められる性質[編集]

FeRAMに用いる強誘電体材料には以下のような性質が要求される。

  • 大きい残留分極: 小さいキャパシター面積で大きな分極反転電流を実現し、高密度化するため。
  • 低い比誘電率: 分極反転しない場合の変位電流を低減して読み出しエラーを避けるため。
  • 低い抗電界: メモリーを低電圧動作させ、省電力するため。
  • 高い膜疲労耐性: 強誘電体は分極反転を繰り返すと残留分極が減少する(=膜疲労)が、10年程度の動作保証性を実現するために目安として1012回(理想的には1015回)以上の分極反転に耐えることが必要とされる。
  • 高い保持特性: 電源を切っても室温で10年間残留分極が保持され、情報が保存されることが必要。
  • 小さいインプリント現象: 同一方向に複数回パルス電圧を印加した後では、逆方向のパルス電圧を印加しても1回では完全に反転しない場合がある(=インプリント現象)。これを小さくし、書き込みエラーを避けるため。

候補物質[編集]

上記の条件を満たす材料として、Pb(Zr,Ti)O3(PZT)、SrBi2Ta2O9(SBT)、(Bi,La)4Ti3O12(BLT)など従来の半導体製造プロセスでは使用されていない新材料が存在する。以下にそれぞれの特徴を挙げる。

Pb(Zr,Ti)O3[編集]

長所
  • 残留分極量が25μC/cm²から100μC/cm²(配向に依存する)と大きく、高密度化に適している。
  • 結晶化温度が550℃と低く、集積回路の作製プロセスと相性が良い。
  • 他分野での実用化が進んでおり、成膜方法のノウハウが蓄積されている。
短所
  • 有害な(Pb)を用いるため、環境規制に対応できない。
  • 高温処理に耐える白金などを電極に用いると膜疲労が激しく、107回以下で残留分極が顕著に減少する。ただし、二酸化イリジウム(IrO2)などの電極材料を用いた場合は1012回以上の反転にも耐える。

SrBi2Ta2O9[編集]

長所
  • 抗電界が40kV/cmとPZTの60kVなどよりも小さく、低電圧動作が可能。
  • 電極材料によらず疲労耐性が高く、1012回以上の反転に耐える。
  • インプリント現象が起きにくい。
短所
  • 強誘電性を得るためには700℃以上の高温で結晶化させる必要がある。
  • 自発分極を持つa軸方向に薄膜を成長させる事が困難。
  • 残留分極量が25μC/cm²と相対的に小さい。

(Bi,Ln)4Ti3O12(Ln = La,Nd,Pr等)[編集]

長所
  • 残留分極量が10μC/cm²から50μC/cm²(配向に依存する)と比較的大きい。
  • LaをBiに対し10 - 20%添加すると膜疲労が小さくなる。
短所
  • 配向を制御して結晶化させる事が困難なため、現状では残留分極量が小さく抗電界が高い。

FeRAMを実用化した製品[編集]

FeRAMは従来広く用いられてきたEEPROMよりも高速で消費電力が少ないという特徴を有している。また、セルサイズも15F²(Fは配線の太さ)とEEPROMが40F²以上であるのに比べて小さく、マスクの追加が少なくてすむなどCMOSプロセスとの相性も良い。このため、数十kbitのFeRAMがスマートカードに用いられるなど、2004年には月産数百万個以上のFeRAMが生産された。

参考文献[編集]

  • 「強誘電体メモリーの新展開」石原宏 監修、シーエムシー出版、2004年