フランダースの犬

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フランダースの犬』( - いぬ、: A Dog of Flanders)は、イギリスの作家ウィーダの書いた児童文学作品である。

目次

[編集] 概要

『フランダースの犬』の舞台は19世紀ベルギー北部のフラーンデーレン(フランドル)地方。現在ではアントウェルペンに隣接するホーボーケン (Hoboken) が舞台となった村のモデルと考えられている。ウィーダはこの作品を執筆する前年にアントウェルペンを旅行で訪れてホーボーケンにもやって来ており、当時のこの村にまだ領主の風車小屋が存在していた事から物語に登場する風車小屋はこれをもとに描写されたものと見られている。さらに物語に登場するアロアのモデルと思しき12歳の領主の娘がいた事も確認されている。また、お爺さんが半世紀以上昔のナポレオン戦争で兵士として戦い片足に障碍を得ていたり、金の巻き毛に血色の良い黒目がちなアロアの容姿にスペイン統治時代の混血の面影があったりと、当地の複雑な歴史的社会背景を根底に忍ばせている。

原作が書かれたのは1872年。英国の "Lippincot's Magazine" に発表され、後に "A Dog of Flanders and Other Stories" の一冊にまとめられたものが初出とされる。日本語版は1908年(明治41年)に初めて『フランダースの犬』(日高善一 訳)として内外出版協会から出版された。西洋風の固有名詞が受容されにくいと考えられた為か、ネロは清(きよし)、パトラッシュは斑(ぶち)、アロアは綾子(あやこ)、ステファン・キースリンガーは木蔦捨次郎(きつた・すてじろう)などと訳された。さらに昭和初期には、1929年(昭和4年)の『黒馬物語・フランダースの犬』(興文社、菊池寛 訳)、1931年(昭和6年)の『フランダースの犬』(玉川学園出版部、関猛 訳)など他の訳者によって出版された。これら旧訳はパブリックドメインとしてウェブ上で読む事ができる(→フランダースの犬#外部リンク)。

1950年(昭和25年)以降は、童話文庫・児童向け世界名作集の作品として多くの出版社から出版されている。

活字以外にも1975年(昭和50年)に日本でテレビアニメシリーズが製作された。詳細は「フランダースの犬 (アニメ)」を参照のこと。

[編集] あらすじ


注意以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。


作中に登場するルーベンスの絵画「キリスト降架」。

フラーンデーレン地方アントウェルペン郊外の小さな農村の外れに住むアルデネン地方出身の15歳の少年ネロ(Nello)[1]は、正直な寝たきりの祖父イェーハン・ダース老人(Jehan Daas)、忠実な老犬パトラッシュ(Patrasche[2] 、黄色の毛並み、立ち耳の大型犬)との3人暮らし。貧しいミルク運搬業で糊口をしのぎながらも、いつかリューベンス(ルーベンス)のような偉大な画家になることを夢見ていた。

しかし、唯一の親友で風車小屋の一人娘である12歳の少女アロア(Alois)[3]とは、家格の違いから望まずして距離を置くこととなる。また、新しく街から通いはじめたミルク買い取り業者には仕事を奪われ、さらに風車小屋の外縁部と穀物倉庫を全焼する火事(風車と居住区は無事)の放火犯の濡れ衣を着せられたことにより、彼の居場所は村から失われてしまった。そしてクリスマスを数日後に控えたある日に優しかった祖父も亡くなり、クリスマス前日には家賃を滞納していた小屋から追い出されることとなった。

クリスマス前日は、アントウェルペンで開かれている絵画コンクールの結果発表日でもあった。倒木に腰掛ける木こりのミヒール老人(蘭:Michiel, 英・仏:Michel)を白墨で描いた渾身の力作で参加していたネロは、優勝すればきっと皆に認めてもらえるようになるとコンクールに全ての望みを賭けたが……審査結果は落選だった。

厳しい吹雪の帰りの道すがら拾った財布を風車小屋に届けると、ネロは再び雪夜の闇の中に飛び出して行った。財布の中身は風車小屋一家の全財産であった。財布探しから帰宅した主バース・コジェ(Baas Cogez)は今まで行った仕打ちの数々を悔やみ、翌日ネロの身元を引き受けに行くと決心(一家はネロが無宿である事実を知らなかった)。さらに翌日には、コンクールでネロの才能を認めた著名な画家が、彼を引き取り養育しようと街を訪れた。

だが、何もかもが手遅れだった。クリスマスを迎えた翌朝、アントウェルペンの敬愛聖母大聖堂(Onze-Lieve-Vrouwekathedraal)に飾られた憧れのリューベンスの絵の前で、少年は愛犬と固く抱擁したまま冷たくなっていた――口元に安らかな微笑を湛えて。

[編集] 各国での評価

  • 『フランダースの犬』はベルギーでも出版されているがあまり有名ではなく、日本での評価とは対照的に地元での評価はさほど高くはない[4]司馬遼太郎は『街道をゆく』の『オランダ紀行』の中で本作について触れ、「19世紀末頃から年少者に自立をうながす気分が出てきた、その中で『十五にもなってただうちひしがれて死んでいくとはなにごとか、なぜ雄々しく自分の人生を切り開こうとしなかったか』という批判が強くなった」「貧しい子どもが死ぬ物語は当時珍しいものではなかった」という大阪府立国際児童文学館の研究員の見解を引用して、現地では無名である理由を書いている。
  • 日本人観光客からの問い合わせが多かったこともあり1986年にホーボーケンにネロとパトラッシュの銅像が建てられた[5]。また、2003年にはアントウェルペン・ノートルダム大聖堂前の広場に記念碑が設置された。
  • 日本人観光客の多さに「フランダースの犬 (アニメ)」の放映権をオランダの国営放送が獲得し放送したところ、80%を超える視聴率の人気アニメとなった[要出典]
  • アメリカで出版されている『フランダースの犬』はハッピーエンドを迎えるように改変が加えられている。具体的には「ネロとパトラッシュは聖堂で死なない」「ネロの父親が名乗り出る」などがある。

[編集] 派生作品

[編集] 世界名作劇場版

フランダースの犬』のタイトルで1975年(昭和50年)1月5日から同年12月28日までにフジテレビ系列の『世界名作劇場』枠でテレビアニメ化された。詳細は「フランダースの犬 (アニメ)」を参照。

[編集] 東京ムービー版

1992年(平成4年)に、『フランダースの犬-ぼくのパトラッシュ-』のタイトルで東京ムービーによってリメイクされ全24話が日本テレビ系列で放送された。詳細は「フランダースの犬 ぼくのパトラッシュ」を参照。

[編集] アニメ映画版

1997年(平成9年)に、日本アニメーションによってリメイクされ松竹配給により全国公開された。「世界名作劇場を劇場映画としてリメイクする」と銘打った。キャストはテレビ版とは異なる。

[編集] 実写映画版

アメリカで過去4度ほど実写化された。なお、香港映画「フランダースの犬」はウィーダ原作ではない。

アメリカでは上述の通り、原作が「ネロは大聖堂で救われるハッピーエンド」と改訂されているため、いずれの映画にも死去するシーンは無い。ただし、日本公開版ではネロとパトラッシュは原作通り他界する。また、1999年版ではパトラッシュ役にブーヴィエ・デ・フランドル種の犬(後述)が使われた事も話題となった。

純粋な映画化ではないが、本作をモチーフにしている日本版フランダースの犬。舞台も昭和初期の日本で登場人物も日本人であり、登場する犬は秋田犬

[編集] パトラッシュの犬種

パトラッシュは原作では次のように描写されている。全体に黄色(yellow)もしくは褐色(tawn(e)y)の、がっしりとした立ち耳の大型犬である。

Patrasche was a big Fleming.
(中略)
A dog of Flanders--yellow of hide, large of head and limb, with wolf-like ears that stood erect, and legs bowed and feet widened in the muscular development wrought in his breed by many generations of hard service.
(中略)
the green cart with the brass flagons of Teniers and Mieris and Van Tal, and the great tawny-colored, massive dog, with his belled harness that chimed cheerily as he went,
(中略)
until the doors closed and the child perforce came forth again, and winding his arms about the dog's neck would kiss him on his broad, tawney-colored forehead, and murmur always the same words: "If I could only see them, Patrasche!—if I could only see them!"
(中略)
and felt many and many a time the tears of a strange, nameless pain and joy, mingled together, fall hotly from the bright young eyes upon his own wrinkled yellow forehead.
(中略)
In answer, Patrasche crept closer yet, and laid his head upon the young boy's breast. The great tears stood in his brown, sad eyes: not for himself—for himself he was happy.

[6]

パトラッシュの犬種は、原作ではフランドル原産のブーヴィエ・デ・フランドルという黒い毛むくじゃらの犬であり、東京ムービー版アニメ・実写映画版・ホーボーケンに建てられた銅像でも原作に従っている[7][要出典] 、が、世界名作劇場版アニメでは、立ち耳の白い斑犬に改変されている。

また「皺だらけの(wrinkled)黄色い額」などの表現から、同地方原産の、現在のベルジアン・シェパード・ドッグ、特にその中のマリノアに近い犬種と言う説もある。この作品が執筆された当時は、まだ犬種として完全に固定されていなかったが、同地方では一般に使役目的で同様の犬が飼われていた。ただし、ブーヴィエ・デ・フランドル種にも明るい褐色の毛並みを持つ個体が存在する為、一概に断じることはできない。

[編集] 脚註

  1. ^ 製作会社が平田ファンタジーの本ではネルロと表記されてある。なお Nello は愛称で、本名はニコラースあるいはニコラ(蘭:Nicolaas, Nicolaes 、英・仏:Nicolas)。作中では血色良く豊かな髪の黒目がちな美しい少年(a little rosy, fairly hair, dark-eyed child)と描写されている
  2. ^ オランダ語での発音は「パトラスヘ」
  3. ^ アロアの姓コジェ(Cogez)は北部フランス系の出自を示す(同音異形:Cogé, Coger, Coget 。ある種の魚にちなむあだ名、もしくは舟を意味するオランダ系の姓コヘ(Cogge)から。参考:Origines principales : Nord / Pas-de-Calais, Vendée - ÉTYMOLOGIE DES PATRONYMESNom de famille Batelier - GeneaNet)が、フランス語Alois といえばドイツ系の男性名アーロイスであって、アロアという女性名として用いられることは通例無い。しかし、フランス語化したアロイース(Aloïs)もしくはアロイーズ(Aloïse)ならば男女両性の名として用いられることはある(語形上、後者の方が女性的な印象が強い)。現に、1999年の実写映画版での彼女の名はアロイーズ(Aloise)である。また、1997年のアニメ映画版の英語吹き替えでは、アロア、コゼツなど人名の幾つかが日本語版に準拠した発音になっている。
  4. ^ 2007年には、ベルギー人監督により、なぜベルギーでは無名の物語が日本で非常に有名になったかを検証するドキュメンタリー映画(A Dog of Flanders -made in Japan- A Documentary by Didier Volckaert & An van. Dienderen)が作られた。
  5. ^ 日本人の『フランダースの犬』
  6. ^ 使用テキストサイト
  7. ^トリビアの泉」より

[編集] 外部リンク