ドネツィク市電

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ドネツィク市電
ドネツィク市電の部分超低床電車・LM-2008(2010年撮影)
ドネツィク市電の部分超低床電車LM-20082010年撮影)
基本情報
ウクライナの旗 ウクライナ
 ドネツク人民共和国(実効支配、2014年以降)
所在地 ドネツィク[1][2]
種類 路面電車[3]
路線網 8系統(2020年現在)[4]
開業 1928年6月15日[1][2]
運営者 ドンエレクトロアヴトトランス(КП администрации города Донецка «Донэлектроавтотранс»)[1][2]
車両基地 2箇所[1]
使用車両 タトラT3SUタトラT6B5SUK-1LM-2008[1][2]
路線諸元
路線距離 55 km[3]
軌間 1,524 mm[3]
電化区間 全区間
路線図(2007年時点)
赤線:路面電車、青線:トロリーバス
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ドネツィク市電ウクライナ語: Донецький трамвайロシア語: Донецкий трамвай)は、ウクライナ2014年以降はドネツク人民共和国による実効支配下)の都市ドネツィク市内に存在する路面電車2020年現在、トロリーバス路線バスと共に市営企業であるドンエレクトロアヴトトランス(КП администрации города Донецка «Донэлектроавтотранс»)によって運営されている[1][2]

歴史[編集]

ドネツィク市内に路面電車を建設するプロジェクトが始動したのは、都市の名前が「スターリン」と呼ばれていた時代、1927年3月2日であった。建設は早期に始まり、一時都市名が「スタリノ」に改められていた1928年6月15日に市内中心部とソ連国鉄ロシア語版英語版の駅を結ぶ最初の路線が開通し、同年には延伸も実施された。当初から路面電車は市が運営する公営路線で、開通当時は他の市営事業と共に「トランスヴェト(«Трамсвет»)」と言う組織によって運営されていたが、1931年以降は「スターリン都市鉄道(«Сталинская городская железная дорога»)」と言う独立した事業体への移管が実施された。車両基地が完成した1932年[注釈 1]時点で5系統が運用されていた[1][2]

その後も路面電車の規模は拡大を続け、1939年に開通したトロリーバスと共に「1940年代以降は路面電車・トロリーバス信託(трамвайно-троллейбусного треста)」によって運営されていた。1941年には計12系統を有する路線網が存在したが、第二次世界大戦大祖国戦争)時にナチス・ドイツの占領下に置かれた中で路面電車を含む公共交通機関網は徹底的な破壊を受けた。復興が始まったのは都市が占領から解放された1943年以降で、1945年には4系統が運行していた[1][5]

1950年代は路線の復興に加えて新規路線の開通や新型車両の導入が積極的に実施され、1955年時点で8系統だった路線網は1971年には15系統に拡大した。その間の1961年に都市名がドネツィクに改められた事で運営組織名もドネツィク路面電車・トロリーバス事業(Донецкое трамвайно-троллейбусное управление)に変更された他、1967年からはチェコスロバキア(現:チェコ)製のタトラT3SUの大量導入が行われた。ソビエト連邦の崩壊後、ウクライナの都市になって以降は長期に渡り車両の更新が途絶えたものの、2000年代以降はウクライナやロシア連邦製の電車が多数導入された[1]

2014年ドネツィクドネツク人民共和国の実効支配下に置かれて以降もドネツィク市電の運行は続いており、2018年には開通90周年を祝う式典が実施されたが、低賃金や賃金そのものの未払いなど労働環境の悪化が要因となった運転手不足などから各系統の本数は大幅に減少している。ただし2020年2月1日以降はドネツィク市電を始めとした公共交通機関の運賃を値上げする事による賃金の増加が図られている[6][7][8][9]

運用[編集]

2020年現在、ドネツィク市電では以下の9系統が運用されている。運賃はドネツィク市が運営するトロリーバス路線バスと統一されており、2020年2月1日に実施された値上げ以降は6ロシア・ルーブルとなっている[8]

系統番号 起点 終点 営業キロ 使用車両 備考・参考
1 ДМЗ Ж/Д вокзал 11.05km タトラT3SU
K-1
LM-2008
3 ул.Красноармейская завод Донгормаш 5.70km タトラT3SU
4 ул.Красноармейская пр.Панфилова 4.75km タトラT3SU
5 ул.Красноармейская ул.Кирова 9.5km タトラT3SU
8 ул.Красноармейская ул.Петровского 12.3km タトラT3SU
タトラT6B5SU
9 ул.Горького ПКТИ 3.15km タトラT3SU
10 ул.Горького мрн.Восточный 13.2km タトラT3SU
15 пл.Буденновская ш/у им. газеты "Правда" 8.95km タトラT3SU
16 ул.Киров пр.Кобзаря 8.95km タトラT3SU

車両[編集]

ドネツィク市電で使用されている車両は、1932年に開設された第3車庫(Депо № 3)と1961年に増設された第4車庫(Депо № 4)に配置されている[1][2]

営業用車両[編集]

動態保存・観光用車両[編集]

  • MTV-82 - リガ車両製作工場製のボギー車で、クッション付きの座席や車内の暖房など従来の車両から車内の快適性が向上した他、信頼性や耐久性も高い評価を得た。1955年から1960年まで導入され、1979年まで営業運転に使用された。そのうち1両は後年に復元工事が行われ、2020年現在動態保存運転に使用されている[1][2]
  • 001 - 元は1963年に製造された事業用車両1998年に戦前の車両をモデルとした窓が無いレトロ調の観光電車への大改造を受け、以降はMTV-82と共に団体輸送やイベントでの運用を中心に使用されている[13][14]
  • KTV-55 - 現:ウクライナキエフに存在したキエフ電気輸送工場(Киевский завод электротранспорта)で製造された電車。ドネツィク市電に在籍する車両はキエフ市電からの譲渡車で、営業運転には用いられず事業用車両として在籍した。廃車後は長期にわたって留置され荒廃が進んでいたが、ドネツィク市電が開通90周年を迎えた2018年に動態復元が行われた。同車はKTV-55で唯一現存する車両でもある[2][15][16]

過去の車両[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 1932年以前のドネツィク市電には車両の整備を行う独自の工場が存在せず、民間の工場を用いる形で整備が実施されていた。
  2. ^ DT-1の愛称については改造時に10個の候補の中からドネツク人民共和国産業貿易省のホームページ上での投票が行われた上で決定した経緯を持つ。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s РАЗВИТИЕ ТРАМВАЙНОГО ДВИЖЕНИЯ”. КП администрации города Донецка «Донэлектроавтотранс». 2020年6月30日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r Федор КУПЧЕНКО (2018-6-20). “90 ТРАМВАЙНЫХ ЛЕТ”. Донецкое ВРЕМЯ 23 (139): 8-9. http://dnr-pravda.ru/wp-content/uploads/2018/06/139.pdf 2020年6月30日閲覧。. 
  3. ^ a b c DONETS'K”. UrbanRail.Net. 2020年6月30日閲覧。
  4. ^ Параметры работы трамвайных маршрутов”. КП администрации города Донецка «Донэлектроавтотранс». 2020年6月30日閲覧。
  5. ^ РАЗВИТИЕ ТРОЛЛЕЙБУСНОГО ДВИЖЕНИЯ”. КП администрации города Донецка «Донэлектроавтотранс». 2020年6月30日閲覧。
  6. ^ a b c d e Донецкие сепаратисты пиарят якобы новый трамвай из старой "Татры" (ФОТО, ВИДЕО)”. Пассажирский Транспорт (2018年8月22日). 2020年6月30日閲覧。
  7. ^ a b Успех: трамвай "Я – донецкий!", собранный в занятом террористами Донецке, больше года простаивает в депо”. Пассажирский Транспорт (2019年10月3日). 2020年6月30日閲覧。
  8. ^ a b В оккупированном Донецке подняли стоимость проезда в общественном транспорте”. Пассажирский Транспорт (2020年2月3日). 2020年6月30日閲覧。
  9. ^ В оккупированном Донецке – дефицит водителей электротранспорта”. Пассажирский Транспорт (2019年1月30日). 2020年6月30日閲覧。
  10. ^ Ryszard Piech (2008年3月4日). “Tatra T3 – tramwajowy bestseller” (ポーランド語). InfoTram. 2020年6月30日閲覧。
  11. ^ Mateusz Buczek (2014年6月5日). “Tabor tramwajowy w Rydze”. Infotram. 2020年6月30日閲覧。
  12. ^ Tatra T3A”. Urban Electric Transit. 2020年6月30日閲覧。
  13. ^ Ретро-трамвай возвращается! Расписание на 9 и 11 мая!”. Donetsk Afisha (2018年5月8日). 2020年6月30日閲覧。
  14. ^ Donetsk, car # 001”. Urban Electric Transit. 2020年6月30日閲覧。
  15. ^ Антон Лягушкин, Дмитрий Янкивский (2018年10月15日). “Киевский завод электротранспорт и его трамваи послевоенного периода” (ロシア語). 2020年6月30日閲覧。
  16. ^ Донецк: по городу ездит киевский транспорт, а к 90-летию трамвая напечатали юбилейные билеты (фото)”. informator.media (2018年6月14日). 2020年6月30日閲覧。

外部リンク[編集]