ウクライナの路面電車

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ウクライナの国産路面電車車両・K-1
オデッサ市電2009年撮影)

この項目では、ウクライナ路面電車について解説する。ウクライナは旧・ソビエト連邦の構成国家の中で最も早く路面電車(電化路線)が開通した国家であり、2021年の時点でウクライナの統治が及んでいない地域を含め18都市で路面電車の営業運転が行われている[1][2][3][4]

歴史[編集]

現在のウクライナの各都市における軌道交通は1880年リヴィウオデッサに開通した馬車鉄道から始まった。これは産業の発展や都市の成長を背景にしたものであり、以降は各主要都市に馬車鉄道の開通が相次いだ他、スチームトラムを用いた路線も各地で登場した。一方、1892年には東ヨーロッパおよび旧・ソビエト連邦(ソ連)における最初の路面電車キエフキエフ市電)に開通し、以降は各都市に新規の路面電車路線の開通が相次いだ他、既存の馬車鉄道やスチームトラム路線の電化も積極的に行われた。開通当初、これらの路線はベルギーを始めとした海外企業や地元の起業家による建設や営業が行われたほか、車両についても海外からの輸入品で賄われた。また、軌間はキエフなど一部を除き1,000 mm(メーターゲージ)であった[1][3][4]

その後、第一次世界大戦ロシア革命、ソビエト連邦の成立までの過程の混乱の中で各都市の路面電車は破壊され、クレメンチュークでは路面電車(クレメンチューク市電ウクライナ語版)そのものが廃止に追い込まれた。一方、それ以外の都市は混乱が収まった1920年代以降復旧が進められ、その後の都市計画に合わせて路線網の拡大が行われた。また、同時期には大規模な工業化に合わせて都市と工場を結ぶ公共交通機関が求められ、多数の都市で新たな路面電車が開通した。これらの路線の軌間はソ連における標準軌であった1,524 mmであり、従来の都市についても海外の車両の輸入や1,000 mm軌間に対応した国産車両の生産停止に伴い、多くの都市で改軌が実施された[1][3]

第二次世界大戦大祖国戦争)中は多くの都市が戦闘に巻き込まれ、その後再建されることなく廃止となった路線も存在したが、それ以外の都市では終戦後1940年代までに路面電車網の復旧が行われた。戦後も各都市で市内の交通機関や鉱山・工場への輸送機関として路面電車の開通が行われ、キエフクルィヴィーイ・リーフでは高規格の路面電車路線であるメトロトラムロシア語版の導入も行われた。だが、一方でトロリーバス路線バスへの置き換えも相次ぎ、一部都市では路面電車自体が廃止されている。車両については、戦後キエフハルキウで国産車両の製造が実施されたものの、1960年代以降はウスチ=カタフロシア語版(ソ連、現:ロシア連邦)のウスチ=カタフスキー車両製造工場[3]チェコスロバキア(現:チェコ)のČKDタトラ製車両の導入へと切り替えられた[1][2][3][5]

ソビエト連邦の崩壊後、多くの都市では経済の混乱やモータリーゼーションの影響、更に運営事業者の財政難により路面電車網の廃止や縮小が相次いでおり、首都・キエフ路面電車2004年以降ドニエプル川を挟んで路線網が分断された状態が続いている。更に2014年ウクライナ騒乱をきっかけとした紛争の影響により一部の都市の路面電車はウクライナの統治下から外れた他、路線そのものが廃止に追い込まれた事例も複数存在する[1][6][7][3]

その一方でキエフ(キエフ市電)、ドニプロドニプロ市電)、リヴィウリヴィウ市電)など、新たな路線の建設が実施されている都市も幾つか存在しており、特にリヴィウではソビエト連邦崩壊直前の1991年(76 km)と比べて2018年時点の営業キロが増大している(82 km)。また、車両についてもタトラ=ユークエレクトロントランスといったウクライナ国内の企業によって超低床電車を始めとした生産が行われており、既存の車両についても機器や車体の更新といった近代化が積極的に進められている[2][8][9]

路面電車一覧[編集]

現役路線[編集]

以下の図表のうち、都市名および軌間2021年時点のものである。また開通年は電化路線が営業運転を開始した年を記す[3]

一覧[編集]

ウクライナ 現有路面電車一覧
都市 路面電車 軌間 開通年 備考
キエフ キエフ市電 1,524mm 1892年
キエフ・ライトレール 1978年 メトロトラムロシア語版
リヴィウ リヴィウ市電 1,000mm 1894年
ドニプロ ドニプロ市電 1,524mm 1897年
ジトーミル ジトーミル市電 1,000mm 1899年
ハルキウ ハルキウ市電 1,524mm 1906年 [10]
オデッサ オデッサ市電 1,524mm 1910年
ヴィーンヌィツャ ヴィーンヌィツャ市電 1,000mm 1913年
イェウパトーリヤ イェウパトーリヤ市電 1,000mm 1914年 2021年現在はクリミア共和国の実効支配下[11]
ムィコラーイウ ムィコラーイウ市電 1,524mm 1915年 [12]
ドネツィク ドネツィク市電 1,524mm 1928年 2021年現在はドネツク人民共和国の実効支配下[13]
ホルリフカ ホルリフカ市電 1,524mm 1932年 2021年現在はドネツク人民共和国の実効支配下[14]
イェナーキイェヴェ イェナーキイェヴェ市電 1,524mm 1932年 2021年現在はドネツク人民共和国の実効支配下[15]
ザポリージャ ザポリージャ市電 1,524mm 1932年
マリウポリ マリウポリ市電 1,524mm 1933年
カーミヤンシケ カーミヤンシケ市電 1,524mm 1935年
クルィヴィーイ・リーフ クルィヴィーイ・リーフ市電 1,524mm 1935年
クルィヴィーイ・リーフ・メトロトラム 1986年 メトロトラムロシア語版[5]
ドルジュキーウカ ドルジュキーウカ市電 1,524mm 1945年 [16]
コノトプ コノトプ市電 1,524mm 1949年 [17]

地図[編集]

ギャラリー[編集]

休止・廃止路線[編集]

ソビエト連邦崩壊後に休止・廃止[編集]

ウクライナ 休止・廃止路面電車一覧
都市 路面電車 軌間 廃止・休止年 備考
アウディーイウカ アウディーイウカ市電 1,524mm 2017年休止 [1]
クラマトルスク クラマトルスク市電 1,524mm 2017年廃止 [18]
コンスタンチノフカウクライナ語版 コンスタンチノフカ市電 1,524mm 2016年廃止 [19]
ルハーンシク ルハーンシク市電 1,524mm 2015年休止 2021年現在ルガンスク人民共和国の実効支配下[7][19]
モロクノエウクライナ語版 モロクノエ市電 1,000mm 2014年休止 2021年現在クリミア共和国の実効支配下[7][19]
カディエフカウクライナ語版
(旧:スタハーノフ)
スタハーノフ市電 1,524mm 2007年廃止 [1][7][19]
マキイフカ マキイフカ市電 1,524mm 2006年廃止 [1][7][19]

ソビエト連邦時代・ソビエト連邦成立前に廃止[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h Іван РУДАКЕВИЧ & Анджей СОЧУВКА 2019, p. 75.
  2. ^ a b c Іван РУДАКЕВИЧ & Анджей СОЧУВКА 2019, p. 78.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m КОРОТКИЙ НАРИС”. Kostj Kozlov (2011年1月17日). 2021年3月20日閲覧。
  4. ^ a b 服部重敬「定点撮影で振り返る路面電車からLRTへの道程 トラムいま・むかし 第10回 ロシア」『路面電車EX 2019 vol.14』、イカロス出版、2019年11月19日、96-97頁、ISBN 978-4802207621 
  5. ^ a b 日本地下鉄協会 (2010). 世界の地下鉄 151都市のメトロガイド. ぎょうせい. pp. 333-335. ISBN 978-4-324-08998-9 
  6. ^ Іван РУДАКЕВИЧ & Анджей СОЧУВКА 2019, p. 76.
  7. ^ a b c d e Іван РУДАКЕВИЧ & Анджей СОЧУВКА 2019, p. 77.
  8. ^ Іван РУДАКЕВИЧ & Анджей СОЧУВКА 2019, p. 79.
  9. ^ Іван РУДАКЕВИЧ & Анджей СОЧУВКА 2019, p. 80.
  10. ^ KHARKIV”. UrbanRail.Net. 2021年3月20日閲覧。
  11. ^ Scheme of routes of trams and route taxis in Evpatoria”. TAGART (2018年1月22日). 2021年3月20日閲覧。
  12. ^ Історія першого електротрамвая в Миколаєві”. Миколаївська міська рада (2013年11月11日). 2021年3月20日閲覧。
  13. ^ Донецкие сепаратисты пиарят якобы новый трамвай из старой "Татры" (ФОТО, ВИДЕО)”. Пассажирский Транспорт (2018年8月22日). 2021年3月20日閲覧。
  14. ^ Руководители Минтранса поздравили коллектив горловского ТТУ с 85-летием со дня основания”. Министерства транспорта Донецкой Народной Республики (2017年11月3日). 2021年4月21日閲覧。
  15. ^ В оккупированном Енакиево на Донбассе вот уже почти месяц не ходят трамваи”. Пассажирский Транспорт (2019年1月28日). 2021年3月20日閲覧。
  16. ^ Druzhkivka Tramway”. Railway Gazette International. 2021年3月20日閲覧。
  17. ^ 70 років виповнюється конотопському трамваю: про історію створення та сучасний стан”. Конотоп.City (2019年12月21日). 2021年3月20日閲覧。
  18. ^ “Kramatorsk trams make their final run”. Tramways & Urban Transit No.957 (LRTA) 80: 326. (2017-9). http://www.bowe.cc/techlib/pdf/Tramways__amp__Urban_Transit_vol80_no957_1528736676.pdf 2021年3月20日閲覧。. 
  19. ^ a b c d e Мировая статистика: в XXI веке больше всего систем трамвая запустили в США и Франции, а закрывают - в России”. Пассажирский Транспорт (2017年2月19日). 2021年3月20日閲覧。
  20. ^ ВЛАДИМИР ЛЕНЕР (2015年8月2日). “История симферопольского трамвая: от первой линии до последнего рейса”. МК в Крыму. 2021年3月20日閲覧。
  21. ^ Історія буковинського трамваю. Частина четверта”. Фотографії Старого Львова (2018年7月22日). 2021年3月20日閲覧。

参考資料[編集]

  • Іван РУДАКЕВИЧ; Анджей СОЧУВКА (2019). “Геопросторові тенденції розвитку трамвайного транспорту в Україні”. Географія (Тернопільського національного педагогічного університету імені Володимира Гнатюка) 2 (47): 75-83. doi:10.25128/2519-4577.19.3.9.