イブプロフェン

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イブプロフェン
イブプロフェンの分子構造
IUPAC命名法による物質名
(RS)-2-(p-isobutylphenyl)propionic acid
臨床データ
胎児危険度分類 C(AU)    D(US)    
法的規制 市販薬または指定医薬品
投与方法 経口, 座薬, 外用 (ジェルやクリーム)
薬物動態的データ
生物学的利用能 49-73 %
代謝 肝臓
半減期 1.9-2.2 時間
排泄 尿
識別
ATCコード M01AE01
KEGG D00126
化学的データ
化学式 C13H18O2 
分子量 206.3 g/mol

イブプロフェン: Ibuprofen)は、プロピオン酸系の非ステロイド系消炎鎮痛剤 (NSAID) である。日本ではブルフェン、日本国外ではAct-3, : Advil, Brufen, Motrin, Nuprin, もしくは: Nurofenなどの商標名で、医療用及び店頭用医薬品(OTC 医薬品; 後述を参照のこと)の両分野において広く流通している。関節炎生理痛および発熱の症状を緩和し、また炎症部位の鎮痛に用いる。イブプロフェンは1960年代に英Boots Groupの研究部門によりプロピオン酸の誘導体として創薬された。
イブプロフェンはまた、WHOWHO必須医薬品モデル・リストに含まれている医薬品の一つでもある。

使用対象[編集]

現在用いられている用途[編集]

イブプロフェンは、関節炎痛風腎結石尿路結石片頭痛、さらに、小規模から中規模な手術後や、外傷生理痛歯痛腰痛筋肉痛神経痛などの鎮痛目的で使用される。

臨床的使用[編集]

低用量のイブプロフェン(200mgから400mg)は日本を含む世界中ほぼ各国で市販薬として入手可能である(医師から処方される医薬品としては、科研製薬の「ブルフェン」となる。これに相当する後発医薬品については、後述する#後発医薬品を参照)。イブプロフェンは4 - 8時間効果が持続しこれは用量依存であるが、半減期から推定される持続時間よりは長い。推奨される投与量は体重や適応による。通常、経口投与量は4時間から6時間ごとに200mgから400mg(子供の場合には5 - 10mg/kg)であり、1日最大投与量は800 - 1200mgである。3200mgの最大投与量も時として用いられる(※いずれも外国におけるデータ)。

目的外使用および研究的使用[編集]

  • 他のNSAIDと同様に、イブプロフェンは重篤な起立性低血圧の治療に有効である可能性が高い。
  • いくつかの研究によれば、低用量のイブプロフェンを長期間に渡り投与し続けると、プラセボ対照群に対し優れたアルツハイマー型痴呆の予防効果を示す。この目的でイブプロフェンを推奨するにはさらなる研究が要求される。
  • イブプロフェンはパーキンソン病の危険性の低下と関連づけられ、パーキンソン病の発症を防いだり遅らせることができるかもしれない。この目的でのイブプロフェン使用を推奨するにはさらなる研究が要求される。アスピリン、他のNSAID、およびアセトアミノフェンはパーキンソン病の危険性には影響を与えない。
  • イブプロフェンは抗血小板作用をもつことが知られているが、アスピリンなどの一般的に用いられる抗血小板剤に比べてその作用は弱く作用の持続時間も短い。

イブプロフェンリシン[編集]

ヨーロッパとオーストラリアではイブプロフェンリシン(ibuprofen lysine あるいは ibuprofen lysinate とも)と呼ばれるイブプロフェンのリシン塩がイブプロフェンと同じ適応症に許可されている。イブプロフェンリシンはイブプロフェンに比べ即効性があると言われている。

禁忌事項[編集]

副作用[編集]

イブプロフェンは全ての非選択性NSAIDの中で最も胃腸障害が少ない。しかし、これは低用量イブプロフェンの場合であり、従って市販薬のイブプロフェン処方では1日最大量が1200mgとなっている。

報告されている副作用[編集]

低用量 (200 - 400mg) の単発投与および1日1200mgまでの投与では副作用の発生率は低い。しかし、1200mgを超える投与量で長期間投与されている患者の中止率は10-15%である。

一般的な副作用は次の通りである:吐き気、消化不良、消化器潰瘍・出血、肝臓酵素増大、下痢、ふらつき、塩および体液停留、高血圧

まれな副作用は次の通りである:食道潰瘍心不全高カリウム血症腎臓障害昏迷気管支痙攣発疹

光線過敏[編集]

他のNSAID薬剤と同様に、イブプロフェンも光過敏症を引き起こすという報告が存在する (Castell等, 1987)。しかし、イブプロフェンの紫外線吸収は非常に弱く、太陽光領域にすら到達しない。イブプロフェンの構造は単一のベンゼン環を持つだけで、共役系が存在するわけでもないので、非常に弱い発色団である。それ故、イブプロフェンは他の2-アリールプロピオン酸類など比較しても、きわめて弱い光過敏症しか引き起こさない。

しかし、これはイブプロフェンを「主役」と見た際であり、イブプロフェンの代謝過程で生ずる危険性などは考慮していない。

心臓血管への危険性[編集]

他のNSAIDと同様、長期に渡る投与は心筋梗塞の危険性を増大させる。(Hippisley-Cox & Coupland, 2005)

原子の立体的配置[編集]

(S)-ibuprofenの3D模型

他の2-アリールプロピオン酸誘導体(ケトプロフェン、フルルビプロフェン、ナプロキセン他)と同様に、イブプロフェンはプロピオン酸部分のα位置に不斉炭素を持つため、それ自体に2つのそれぞれ異なる生物学的効果および代謝を持つイブプロフェンの鏡像体を持ちうる。

むしろ、試験管内および生体内の実験から(S)-(+)体 (dexibuprofen)が有効成分であることがわかった。

一般に、光学活性化合物を薬品として用いる場合、有効な鏡像体のみを投与することで選択性および有効性が高まることを期待するのは道理である(他のNSAIDであるナプロキセンのように)。

しかしながらイブプロフェンの場合、これまでの生体内試験では(R)体を有効な(S)体に変換する異性化酵素の存在が明らかになった。従って、単独の鏡像体で販売するのはコストに対して無意味で、市販されているイブプロフェンには両方の鏡像体の混合物(ラセミ体)が用いられている。

合成法[編集]

イブプロフェンは以下の手順で合成される。(Boots合成法)

イソブチルベンゼンのフリーデル・クラフツ アセチル化反応から始め、その生成物にクロロ酢酸エチルの元でダルツェン縮合を行い、α,β-エポキシエステルである3-メチル-3-(4-(2-メチルプロピル)フェニル)オキシラン-2-カルボン酸エチルを得る。これに加水分解脱炭酸を施しアルデヒドを得る。このアルデヒドにヒドロキシルアミンを作用させオキシムとし、更に転換してニトリルを得る。このニトリルを加水分解して(2RS)-2-(4-(2-メチルプロピル)フェニル)プロパン酸、即ちイブプロフェンを得る。[1]

Boots synthesis of ibuprofen.png

ヒトへの毒性[編集]

ヒトへの過量服用の事例は限定されている。通常、服用した量と服用してからの経過時間によって症状は変化する。しかし、個人の感受性が重要な役割を占める。ヒトが過量服用した際の反応は、無反応から集中的治療にもかかわらず致命的な結果まで幅がある。主な症状は、イブプロフェンの薬理学的性質の超える症状および腹痛、吐き気、嘔吐、眠気、めまい、眼震を含む症状である。消化器出血も起こりうる。さらに耳鳴り、中枢神経抑制、発作、低血圧、徐脈、頻脈、心房細動などの副作用が起こりうる。代謝性アシドーシス、昏睡、急性腎不全、浮腫を伴う体液およびナトリウム停留、高カリウム血症、無呼吸症(主として低年齢の子供)、呼吸抑制、呼吸停止などのまれな症状がある。数例にチアノーゼが見られた。一般的に、イブプロフェンの過量服用による症状は他のNSAIDの過量服用の症状に近い。

過量服用による症状の度合いと測定した血漿中の濃度については、ある程度の相関性がある。危険な服用量は約100mg/kgから800mg/kgである。後者の服用量については臨床的な経過が致命的である事を意味しない。治療上の1回の投与量は5から10mg/kgである。従って、治療上の指標は10から160である。しかし、患者の年齢、体重、既往症により変化するため正確なLD50を定義するのは不可能である。

治療は対症療法が主となる。初期段階であれば嘔吐させるべきである。また胃洗浄も効果がある。いずれの場合においても、全身への循環が始まる前に薬剤を吸着するために活性炭素が繰り返し用いられるべきである。通常の排尿を維持するための処置が推奨される。イブプロフェンは酸性の性質を持っておりまた尿によって排泄されるから、アルカリ利尿剤は有益である。低血圧、消化器出血、およびアシドーシスへの対症療法も可能である。通常、ICUでの徹底した監視が指示され、また必要である。もし患者が急性中毒期を乗り切れば、通常その後の再発はない。

後発医薬品[編集]

先発薬である、科研製薬が製造・販売する「ブルフェン」には、後発医薬品がいくつか存在するが、販売元となる各メーカーによる流通状況が芳しくなく、「後発薬はありますが、当店では取り扱っておりません」として、提供できない大手の調剤薬局も多く存在する。

実際に公表されている後発医薬品としては、イブプロフェン100/200mg「TCK」、同錠「タイヨー」などが存在するが、「TCK」を手掛ける辰巳化学などは、実際の卸売を他の販売元に委託するケース[2]が多く、販売元が扱わないことから、調剤薬局レベルまでいきわたらないものも一部で存在するのが現状となっている。

OTC[編集]

イブプロフェンは1969年にイギリスで処方薬として許可された。それから数年、イブプロフェンの耐容性プロファイルに加えさらなるコミュニティでの経験は(フェーズIV治験とも言われる)、少量包装のイブプロフェンを世界中で市販薬とする再スケジュールをもたらした。さらにこの傾向がイブプロフェンの再スケジュールを促進しているので、アメリカではスーパーや雑貨店での入手が可能になった。事実、アメリカではイブプロフェン(通常200mg量)がアセトアミノフェンアスピリンと並んで市販薬の鎮痛剤として最も広く使われている。

日本では1985年12月にスイッチOTCとしてエスエス製薬から「イブ(現:イブA錠)」が発売され、後に同社の総合感冒薬「エスタック イブ」シリーズに配合されたり、他の鎮痛成分を併せた「イブクイックA頭痛薬」という商品も市販されていれている。他の大衆薬メーカーからも同様の製品が発売されている。ただし小児用市販薬としては認可されていない。

脚注[編集]

  1. ^ Ibuprofen — a case study in green chemistry”. en:Royal Society of Chemistry. 2011年5月7日閲覧。
  2. ^ 例えば、辰巳化学が製造する、エチゾラム0.5/1.0mg「TCK」は、日本ジェネリック富士フイルムファーマが販売元として、自社で直接調剤薬局に販売せず、販売元として委託した他の製薬メーカーなどが扱っている。また、日本ジェネリックは自社製造ないしは自社が直接製造委託している商品については、「JG」として自社ブランドを担当しているが、カバーできない商品については、辰巳化学を中心に、他社の製品の販売委託を受ける形で販売しているが、イブプロフェン100/200mg「TCK」のケースについては、どちらのケースも採択していない。

参照[編集]

  • AHFS online
  • Rossi S (Ed.) (2004). Australian Medicines Handbook 2004. Adelaide: Australian Medicines Handbook. ISBN 0-9578521-4-2.
  • Castell JV, Gomez MJ, Miranda MA, Morera IM (1987). Photolytic degradation of ibuprofen. Toxicity of the isolated photoproducts on fibroblasts and erythrocytes. Photochem Photobiol 46 (6), 991-6.
  • Hippisley-Cox J, Coupland C (2005). Risk of myocardial infarction in patients taking cyclo-oxygenase-2 inhibitors or conventional non-steroidal anti-inflammatory drugs: population based nested case-control analysis. BMJ 2005;330:1366 (11 June).