うつ病の治療
うつ病は、この記事では大うつ病として知られる精神疾患を指す。 患者は、通常外来患者として評価・管理し、患者が自分自身や他人に危険をもたらすと考えられる場合のみ精神福祉部門に入院させる。
もっともうつ病で共通する治療は、心理療法・薬物療法・電気ショック療法(重度の場合)である。
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概要[編集]
抗うつ薬が普及する前、アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)は、うつ病は自然回復し、再発は滅多にない、と公式に述べていた。1964年、NIMHのジョナサン・コール(Jonathan Cole)は「うつ病は、全体的に、治療の有無にかかわらず、最終的には回復する予後が最良な精神状態の一つです。ほとんどのうつ病は治療しなくても長期的には回復します」と述べている。また、NIMHの専門家たちは、抗うつ薬が回復までの時間短縮に役立つ可能性はあっても、長期回復率の上昇には役立たないと考えている。その理由について、1974年、NIMHのうつ病部門長であるディーン・シュイラー(Dean Schuyler)は、ほとんどのうつ病は「特別な治療をしなくても事実上完治するという経過をたどります」と説明している。数ヶ月以内の自然回復率が50%を越えるため、各種治療法の有効性の判断は難しい[1][2][3][4]。
心理療法[編集]
詳細は「心理療法」を参照
うつ病に対して有効性の根拠が積極的に得られている心理療法として、認知行動療法や対人関係療法、マインドフルネス認知療法がある。
2009年、プラセボ効果を研究するハル大学のアービング・カーシュ博士は「心理療法のみの場合と、心理療法と抗うつ薬を併用する場合の効果の大きさは同じなのだから、なぜ、わざわざ抗うつ薬を持ち込む必要があるのだろうか」と述べている。英国国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインは心理療法の重要性を認めており、6~8回の認知行動療法(Cognitive behavioral therapy、CBT)または他の心理療法を推奨している。具体的には、軽度~中程度はカウンセリング、再発した場合はCBT、重度の場合はCBTと抗うつ薬との併用を勧めている。英国政府は臨床試験で効果が証明された認知行動療法をはじめとする心理療法の拡充を開始し、薬物療法に代わる治療法として成果を上げている[5]。
2012年、DSM-IVのアレン・フランセス編纂委員長は「精神科の軽度、中程度の症状には、精神療法が少なくとも薬物療法と同じくらい効果があり、精神療法のほうが持続効果は長く、副作用は少ないのです。非常に多くの人が必要のない薬物療法を受け、回復に大きく役立つであろう精神療法を受けていないというのは、理不尽であり、経済的動機がそうさせているのだと思います」と述べている[6]。
リラクゼーション[編集]
2008年のコクランレビューによるメタアナリシスでは、リラクゼーションのテクニックは無治療または最小限の治療よりも自己評価による抑うつ度を改善していた[7]。
薬[編集]
詳細は「抗うつ薬」を参照
「化学的不均衡#議論」も参照
1999年のガイドラインでは、最も効果のある薬物治療を見つけるため、薬の種類と量は頻繁に調整すべきであり、違った抗うつ薬の組み合わせ、別種の薬物を試すことが求められ、最初の薬物への反応率は50%程度と低い、とされる。[8]
ベンゾジアゼピン[編集]
2001年のコクランレビューでは、大うつ病に対して抗うつ薬にベンゾジアゼピンを追加することは、4週間で薬物への短期応答性を高めるが6~12週では優位差はなく、その三分の一にベンゾジアゼピン依存症が形成されることや、抗うつ薬単独では見られなかった副作用が見られ、治療脱落が増えるという欠点がある[9]。
薬物療法と心理療法の有効性[編集]
抗うつ薬は統計的にプラセボよりも優れているが、しかし全体的な効果は低から中程度である。多くの場合、国立健康臨床研究所による臨床有意基準を満たせない。 とりわけ、中程度のうつには効用は非常に小さいが、非常に深刻なうつの場合臨床的有意性は上がっている。[10][11]
他の薬[編集]
セントジョーンズワート[編集]
詳細は「うつ病#ハーブの利用」を参照
SAMe[編集]
S-アデノシルメチオニン(SAMe)は、アメリカとカナダではサプリメントとして販売されており、イタリアおよびドイツでは処方薬として認可されている。うつ病、関節炎、肝臓疾患への有効性が知られている。大うつ病の治療に標準的な抗うつ薬と同等であることが示唆されている[12][13]。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に無反応の大うつ病性障害の患者に、投与し偽薬に比較して有意差が得られた[14]。
医療機器による治療[編集]
電気けいれん療法[編集]
詳細は「電気けいれん療法」を参照
反復経頭蓋磁気刺激[編集]
詳細は「うつ病#経頭蓋磁気刺激法 (TMS)」を参照
脳深部刺激[編集]
詳細は「脳深部刺激療法」を参照
代替医療[編集]
睡眠衛生[編集]
うつ病は一般的に睡眠不足(入眠困難、早朝覚醒、日中の一般的な倦怠感)に関連付けられている。 抑うつと睡眠不足の2つの相互作用により症状を悪化させる。 良い睡眠衛生によってこの悪循環を断ち切ることが重要な助けとなる。[15] それには標準就寝時間の確保、カフェイン等の覚醒物質を絶つ、睡眠時無呼吸のような外乱要素の治療などがある。皮肉にも、睡眠短縮(断眠療法など)はうつ病の一時的な治療である。[16]
高照度光照射療法[編集]
詳細は「高照度光照射療法」を参照
全米精神科医協会による高照度光照射療法についてのメタアナリシス調査では、季節性情動障害と非季節性情動障害の両方においてプラセボよりも効果が確認され、効果は標準の抗うつ薬治療と類似であった。 非季節性情動障害では、標準の抗うつ薬治療に追加で光療法を行うことは効果的でなかった(not effective.)[17]
鍼治療[編集]
2004年のコクランレビューでは、低い品質のエビデンスベースだが、鍼治療がうつ病の治療に効果があるかどうかのエビデンスはinsufficientと結論付けている。[18]
臨床試験では、鍼灸の効果はアミトリプチリンと同等の効果が示されている。加えて、とりわけ電気鍼では更に効果があり、うつ病患者の 3-methyl-4-hydroxy-phenylglycol (中央神経伝達物質ノルエピネフリンの主な代謝物) の減少をもたらす。一方で、デキサメタゾン抑制試験では、アミトリプチリンはその抑制では更に効果があった。[19] 鍼は体内のエンドルフィン生産レベルを引き上げることが証明されている。[20]
運動[編集]
「運動療法」も参照
フィジカルトレーニングは軽度の抑うつ治療に推奨されるが[21]、適度なものに限り、また多くの大うつ病の場合には統計的に明確な効果は認められていないとの報告もある[22][23]。入院時の日課とする病院もある[24]
プラセボ効果を研究するハル大学のアービング・カーシュ博士は、運動にも心理療法や抗うつ薬と同等の効果があると紹介している。薬物療法や心理療法ほど多面的な研究はなされていないが、効果を評価する臨床試験は沢山行われている。主に中程度~重度の症状に効果があり、定期的に続ける限り持続し、時間が経過すると効果が大きくなる。さらに、疫学的研究から予防効果も示唆されている。運動の種類は「ウォーキング(有酸素運動)」「ウェイトトレーニング(無酸素運動)」など何でも良く、20分の運動を週3日行えば十分効果がある。ただし、運動と抗うつ薬を併用するより、運動のみのほうが効果が高い。臨床試験の欠陥を理由に運動の効果が否定されることがあるが、抗うつ薬の臨床試験にも欠陥が存在している[25]。
冷水治療[編集]
Nikolai Shevchukによる研究では、冷たいシャワーを浴びることはうつの治療を助ける効果があると主張している。氏は冷たいシャワーは脳の主要なノルエピネフリン元である locus ceruleus や blue spot を刺激するという生物学的説を主張している。またβ-エンドルフィンのレベルに影響するとしている。[26]
漢方薬[編集]
漢方薬では、柴胡加竜骨牡蛎湯・半夏厚朴湯・加味帰脾湯(焦燥感の強い場合は悪化の恐れあり注意)・加味逍遙散が主に用いられる[27]。
治療有効例では約2週間ほどで効果を示すことが多いが、効果のない場合でも4-6週間の経過を見た方がよい場合もある[27]。西洋薬から漢方薬への切り替えは困難なことが多く、少なくとも急激な断薬はしてはならない[27]。
トリプトファン[編集]
アミノ酸であるトリプトファンは、セロトニン・メラトニンといったモノアミン神経伝達物質などの前駆体として重要である。
コクラン共同計画のメタアナリシスではトリプトファンについての108の臨床試験のうち2つの試験しか十分な精度を有していないことを明らかにした。その結果、トリプトファンの十分な効果の証拠が認められないのでうつ病治療に推奨できないと結論付けた[28]。
低フルクトース食[編集]
フルクトースを代謝するに必要な酵素が欠損している遺伝性フルクトース不耐症に罹患している患者は、フルクトースを摂取すると低血糖を引き起こしたり[29]、腸内でフルクトースとトリプトファンと結合するとトリプトファンの吸収が悪くなり神経伝達物質の生合成に支障をきたす場合がある[要出典]。
オメガ3脂肪酸[編集]
詳細は「うつ病#ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸のアンバランス仮説」を参照
その他[編集]
出典[編集]
- ^ Robert Whitaker, "Antidepressants/Depression," Anatomy of an Epidemic Documents. Retrieved June 11 2013.
- ^ Robert Whitaker, Anatomy of an Epidemic: Magic Bullets, Psychiatric Drugs, and the Astonishing Rise of Mental Illness in America, New York: Crown Publishing Group, 2009, pp. 152-153. ASIN B004RU7U5C2.(邦書は『心の病の「流行」と精神科治療薬の真実』福村出版、2012年9月19日。ISBN 978-4571500091 。)
- ^ Jonathan Cole, "Therapeutic efficacy of antidepressant drugs," Journal of the American Medical Association, 1964, pp. 448-55, 190(5).
- ^ Dean Schuyler, The Depressive Spectrum, New York: Jason Aronson, 1974, p. 47. ISBN 978-0876681879.
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