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'''三葉虫'''(さんようちゅう、'''Trilobite'''、トライロバイト)は、[[カンブリア紀]]に現れて[[古生代]]の終期である[[ペルム紀]]に絶滅した[[節足動物]]である。分類学上は'''三葉虫綱'''('''Trilobita''')とされ、古生代を代表する海生動物であり、[[化石]]としても多産し、[[示準化石]]としても重視される。
'''三葉虫'''(さんようちゅう、トライロバイト、{{Lang-en|'''trilobite'''}}、[[学名]]: '''{{Sname||Trilobita}}''')は、[[古生代]]にかけて生息した[[化石]][[節足動物]]の[[分類群]]である。[[分類学]]上は'''三葉虫[[ (分類学)|綱]]'''とされ、横で3部に分かれた硬い[[外骨格]]を背面にもつ。古生代を代表する[[]][[動物]]であり、冒頭の[[カンブリア紀]]から繫栄し、終焉の[[ペルム紀]]末で[[絶滅]]した。1万[[種 (分類学)|種]]以上が知られる多様なグループ<ref>{{Cite web |title=What are trilobites? |url=https://australian.museum/learn/australia-over-time/fossils/what-are-trilobites/australian.museum/learn/australia-over-time/fossils/what-are-trilobites/ |website=The Australian Museum |access-date=2022-04-15 |language=en |first=Opening Hours 10am-5pmFree General EntryClosed Christmas Day Address 1 William StreetSydney NSW 2010 Australia Phone +61 2 9320 6000 www australian museum Copyright © 2022 The Australian Museum ABN 85 407 224 698 View Museum |last=News}}</ref>で[[化石]]も多産し、[[示準化石]]としても重視される。


== 形態 ==
== 形態 ==
三葉虫[[古生代]]のみ生息した[[節足動物]]である。の[[体節]]を持ち、各体節に一対の付属肢が備わっていたと考えられている。''甲羅''(背板)の特徴は、縦割りに中央部の中葉(axis)とそれを左右対となって挟む側葉(pleura(e))となっており、この縦割り三区分が三葉虫(trilobite)の名称の由来となっている。また、頭部(cephalon)胸部(thorax)尾部(pygidium)といった横割りの体区分も認められる。頭部と尾部は複数体節の合でできている1枚の"甲羅"(背板に覆われ、胸部は2 - 60''甲羅''(背板:特に胸節(thoracic segment)と呼ぶ)で構成されている。脱皮の場合、頭部は最大5つのパーツに分割される。[[付属肢]]([[関節肢]])は全てが体の下に覆われる。
前後の[[体節]]からなり、各体節に一対の[[付属肢]]([[関節肢]])が備わっていたと考えられている。背面の[[外骨格]][[背板]] tergite)は、縦割りに中央部の'''軸部'''(axis)とそれを左右対となって挟む'''肋部'''(pleura)となっており、この縦割り三区分が三葉虫(trilobite)の名称の由来となっている<ref>{{Cite web |title=三葉虫 アカドパラドキシデス {{!}} 東北大学総合学術博物館 |url=http://www.museum.tohoku.ac.jp/exhibition_info/column/trilobite.html |website=www.museum.tohoku.ac.jp |access-date=2022-04-15}}</ref>。また、体節は前後に[[頭部]](cephalon)・[[胸部]](thorax)・[[合体節#その他の絶滅群|尾部]](pygidium)という3つ[[合節]]にまとめられる。頭部と尾部は複数体節の合でできてきた1枚の背板に覆われ、胸部は可動に分節した2節から60節以上の胸節(thoracic segment)で構成されている。[[付属肢]]([[関節肢]])は全てが体の下に覆われる。


[[File:Trilobite_sections-en.svg|left|200px]]
[[File:Trilobite_sections-en.svg|left|200px]]
中葉はアーチ状に盛り上がり、側葉の内側は平坦であるより派生的なグループでは側葉の外側が腹側へと傾斜する傾向を持つ。このため、三葉虫が腹側へと丸まった時に胸節側葉部の外側域が重なり合い、''甲羅''(背板で生体部を覆うこととなる防御姿勢(enrollment)の構築が可能となり、一部の種ではほぼ球状に丸める。頭部には、通常[[複眼]]が左右に1対あるが、頭部に対する相対的なサイズはさまざまであり、目を退化消失した種もさまざまな系統で知られている。のレンズは全身の外骨格と同じ[[方解石]](カルサイト)という鉱物でできており、多数の個眼を持ち、その数は数百に及ぶ。ほとんどの種では正面と両側面の視覚が優れていたことが明らかにされている{{Sfn|サウスウッド|2007|p=77}}。口は頭部中葉域の腹側にあり、より腹側にある石灰質の[[ハイポストーマ]](hypostome)という現生節足動物の[[上唇 (節足動物)|上唇]]にあたる構造で覆われた状態であったと考えられている。そのため、は体の後方を向いていたと考えられている。三葉虫を含んだ[[:en:Artiopoda|Artiopoda]]類全般にあたる特徴として<ref name=":0">{{Cite journal|last=Ortega-Hernández|first=Javier|last2=Janssen|first2=Ralf|last3=Budd|first3=Graham E.|date=2017-05-01|title=Origin and evolution of the panarthropod head – A palaeobiological and developmental perspective|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803916301669|journal=Arthropod Structure & Development|volume=46|issue=3|pages=354–379|language=en|doi=10.1016/j.asd.2016.10.011|issn=1467-8039}}</ref>、頭部に含まれる体節数は少なくとも5節([[先節]]+第1-4体節)があ、それに応じて少なくとも4対の付属肢([[触角]]1対と歩脚型付属肢3対)が先節直後の第1-4体節に配置される。ハイポストーマを付属肢由来と考えれば、これは先節由来の付属肢となる<ref name=":0" />。
軸部はアーチ状に盛り上がり、肋部比較的平坦であるが、より派生的な系統では肋部の外側が腹側へと傾斜する傾向を持つ。このため、三葉虫が腹側へと丸まった時に胸節部の外側域が重なり合い、背板で生体部を覆うこととなる防御姿勢(enrollment)の構築が可能となり、一部の種ではほぼ球状に丸める。頭部には、通常[[複眼]]が左右に1対あるが、頭部に対する相対的なサイズはさまざまであり、目を退化消失した種もさまざまな系統で知られている。複眼のレンズは全身の外骨格と同じ[[方解石]](カルサイト)という鉱物でできており、多数の個眼を持ち、その数は数百に及ぶ。ほとんどの種では正面と両側面の視覚が優れていたことが明らかにされている{{Sfn|サウスウッド|2007|p=77}}。[[]]は頭部軸部の腹側にあり、より腹側にある石灰質の[[ハイポストーマ]](hypostome)という現生節足動物の[[上唇 (節足動物)|上唇]]に類する構造で覆われたと考えられている。そのため、口は体の後方を向いていたと考えられている。三葉虫を含んだ[[:en:Artiopoda|Artiopoda]]類全般にあたる特徴として<ref name=":0">{{Cite journal|last=Ortega-Hernández|first=Javier|last2=Janssen|first2=Ralf|last3=Budd|first3=Graham E.|date=2017-05-01|title=Origin and evolution of the panarthropod head – A palaeobiological and developmental perspective|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803916301669|journal=Arthropod Structure & Development|volume=46|issue=3|pages=354–379|language=en|doi=10.1016/j.asd.2016.10.011|issn=1467-8039}}</ref>、頭部に含まれる体節数は少なくとも5節([[先節]]+第1-4体節)があるとされ、それに応じて少なくとも4対の付属肢([[触角]]1対と歩脚型付属肢3対)が[[先節]]直後の第1-4体節に配置される。ハイポストーマを上唇と同様に付属肢由来と考えれば、これは先節由来の付属肢となる<ref name=":0" />。


[[ファイル:Trilobite ventral appendages IT.PNG|サムネイル|三葉虫の脚]]
[[ファイル:Trilobite ventral appendages IT.PNG|サムネイル|三葉虫の脚]]
触角を除いて頭部・胸部・尾部の付属肢間形態的差異はほとんどなく、触角直後の頭部付属肢で現生の[[大顎類]]([[多足類]][[甲殻類]][[六脚類|昆虫など]])の顎のように特化してることはない。触角以外の付属肢は基本的に二叉型(biramus)であり、主に歩行に用いたとされる腹側の内肢(endopod)と、基部の節から外側へと分岐し櫛歯状の部位を有する外肢(exopod)で構成される。また、それぞれを歩脚/[[えら|鰓]]として機能的観点からの呼称を用いるケースが多いが、これは形状のみに立脚する研究を行う古生物学にとって多くの混乱を産み出す要因となっているとのコメントもある<ref>{{Cite web|url = http://www.core-orsten-research.de/25_epipods.html|title = Epipodites or Epipods|accessdate = 2015-09-19|publisher = Center of 'Orsten' Research and Exploration|deadlinkdate = 2017年9月|archivedate = 2008年10月28日|archiveurl = https://web.archive.org/web/20081028164639/http://www.core-orsten-research.de/25_epipods.html}}</ref>。顎はないが、歩脚の基部は内側に向けて嚙み合わせた[[顎基]](gnathobase)という鋸歯状の突起をもつ場合が多い。
触角以降の付属肢は頭部・胸部・尾部を通じてほぼ同形で、触角直後の頭部付属肢ですら現生の[[大顎類]]([[多足類]][[甲殻類]][[六脚類|昆虫など]])の[[]]のように特化ることはない。触角以外の付属肢は基本的に[[関節肢#単枝型と二叉型|二叉型]](biramous)であり、主に歩行に用いたとされる腹側の[[内肢]](endopod)と、基部の[[原]](protopod, basipod)から外側へと分岐し櫛歯状の部位を有する[[外肢]](exopod)で構成される。また、それぞれを歩脚/[[えら|鰓]]として機能的観点からの呼称を用いるケースが多いが、これは形状のみに立脚する研究を行う古生物学にとって多くの混乱を産み出す要因となっているとのコメントもある<ref>{{Cite web|url = http://www.core-orsten-research.de/25_epipods.html|title = Epipodites or Epipods|accessdate = 2015-09-19|publisher = Center of 'Orsten' Research and Exploration|deadlinkdate = 2017年9月|archivedate = 2008年10月28日|archiveurl = https://web.archive.org/web/20081028164639/http://www.core-orsten-research.de/25_epipods.html}}</ref>。顎はないが、歩脚の基部は内側に向けて嚙み合わせた[[顎基]](gnathobase)という鋸歯状の[[内突起]]をもつ場合が多い。


現在、発見さている三葉虫の[[化石]]のうちで最も大きいものは全長90センチメートルほどあると推測され<ref>{{Cite journal|last=Gutiérrez-Marco|first=Juan C.|last2=Sá|first2=Artur A.|last3=García-Bellido|first3=Diego C.|last4=Rábano|first4=Isabel|last5=Valério|first5=Manuel|date=2009-05-01|title=Giant trilobites and trilobite clusters from the Ordovician of Portugal|url=https://doi.org/10.1130/G25513A.1|journal=Geology|volume=37|issue=5|pages=443–446|doi=10.1130/G25513A.1|issn=0091-7613}}</ref>、小さいものは成体でも1ミリメートル程度である<ref>{{Cite journal|last=Fortey|first=Richard A.|last2=Rushton|first2=A. W. A.|date=1980|title=Acanthopleurella Groom 1902: origin and life-habits of a miniature trilobite|url=https://www.biodiversitylibrary.org/part/83381|journal=Bulletin of the British Museum (Natural History) Geology|volume=33|pages=79–89|issn=0007-1471}}</ref>。また、[[幼生]]の化石も発見されており、最も小さな子供は直径0.2ミリメートルほどであるという。幼生は胸部の体節が少なく、成長につれて体節を増やした考えられる。また、[[ノープリウス]]に近い形の浮遊性幼生らしものも発見されている。
2000年代現在、知られる三葉虫の[[化石]]のうちで最も大きいものは全長90センチメートルほどあると推測され<ref>{{Cite journal|last=Gutiérrez-Marco|first=Juan C.|last2=Sá|first2=Artur A.|last3=García-Bellido|first3=Diego C.|last4=Rábano|first4=Isabel|last5=Valério|first5=Manuel|date=2009-05-01|title=Giant trilobites and trilobite clusters from the Ordovician of Portugal|url=https://doi.org/10.1130/G25513A.1|journal=Geology|volume=37|issue=5|pages=443–446|doi=10.1130/G25513A.1|issn=0091-7613}}</ref>、小さいものは成体でも1ミリメートル程度である<ref>{{Cite journal|last=Fortey|first=Richard A.|last2=Rushton|first2=A. W. A.|date=1980|title=Acanthopleurella Groom 1902: origin and life-habits of a miniature trilobite|url=https://www.biodiversitylibrary.org/part/83381|journal=Bulletin of the British Museum (Natural History) Geology|volume=33|pages=79–89|issn=0007-1471}}</ref>。また、[[幼生]]の化石も発見されており、最も小さな子供は直径0.2ミリメートルほどであるという。幼生は胸部の体節が少なく、成長につれて体節を増やしたと考えられる<ref>{{Cite journal|last=Hughes|first=Nigel C.|last2=Hong|first2=Paul S.|last3=Hou|first3=Jinbo|last4=Fusco|first4=Giuseppe|date=2017|title=The Development of the Silurian Trilobite Aulacopleura koninckii Reconstructed by Applying Inferred Growth and Segmentation Dynamics: A Case Study in Paleo-Evo-Devo|url=https://www.frontiersin.org/article/10.3389/fevo.2017.00037|journal=Frontiers in Ecology and Evolution|volume=5|doi=10.3389/fevo.2017.00037|issn=2296-701X}}</ref>。また、[[甲殻類]]の[[ノープリウス]]幼生に近い形の浮遊性とされる幼生らしものも発見されている。


== 生態 ==
== 生態 ==
基本的には、[[海底]]を這ったり、泳いだりして生活していたもの想像されている。泥に潜っていた、あるいは[[浮遊性]]であったと推測されているものも一部存在する。多くは腐食生活であるが、[[オレノイデス]](''Olenoides''){{Sfn|サウスウッド|2007|p=78}}のように、一部の種は捕食者である。成長は、硬い外骨格は成長につれて伸びることができないので、古いを脱ぎ捨て新しいに変える脱皮によって行われ、脱皮ごとに細部の構造わっていった{{Sfn|サウスウッド|2007|p=79}}。また、三葉虫の足跡化石[[クルジアナ]](Cruziana)と言われている。
基本的には、[[海底]]を這ったり、泳いだりして生活していた[[底生生物]]解釈されている。泥に潜っていた、あるいは[[浮遊性]]であったと推測されているものも一部存在する。多くは[[]]とされるが、[[オレノイデス]]''Olenoides''{{Sfn|サウスウッド|2007|p=78}}のように、一部の種頑強な[[顎基]]をもつことにより[[捕食者]]とされる。成長は他の節足動物と同様、硬い[[外骨格]]は成長につれて伸びることができないため、古い外骨格を脱ぎ捨て新しい外骨格に変える[[脱皮]]によって行われる。この場合頭部は表面の溝沿って最大5つのパーツに分割され、細部の構造も脱皮ごとに化が見られる{{Sfn|サウスウッド|2007|p=79}}。また、[[クルジアナ]]({{Snamei||Cruziana}})など、三葉虫の[[足跡化石]]と考えられる[[生痕化石]]も知られている。


== 分類 ==
== 分類 ==
[[1970年代]]までは、三葉虫を[[節足動物]]のなかもっとも原始的な群とする見解が主流であった。しかし、それ以降に北の[[バージェス動物群]][[グリーンランド]]の[[シリウス・パセット動物群]][[中国]]の[[澄江動物群|澄江(チェンジャン)動物群]]の記載分類学的および系統学的研究が活発に行われることで、節足動物の初期進化についての議論が活発化した。その流れのなかで、三葉虫が節足動物のなかで最も原始的といった解釈は自然消滅的に支持されなくなっていった。
[[1970年代]]までは、三葉虫を[[節足動物]]のも原始的な群とする見解が主流であった。しかし、それ以降に[[アメリカ]]の[[バージェス動物群]][[グリーンランド]]の[[シリウス・パセット動物群]]、および[[中国]]の[[澄江動物群|澄江(チェンジャン)動物群]]の記載[[分類学]]・[[系統学]]的研究が活発に行われることで、節足動物の初期進化についての議論が活発化した。その流れので、三葉虫が節足動物のなかで最も原始的といった解釈は自然消滅的に支持されなくなっていった。


[[ファイル:Aglaspis spinifer.jpg|サムネイル|[[光楯類]]の[[アグラスピス]]]]
[[ファイル:Aglaspis spinifer.jpg|サムネイル|[[光楯類]]の[[アグラスピス]]]]
三葉虫は[[ナラオイア]]、[[サペリオン]]などとも共に[[三葉形類]]([[:en:Trilobitomorpha|Trilobitomorpha]])をなし、これは更に[[光楯類]]や[[シドネイア]]などと共に[[:en:Artiopoda|Artiopoda]]類という化石節足動物の大群をなしている<ref>{{Cite book|title=Arthropods of the Lower Cambrian Chengjiang fauna, southwest China|url=https://foreninger.uio.no/ngf/FOS/pdfs/F&S_45.pdf|publisher=Scandinavian University Press|date=1997|location=Oslo|isbn=82-00-37693-1|oclc=38305908|others=Bergström, Jan, 1938-|last=Hou, Xianguang.|year=}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Ortega‐Hernández|first=Javier|last2=Legg|first2=David A.|last3=Braddy|first3=Simon J.|date=2013|title=The phylogeny of aglaspidid arthropods and the internal relationships within Artiopoda|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1096-0031.2012.00413.x|journal=Cladistics|volume=29|issue=1|pages=15–45|language=en|doi=10.1111/j.1096-0031.2012.00413.x|issn=1096-0031}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Lerosey-Aubril|author=|first=Rudy|last2=Zhu|first2=Xuejian|last3=Ortega-Hernández|first3=Javier|year=|date=2017-12|title=The Vicissicaudata revisited – insights from a new aglaspidid arthropod with caudal appendages from the Furongian of China|url=https://www.researchgate.net/publication/319275635_The_Vicissicaudata_revisited_-_Insights_from_a_new_aglaspidid_arthropod_with_caudal_appendages_from_the_Furongian_of_China|journal=Scientific Reports|volume=7|issue=1|page=|pages=11117|language=en|doi=10.1038/s41598-017-11610-5|issn=2045-2322|pmid=28894246|pmc=PMC5593897}}</ref>。現生節足動物の4つの大きな区分である[[鋏角類]]・[[多足類]]・[[甲殻類]]・[[六脚類]]に並ぶ一群としての位置はほぼ認められているが、Artiopoda類とこれらの群の類縁関係については定説がない<ref>{{Cite journal|last=Giribet|first=Gonzalo|last2=Edgecombe|first2=Gregory D.|date=2019-06-17|title=The Phylogeny and Evolutionary History of Arthropods|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982219304865|journal=Current Biology|volume=29|issue=12|pages=R592–R602|language=en|doi=10.1016/j.cub.2019.04.057|issn=0960-9822}}</ref>。古くは三葉虫から[[触角]]が退化して鋏角類が生じたとの説があり、[[カブトガニ類]]がその直接子孫だと言われたこともあが、後に鋏角類の[[鋏角]]触角相同であるとしたなどの研究が進んでおり、認められなくなった。
三葉虫は[[ナラオイア]]、[[サペリオン]]などとも共に[[三葉形類]]({{Sname||Trilobitomorpha}})をなし、これは更に[[光楯類]]や[[シドネイア]]などと共に{{Sname||Artiopoda}}類という[[化石]]節足動物の大群をなしている<ref>{{Cite book|title=Arthropods of the Lower Cambrian Chengjiang fauna, southwest China|url=https://foreninger.uio.no/ngf/FOS/pdfs/F&S_45.pdf|publisher=Scandinavian University Press|date=1997|location=Oslo|isbn=82-00-37693-1|oclc=38305908|others=Bergström, Jan, 1938-|last=Hou, Xianguang.|year=}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Ortega‐Hernández|first=Javier|last2=Legg|first2=David A.|last3=Braddy|first3=Simon J.|date=2013|title=The phylogeny of aglaspidid arthropods and the internal relationships within Artiopoda|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1096-0031.2012.00413.x|journal=Cladistics|volume=29|issue=1|pages=15–45|language=en|doi=10.1111/j.1096-0031.2012.00413.x|issn=1096-0031}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Lerosey-Aubril|author=|first=Rudy|last2=Zhu|first2=Xuejian|last3=Ortega-Hernández|first3=Javier|year=|date=2017-12|title=The Vicissicaudata revisited – insights from a new aglaspidid arthropod with caudal appendages from the Furongian of China|url=https://www.researchgate.net/publication/319275635_The_Vicissicaudata_revisited_-_Insights_from_a_new_aglaspidid_arthropod_with_caudal_appendages_from_the_Furongian_of_China|journal=Scientific Reports|volume=7|issue=1|page=|pages=11117|language=en|doi=10.1038/s41598-017-11610-5|issn=2045-2322|pmid=28894246|pmc=PMC5593897}}</ref>。現生節足動物の4つの大きな区分である[[鋏角類]]・[[多足類]]・[[甲殻類]]・[[六脚類]]に並ぶ一群としての位置はほぼ認められているが、Artiopoda類とこれらの群の類縁関係については定説がない<ref>{{Cite journal|last=Giribet|first=Gonzalo|last2=Edgecombe|first2=Gregory D.|date=2019-06-17|title=The Phylogeny and Evolutionary History of Arthropods|url=http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982219304865|journal=Current Biology|volume=29|issue=12|pages=R592–R602|language=en|doi=10.1016/j.cub.2019.04.057|issn=0960-9822}}</ref>。古くは三葉虫から[[触角]]が退化して鋏角類が生じたとの説があり、[[光楯類]]がその中間型生物、鋏角類のうち[[カブトガニ類]]がその[[祖先形質]]を色濃く残したものという解釈もあった<ref>{{Cite book|title=On the relationships and phylogeny of fossil and recent Arachnomorpha: a comparative study on Arachnida, Xiphosura, Eurypterida, Trilobita, and other fossil Arthropoda|url=https://www.worldcat.org/title/on-the-relationships-and-phylogeny-of-fossil-and-recent-arachnomorpha-a-comparative-study-on-arachnida-xiphosura-eurypterida-trilobita-and-other-fossil-arthropoda/oclc/961296639|publisher=Jacob Dybwad|date=1944|location=Oslo|oclc=961296639|language=English|first=Leif|last=Størmer}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Stürmer|first=Wilhelm|last2=Bergström|first2=Jan|date=1978-06-01|title=The arthropod ''Cheloniellon'' from the devonian hunsrück shale|url=https://doi.org/10.1007/BF03006730|journal=Paläontologische Zeitschrift|volume=52|issue=1|pages=57–81|language=en|doi=10.1007/BF03006730}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Stürmer|first=Wilhelm|last2=Bergström|first2=Jan|date=1981-12-01|title=Weinbergina, a xiphosuran arthropod from the devonian hunsrück slate|url=https://doi.org/10.1007/BF02988142|journal=Paläontologische Zeitschrift|volume=55|issue=3|pages=237–255|language=de|doi=10.1007/BF02988142}}</ref>が、[[鋏角]]触角の[[相同]]性が多方面な解析に証明され・光楯類は鋏角類的性質をもたないこが解されるなど発展に連れて、認められなくなった<ref>{{Citation|title=Heads, Hox and the phylogenetic position of trilobites|last=Scholtz|first=Gerhard|last2=Edgecombe|first2=Gregory|date=2005-04-27|url=http://www.crcnetbase.com/doi/abs/10.1201/9781420037548.ch6|publisher=CRC Press|editor-last=Koenemann|editor-first=Stefan|volume=16|pages=139–165|isbn=978-0-8493-3498-6|editor2-last=Jenner|editor2-first=Ronald|language=en|doi=10.1201/9781420037548.ch6|access-date=2022-04-15}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Dunlop|first=Jason|date=2005-11-30|title=New ideas about the euchelicerate stem-lineage|url=https://www.researchgate.net/publication/228487538|journal=Acta Zoologica Bulgarica}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Lamsdell|first=James C.|date=2013-01-01|title=Revised systematics of Palaeozoic ‘horseshoe crabs’ and the myth of monophyletic Xiphosura|url=https://doi.org/10.1111/j.1096-3642.2012.00874.x|journal=Zoological Journal of the Linnean Society|volume=167|issue=1|pages=1–27|doi=10.1111/j.1096-3642.2012.00874.x|issn=0024-4082}}</ref>
{{Main|鋏角類#化石節足動物との関係性}}[[Image:Pseudoasaphus praecurrens MHNT.PAL.2003.439.jpg|thumb|''Pseudoasaphus praecurrens'']]

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[[画像:Phacops rana.jpg|thumb|{{Snamei||Phacops speculator}}の化石]]
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古生物学の分類学的辞書ともいえる『Treatise of Invertebrate Paleontology』においては、三葉虫種全てを三葉虫綱(Class Trilobita)としてまとめている。三葉虫の化石は、ほとんどのものが背側に備わった石灰質の"甲羅"(背板)のみが化石化しているため、分類の定義は背板上の形質に頼らざるを得ない。これは、付属肢などの生体部の形状を重要視して分類同定を行う現生の節足動物群とは根本的に異なるので注意が必要である。つまり不完全な記載分類学的研究ではあるが、その研究の歴史は古く、[[18世紀]]後半には三葉虫を節足動物の中の独立したグループとする見解が提出され、また[[分類学]]の始祖とされる[[スウェーデン]]の[[カール・フォン・リンネ]]も三葉虫を数種記載している。ただし現今では新種報告の数が著しい減少傾向にあるとされ、主流となる三葉虫研究の方向性の転換も求められているようである。この長い記載分類学の歴史を経た現在、三葉虫綱では8(研究者によっては9、10とする見解もある)の目、170超の科、そして1万超の種とする見解が主流である。
[[古生物学]]の分類学的辞書ともいえる1953年の『Treatise of Invertebrate Paleontology<ref>{{Cite web |title=Treatise on Invertebrate Paleontology |url=http://paleo.ku.edu/treatise2/treatise.html |website=paleo.ku.edu |access-date=2022-04-15}}</ref>』においては、三葉虫種全てを三葉虫綱(Class Trilobita)としてまとめている。三葉虫の化石は、ほとんどのものが背側に備わった石灰質の[[外骨格]][[背板]])のみが化石化しているため、分類の定義は背板上の形質に頼らざるを得ない。これは、付属肢などの生体部の形状を重要視して分類同定を行う現生の節足動物群とは根本的に異なるので注意が必要である。つまり不完全な記載分類学的研究ではあるが、その研究の歴史は古く、[[18世紀]]後半には三葉虫を節足動物の中の独立したグループとする見解が提出され、また[[分類学]]の始祖とされる[[スウェーデン]]の[[カール・フォン・リンネ]]も三葉虫を数種記載している。ただし現今では新種報告の数が著しい減少傾向にあるとされ、主流となる三葉虫研究の方向性の転換も求められているようである。この長い記載分類学の歴史を経た現在、三葉虫綱では8(研究者によっては9、10とする見解もある)の目、170超の科、そして1万超の種とする見解が主流である。


三葉虫綱における高次分類群間の類縁関係については、[[1950年代]]以降に飛躍的に増加した個体発生過程の情報を用いた研究結果に頼るところが大きい。しかしながら、化石化されない生体部の情報がほぼ完全に欠如しているといったデメリットなどにも起因し、研究者間の見解の一致には未だ遠く、今後も大幅な改訂があるかもしれない。
三葉虫綱における高次分類群間の類縁関係については、[[1950年代]]以降に飛躍的に増加した個体発生過程の情報を用いた研究結果に頼るところが大きい。しかしながら、化石化されない生体部の情報がほぼ完全に欠如しているといったデメリットなどにも起因し、研究者間の見解の一致には未だ遠く、今後も大幅な改訂があるかもしれない。
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;[[アグノスタス目]] {{Sname||Agnostida}}
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:アグノスタス亜目とエオディスカス亜目があり、双方とも体サイズが{{読み仮名|矮小|わいしょう}}化しており(通常5 - 6ミリメートル程度)、前者は2・後者は3の胸節で構成される胸部、そして頭部とよく似た尾部といった特徴を持つ。特にアグノスタス亜目は、側葉部に通常認められる複眼を持たない。一方、エオディスカス亜目にはアベイソクローラル型複眼と呼ばれる特殊な形状の複眼が備わる。付属肢などの生体部が保存されたアグノスタス亜目のアグノスタス・ピシフォルミス {{Snamei||Agnostus pisiformis}} の化石が、スウェーデン中部カンブリア系の[[オルステン動物群]]より報告されている。全く変形のない生きた姿がそのまま保存されたかのような5億年前の生物体であるだけでも驚嘆すべきであるが、その付属肢の形状には従来知られていた三葉虫の付属肢の情報とは全く異なる特徴を備えていることも報告された。通常の三葉虫では、生物体の最前方に備わる一対の単肢型触角と、その後方にサイズが減少するものの形状にはほぼ変化がない二肢型付属肢が各体節に一対備わっている。一方のアグノスタス・ピシフォルミスでは、一対の単肢型触角(現在の甲殻類では二肢(叉)型)が備わり、その後方の頭部では内肢と外肢で形状および双方のサイズ比率が異なる二肢型付属肢が、胸部と尾部にはほぼ同形でサイズが異なる二肢型付属肢が各体節に一対ずつ備わっている。この付属肢形態の相違をもとに、アグノスタス類を三葉虫綱に含めない研究者もいる。
:アグノスタス亜目とエオディスカス亜目があり、双方とも体サイズが{{読み仮名|矮小|わいしょう}}化しており(通常5 - 6ミリメートル程度)、前者は2・後者は3の胸節で構成される胸部、そして頭部とよく似た尾部といった特徴を持つ。特にアグノスタス亜目は、肋部部に通常認められる複眼を持たない。一方、エオディスカス亜目にはアベイソクローラル型複眼と呼ばれる特殊な形状の複眼が備わる。付属肢などの生体部が保存されたアグノスタス亜目のアグノスタス・ピシフォルミス {{Snamei||Agnostus pisiformis}} の化石が、スウェーデン中部カンブリア系の[[オルステン動物群]]より報告されている。全く変形のない生きた姿がそのまま保存されたかのような5億年前の生物体であるだけでも驚嘆すべきであるが、その付属肢の形状には従来知られていた三葉虫の付属肢の情報とは全く異なる特徴を備えていることも報告された。通常の三葉虫では、生物体の最前方に備わる一対の単肢型触角と、その後方にサイズが減少するものの形状にはほぼ変化がない二肢型付属肢が各体節に一対備わっている。一方のアグノスタス・ピシフォルミスでは、一対の単肢型触角(現在の甲殻類では二肢(叉)型)が備わり、その後方の頭部では内肢と外肢で形状および双方のサイズ比率が異なる二肢型付属肢が、胸部と尾部にはほぼ同形でサイズが異なる二肢型付属肢が各体節に一対ずつ備わっている。この付属肢形態の相違をもとに、アグノスタス類を三葉虫綱に含めない研究者もいる。
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:平滑な体型をしており、防御姿勢(Enrollment)をとれない。尾板は通常非常に小さく、胸節の数は多い。顔線を持たないオレネルス類と、顔線を有するレドリキア目を含む。カンブリア紀のみ。
:平滑な体型をしており、防御姿勢(Enrollment)をとれない。尾板は通常非常に小さく、胸節の数は多い。顔線を持たないオレネルス類と、顔線を有するレドリキア目を含む。カンブリア紀のみ。

2022年4月15日 (金) 11:56時点における版

三葉虫
三葉虫 Elrathia kingi化石
保全状況評価
絶滅(化石
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : Artiopoda
階級なし : 三葉形類 Trilobitomorpha
: 三葉虫綱 Trilobita
学名
Trilobita
Walch, 1771
英名
Trilobite

三葉虫(さんようちゅう、トライロバイト、英語: trilobite学名: Trilobita)は、古生代にかけて生息した化石節足動物分類群である。分類学上は三葉虫とされ、横で3部に分かれた硬い外骨格を背面にもつ。古生代を代表する動物であり、冒頭のカンブリア紀から繫栄し、終焉のペルム紀末で絶滅した。1万以上が知られる多様なグループ[1]化石も多産し、示準化石としても重視される。

形態

体は前後に数多くの体節からなり、各体節に一対の付属肢関節肢)が備わっていたと考えられている。背面の外骨格背板 tergite)は、縦割りに中央部の軸部(axis)とそれを左右対となって挟む肋部(pleura)となっており、この縦割り三区分が三葉虫(trilobite)の名称の由来となっている[2]。また、体節は前後に頭部(cephalon)・胸部(thorax)・尾部(pygidium)という3つの合体節にまとめられる。頭部と尾部は複数体節の融合でできてきた1枚の背板に覆われ、胸部は可動に分節した2節から60節以上の胸節(thoracic segment)で構成されている。付属肢関節肢)は全てが体の下に覆われる。

軸部はアーチ状に盛り上がり、肋部は比較的平坦であるが、より派生的な系統では肋部の外側が腹側へと傾斜する傾向を持つ。このため、三葉虫が腹側へと丸まった時に胸節肋部の外側域が重なり合い、背板で生体部を覆うこととなる防御姿勢(enrollment)の構築が可能となり、一部の種ではほぼ球状に丸める。頭部には、通常複眼が左右に1対あるが、頭部に対する相対的なサイズはさまざまであり、目を退化消失した種もさまざまな系統で知られている。複眼のレンズは全身の外骨格と同じ方解石(カルサイト)という鉱物でできており、多数の個眼を持ち、その数は数百に及ぶ。ほとんどの種では正面と両側面の視覚が優れていたことが明らかにされている[3]は頭部軸部の腹側にあり、より腹側にある石灰質のハイポストーマ(hypostome)という現生節足動物の上唇に類する構造で覆われたと考えられている。そのため、口は体の後方を向いていたと考えられている。三葉虫を含んだArtiopoda類全般にあたる特徴として[4]、頭部に含まれる体節数は少なくとも5節(先節+第1-4体節)があるとされ、それに応じて少なくとも4対の付属肢(触角1対と歩脚型付属肢3対)が先節直後の第1-4体節に配置される。ハイポストーマを上唇と同様に付属肢由来と考えれば、これは先節由来の付属肢となる[4]

三葉虫の脚

触角以降の付属肢は頭部・胸部・尾部を通じてほぼ同形で、触角直後の頭部付属肢ですら現生の大顎類多足類甲殻類昆虫など)ののように特化することはない。触角以外の付属肢は基本的に二叉型(biramous)であり、主に歩行に用いたとされる腹側の内肢(endopod)と、基部の原節(protopod, basipod)から外側へと分岐し櫛歯状の部位を有する外肢(exopod)で構成される。また、それぞれを歩脚/として機能的観点からの呼称を用いるケースが多いが、これは形状のみに立脚する研究を行う古生物学にとって多くの混乱を産み出す要因となっているとのコメントもある[5]。顎はないが、歩脚の基部は内側に向けて嚙み合わせた顎基(gnathobase)という鋸歯状の内突起をもつ場合が多い。

2000年代現在、知られる三葉虫の化石のうちで最も大きいものは全長90センチメートルほどあると推測され[6]、小さいものは成体でも1ミリメートル程度である[7]。また、幼生の化石も発見されており、最も小さな子供は直径0.2ミリメートルほどであるという。幼生は胸部の体節が少なく、成長につれて体節を増やしたと考えられる[8]。また、甲殻類ノープリウス幼生に近い形の浮遊性とされる幼生らしきものも発見されている。

生態

基本的には、海底を這ったり、泳いだりして生活していた底生生物と解釈されている。泥に潜っていた、あるいは浮遊性であったと推測されているものも一部存在する。多くは腐肉食者とされるが、オレノイデスOlenoides[9])のように、一部の種類は頑強な顎基をもつことにより捕食者とされる。成長は他の節足動物と同様、硬い外骨格は成長につれて伸びることができないため、古い外骨格を脱ぎ捨て新しい外骨格に変える脱皮によって行われる。この場合、頭部は表面の溝に沿って最大5つのパーツに分割され、細部の構造も脱皮ごとに変化が見られる[10]。また、クルジアナCruziana)など、三葉虫の足跡化石と考えられる生痕化石も知られている。

分類

1970年代までは、三葉虫を節足動物の中で最も原始的な群とする見解が主流であった。しかし、それ以降に北アメリカバージェス動物群グリーンランドシリウス・パセット動物群、および中国澄江(チェンジャン)動物群の記載分類学系統学的研究が活発に行われることで、節足動物の初期進化についての議論が活発化した。その流れの中で、三葉虫が節足動物のなかで最も原始的といった解釈は自然消滅的に支持されなくなっていった。

光楯類アグラスピス

三葉虫はナラオイアサペリオンなどとも共に三葉形類Trilobitomorpha)をなし、これは更に光楯類シドネイアなどと共にArtiopoda類という化石節足動物の大群をなしている[11][12][13]。現生節足動物の4つの大きな区分である鋏角類多足類甲殻類六脚類に並ぶ一群としての位置はほぼ認められているが、Artiopoda類とこれらの群の類縁関係については定説がない[14]。古くは三葉虫から触角が退化して鋏角類が生じたとの説があり、光楯類がその中間型生物、鋏角類のうちカブトガニ類がその祖先形質を色濃く残したものという解釈もあった[15][16][17]が、鋏角と触角の相同性が多方面な解析に証明される・光楯類は鋏角類的性質をもたないことが解明されるなど発展に連れて、認められなくなった[18][19][20]

Pseudoasaphus praecurrens
Phacops speculatorの化石

古生物学の分類学的辞書ともいえる1953年の『Treatise of Invertebrate Paleontology[21]』においては、三葉虫種全てを三葉虫綱(Class Trilobita)としてまとめている。三葉虫の化石は、ほとんどのものが背側に備わった石灰質の外骨格背板)のみが化石化しているため、分類の定義は背板上の形質に頼らざるを得ない。これは、付属肢などの生体部の形状を重要視して分類同定を行う現生の節足動物群とは根本的に異なるので注意が必要である。つまり不完全な記載分類学的研究ではあるが、その研究の歴史は古く、18世紀後半には三葉虫を節足動物の中の独立したグループとする見解が提出され、また分類学の始祖とされるスウェーデンカール・フォン・リンネも三葉虫を数種記載している。ただし現今では新種報告の数が著しい減少傾向にあるとされ、主流となる三葉虫研究の方向性の転換も求められているようである。この長い記載分類学の歴史を経た現在、三葉虫綱では8(研究者によっては9、10とする見解もある)の目、170超の科、そして1万超の種とする見解が主流である。

三葉虫綱における高次分類群間の類縁関係については、1950年代以降に飛躍的に増加した個体発生過程の情報を用いた研究結果に頼るところが大きい。しかしながら、化石化されない生体部の情報がほぼ完全に欠如しているといったデメリットなどにも起因し、研究者間の見解の一致には未だ遠く、今後も大幅な改訂があるかもしれない。

下記は三葉虫綱8目の主な形態的特徴と生息していた地質時代である。

アグノスタス目 Agnostida
アグノスタス亜目とエオディスカス亜目があり、双方とも体サイズが矮小わいしょう化しており(通常5 - 6ミリメートル程度)、前者は2・後者は3の胸節で構成される胸部、そして頭部とよく似た尾部といった特徴を持つ。特にアグノスタス亜目は、肋部部に通常認められる複眼を持たない。一方、エオディスカス亜目にはアベイソクローラル型複眼と呼ばれる特殊な形状の複眼が備わる。付属肢などの生体部が保存されたアグノスタス亜目のアグノスタス・ピシフォルミス Agnostus pisiformis の化石が、スウェーデン中部カンブリア系のオルステン動物群より報告されている。全く変形のない生きた姿がそのまま保存されたかのような5億年前の生物体であるだけでも驚嘆すべきであるが、その付属肢の形状には従来知られていた三葉虫の付属肢の情報とは全く異なる特徴を備えていることも報告された。通常の三葉虫では、生物体の最前方に備わる一対の単肢型触角と、その後方にサイズが減少するものの形状にはほぼ変化がない二肢型付属肢が各体節に一対備わっている。一方のアグノスタス・ピシフォルミスでは、一対の単肢型触角(現在の甲殻類では二肢(叉)型)が備わり、その後方の頭部では内肢と外肢で形状および双方のサイズ比率が異なる二肢型付属肢が、胸部と尾部にはほぼ同形でサイズが異なる二肢型付属肢が各体節に一対ずつ備わっている。この付属肢形態の相違をもとに、アグノスタス類を三葉虫綱に含めない研究者もいる。
レドリキア目 Redlichiida
平滑な体型をしており、防御姿勢(Enrollment)をとれない。尾板は通常非常に小さく、胸節の数は多い。顔線を持たないオレネルス類と、顔線を有するレドリキア目を含む。カンブリア紀のみ。
コリネクソカス目 Corynexochida
肥大した頭鞍を持つグループ。頭部付属肢が特化していたと考える研究者もいる。主にカンブリア紀に繁栄したコリネクソカス類と、オルドビス紀以降に栄えた比較的のっぺりとしたイラエナス類、団扇状の尾板を持つティサノペルティス(スクテラム)類等がある。カンブリア紀前期からデボン紀中期。
アサフス目 Asaphida
のっぺりとした体を持つグループ。幼生期は浮遊生活を送っていたと考えられている。オルドビス紀からデボン紀中期。
ファコプス目 Phacopida
オルドビス紀以降に非常に栄えたグループ。棘の多い体をもつケイルルス類、特徴的なコブのある頭鞍をもつカリメネ類、非常に発達した眼をもつ(ものが多い)ファコプス類が含まれる。眼は個眼が独立して集まった集合複眼。カンブリア紀末からデボン紀後期。
プロエトゥス目 Proetida
楕円形状の体と曲玉状の眼をもつグループで出現が最も遅く(オルドビス紀)、一番後(ペルム紀末)まで生き残っている。しばしばこの仲間のみがまとまって見つかることも多いため、集団で生活していたとも考えられている。
プティコパリア目 Ptychopariida
比較的特徴のない三葉虫のグループ。カンブリア紀からデボン紀後期。最も原始的と考えられているプティコパリア類、カンブリア紀後期からオルドビス紀に繁栄した胸節が多節化しているオレヌス類、西洋竪琴型の頭を持つハルペス類がふくまれる。研究者によっては最後のハルペス類を「ハルペス目」として独立させている。
リカス目 Lichida
装飾の多い頭鞍と、体の縁にを持つことの多いグループ。防御姿勢がとれない代わりに棘が発達したとする研究者もいる。以前は別々の目とされていたリカス類とオドントプレウラ類、及びダメセラ類を含む。カンブリア紀後期からデボン紀中期。

主な種類

アークティヌルス Arctinurus
ヨーロッパ北アメリカシルル紀層で発見される。大型で、幅は10センチメートルくらいある。「三葉虫の王様」とも呼ばれる[22]
アルバーテラ Albertella
ロッキー山脈などのカンブリア紀層で発見される。全長8センチメートル。
ダイフォン Deiphon
イギリスのシルル紀層で発見された。棘が多い。全長4センチメートル。
ダルマニテス Dalmanites
世界中で発見されている、古生代中頃の最も代表的な三葉虫。幅3センチメートル。
パラドキシデス Paradoxides
カンブリア紀の大型(全長40センチメートル前後)の三葉虫。
フィリップシア Phillipsia
日本でも発見された。古生代後期。小型(幅2センチメートル)。
エルラシア・キンギ Elrathia kingi
アメリカ合衆国ユタ州で発見。カンブリア紀のもので、全長1.6センチメートルほど。
アサフス(ネオアサフス)・コワレフスキー Asaphus kowalewskii
ロシアサンクトペテルブルク近郊のヴォルホフ川流域のオルドビス紀層で発見される。全長2.5センチメートルほど。

絶滅

Asaphus kowalewskii, ロシア産の三葉虫

衰退、絶滅の正確な理由はわかっていないが、多様性、生息数が減少しはじめたシルル紀およびデボン紀サメを含む魚類が登場、台頭していることと何らかの関係があるという説がある。それでも一部の系統は命脈を保ち続けていたが最終的にペルム紀末期の大量絶滅に巻き込まれる形で絶滅した。

文化

三葉虫は有名な化石生物の一つで、無脊椎動物ではアンモナイトとで双璧をなす。化石を装飾品にすることもあるが、日本ではほとんど産出しないため、南アメリカなどから輸入されている。

脚注

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参考文献

関連項目

外部リンク