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'''セオデン'''({{Lang|ang|'''Théoden'''}}、[[第三紀 (トールキン)|第三紀]]2948年 - 第三紀3019年3月15日)は、[[J・R・R・トールキン]]の[[中つ国 (トールキン)|中つ国]]を舞台とした小説、『[[指輪物語]]』の登場人物。第17代の[[ローハン]]王である。サルマンの魔法による衰弱から、ガンダルフの癒しによって回復し、ふたたび剣をとったことから、'''セオデン・エドニュー'''({{Lang|ang|'''Théoden Ednew'''}}、更生せるセオデン)と呼ばれる。


{{Infobox character|name=セオデン<br/>Théoden|series=[[J・R・R・トールキン]]の<br/>[[中つ国]]の伝説体系|alias=セオデン・エドニュー(更生せる)|species=[[人間 (トールキン)|人間]](ローハン国人)|gender=男性|age=71歳(『[[指輪物語]]』)|family=センゲル(父)<br/>ロスサールナッハのモルウェン(母)<br/>不詳の姉妹<br/>セオドウィン(妹)|spouse=エルフヒルド(妻)|children=セオドレド(長男)|relatives=[[エオメル]](甥)<br/>[[エオウィン]](姪)|nationality=ローハン|lbl1=登場作品|data1=[[二つの塔]]<br/>[[王の帰還]]<br/>[[終わらざりし物語]]|title=[[ローハン]]の国王}}
父は第16代のローハン王[[ローハンの王たち#ゴンドール帰り|センゲル]]、母はロッサルナッハのモルウェン。4人の姉妹がいる。妻はエルフヒルド。息子はセオドレドである。
[[Category:Articles using Infobox character with multiple unlabeled fields|4Théoden]]
'''セオデン'''(Théoden、セーオデン{{Efn|『指輪物語』電子版(2019)、『終わらざりし物語』文庫版(2022)での表記。}})は、 [[J・R・R・トールキン]]の[[ファンタジー]]小説『[[指輪物語]]』に登場する架空の人物。[[ローハン]]の国王であり、ロヒアリムが自国を呼ぶ名から「マークの君主」もしくは「リダーマークの君主」と呼ばれ、[[二つの塔|「二つの塔」]]と[[王の帰還|「王の帰還」]]で主要なキャラクターとして登場する。はじめセオデンは加齢し悲嘆に暮れ、相談役である[[蛇の舌グリマ]]の策略により衰弱してローハンの退勢に対処せずにいるが、魔法使い[[ガンダルフ]]の手で更生し、[[サルマン]]と[[サウロン]]に対する戦いにおける主要な同盟者となる。


研究者はセオデンを[[西ゴート王国|西ゴート王]][[テオドリック1世|テオドリック]]と比較し、[[ペレンノール野の合戦]]でのセオデンの死と[[カタラウヌムの戦い]]でのテオドリックの死を対比する。いっぽうで作中では同じ為政者である[[ゴンドール]]の執政[[デネソール]]とも対比され、冷然としたデネソールに対し、セオデンは友好的で大度である。
== 人物像 ==
劇中に登場したときは蛇の舌グリマとその背後の[[サルマン]]のたくらみによってすっかり衰えており、背筋も曲がってまるで[[ドワーフ (トールキン)|ドワーフ]]のように見えた。しかし[[ガンダルフ]]との会話によって生気を取り戻すと、顔からしわが消え、杖も不要となった。このことからローハンの伝承では、「更生せるセオデン」を意味する、セオデン・エドニュー({{Lang|ang|Théoden Ednew}})と呼ばれる。


== 作中での経歴 ==
老齢なのは事実なので、体力が長続きしない旨の発言もあるが、[[ペレンノール野の合戦]]では黄金の盾を構えて先陣を切り、南国人ハラドリムの首領と旗手を討ち取るなど、武勇で若者に遅れをとることはない。また意志力も堅固であり、聴くものすべてを魅了するサルマンの声にも、全力を出されるまでは抵抗して見せた。


=== 二つの塔 ===
[[アイゼンガルド]]で初めて[[ホビット]]2名と出会ったときに礼儀正しく好意的に接したので、2人からも大いに好かれた。[[ペレグリン・トゥック]]は初対面で「立派なお年寄り」と評し、自ら王への奉公を申し出た[[メリアドク・ブランディバック]]からは父親のように慕われていた。
セオデンは『[[指輪物語]]』の第二部「[[二つの塔]]」において、[[ローハン]]の王として登場する。この時点で、セオデンは加齢とともに衰弱し、堕落した魔法使い[[サルマン]]の意を受けた相談役である[[蛇の舌グリマ]]によってほとんど操られていた<ref name="King of the Golden Hall" group="T">{{Harvnb|Tolkien|1954<!--TT-->|loc=book 3, ch. 6 "The King of the Golden Hall"}}(「二つの塔 上」 六「黄金館の王」)</ref>。「指輪狩り{{Efn|[[一つの指輪]]が再び世に出たことを察知したサウロンが[[指輪の幽鬼]]をホビット庄へ送りこんだ経緯についてのJ・R・R・トールキンによる未完成原稿。}}」についての最後の未完成原稿のひとつでは、蛇の舌は「彼の助言のとりことなっている」王に対し「大きな影響力を持つ」と述べている<ref name="Hammond Scull 2005">{{Cite book|last=Hammond|first=Wayne G.|author-link=Wayne G. Hammond|last2=Scull|first2=Christina|author2-link=Christina Scull|title=The Lord of the Rings: A Reader's Companion|publisher=HarperCollins|year=2005|isbn=978-0-00-720907-1|pages=249, 402}}</ref>。『終わらざりし物語』では、この王の健康の問題について「グリーマが遅効性の毒を与え、病を誘発するか増加させたことは十分ありうる<ref group="T">{{Cite book|和書|title=終わらざりし物語|date=2022|publisher=河出書房新社|author=J・R・R・トールキン|author-link=J・R・R・トールキン|edition=文庫版初版|editor=[[クリストファ・トールキン]]|chapter=V アイゼンの浅瀬の合戦|volume=下巻 第三部|translator=山下なるや}}</ref>」としている<ref group="T">{{Harvnb|Tolkien|1980|loc=Part 3, ch. 5 "The Battles of the Fords of Isen"}}</ref>。セオデンが無力化されているあいだローハンは、[[アイゼンガルド]]から支配するサルマンの指導下にある[[オーク (トールキン)|オーク]]と[[褐色人]]の攻撃に悩まされた<ref name="King of the Golden Hall" group="T" />。
{{Quote box|quote=この響きに王の屈んだ背は不意に真っ直に伸びました。かれはふたたび丈高く堂々と見えました。そして鐙に足を置いたまま、かれは立ち上がって、声高く呼ばわりました。その声は居合わせただれもがかつて命限りある人間の口からは聞いたことがないほどはっきりと澄んだ声でした。


{{Indent|立てよ、立て、セオデンの騎士らよ!<br/>捨身の勇猛が眼ざめた、火と殺戮ぞ!<br/>槍を振え、盾をくだけよ、<br/>剣の日ぞ、赤き血の日ぞ、日の上る前ぞ!<br/>いざ進め、いざ進め、ゴンドールへ乗り進め!}}|author=[[J・R・R・トールキン]]、[[瀬田貞二]]・[[田中明子]]訳|source=新版『指輪物語』「[[王の帰還]] 上」|width=35%|align=right}}
== 経歴 ==
「二つの塔」で、セオデンの前に[[レゴラス]]と[[ギムリ]]を連れた[[ガンダルフ]]と[[アラゴルン]]が現れたとき、はじめ彼はサルマンと戦うべきだというガンダルフの助言を拒否する。しかしガンダルフがグリマの影響を取り払い、セオデンは正気を取り戻す。彼はグリマの讒言で投獄していた甥[[エオメル]]を釈放させ、愛剣ヘルグリムを取り<ref name="King of the Golden Hall" group="T">{{Harvnb|Tolkien|1954<!--TT-->|loc=book 3, ch. 6 "The King of the Golden Hall"}}(「二つの塔 上」 六「黄金館の王」)</ref> 、老齢にもかかわらず[[角笛城の合戦]]を指揮してローハンを勝利に導いた<ref group="T">{{Harvnb|Tolkien|1954<!--TT-->|loc=book 3, ch. 7 "Helm's Deep"}}(「二つの塔 上」 七「ヘルム峡谷」)</ref>。それから彼はアイゼンガルドが[[木の鬚|ファンゴルン]]の森の[[エント]]によって破壊された有様を実見し<ref group="T">{{Harvnb|Tolkien|1954<!--TT-->|loc=book 3, ch. 8 "The Road to Isengard"}}(「二つの塔 上」 八「アイゼンガルドへの道」)</ref>、オルサンクの塔でサルマンと話し、ガンダルフがサルマンの杖を壊すところに立ち会う<ref group="T">{{Harvnb|Tolkien|1954<!--TT-->|loc=book 3, ch. 10 "The Voice of Saruman"}}(「二つの塔 上」 十「サルマンの声」)</ref>。
セオデンはローハンの王子センゲルとモルウェンの第二子として生まれた。センゲルがゴンドールに滞在していたため、ゴンドールでの誕生であった。2953年、センゲルの父であるローハン王フェンゲルが死去し、センゲルはローハンに戻り、即位した。


=== 王の帰還 ===
セオデンはセンゲルの唯一の息子であり、4人の姉妹がいた。その中でも、末妹のセオドウィンを非常に愛していた。
「王の帰還」では、セオデンはペレンノール野の合戦でロヒアリムを率い、[[ゴンドール]]を救援する<ref group="T">{{Harvnb|Tolkien|1955<!--ROTK-->|loc=book 5, ch. 3 "The Muster of Rohan"}}(「王の帰還 上」 三「ローハンの招集」)</ref><ref group="T" name="Ride of the Rohirrim">{{Harvnb|Tolkien|1955<!--ROTK-->|loc=book 5, ch. 5 "The Ride of the Rohirrim"}}(「王の帰還 上」 五「ローハン軍の長征」)</ref>。戦いの中、彼は[[ハラド]]の騎馬部隊を破り、その首領を自ら討ち取った。さらに[[指輪の幽鬼]]の長である[[アングマールの魔王]]と対決するが、愛馬雪の鬣から振り落とされて下敷きとなり、致命傷を負う。姪の[[エオウィン]]と[[ホビット]]の[[メリアドク・ブランディバック]]が仇を討ち魔王を倒すと、いまわの時にあって、セオデンはメリーとエオメルに別れを告げた。<ref group="T">{{Harvnb|Tolkien|1955<!--ROTK-->|loc=book 5, ch. 6 "The Battle of the Pelennor Fields"}}(「王の帰還 上」 六「ペレンノール野の合戦」)</ref>


セオデンの遺体は、[[サウロン]]が敗北した後にローハンに埋葬されるまで[[ゴンドール|ミナス・ティリス]]に安置された。セオデンは青年王エオルより続くローハン王家、その第二家系の最後の人物であった。 <ref group="T">{{Harvnb|Tolkien|1955<!--ROTK-->|loc=book 6, ch. 5 "The Steward and the King"}}(「王の帰還 下」 五「執政と王」)</ref>
セオデンは父の死により、2980年に第17代ローハン王に即位した。


== 語源 ==
3002年、セオドウィンの夫であるマークの軍団長エオムンドがオークに襲撃され戦死し、まもなくセオドウィンも病死したため、セオデンは2人の間に生まれた[[エオメル]]、[[エオウィン]]を王宮に引き取り、養育した。
[[ファイル:Beowulf_-_theoden.jpg|サムネイル| 「王子」または「王」を意味する古英語の「セオデン」]]
''Théoden''は、[[古英語]]''þeod''(人、国)から派生した''þēoden''(王、王子)をそのまま音訳した名である<ref name="Wynne 2013">{{Cite book|first=Hilary|last=Wynne|editor-first=Michael D. C.|editor-last=Drout|editor-link=Michael D. C. Drout|title=[[The J. R. R. Tolkien Encyclopedia]]|edition=first|year=2013|origyear=2006|publisher=[[Routledge]]|isbn=978-0-415-96942-0|page=643|chapter=Theoden|chapter-url=https://books.google.com/books?id=B0loOBA3ejIC&q=Th%C3%A9oden&pg=PA643|quote='the [[Tribal chief|chief]] of a :þeod (a nation, people)'... His name as King, Theoden "Ednew," comes from the Old English ''ed-niowe'', 'To recover, renew.'}}</ref><ref>{{Cite web |url=http://bosworth.ff.cuni.cz/031679 |title=þeóden |website=[[An Anglo-Saxon Dictionary]] (Online) |first=Joseph |author=Bosworth |authorlink=Joseph Bosworth |publisher=[[Charles University]]}} - (also spelled ''ðeoden''), cognate with the [[古ノルド語|Old Norse]] word ''þjóðann''</ref>{{Sfn|Solopova|2009|p=21. "Théoden ('Lord' in Old English)"}}。トールキンの伝説体系に登場する他の説明的な名前と同様、トールキンはこの名前を用いることで、テキストが「歴史的」、「現実的」、または「古語的」であるという印象を与えている。トールキンは作中の[[西方語]](共通語)を現代英語に訳して表現するいっぽう、西方語の古語としたローハン語には古英語をあてることで、中つ国の言語体系に巧妙に適合したものとした。 {{Sfn|Solopova|2009|p=22}}


== 研究 ==
セオデンはガルモドの息子グリマを顧問として採用し、助言を受けたが、彼は[[アイゼンガルド]]の[[サルマン]]の間者であった。セオデンはグリマとその背後にあるサルマンの影響により心身ともに衰弱した。さらに、グリマの助言を政策として採用することにより、アイゼンガルドに対して警戒することができず、3018年秋、オルサンクから脱出した[[ガンダルフ]]がアイゼンガルドの背信を警告し、さらにアイゼンガルドがローハンに対し敵意を明らかにした後にも、有効な反撃をとることなく消極策に終始した。
研究者のエリザベス・ソロポワによれば、セオデンの人物像は、戦いによる死が迫っていることを知った主人公が見せる不退転の決意という、[[北欧神話]]、特に[[ベーオウルフ]]の叙事詩における勇気の概念に触発されたものである。これは、ペレンノール野の合戦で圧倒的に有力なサウロンの軍勢と対決するというセオデンの決意に反映されている{{Sfn|Solopova|2009|pp=28-29}}。トールキンは、6世紀の歴史家[[ヨルダネス]]によるカタラウヌムの戦いの歴史的記述についても繰り返し言及した。いずれの戦いも「東」([[フン族]])と「西」([[古代ローマ|ローマ人]]とその同盟国である[[西ゴート族]])の文化の間で行われ、ヨルダネス同様、トールキンもこの戦いを幾世代にも及ぶ伝説的な名声の1つであると表現している。もう1つの明らかな類似点は、カタラウヌム平原における西ゴート王[[テオドリック1世]]の死と、ペレンノール野におけるセオデンの死である。ヨルダネスは、テオドリックは乗馬から振り落とされ、突撃する配下の兵たちによって踏みにじられて死んだと記録している。セオデンもまた、斃れる直前に自らのもとに部下を集結させたが、落馬して愛馬の下敷きとなった。そしてテオドリック同様、戦いがなお続くなか、セオデンは主君のために涙し歌う王の騎士たちの手で戦場から運びだされた。 {{Sfn|Solopova|2009|pp=70-73}}
{| class="wikitable" style="margin-left: auto; margin-right: auto; border: none;"
|+エリザベス・ソロポワによるセオデンと[[テオドリック1世|テオドリック]]の比較{{Sfn|Solopova|2009|pp=70-73}}
!状況
!セオデン
!テオドリック
|-
|最後の戦い
|[[ペレンノール野の合戦]]
|[[カタラウヌムの戦い]]
|-
|交戦勢力「西」対「東」
|[[ローハン]]、[[ゴンドール]]対[[モルドール]]、東夷
|[[古代ローマ|ローマ人]]、[[西ゴート族]]対[[フン族]]
|-
|死因
|馬から投げだされ、下敷きになる
|馬から投げ出され、突撃する自軍に踏みにじられる
|-
|哀悼
| colspan="2" |配下の騎士により、歌と涙とともに戦場から運びだされる
|}
[[ジェーン・チャンス]]のようなトールキン研究者は、セオデンを作中の別の「ゲルマン的な王」であるゴンドール最後の統治権を持つ執政[[デネソール]]と対比させる。チャンスの見解では、セオデンは善、デネソールは悪を表す。彼女は、彼らの名前はほぼ[[アナグラム]]であり、セオデンがホビットのメリアドクによる奉仕を親愛ある友情をもって受け入れるのに対し、デネソールはメリーの友人[[ペレグリン・トゥック]]を厳粛な忠誠の契約によって遇するとする{{Sfn|Nitzsche|1980|pp=119-122}}。 [[ヒラリー・ウィン]]は''The J. R. R. Tolkien Encyclopedia''において、セオデンとデネソールはともに絶望するものの、ガンダルフによって「更生せる」セオデンはヘルム峡谷での絶望的な戦いに勝利し、ペレンノール野の合戦で「彼の攻撃がミナス・ティリスの街を略奪と破壊から救った」と書いている<ref name="Wynne 2013">{{Cite book||first=Hilary|last=Wynne|editor-first=Michael D. C.|editor-last=Drout|editor-link=Michael D. C. Drout|title=[[The J. R. R. Tolkien Encyclopedia]]|edition=first|year=2013|origyear=2006|publisher=[[Routledge]]|isbn=978-0-415-96942-0|page=643|chapter=Theoden|chapter-url=https://books.google.com/books?id=B0loOBA3ejIC&q=Th%C3%A9oden&pg=PA643|quote='the [[Tribal chief|chief]] of a :þeod (a nation, people)'... His name as King, Theoden "Ednew," comes from the Old English ''ed-niowe'', 'To recover, renew.'}}</ref>。


多くの学者は、最後の戦いに進むセオデンの姿をたとえた'''「この世界がまだ若かった頃の[[ヴァラ|ヴァラール]]の合戦における偉大な狩人[[オロメ]]とさえも見える'''<ref group="T">{{Cite book|和書|title=王の帰還 上|publisher=評論社|author=[[J・R・R・トールキン]]|edition=文庫版初版|translator=[[瀬田貞二]]・[[田中明子]]|chapter=五 ローハン軍の長征}}</ref>'''」'''という表現<ref group="T" name="Ride of the Rohirrim">{{Harvnb|Tolkien|1955<!--ROTK-->|loc=book 5, ch. 5 "The Ride of the Rohirrim"}}(「王の帰還 上」 五「ローハン軍の長征」)</ref>を賞賛する。 [[スティーブ・ウォーカー]]はこの文を「奥深さにおいてほとんど叙事詩的」と表現し、文面の裏に「目に見えない複雑さ」すなわち中つ国の神話体系全体を示唆することで読者の想像力を誘っていると評している<ref name="Walker2009">{{Cite book||last=Walker|first=Steve C.|title=The Power of Tolkien's Prose: Middle-Earth's Magical Style|url=https://books.google.com/books?id=zaq_AAAAQBAJ&pg=PA10|date=2009|publisher=Palgrave Macmillan|isbn=978-0230101661|page=10}}</ref>。[[フレミング・ラトリッジ]]は、それを神話や[[サガ]]の文体の模倣であり、[[マラキ書]]4:1-3にみられる[[メシア]]預言の反映だとする<ref name="Rutledge2004">{{Cite book|last=Rutledge|first=Fleming|author-link=Fleming Rutledge|title=The Battle for Middle-earth: Tolkien's Divine Design in The Lord of the Rings|url=https://books.google.com/books?id=FRiViwMylSUC&pg=PA287|year=2004|publisher=Wm. B. Eerdmans Publishing|isbn=978-0-8028-2497-4|page=287}}</ref>。[[ジェイソン・フィッシャー]]は、ローハン全軍の角笛の響き、オロメ、夜明け、そしてロヒアリムを結びつける作中当該の一節を、「ベーオウルフ」の第2941-2944行における''aer daege''(「日の上る前」すなわち「夜明け」)および''Hygelaces horn ond byman''(「ヒイェラークの角笛と喇叭」)と比較する<ref name="Fisher 2010">{{cite book||last=Fisher|first=Jason|author-link=Jason Fisher|editor=Bradford Lee Eden|title=Horns of Dawn: The Tradition of Alliterative Verse in Rohan|work=Middle-earth Minstrel: Essays on Music in Tolkien|url=https://books.google.com/books?id=AOS74uZTasYC&pg=PA18|year=2010|publisher=McFarland|isbn=978-0-7864-5660-4|page=18}}</ref>{{Efn|オロメが上古に中つ国の東のはてでエルフを見出した出来事は、東からの日の出、新たな始まりの到来、そしてロヒアリムからのオロメの呼び名「Bema(角笛、喇叭の意)」が「ベーオウルフ」の一節にある古英語Bymaの古マーシア方言であることをそれぞれ関連させている、とフィッシャーは述べている<ref name="Fisher 2010"/>。}}。 [[ピーター・クリーフト]]は、「セオデンが戦士に変わった歓びに心を躍らせずにはいられない」としつつも、人々が「祖国のための死は甘美である(''dulce et decorum est pro patria mori'' )」という古いローマ人の観点に到達するのは難しい、とも書いている<ref name="Kreeft2009">{{Cite book|last=Kreeft|first=Peter|author-link=Peter Kreeft|title=The Philosophy of Tolkien: The Worldview Behind "The Lord of the Rings"|url=https://books.google.com/books?id=cjJ0DgAAQBAJ&pg=PT132|year=2009|publisher=Ignatius Press|isbn=978-1-68149-531-6|page=132}}</ref>。
3019年2月、アイゼンの浅瀬の合戦で第二軍団長である王子セオドレドが討ち死にした。3月2日、ガンダルフと[[アラゴルン]]、[[レゴラス]]、[[ギムリ]]の一行がエドラスの王宮に訪問し、サルマン及びグリマの影響を排除してセオデンを癒した。セオデンは、グリマの讒言によって牢に入れられていたエオメルを解放し、グリマを追放した。同日、エドラス近郊の兵を率いてヘルム峡谷に向かい、[[角笛城の合戦]]に勝利して、さらにアイゼンガルドに向かい、サルマンの講和の求めを拒否した。


トールキン研究者[[トム・シッピー]]は、ローハンは[[アングロ・サクソン]]時代の[[イングランド]]へ直接に適応されており、単に人物名や地名、言語のみならず、[[:en:Beowulf and Middle-earth|多くの特徴を「ベーオウルフ」から取り入れている]]とする。彼によれば、トールキンによるセオデンの追悼歌は、古英語叙事詩「ベーオウルフ」の結末の葬送歌の同等かつ密接な反映である。セオデンの勇士と門番たちは「ベーオウルフ」の登場人物のように振る舞って「ただ命に従ったのみ」と言うのではなく、自らの決意のもとで行動する{{Sfn|Shippey|2005|pp=139–149}}<ref>{{Cite journal|last=Kightley|first=Michael R.|year=2006|title=Heorot or Meduseld?: Tolkien's Use of 'Beowulf' in 'The King of the Golden Hall'|journal=[[Mythlore]]|volume=24|issue=3/4|pages=119–134|JSTOR=26814548}}</ref>。セオデンは北方の勇気の法則のもとで生き、デネソールの絶望が原因で死に至る{{Sfn|Shippey|2005|pp=136–137, 177–178, 187}}。
セオデンはさらにゴンドールから救援を求める「赤い矢」を受け取り、ローハン全域から召集した兵を率いて[[ミナス・ティリス]]に進軍し、[[ペレンノール野の合戦]]に参戦した。合戦はゴンドール・ローハン軍の勝利に帰したが、セオデンは合戦の途中、矢を受けた乗馬の雪の鬣から落ち、さらにその下敷きとなって致命傷を負った。セオデンは駆けつけたエオメルに王位を譲り、息を引き取った。セオデンの遺体は[[指輪戦争]]の間はミナス・ティリスに安置されていたが、エオメルの帰国とともにローハンに運ばれ、葬られた。


== メディア展開において ==
1981年の[[BBC]]ラジオ4による''[[:en:The Lord of the Rings (1981 radio series)|The Lord of the Rings]]''ではジャック・メイがセオデンを演じ、その死は型通りに演出されるのではなく、歌によって語られた<ref>{{Cite web |title=Riel Radio Theatre — The Lord of the Rings, Episode 2 |url=https://radioriel.org/content/daily-programme/riel-radio-theatre-the-lord-of-the-rings-episode-2/ |publisher=Radioriel |accessdate=18 May 2020 |date=15 January 2009}}</ref>。[[ラルフ・バクシ]]の[[指輪物語 (映画)|1978年のアニメ映画『指輪物語』]]では、[[フィリップ・ストーン]]がセオデンを演じた<ref name="Beck">{{Cite book||last=Beck|first=Jerry|author-link=Jerry Beck|date=2005|title=The Animated Movie Guide|chapter=The Lord of the Rings|publisher=[[Chicago Review Press]]|isbn=978-1-55652-591-9|url=https://books.google.com/books?id=fTI1yeZd-tkC|pages=154–156}}</ref>。中途で断絶したバクシ版アニメを補完するかたちでランキン・バス・プロダクションがアニメ化した[[:en:The Return of the King (1980 film)|『王の帰還』]]にも登場し、ドン・メシックが演じているが、台詞はほとんどない<ref>{{Cite web |title=The Return of the King |url=https://www.behindthevoiceactors.com/movies/The-Return-of-the-King/ |publisher=Behind the Voice Actors |accessdate=17 February 2021}}</ref>。セオデンの死はガンダルフ([[ジョン・ヒューストン]])によって語られ、彼はアングマールの魔王本人によってではなく、突然生じた暗闇によって殺害される<ref name="Gilkeson 2019">{{Cite web |author=Gilkeson |first=Austin |title=Middle-earth's Weirdest Movie: Rankin-Bass' Animated The Return of the King |url=https://www.tor.com/2019/04/24/middle-earths-weirdest-movie-rankin-bass-animated-the-return-of-the-king/ |publisher=[[Tor.com]] |accessdate=17 February 2021 |date=24 April 2019}}</ref>。

[[ピーター・ジャクソン]]監督による[[ロード・オブ・ザ・リング (映画シリーズ)|映画「ロード・オブ・ザ・リング」三部作]]では、セオデンは重要な役割を占める<ref name="Walter 2011" /><ref name="Kollmann">{{Cite book|last=Kollmann|first=Judith|chapter=Elisions and Ellipses: Counsel and Council in Tolkien's and Jackson's ''The Lord of the Rings''|title=Tolkien on Film: Essays on Peter Jackson's The Lord of the Rings|editor-last=Croft|editor-first=Janet Brennan|editor-link=Janet Brennan Croft|publisher=[[Mythopoeic Society |Mythopoeic Press]]|date=2005|isbn=1-887726-09-8|pages=160–161}}</ref>。演者は[[バーナード・ヒル]](日本語吹替:[[佐々木勝彦]])で、 『[[ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔]]』(2002)で初登場する<ref>{{Cite web |author=Gray |first=Simon |title=A Fellowship in Peril |url=https://theasc.com/magazine/dec02/two/page2.html |publisher=American Society of Cinematographers |accessdate=1 July 2021 |date=December 2002 |quote=The key dramatic determinant in Lesnie’s method was the change that comes over King Théoden (Bernard Hill) after Gandalf lifts Saruman's spell.}}</ref><ref>{{Cite news|title=Theoden, King of Rohan (Bernard Hill)|url=https://www.theguardian.com/film/pictures/image/0,8545,-11004534782,00.html|accessdate=1 July 2021|newspaper=[[The Guardian]]}}</ref>が、原作と異なり、セオデンは実際はサルマン([[クリストファー・リー]])に憑依されたような状態で、本来より早く老化している。ガンダルフ([[イアン・マッケラン]])によって呪文から解放されると年齢相応の姿に戻り、蛇の舌グリマ([[ブラッド・ドゥーリフ]])をローハンの都エドラスから追放する。<ref name="Walter 2011">{{Cite book|last=Walter|first=Brian D.|title=The Grey Pilgrim|editor-last=Bogstad|editor-first=Janice M.|editor2-last=Kaveny|editor2-first=Philip E.|journal=Picturing Tolkien: Essays on Peter Jackson's The Lord of the Rings Film Trilogy|url=https://books.google.com/books?id=jNjKrXRP0G8C&pg=PA41|year=2011|publisher=[[McFarland (publisher)|McFarland]]|isbn=978-0-7864-8473-7|pages=198, 205–206}}</ref>

== ノート ==
{{notelist}}

=== 一次資料 ===

:: このリストでは、トールキンの著作からの出典を示す。
{{reflist|28em|group=T}}

=== 二次資料 ===
{{reflist|28em}}

=== 参考文献 ===

* {{cite book||last=Nitzsche|first=Jane Chance|author-link=ジェーン・チャンス|title=Tolkien's Art|date=1980|orig-year=1979|publisher=[[Macmillan Publishers|Papermac]]|isbn=978-0-333-29034-7}}
* {{cite book||last=Shippey|first=Tom|author-link=トム・シッピー|title=[[The Road to Middle-Earth]]|date=2005|edition=Third|orig-year=1982|publisher=[[ハーパーコリンズ|HarperCollins]]|isbn=978-0261102750}}
* {{Cite book||title=Languages, Myths and History: An Introduction to the Linguistic and Literary Background of J. R. R. Tolkien's Fiction|year=2009|publisher=North Landing Books|location=New York City|isbn=978-0-9816607-1-4|last=Solopova|first=Elizabeth}}
* {{Cite book| |title=[[二つの塔|The Two Towers]]|year=1954|publisher=Houghton Mifflin|last=Tolkien|first=J. R. R.|author-link=J・R・R・トールキン|series=''[[指輪物語|The Lord of the Rings]]''|oclc=1042159111|location=Boston}}
* {{Cite book| |title=[[王の帰還|The Return of the King]]|year=1955|publisher=Houghton Mifflin|last=Tolkien|first=J. R. R.|author-link=J・R・R・トールキン|series=''[[指輪物語|The Lord of the Rings]]''|oclc=519647821|location=Boston}}
* {{Cite book| |title=Unfinished Tales|year=1980|publisher=Houghton Mifflin|editor-last=Tolkien|editor-first=Christopher|editor-link=クリストファ・トールキン|isbn=978-0-395-29917-3|location=Boston|last=Tolkien|first=J. R. R.|author-link=J・R・R・トールキン}}
* {{Cite book|和書|title=[[王の帰還]] 上|year=1992|publisher=評論社|author=[[J・R・R・トールキン]]|series=新版 [[指輪物語]]|edition=文庫版|isbn=4-566-02369-9|translator=[[瀬田貞二]]・[[田中明子]]|volume=}}
* {{Cite book|和書|title=[[終わらざりし物語]]|year=2022|publisher=河出書房新社|edition=文庫版初版|author=[[J・R・R・トールキン]]|translator=山下なるや|volume=下|editor=[[クリストファ・トールキン]]|isbn=978-4-309-46740-5}}
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2022年2月16日 (水) 12:30時点における版

セオデン
Théoden
J・R・R・トールキン
中つ国の伝説体系のキャラクター
登場作品 二つの塔
王の帰還
終わらざりし物語
詳細情報
別名 セオデン・エドニュー(更生せる)
種族 人間(ローハン国人)
性別 男性
肩書き ローハンの国王
家族 センゲル(父)
ロスサールナッハのモルウェン(母)
不詳の姉妹
セオドウィン(妹)
配偶者 エルフヒルド(妻)
子供 セオドレド(長男)
親戚 エオメル(甥)
エオウィン(姪)
国籍 ローハン
年齢 71歳(『指輪物語』)
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セオデン(Théoden、セーオデン[注釈 1])は、 J・R・R・トールキンファンタジー小説『指輪物語』に登場する架空の人物。ローハンの国王であり、ロヒアリムが自国を呼ぶ名から「マークの君主」もしくは「リダーマークの君主」と呼ばれ、「二つの塔」「王の帰還」で主要なキャラクターとして登場する。はじめセオデンは加齢し悲嘆に暮れ、相談役である蛇の舌グリマの策略により衰弱してローハンの退勢に対処せずにいるが、魔法使いガンダルフの手で更生し、サルマンサウロンに対する戦いにおける主要な同盟者となる。

研究者はセオデンを西ゴート王テオドリックと比較し、ペレンノール野の合戦でのセオデンの死とカタラウヌムの戦いでのテオドリックの死を対比する。いっぽうで作中では同じ為政者であるゴンドールの執政デネソールとも対比され、冷然としたデネソールに対し、セオデンは友好的で大度である。

作中での経歴

二つの塔

セオデンは『指輪物語』の第二部「二つの塔」において、ローハンの王として登場する。この時点で、セオデンは加齢とともに衰弱し、堕落した魔法使いサルマンの意を受けた相談役である蛇の舌グリマによってほとんど操られていた[T 1]。「指輪狩り[注釈 2]」についての最後の未完成原稿のひとつでは、蛇の舌は「彼の助言のとりことなっている」王に対し「大きな影響力を持つ」と述べている[1]。『終わらざりし物語』では、この王の健康の問題について「グリーマが遅効性の毒を与え、病を誘発するか増加させたことは十分ありうる[T 2]」としている[T 3]。セオデンが無力化されているあいだローハンは、アイゼンガルドから支配するサルマンの指導下にあるオーク褐色人の攻撃に悩まされた[T 1]

この響きに王の屈んだ背は不意に真っ直に伸びました。かれはふたたび丈高く堂々と見えました。そして鐙に足を置いたまま、かれは立ち上がって、声高く呼ばわりました。その声は居合わせただれもがかつて命限りある人間の口からは聞いたことがないほどはっきりと澄んだ声でした。

立てよ、立て、セオデンの騎士らよ!
捨身の勇猛が眼ざめた、火と殺戮ぞ!
槍を振え、盾をくだけよ、
剣の日ぞ、赤き血の日ぞ、日の上る前ぞ!
いざ進め、いざ進め、ゴンドールへ乗り進め!

J・R・R・トールキン瀬田貞二田中明子訳, 新版『指輪物語』「王の帰還 上」

「二つの塔」で、セオデンの前にレゴラスギムリを連れたガンダルフアラゴルンが現れたとき、はじめ彼はサルマンと戦うべきだというガンダルフの助言を拒否する。しかしガンダルフがグリマの影響を取り払い、セオデンは正気を取り戻す。彼はグリマの讒言で投獄していた甥エオメルを釈放させ、愛剣ヘルグリムを取り[T 1] 、老齢にもかかわらず角笛城の合戦を指揮してローハンを勝利に導いた[T 4]。それから彼はアイゼンガルドがファンゴルンの森のエントによって破壊された有様を実見し[T 5]、オルサンクの塔でサルマンと話し、ガンダルフがサルマンの杖を壊すところに立ち会う[T 6]

王の帰還

「王の帰還」では、セオデンはペレンノール野の合戦でロヒアリムを率い、ゴンドールを救援する[T 7][T 8]。戦いの中、彼はハラドの騎馬部隊を破り、その首領を自ら討ち取った。さらに指輪の幽鬼の長であるアングマールの魔王と対決するが、愛馬雪の鬣から振り落とされて下敷きとなり、致命傷を負う。姪のエオウィンホビットメリアドク・ブランディバックが仇を討ち魔王を倒すと、いまわの時にあって、セオデンはメリーとエオメルに別れを告げた。[T 9]

セオデンの遺体は、サウロンが敗北した後にローハンに埋葬されるまでミナス・ティリスに安置された。セオデンは青年王エオルより続くローハン王家、その第二家系の最後の人物であった。 [T 10]

語源

「王子」または「王」を意味する古英語の「セオデン」

Théodenは、古英語þeod(人、国)から派生したþēoden(王、王子)をそのまま音訳した名である[2][3][4]。トールキンの伝説体系に登場する他の説明的な名前と同様、トールキンはこの名前を用いることで、テキストが「歴史的」、「現実的」、または「古語的」であるという印象を与えている。トールキンは作中の西方語(共通語)を現代英語に訳して表現するいっぽう、西方語の古語としたローハン語には古英語をあてることで、中つ国の言語体系に巧妙に適合したものとした。 [5]

研究

研究者のエリザベス・ソロポワによれば、セオデンの人物像は、戦いによる死が迫っていることを知った主人公が見せる不退転の決意という、北欧神話、特にベーオウルフの叙事詩における勇気の概念に触発されたものである。これは、ペレンノール野の合戦で圧倒的に有力なサウロンの軍勢と対決するというセオデンの決意に反映されている[6]。トールキンは、6世紀の歴史家ヨルダネスによるカタラウヌムの戦いの歴史的記述についても繰り返し言及した。いずれの戦いも「東」(フン族)と「西」(ローマ人とその同盟国である西ゴート族)の文化の間で行われ、ヨルダネス同様、トールキンもこの戦いを幾世代にも及ぶ伝説的な名声の1つであると表現している。もう1つの明らかな類似点は、カタラウヌム平原における西ゴート王テオドリック1世の死と、ペレンノール野におけるセオデンの死である。ヨルダネスは、テオドリックは乗馬から振り落とされ、突撃する配下の兵たちによって踏みにじられて死んだと記録している。セオデンもまた、斃れる直前に自らのもとに部下を集結させたが、落馬して愛馬の下敷きとなった。そしてテオドリック同様、戦いがなお続くなか、セオデンは主君のために涙し歌う王の騎士たちの手で戦場から運びだされた。 [7]

エリザベス・ソロポワによるセオデンとテオドリックの比較[7]
状況 セオデン テオドリック
最後の戦い ペレンノール野の合戦 カタラウヌムの戦い
交戦勢力「西」対「東」 ローハンゴンドールモルドール、東夷 ローマ人西ゴート族フン族
死因 馬から投げだされ、下敷きになる 馬から投げ出され、突撃する自軍に踏みにじられる
哀悼 配下の騎士により、歌と涙とともに戦場から運びだされる

ジェーン・チャンスのようなトールキン研究者は、セオデンを作中の別の「ゲルマン的な王」であるゴンドール最後の統治権を持つ執政デネソールと対比させる。チャンスの見解では、セオデンは善、デネソールは悪を表す。彼女は、彼らの名前はほぼアナグラムであり、セオデンがホビットのメリアドクによる奉仕を親愛ある友情をもって受け入れるのに対し、デネソールはメリーの友人ペレグリン・トゥックを厳粛な忠誠の契約によって遇するとする[8]ヒラリー・ウィンThe J. R. R. Tolkien Encyclopediaにおいて、セオデンとデネソールはともに絶望するものの、ガンダルフによって「更生せる」セオデンはヘルム峡谷での絶望的な戦いに勝利し、ペレンノール野の合戦で「彼の攻撃がミナス・ティリスの街を略奪と破壊から救った」と書いている[2]

多くの学者は、最後の戦いに進むセオデンの姿をたとえた「この世界がまだ若かった頃のヴァラールの合戦における偉大な狩人オロメとさえも見える[T 11]という表現[T 8]を賞賛する。 スティーブ・ウォーカーはこの文を「奥深さにおいてほとんど叙事詩的」と表現し、文面の裏に「目に見えない複雑さ」すなわち中つ国の神話体系全体を示唆することで読者の想像力を誘っていると評している[9]フレミング・ラトリッジは、それを神話やサガの文体の模倣であり、マラキ書4:1-3にみられるメシア預言の反映だとする[10]ジェイソン・フィッシャーは、ローハン全軍の角笛の響き、オロメ、夜明け、そしてロヒアリムを結びつける作中当該の一節を、「ベーオウルフ」の第2941-2944行におけるaer daege(「日の上る前」すなわち「夜明け」)およびHygelaces horn ond byman(「ヒイェラークの角笛と喇叭」)と比較する[11][注釈 3]ピーター・クリーフトは、「セオデンが戦士に変わった歓びに心を躍らせずにはいられない」としつつも、人々が「祖国のための死は甘美である(dulce et decorum est pro patria mori )」という古いローマ人の観点に到達するのは難しい、とも書いている[12]

トールキン研究者トム・シッピーは、ローハンはアングロ・サクソン時代のイングランドへ直接に適応されており、単に人物名や地名、言語のみならず、多くの特徴を「ベーオウルフ」から取り入れているとする。彼によれば、トールキンによるセオデンの追悼歌は、古英語叙事詩「ベーオウルフ」の結末の葬送歌の同等かつ密接な反映である。セオデンの勇士と門番たちは「ベーオウルフ」の登場人物のように振る舞って「ただ命に従ったのみ」と言うのではなく、自らの決意のもとで行動する[13][14]。セオデンは北方の勇気の法則のもとで生き、デネソールの絶望が原因で死に至る[15]

メディア展開において

1981年のBBCラジオ4によるThe Lord of the Ringsではジャック・メイがセオデンを演じ、その死は型通りに演出されるのではなく、歌によって語られた[16]ラルフ・バクシ1978年のアニメ映画『指輪物語』では、フィリップ・ストーンがセオデンを演じた[17]。中途で断絶したバクシ版アニメを補完するかたちでランキン・バス・プロダクションがアニメ化した『王の帰還』にも登場し、ドン・メシックが演じているが、台詞はほとんどない[18]。セオデンの死はガンダルフ(ジョン・ヒューストン)によって語られ、彼はアングマールの魔王本人によってではなく、突然生じた暗闇によって殺害される[19]

ピーター・ジャクソン監督による映画「ロード・オブ・ザ・リング」三部作では、セオデンは重要な役割を占める[20][21]。演者はバーナード・ヒル(日本語吹替:佐々木勝彦)で、 『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(2002)で初登場する[22][23]が、原作と異なり、セオデンは実際はサルマン(クリストファー・リー)に憑依されたような状態で、本来より早く老化している。ガンダルフ(イアン・マッケラン)によって呪文から解放されると年齢相応の姿に戻り、蛇の舌グリマ(ブラッド・ドゥーリフ)をローハンの都エドラスから追放する。[20]

ノート

  1. ^ 『指輪物語』電子版(2019)、『終わらざりし物語』文庫版(2022)での表記。
  2. ^ 一つの指輪が再び世に出たことを察知したサウロンが指輪の幽鬼をホビット庄へ送りこんだ経緯についてのJ・R・R・トールキンによる未完成原稿。
  3. ^ オロメが上古に中つ国の東のはてでエルフを見出した出来事は、東からの日の出、新たな始まりの到来、そしてロヒアリムからのオロメの呼び名「Bema(角笛、喇叭の意)」が「ベーオウルフ」の一節にある古英語Bymaの古マーシア方言であることをそれぞれ関連させている、とフィッシャーは述べている[11]

一次資料

このリストでは、トールキンの著作からの出典を示す。
  1. ^ a b c Tolkien 1954, book 3, ch. 6 "The King of the Golden Hall"(「二つの塔 上」 六「黄金館の王」)
  2. ^ J・R・R・トールキン 著、山下なるや 訳「V アイゼンの浅瀬の合戦」、クリストファ・トールキン 編『終わらざりし物語』 下巻 第三部(文庫版初版)、河出書房新社、2022年。 
  3. ^ Tolkien 1980, Part 3, ch. 5 "The Battles of the Fords of Isen"
  4. ^ Tolkien 1954, book 3, ch. 7 "Helm's Deep"(「二つの塔 上」 七「ヘルム峡谷」)
  5. ^ Tolkien 1954, book 3, ch. 8 "The Road to Isengard"(「二つの塔 上」 八「アイゼンガルドへの道」)
  6. ^ Tolkien 1954, book 3, ch. 10 "The Voice of Saruman"(「二つの塔 上」 十「サルマンの声」)
  7. ^ Tolkien 1955, book 5, ch. 3 "The Muster of Rohan"(「王の帰還 上」 三「ローハンの招集」)
  8. ^ a b Tolkien 1955, book 5, ch. 5 "The Ride of the Rohirrim"(「王の帰還 上」 五「ローハン軍の長征」)
  9. ^ Tolkien 1955, book 5, ch. 6 "The Battle of the Pelennor Fields"(「王の帰還 上」 六「ペレンノール野の合戦」)
  10. ^ Tolkien 1955, book 6, ch. 5 "The Steward and the King"(「王の帰還 下」 五「執政と王」)
  11. ^ J・R・R・トールキン 著、瀬田貞二田中明子 訳「五 ローハン軍の長征」『王の帰還 上』(文庫版初版)評論社。 

二次資料

  1. ^ Hammond, Wayne G.; Scull, Christina (2005). The Lord of the Rings: A Reader's Companion. HarperCollins. pp. 249, 402. ISBN 978-0-00-720907-1 
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  3. ^ Bosworth. “þeóden”. An Anglo-Saxon Dictionary (Online). Charles University. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。 - (also spelled ðeoden), cognate with the Old Norse word þjóðann
  4. ^ Solopova 2009, p. 21. "Théoden ('Lord' in Old English)".
  5. ^ Solopova 2009, p. 22.
  6. ^ Solopova 2009, pp. 28–29.
  7. ^ a b Solopova 2009, pp. 70–73.
  8. ^ Nitzsche 1980, pp. 119–122.
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参考文献