ホビットの冒険

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ホビットの冒険
The Hobbit, or There and Back Again
A line-up of the American second edition printings of The Hobbit.
A line-up of the American second edition printings of The Hobbit.
著者 J・R・R・トールキン
イラスト J・R・R・トールキン
発行日 イギリスの旗 1937年
発行元 イギリスの旗 ジョージ・アレン・アンド・アンウィン
ジャンル ファンタジー
イギリスの旗 イギリス
言語 英語
形態 上製本
ページ数 310
次作 指輪物語
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ホビットの冒険』(ホビットのぼうけん)は、1937年9月21日に出版されたJ・R・R・トールキンによるファンタジー小説。原題はThe Hobbit, or There and Back Again.

同じトールキン作品の『指輪物語』の前日譚にあたる作品であり、批評家からも広く称賛を受け、カーネギー賞にノミネートされたほか、ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン最優秀児童文学賞を受賞。今日に至るまで人気を保ち、児童文学の古典的作品と見なされている。

『ホビットの冒険』は、ホビット庄での安穏とした暮らしを愛するホビットビルボ・バギンズが、ドラゴンのスマウグに奪われたドワーフの財宝を取り戻すための、はなれ山(エレボール英語版)への遠征に加わるという冒険・探求譚である。ビルボはこの旅で、心楽しい田園風景を離れ、暗く神秘的な世界へ分け入って行くこととなる[1]。物語は、トールキンの「荒れ地のくに英語版」の特定の生き物やキャラクターがほぼ章ごとに登場するという、探求譚の形をとる。ビルボは、自らの内にあるロマンティックで現実離れした、冒険好きな「トゥーク的」資質を受け入れ、機知と常識を働かせることにより、成熟を遂げ、力量・賢明さにおいても成長する[2]。物語は、「五軍の合戦」でクライマックスを迎え、それまでの章に現れたキャラクターや生き物が再登場し、合戦を繰り広げる。

人物としての成長とヒロイズムのあり方とが、物語の主題である。戦いという要素に加え、こうした主題ゆえ、批評家たちは、トールキンおよび彼と同時代の作家たちの第一次大戦を戦った経験を、物語形成に寄与したものとして挙げている。トールキンの古英語古ノルド語文学に関する学問的知識、および妖精物語への興味が、作品に反映されていることも、しばしば指摘されている。

『ホビットの冒険』が批評家たちから評価され、商業的にも成功したため、出版社は、トールキンに続編執筆の依頼をした。これが『指輪物語』となるわけだが、この執筆の過程でトールキンは、『指輪物語』との整合性をとるために『ホビットの冒険』にも遡及して改訂を行った。1951年の第2版では、『ホビットの冒険』第5章、「くらやみでなぞなぞ問答」における重要な改訂がなされた。その後も、ビルボが足を踏み入れた世界に関するトールキンの考えの変遷を反映して、さらなる改訂が加えられた。

『ホビットの冒険』は一度たりとも絶版になったことがない。今も舞台、映画、ラジオ、ボードゲームテレビゲームなど、数多くの分野において翻案されている。こうした翻案の中には、ゴールデン・ジョイスティック賞を受賞したテレビゲームや、オリジン賞を受賞した戦争ゲームの脚本、ヒューゴー賞にノミネートされたアニメ映画など、それ自体として評価を受けたものもある。また、ピーター・ジャクソン監督による映画化のプロジェクト『ホビット』も進行中であり、2012年に第1部『ホビット 思いがけない冒険』が、2013年に第2部『ホビット ゆきて帰りし物語』が公開予定である。


注意:以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。免責事項もお読みください。


目次

[編集] あらすじ

ことの始まりは、ある四月も末の日、ホビット庄のビルボを訪ねた魔法使いのガンダルフの画策により、13人のドワーフ達が次々と押しかけて来た、ビルボ宅でのティー・パーティであった。トーリン・オーケンシールド率いるこのドワーフたちは、邪竜スマウグに奪われた父祖の地はなれ山(エレボール英語版)とその財宝を取り返す遠征を計画しており、ガンダルフの薦めによりビルボを「忍びの者」として雇うつもりでやって来たのだった。何も知らないビルボは右往左往するばかりだったが、ドワーフたちの歌を聞くうち、我知らず冒険を求める「トゥック的」性向がかき立てられる。しかしそれも束の間、事情を聞くとパニックを起こしてドワーフたちの失笑を買う。ドワーフたちに馬鹿にされて憤然としたビルボは、思わず計画に乗ることを宣言してしまう。ガンダルフがトーリンの父スラインから預かったという「スロールの地図」を披露し、はなれ山の秘密の裏口の存在ゆえに「忍びの者」ビルボの存在が必要だと、ドワーフたちを説得する。 こうしてビルボとドワーフ、そしてガンダルフの一行は旅立つこととなり、途上、ガンダルフはトロルからドワーフたちを救い、一行を裂け谷まで連れて来る。裂け谷ではエルロンドが「スロールの地図」の秘密を解明する。霧ふり山脈英語版を越える際、一行はゴブリンに囚われ、山の地下深くへと追い立てられる。ガンダルフによって救出されるも、ビルボだけは途中で一行とはぐれてしまう。ゴブリンの地下のトンネルで道に迷ったビルボは、偶然指輪を発見し、ゴクリと遭遇する。ゴクリとビルボのなぞなぞ問答では、ビルボが勝てばゴクリが出口までの道を教えるが、負ければゴクリがビルボを食べるという取り決めだったが、ビルボの「ポケットの中にあるものは何だ?」という問いにゴクリは答えられなかった。指輪がなくなったことに気づいたゴクリの後を、姿を消す指輪の力を借りたビルボが追い、ビルボは無事逃れてドワーフたちと合流する。この一件でドワーフたちのビルボへの評価は高まる。一行はゴブリンとアクマイヌの追撃を受けるが、ワシに助けられ、ビヨルンの家では、しばし憩う。

一行は闇の森の黒い森にガンダルフ抜きで入って行く。闇の森では、ビルボは、ドワーフたちをまずは巨大な蜘蛛たちから、次いで森のエルフから救い出す。湖の町(エスガロス英語版)では、「山の下の王」がスマウグを滅ぼし富をもたらすという、予言の成就を望む人間たちから歓迎を受ける。遠征隊ははなれ山の秘密の裏口を発見し、スマウグの巣の偵察に送り出されたビルボは、財宝の中から大きなカップを盗み出し、またスマウグの急所を発見する。激怒したスマウグは、湖の町の人間たちが侵入者たちの手助けをしたものと推察し、町の破壊に赴く。ビルボがスマウグの急所についてドワーフたちに報告するのを聞いていたツグミが、弓の名手バルドにこれを伝え、ドラゴンはバルドの射た弓で退治される。

スマウグが山を留守にしている間に、ビルボはその財宝の中にトーリンの一族に伝わる家宝であるアーケン石を発見し、ドワーフには内緒で自分のポケットにしまう。森のエルフたちと湖の町の人間たちが山にやって来て、宝の分配を要求すると、トーリンはこれを拒絶し、北方の同胞を呼び寄せて守備を固める。ビルボは盗み出したアーケン石と引き換えに戦いを回避しようとするが、トーリンは憤怒に燃えてビルボを追い出し、さらに態度を硬化させ、戦いは不可避となった。

ガンダルフが現れて、ゴブリンとアクマイヌの接近を知らせると、一転、ドワーフと人間とエルフは、共通の敵を相手に力を合わせて戦うこととなる。この五軍による決戦は、折良くビヨルンとワシたちという援軍を得た三軍の連合軍側の勝利に終わる。この戦いで致命傷を負ったトーリンは、いまわの際にビルボと和解する。ビルボは宝の分け前として、小馬一頭で運べる金銀の小箱一つずつ以上は不要だと断ったが、それでもしかし、大変裕福なホビットとしてわが家に戻った。

[編集] 登場人物

  • ホビット (Hobbits)
    • ビルボ・バギンズ (Bilbo Baggins) - ホビット族の由緒正しい上流階級の末裔。ドワーフの冒険に「忍びの者」として強引に参加させられる。旅を重ねるごとにたくましく成長していく。
  • 魔法使い
    • ガンダルフ (Gandalf) - ビルボの友人の魔法使い。ビルボをドワーフの旅に誘い込んだ張本人。
  • ドワーフ (Dwarves)
    • オイン (Oin) - 火起こし名人。茶色の頭巾。グローインと兄弟。
    • オーリ (Ori) - 灰色の頭巾。
    • キーリ (Kili) - トーリンの甥。青色の頭巾。フィーリと並んで最も若い。
    • グローイン (Gloin) - 火起こし名人。白い頭巾。オインと兄弟。のちに指輪の仲間の一員となる、ギムリの父親。
    • トーリン・オーケンシールド (Thorin II / Oakenshield) - 13人のドワーフの仲間の長。エレボールのドワーフ族の王族の末裔。スマウグに故郷を追われ、復讐を決意し旅に出る。
    • ドーリ (Dori) - 紫の頭巾。ビルボに最も積極的に手を貸した紳士。
    • ドワーリン (Dwalin) - 暗緑色の頭巾。バーリンとは兄弟。
    • ノーリ (Nori) - 紫の頭巾。
    • バーリン (Balin) - 赤い頭巾。ドワーフでは2番目の年長者。見張り役。
    • フィーリ (Fili) - トーリンの甥。青色の頭巾。キーリと並んで最も若い。
    • ビフール (Bifur) - 黄色の頭巾。ボフール・ボンブールとは親戚。
    • ボフール (Bofur) - 黄色の頭巾。ビフール・ボンブールと親戚。
    • ボンブール (Bombur) - うす緑の頭巾。巨漢。闇の森で呪いをかけられる。
      • 以上13人は、はなれ山への冒険に同行した旅の仲間である。
    • ダイン2世 (Dáin II) - くろがね連山のドワーフ族の長。北方から救援に訪れ、五軍の合戦でドワーフ軍を率いる。
  • エルフ
    • エルロンド (Elrond) - 裂け谷の領主。「最後の憩」館を訪れたビルボたちに知恵を授ける。
    • 闇の森のエルフ王 (Thranduil) - 森に迷い込んだビルボたちを捕らえる。
  • 人間
    • バルド (Bard) - 谷間の町ギリオンの王の子孫。五軍の合戦で人間軍を率いて活躍する。
    • 湖の町の統領 - 湖の町エスガロスを統べる領主。
  • 熊人
    • ビヨルン (Beorn) - 大きな体を持つ、気性の荒い熊人。ビルボたちをもてなす。五軍の合戦にも参戦。
  • その他の動物
    • 鷲の王 ‐大鷲族の長。アクマイヌに追い詰められたビルボたち一行を救出する。五軍の合戦にも参戦。『指輪物語』のグワイヒアと同一の存在かは不明。
    • ツグミ (Thrush) - 魔力を持つツグミ族の一匹。重要な局面でビルボやバルドを助ける。
    • ロアーク (Roäc) - 言葉を理解する大ガラス族の長。トーリンやダインの伝言役として活躍する。
  • トロル
    • ウイリアム (William) - 旅の途中のビルボたちを捕らえて食料にしようとした3人組のトロールの1匹。
    • トム (Tom) - 同上。
    • バート (Bert) - 同上。
  • ゴブリン
    • 大ゴブリン - 霧ふり山脈のゴブリン族の王。
    • ボルグ (Bolg) - モリアのゴブリン族の長。祖先の復讐を果たすため一族を率いて、五軍の合戦に参上する。
  • アクマイヌ - ゴブリンの手下の動物。五軍のうち敵側の1軍。冒険中の一行を追い詰めたりもした。
  • ゴクリ (Gollum) - 霧ふり山脈の深奥の湖に住む奇怪な生物。ビルボになぞなぞ合戦を持ちかける。
  • スマウグ (Smaug) - 赤みがかった金色の鱗を持つドラゴン。谷間の町とはなれ山を荒廃させ、そのすべての宝を奪った貪欲な邪竜。
  • 死人占い師(ネクロマンサー)(Necromancer) - 闇の森に居を構える謎の人物として、作中で言及される。実は指輪物語の冥王サウロン

以上で物語・作品・登場人物に関する核心部分の記述は終わりです。


[編集] 構想と創作

[編集] 背景

1930年代初めのトールキンは、学問の世界ではオックスフォード大学においてアングロ・サクソン語の「ロリンソン・アンド・ボズワース教授職」にあり、ペンブルク・コレッジフェローとして活躍していた。創作に関しては、「ゴブリン・フィート」[3]、およびナーサリーライム/マザー・グース「ヘイ・ディドル・ディドル」を語り直した「猫とフィドル—未完のナーサリーライム、その呆れた秘密明らかに」[4]という二つの詩作品をすでに発表していた。この時期の創作活動としては、毎年クリスマスに彼の子供たち宛に送った『サンタ・クロースからの手紙』(エルフとゴブリンが争い、親切な北極熊が登場する挿絵付きの手書きの物語)[5]の他、エルフ語とその神話世界の創造(トールキンが1917年以来手がけてきたものである)の発展がある。これらの作品はすべて彼の死後出版された[6]

1955年のW・H・オーデン宛の書簡で、トールキンは、『ホビットの冒険』は、1930年代初めのある日、学業修了検定試験の採点をしていた時に始まったのだと回想している。トールキンは白紙の解答用紙を見ると、ふと思いついてそこに「地面の穴のなかに、ひとりのホビットが住んでいました」と書いたのだ。1932年の末までには物語は完成し、 C・S・ルイスを含む数人の友人[7]とトールキンの学生だったエレイン・グリフィズが原稿を読んでいる[8]。1936年、オックスフォードにいるグリフィズのところに出版社ジョージ・アレン・アンド・アンウィンに勤めている友人のスーザン・ダグナルが訪ねて来た時、グリフィズはダグナルに原稿を貸したか[8]、もしくはトールキンから借りるといいと言ったとされている[9][10]。いずれにせよ、ダグナルは感心し、社長のスタンリー・アンウェンに見せ、彼はそれを息子のレイナーに読ませて書評を書かせたのだ。10歳のレイナーが好意的な短い書評を書くと、トールキンの原稿はアレン・アンド・アンウィンから出版されることになった。

[編集] 出版

ロンドンの出版社ジョージ・アレン・アンド・アンウィンは、『ホビットの冒険』を1937年9月21日に出版した。初版印刷部数は1500部で、書評における高評価を受けて同年クリスマスまでには売り切れた[11]。初版にはトールキン自身による白黒の挿絵が多数使われ、表紙デザインもまたトールキンによる。翌1938年ホートン・ミフリン社よりアメリカ版が出版された際には、挿絵のうち四点がカラーとなった。アレン・アンド・アンウィン社も、1937年末に出版された第二刷では、カラーの挿絵を入れた[12]。本の人気にもかかわらず、 第二次世界大戦戦時下による紙の配給制度が1949年まで続いた影響もあり、この時期における本の入手はしばしば困難であった[13]

英語による改訂版は、1951年、1966年、1978年、1995年に出ており、また数多くの出版社により再版されている[14]。さらに、『ホビットの冒険』は世界40カ国語以上の言語に翻訳されており、複数の翻訳版のある言語もある[15]

[編集] 没後出版されたエディション

トールキンの死後、トールキンの創作、本文校訂や発展過程に関する注釈をほどこした、二種類の『ホビットの冒険』のエディションが出版されている。

ダグラス・A・アンダーソンによる『注釈ホビットの冒険』では[16]、出版された『ホビットの冒険』の全文に加え、注釈と図版が供されている。アンダーソンの注釈は、トールキンが執筆に際して用いた多くのものの典拠を明らかにし、出版されたエディション間のテキストの異同について年代を追って記述している。注釈の他、トーベ・ヤンソン による挿絵をはじめ、各国語の翻訳本のイラストも掲載されている[17]。本書にはまた、トールキンの詩作品「古の人間の魔法の黄金」(“Iúmonna Gold Galdre Bewunden”)の最初期(1923年)のヴァージョンなど、極めて入手が困難なテキストが収録されている。マイケル・D. C. ドラウトとヒラリー・ウィンは、本書は『ホビットの冒険』に関する今後の批評の確固たる基盤を供するものだと評している[18]

2007年に出版された2巻本のThe History of the Hobbit において、ジョン・ラトリフは、『ホビットの冒険』の最初期から草稿の全文を収録し、それ以外の出版以前の原稿についての情報も提供している。また、『ホビットの冒険』と同時期およびそれ以降の トールキンの 学術的な論文や創作作品との関係を明らかにする注釈もほどこしている。ラトリフは、トールキンが『ホビットの冒険』を『指輪物語』のスタイルに合わせて書き直し、第三章までで断念した、1960年の草稿も収録している。本書では、トールキンのテキストとラトリフの解説は別々になっているので、読者は最初期の草稿を物語として読むことが可能である。ラトリフはまた、トールキンによる未刊の挿絵も収録している。ジェイソン・フィッシャーは、 “Mythlore”に掲載された書評において、「『ホビットの冒険』研究の新たな始点として必須の書である」と評している[19]


[編集] 挿絵と装丁

トールキンの書簡と出版社の記録によると、トールキンは本全体の挿絵と装丁に関わったことがわかる。トールキンはすべての要素に関して何度もやり取りを行い、こだわり続けた。レイナー・アンウィンは出版回想録の中で次のように言っている:「1937年だけでもトールキンはジョージ・アレン&アンウィン社宛に26通もの手紙を書いている。細部のわたり雄弁で、しばしば辛辣だが非常に丁重で腹立たしいほどに的確なものだったが、今日ではどんなに有名だろうと、あれほどまでに綿密な配慮を受ける作家はいないだろう。」[20]

See caption.
ルーン文字 のアルファベットと、それに対応する英語の文字。トールキンが『ホビットの冒険』の挿絵やデザインに用いたもの[21]

トールキンは最初5つの地図を提案したのだが、地図についても検討・議論が行われた。トールキンは、スロールの地図を最初の言及の箇所に付け加え(つまり製本後に糊付けで加え)、その裏面には光にかざして見た時に見えるように月光文字(アングロサクソンルーン文字)を配したいと願った。[13]結局は、費用の問題と、また地図の濃淡が出し難いということで、「スロールの地図」と「荒れ地の国の地図」の2つを、クリーム色の紙に赤と黒のインクで印刷して、見返しに入れることとなった。[22]

元々は、アレン&アンウィン社は本には見返しの地図だけしか挿絵を入れない方針だったのだが、トールキンが最初に提出したスケッチに出版社のスタッフは魅了され、余分な費用がかかっても本の値段を上げずにスケッチを含めることにした。これに気を良くして、トールキンはまた一連の挿絵を提供した。出版社はこれもすべて使うことに決め、初版には10の白黒の挿絵と、見返しに2つの地図が入ることとなった。挿絵で描かれた場面は次のとおり:「お山:流れの向こうのホビット庄」、「トロル」、「山の小道」、「ワシの巣からゴブリンの裏門の方角、西に霧降り山脈を臨む」、「ビヨルンの広間」、「闇の森」、「エルフ王の門」、「湖の町」、「表門」。一つを除いてすべての挿絵はページ全面を使っており、「闇の森」の挿絵は、それだけ光沢紙に別刷りされた。[23]

出版社はトールキンの腕前に満足し、本のカバーのデザインも依頼した。この企画においても、繰り返し繰り返しの検討と書簡のやり取りが行われ、トールキンは自分の絵の手腕について常に卑下した態度をとっていた。絵を取り囲むルーン文字は、本の題名と著者や出版社の情報についての英語を音訳したものである。[24]最初のカバー・デザインでは、濃淡の数色が使われていたが、トールキンは何度もやり直し、その度に使用する色の数は減った。最終的なデザインでは、4色が使われている。費用を気にした出版社は、太陽の赤の色をやめ、最終的に白地の紙に黒・青・緑のインクのみを使うことにした。[25]

出版社の制作スタッフが製本デザインをしたが、トールキンはいくつかの点に異議を唱えた。何度か検討を繰り返した結果、最終的なデザインは、ほとんどトールキンのものと言えるものとなった。背表紙にはアングロサクソンルーン文字が見える: "þ" が2つ(Thráin と Thrór) と"D" が1つ(Door)である。表紙は表と裏が互いの鏡像になっており、トールキンのスタイルに特徴的な細長いドラゴンが下の縁にそって型押しされ、上の縁にそっては霧降り山脈のスケッチが型押しされている。[26]

トールキンは自分の挿絵が本に使われることになった時、カラーの別刷り図版の提案もした。出版社はこれに関しては折れてくれなかったため、トールキンは6ヶ月ほど後に出版されることになっていたアメリカ版に期待を寄せた。ホウトン・ミフリン社はトールキンの希望に応え、口絵(「お山:流れの向こうのホビット庄」)をカラーに差し替えた他、新たなカラー図版を加えた:「裂け谷」、「ビルボ、まぶしい朝日で目覚める」、「ビルボ、筏のエルフの小屋へ到着」、「スマウグとの会話」である。「スマウグとの会話」に描かれた樽には、トールキンが創作したテングワール文字で書かれたドワーフの呪いが見え、2つの"þ" ("Th")のルーン文字のサインがある。[27]追加された挿絵は非常に魅力的だったので、ジョージ・アレン&アンウィン社も第二刷りの際には、「ビルボ、まぶしい朝日で目覚める」以外のカラー図版を採用した。[28]

色々な版があるが、版によって挿絵もまちまちである。多くはオリジナルの構想に大まかにであれ準じたものであるが、特に多くの翻訳版においては、別のアーティストによって挿絵が描かれている。廉価版、特にペーパーバックでは地図以外は挿絵なしのものもある。1942年の「子供ブック・クラブ」の版には、白黒の絵は含まれているが地図がなく、これは例外である。[29]

トールキンによるルーン文字の使用は、装飾意匠としてのものも物語中の魔法の記号としてのものも、ニューエイジ秘教的文学において、ルーン文字が広まった主な原因として引き合いに出されている。[30] ニューエイジ も秘教的文学も、1970年代のカウンターカルチャー におけるトールキン人気に端を発したものだからである。[31]

[編集] 映画

映画『ロード・オブ・ザ・リング』3部作を手がけたピーター・ジャクソン監督のもと、前後編の2部作3D映画として製作され、Part1は2012年12月19日に、Part2は2013年にそれぞれ全米公開予定である。イギリス人俳優のマーティン・フリーマンが主演としてビルボ役を、イアン・マッケランがガンダルフ役を、そしてリチャード・アーミティッジトーリン・オーケンシールド役をそれぞれ演じる。

[編集] 日本語訳

現在入手可能な日本語訳は以下の通り

[編集] 脚注

  1. ^ Langford, David (2001). “Lord of the Royalties”. SFX magazine. http://www.ansible.co.uk/sfx/tolkien.html 2007年9月29日閲覧。. 
  2. ^ Matthews, Dorothy (1975). “The Psychological Journey of Bilbo Baggins”. A Tolkien Compass. Open Court Publishing. pp. 27–40. ISBN 9780875483030. http://books.google.com/?id=TqJ7gHrwjUEC&printsec=frontcover#PPA27,M1. 
  3. ^ Oxford Poetry (1915) Blackwells.
  4. ^ Yorkshire Poetry, Leeds, vol. 2, no. 19, October–November 1923.
  5. ^ ベイリー・トールキン編 せた ていじ やく『J. R. R. トールキン サンタ・クロースからの手紙』, 評論社, 1976年.
  6. ^ Rateliff 2007, pp. xxx–xxxi
  7. ^ Carpenter 1977, p. 181; ハンフリー・カーペンター『J. R. R. トールキン—或る伝記』, 菅原啓州訳, 評論社, 1982年, p. 210.
  8. ^ a b Carpenter 1981, p. 294.
  9. ^ Carpenter 1977, p. 184
  10. ^ 『J. R. R. トールキン—或る伝記』, p. 213.
  11. ^ Hammond 1993, p. 8
  12. ^ Hammond 1993, pp. 18–23
  13. ^ a b Anderson 2003, p. 22
  14. ^ http://en.wikipedia.org/wiki/English-language_editions_of_The_Hobbit(英語版エディション)
  15. ^ Anderson 2003, p. 23
  16. ^ 日本語版は「日本語訳」の項の山本史郎訳だが、これは1988年版の翻訳であり、2001年の改訂は反映されていない。アンダーソンの原著では、注釈は本文の脇に位置するが、山本訳ではすべて巻末にまとめられている。
  17. ^ 以下のサイトで、本書に掲載されたイラストのいくつかが見られる: Houghton Mifflin
  18. ^ Drout, Michael D. C.; Wynne,Hilary (2000年). “Review Essay: Tom Shippey's J. R. R. Tolkien: Author of the Century and a Look Back at Tolkien Criticism since 1982”. Envoi. http://teachingtolkien.org/McNelis/Envoi/ 2010年11月13日閲覧。 
  19. ^ Fisher, Jason (3 2008). "The History of the Hobbit (review)". Mythlore (101/102).
  20. ^ Anderson 2003, p. 14
  21. ^ Anderson 2003, pp. 378–379
  22. ^ Hammond 1993, p. 18
  23. ^ Hammond 1993, p. 10~11
  24. ^ Flieger, Verlyn (2005). Interrupted Music: The Making of Tolkien's Mythology. Kent State University Press. p. 67. ISBN 0873388240. 
  25. ^ Hammond 1993, p. 12-13
  26. ^ Hammond 1993, p. 14
  27. ^ Rateliff 2007, p. 602
  28. ^ Hammond 1993, p. 20
  29. ^ Tolkien, J. R. R. (1942). The Hobbit. London: The Children's Book Club. 
  30. ^ Elliot, Ralph W. V. (1998). “'Runes in English Literature' From Cynewulf to Tolkien”. In Duwel, Klaus (German and English). Runeninschriften Als Quelle Interdisziplinärer Forschung. Walter de Gruyter. pp. 663–664. ISBN 3110154552. 
  31. ^ Plowright, Sweyn (2006). The Rune Primer: A Down-to-Earth Guide to the Runes. Rune-Net Press. p. 137. ISBN 0958043515. 

[編集] 参考文献

[編集] 外部リンク


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