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「パントテン酸」の版間の差分

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'''パントテン酸'''(パントテンさん、{{lang-en-short|pantothenic acid}})とは、[[ビタミンB群]]に含まれる物質で、D(+)-N-(2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチルブチリル)-β-アラニンのこと。かつて、'''ビタミンB<sub>5</sub>'''とも呼ばれていた。[[補酵素A|CoA]](補酵素A)の構成成分として、糖代謝や脂肪酸代謝において重要な反応に関わる物質。語源はギリシャ語で、「どこにでもある酸」という意味。[[栄養素]]のひとつ。水溶性のビタミンで、食品中に広く存在し、通常の食生活を送る上で不足になることはあまりない。<!--We should avoid suggestive expression: が、ストレスに強い体をつくり、善玉コレステロールを増やす働きがあるといわれており、多めにとりたい栄養素の一つである。-->
'''パントテン酸'''(パントテンさん、{{lang-en-short|pantothenic acid}})とは、[[ビタミンB群]]に含まれる物質で、D(+)-N-(2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチルブチリル)-β-アラニンのこと。かつて、'''ビタミンB<sub>5</sub>'''とも呼ばれていた。[[補酵素A|CoA]](補酵素A)の構成成分として、糖代謝や脂肪酸代謝において重要な反応に関わる物質。語源はギリシャ語で、「どこにでもある酸」という意味。[[栄養素]]のひとつ。水溶性のビタミンで、食品中に広く存在し、通常の食生活を送る上で不足になることはあまりない。<!--We should avoid suggestive expression: が、ストレスに強い体をつくり、善玉コレステロールを増やす働きがあるといわれており、多めにとりたい栄養素の一つである。-->
成分(一般名)は、パンテチン({{lang-en-short|[[w:Pantethine|Pantethine]]}})。
成分(一般名)は、パンテチン(英:[[w:Pantethine|Pantethine]])。


== 物性 ==
== 物性 ==
吸湿性がある。酸、アルカリ、熱に不安定。[[水]]・[[アルコール]]・[[氷酢酸]]・[[ジオキサン]]に易溶、[[エーテル (化学)|エーテル]]に難溶、[[ベンゼン]]・[[クロロホルム]]に不溶
* 分子量 219.24
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* 比旋光度[α]D25 = +37.5°
* 比旋光度[α]D25 = +37.5°
* 酸、アルカリ、熱に不安定


== 生理活性 ==
== 生理活性 ==
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食品中ではそのほとんどが[[補酵素A|CoA(補酵素A)]]として存在するが、消化管内でパンテテインあるいはパントテン酸にまで分解され、体内に吸収される。
食品中ではそのほとんどが[[補酵素A|CoA(補酵素A)]]として存在するが、消化管内でパンテテインあるいはパントテン酸にまで分解され、体内に吸収される。


== 多く含む食品 ==
== 一日の所要量 ==
成人で5mg。通常の食生活で欠乏する可能性は低い。

=== 多く含む食品 ===
たいていの食品に含まれている。
たいていの食品に含まれている。
特に多く含まれている食品は、乾燥酵母、[[卵]]、[[牛乳]]、[[レバー (食材)|レバー]]、糸引き[[納豆]]、[[きな粉]]、[[落花生]]、[[干し椎茸]]、[[サケ|さけ]]、[[イワシ|いわし]]など。
特に多く含まれている食品は、乾燥酵母、[[卵]]、[[牛乳]]、[[レバー (食材)|レバー]]、糸引き[[納豆]]、[[きな粉]]、[[落花生]]、[[干し椎茸]]、[[サケ|さけ]]、[[イワシ|いわし]]など。


== 一日の所要量 ==
== 過剰症と欠乏症 ==
過剰症 - 特に知られていない。
成人で5mg。通常の食生活で欠乏する可能性は低い。


== 欠乏症 ==
欠乏症
* 成長停止
* 成長停止
* [[体重減少]]
* [[体重減少]]
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* [[副腎]]障害
* [[副腎]]障害


== 過剰障害 ==
== 外用薬として ==
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特に知られていない。

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== 生化学 ==
== 生化学 ==

2019年6月19日 (水) 14:03時点における版

パントテン酸
{{{画像alt2}}}
識別情報
CAS登録番号 137-08-6 チェック
PubChem 988
KEGG C00864
特性
化学式 C9H17NO5
モル質量 219.23 g mol−1
外観 粘稠油状
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

パントテン酸(パントテンさん、: pantothenic acid)とは、ビタミンB群に含まれる物質で、D(+)-N-(2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチルブチリル)-β-アラニンのこと。かつて、ビタミンB5とも呼ばれていた。CoA(補酵素A)の構成成分として、糖代謝や脂肪酸代謝において重要な反応に関わる物質。語源はギリシャ語で、「どこにでもある酸」という意味。栄養素のひとつ。水溶性のビタミンで、食品中に広く存在し、通常の食生活を送る上で不足になることはあまりない。 成分(一般名)は、パンテチン(英:Pantethine)。

物性

吸湿性がある。酸、アルカリ、熱に不安定。アルコール氷酢酸ジオキサンに易溶、エーテルに難溶、ベンゼンクロロホルムに不溶。

  • 比旋光度[α]D25 = +37.5°

生理活性

パントテン酸の生理作用は,体内でパントテン酸から生合成され、構成成分にパントテン酸を含むCoA(補酵素A)および4'-ホスホパンテテインを補因子にもつアシルキャリアプロテイン(ACP)としての作用によるものである。

食品中ではそのほとんどがCoA(補酵素A)として存在するが、消化管内でパンテテインあるいはパントテン酸にまで分解され、体内に吸収される。

一日の所要量

成人で5mg。通常の食生活で欠乏する可能性は低い。

多く含む食品

たいていの食品に含まれている。 特に多く含まれている食品は、乾燥酵母、牛乳レバー、糸引き納豆きな粉落花生干し椎茸さけいわしなど。

過剰症と欠乏症

過剰症 - 特に知られていない。

欠乏症

外用薬として

パントテン酸のアルコール類縁体のデクスパンテノールドイツ語版は、保湿創傷治癒の商品に成分として含まれ[1]、ドイツでは1944年にベパンテン軟膏 (Bepanthen) が登場した[2]。保湿作用があり、皮膚バリア機能を修復する[2]。1.2%にアレルギー性接触皮膚炎が起こっており、以前の研究における比較的高い発生率に一致する[1]。軽症から中等症のアトピー性皮膚炎の子供に、ステロイドと同等の効果であった[3]

プロビタミンB5の形態のパントテン酸、パンテノール英語版である。シャンプーなどの化粧品に配合されている。パンテノールは日本では目の疲れをとる目的で目薬に配合している製品もある[4]。パンテノールとナイアシンを配合した軟膏 (Bepanthen SensiDaily) は、非炎症性の乾燥、敏感肌を対象としているため、108名の小児アトピー性皮膚炎の維持期に使い、3か月後に炎症がなかった割合はパントテン酸軟膏で96%、比較対象の保湿剤で77%であった[5]。皮膚バリア機能と水分量に効果があった[6]

生化学

生体内において、パントテン酸はパントテン酸キナーゼ(EC 2.7.1.33)、ホスホパントテノイルシステインシンテターゼ(EC 6.3.2.5)、ホスホパントテノイルシステインデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.36)、デホスホCoAピロホスホリラーゼ(EC 2.7.7.3)、デホスホCoAキナーゼ(EC 2.7.1.24)の作用により補酵素A(CoA)に変換される。

EC 2.7.1.33 ATP + (R)-pantothenate = ADP + (R)-4'-phosphopantothenate
EC 6.3.2.5 CTP + (R)-4'-phosphopantothenate + L-cysteine = CMP + PPi + (R)-4'-phosphopantothenoyl-L-cysteine
EC 4.1.1.36 (R)-4'-phosphopantothenoyl-L-cysteine = pantotheine 4'-phosphate + CO2
EC 2.7.7.3 ATP + pantetheine 4'-phosphate = diphosphate + 3'-dephospho-CoA
EC 2.7.1.24 ATP + dephospho-CoA = ADP + CoA

構造

  • パントテン酸の構造式 - パントテン酸(pantothenic acid)はパントイン酸にβアラニンが結合したものである。
パントテン酸の構造式


  • パンテテインの構造式 - パンテテイン(pantetheine)はパントテン酸にシステアミン(2-メルカプトエチルアミン)が結合したものである。
パンテテインの構造式


パンテチンの構造式


  • 補酵素Aの構造式 - 補酵素Aはパンテテインとアデノシン-3'-リン酸が、ピロリン酸(二リン酸)を介して結合したもので、パンテテイン残基の末端にある-SH基を介して生体内でのアシル基転移において、その担体として機能している。
補酵素Aの構造式

関連項目

外部リンク

  1. ^ a b Rosa A. Fernandes, Luis Santiago, Miguel Gouveia, Margarida Goncalo (2018-11). “Allergic contact dermatitis caused by dexpanthenol-Probably a frequent allergen”. Contact dermatitis 79 (5): 276–280. doi:10.1111/cod.13054. PMID 30009460. 
  2. ^ a b Ehrhardt Proksch, Raymond de Bony, Sonja Trapp, Stephanie Boudon (2017-12). “Topical use of dexpanthenol: a 70th anniversary article”. The Journal of dermatological treatment 28 (8): 766–773. doi:10.1080/09546634.2017.1325310. PMID 28503966. 
  3. ^ Montree Udompataikul, Dipenn Limpa-o-vart (2012-3). “Comparative trial of 5% dexpanthenol in water-in-oil formulation with 1% hydrocortisone ointment in the treatment of childhood atopic dermatitis: a pilot study”. Journal of drugs in dermatology 11 (3): 366–374. PMID 22395588. 
  4. ^ 西脇純子「第22回 ロート目薬」『ファルマシア』第52巻第1号、2016年、54-55頁、doi:10.14894/faruawpsj.52.1_54 
  5. ^ Hans Stettler, Peter Kurka, Johannes Kandzora, Viktoria Pavel, Marion Breuer, Anna Macura-Biegun (2017-12). “A new topical panthenol-containing emollient for maintenance treatment of childhood atopic dermatitis: results from a multicenter prospective study”. The Journal of dermatological treatment 28 (8): 774–779. doi:10.1080/09546634.2017.1328938. PMID 28511614. 
  6. ^ Hans Stettler, Peter Kurka, Nathalie Lunau et al. (2017-3). “A new topical panthenol-containing emollient: Results from two randomized controlled studies assessing its skin moisturization and barrier restoration potential, and the effect on skin microflora”. The Journal of dermatological treatment 28 (2): 173–180. doi:10.1080/09546634.2016.1214235. PMID 27425824.