エンブラエル EMB-314

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エンブラエル EMB-314 スーパーツカノ

EMB-314 スーパーツカノ(単座型)

EMB-314 スーパーツカノ(単座型)

エンブラエル EMB-314は、ブラジルの航空機メーカー、エンブラエル社が開発したEMB-312 ツカノをベースにしたターボプロップ単発の軽攻撃機。愛称はスーパーツカノ(Super Tucano)。ブラジル空軍では、単座型は「A-29」、複座型では「AT-29」の名称を付与している。

開発[編集]

原型となったEMB-312H

エンブラエル社は、EMB-312がターボプロップ練習機として成功を収めたこともあり、アメリカ空軍アメリカ海軍統合基本航空機訓練システム計画(JPATS計画)に対してEMB-312の発展型EMB-312Hを提案することとし、1991年1月から開発作業を開始した。EMB-312Hは1991年9月9日に概念実証機が初飛行し、アメリカ国内で販売活動が行われたが、JPATSには採用されなかった。

一方、ブラジル空軍では材木の不法伐採・汚染、麻薬売買などの不法行為に対する国境監視能力を強化するためにアマゾン監視システム(SIVAM)計画を立て、早期警戒管制機リモートセンシング機(後のエンブラエル R-99)とともに軽攻撃機(ALX)の導入を決定した。このALXとして検討されたのがEMB-312Hを活用する案で、機体構造やシステムに改修が加えられることになり、機体名称もEMB-314に変更された。ALXにはEMB-314Mの名称で提案され、1995年8月18日に開発契約が与えられて1996年5月に初飛行した。

ブラジル空軍は単座型(A-29)49機と複座型(AT-29)50機(内30機はEMB-326GBシャバンチの後継となる高等練習機として運用)の計99機の採用を決定。1999年5月28日に単座型の試作初号機YA-29がロールアウトし、1999年12月にはイスラエルエルビット・システムズ社が電子機器の供給企業に選定された。A/AT-29は2001年5月に初期作戦能力(IOC)を獲得する予定だったが、ブラジル空軍の正式発注が2001年8月まで遅れたため、量産機の引き渡しは2003年12月から開始された。

機体構成[編集]

主翼に装備された12.7mm機銃

EMB-314はエンジンプラット・アンド・ホイットニー・カナダ製PT6A-68に換装されてEMB-312よりも大幅にパワーアップしており、強化された軸出力を吸収するためプロペラブレードは3翅から追加されて5翅となった。空虚重量および最大離陸重量が約70%も増大し、重心位置を調整するために機体はコクピット前方で0.37m、後方で1.00m延長され、主翼もEMB-312と基本構造こそ同じだが形状の変更が行われている。

コクピットはタンデム複座(単座型は後席を塞ぐことで単座化が行われている)で、前後席ともに15.2×20.3cmの多機能表示装置が2基、前席のみヘッドアップディスプレイ(HUD)とアップフロントコントロールが設置されたグラスコックピットとなっており、HOTAS概念も導入された。コクピットの照明は暗視ゴーグル対応型で、座席にはマーチンベーカー社製Mk.10LCXゼロ・ゼロ射出座席を装備する。

主翼下には計4ヵ所、胴体下には1ヵ所のハードポイントが設置され、主翼内には左右各1挺の12.7mm機銃が装備されている。搭載可能な武装はブラジル国産のピラニア空対空ミサイルロケット弾ポッド、レーザー誘導爆弾20mm機関砲ポッドなど。他にも、機体にはFLIRレーダー警戒受信機ミサイル警報装置チャフおよびフレアのディスペンサーが搭載されている。

海外輸出[編集]

軽攻撃機として高い評価を受けており、これまでにコロンビアドミニカ共和国チリエクアドルアメリカなど各大陸10カ国以上から発注を獲得している。また、アメリカ民間軍事会社であるブラックウォーターUSA社が特殊作戦支援用に導入を計画しており、乗員訓練用として1機を導入している。

2013年には、アメリカ空軍アフガニスタンへ供与する軽攻撃機となる軽航空支援(LAS)計画においてA-29が選定された。これを受けてジャクソンビル国際空港の施設内に最終組み立てラインの工場が新設され、翌年9月25日にアメリカ製の最初のA-29がロールアウトした。アメリカ空軍の軽攻撃機計画OA-XにもAT-6Bと並んで候補となっていたが、この計画は2018年12月に無期限延期となっている。代わって2020年から始まった軽攻撃実験計画(Light Attack Experiment計画、LAE計画)で2機が1億2,900万ドルでアメリカ空軍に調達され、AT-6Eとの比較試験が行われている[1]

2015年6月には、国際航空ショーに当機を出展した結果、複数のアフリカ諸国空軍関係者との商談が纏まり、その後エンブラエルは、マリから6機、ガーナから5機受注したと発表した。

2023年4月に、NATO加盟国向けに機能を追加したA-29Nを発表した。[2]

採用国[編集]

コロンビア空軍のAT-29
アフガニスタン空軍のAT-29
アフガニスタンの旗 アフガニスタン
カーブル陥落後の運用状況は不明。
アンゴラの旗 アンゴラ
ブラジルの旗 ブラジル
ブルキナファソの旗 ブルキナファソ
 チリ
2008年4月21日に12機の導入を決定し、オプション契約で8〜12機の追加購入も検討している。
 コロンビア
2005年12月7日に25機を発注、2006年12月7日からデリバリー開始。
ドミニカ共和国の旗 ドミニカ共和国
エクアドルの旗 エクアドル
インドネシアの旗 インドネシア
レバノンの旗 レバノン
マリ共和国の旗 マリ
モーリタニアの旗 モーリタニア
フィリピンの旗 フィリピン
トルクメニスタンの旗 トルクメニスタン
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
民間軍事会社ブラックウォーターUSA社が購入。アメリカ空軍もアフガニスタン空軍のパイロット教育用に第81戦闘飛行隊英語版にて運用し、現在も友好国向けのパイロット教育に用いている。
ナイジェリアの旗 ナイジェリア
2017年4月に12機の輸出が承認される見込みであると発表された[3]

性能諸元[編集]

出典: EMBRAER (2013年5月3日). “Super Tucano - folder” (PDF) (英語). 2015年1月20日閲覧。
EMBRAER (2007年12月4日). “Super Tucano Brochura” (PDF) (英語). 2015年1月20日閲覧。

諸元

性能

  • 最大速度: 590 km/h=M0.48 (319 kts)
  • 巡航速度: 520 km/h=M0.42 (280 kts)
  • フェリー飛行時航続距離: 2,855 km (1,541 nmi)
  • 実用上昇限度: 10,668 m (35,000 ft)
  • 離陸滑走距離: 900 m (2,950 ft)
  • 着陸滑走距離: 860 m (2,820 ft)

武装

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派生型[編集]

  • EMB-314:エンブラエル社での名称
  • A-29:ブラジル空軍での単座型(軽攻撃機専任タイプ)の呼称。アメリカ空軍での公式名称でもある。
  • AT-29:ブラジル空軍での複座型(高等練習機兼軽攻撃機タイプ)の呼称
  • A-29N:NATO構成国向けのアップデート版[4]

参考資料[編集]

  • 青木 謙知 編『Jwings戦闘機年鑑 2007-2008』イカロス出版、2007年。ISBN 4871499391 

脚注[編集]

  1. ^ 井上孝司「航空最新ニュース・海外フォトトピック」『航空ファン』第821号、文林堂、2021年5月、112頁。 
  2. ^ Embraer launches the A-29N Super Tucano in NATO configuration” (2023年4月12日). 2023年4月15日閲覧。
  3. ^ US to approve Super Tucano sale to Nigeria | defenceWeb
  4. ^ “新型も売れるか? 攻撃機A-29「スーパーツカノ」南米生まれのベストセラー 意外過ぎる元々の使い道”. 乗りものニュース. (2023年4月26日). https://trafficnews.jp/post/125556 2023年4月27日閲覧。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]