コンテンツにスキップ

アウストロバイレヤ目

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アウストロバイレヤ目

分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
: アウストロバイレヤ目 Austrobaileyales
学名
Austrobaileyales Takht. ex Reveal (1992)[1][2]
シノニム
和名
アウストロバイレヤ目[3]、アウストロべイレヤ目[4][5]、アウストロべイレア目[6]

アウストロバイレヤ目(アウストロバイレヤもく)(アウストロべイレヤ目、アウストロべイレア目、学名: Austrobaileyales)は被子植物のの1つである。常緑性または落葉性木本であり、直立またはつる性となる。精油細胞をもち、芳香を放つものが多い。不特定多数の花要素がらせん状についた花をつける(図1a)。北米南東部、東アジアから東南アジアメラネシアオーストラリア東部に分布し、5属約90種が知られている。マツブサ科トウシキミ(八角、スターアニス)やチョウセンゴミシは飲食用や生薬とされ、また日本ではシキミが仏事に広く用いられている。

マツブサ科シキミ科 Illiciaceae を含む)、トリメニア科Trimeniaceae)、アウストロバイレヤ科Austrobaileyaceae)の3科を含み、これらの頭文字から「ITA群」ともよばれる[7]。アウストロバイレヤ目と同じ範囲の分類群に対して、シキミ目の名を用いている例もある[8]

アウストロバイレヤ目は被子植物の中の初期分岐群の1つであり、現生種の中ではアンボレラ目Amborellales)、スイレン目Nymphaeales)に次いで3番目に他と分かれたグループであると考えられている。アウストロバイレヤ目を含むこの3目が被子植物の最初期分岐群であることは高い確度で示されており[9]、それぞれの頭文字から「ANAグレード (ANA grade)」とよばれ[10] (grade は段階群、側系統群のこと)、また前述の「ITA」を用いて「ANITAアニータ」ともよばれる[7][8]

特徴

[編集]

アウストロバイレヤ目に属する植物は全て維管束形成層による二次成長を行う木本であり、直立するものや、他の木に巻き付くもの (つる性) がある[11][12][13][14]。節は1葉隙[11][12][13][14]。ふつう常緑性であるが、マツブサ属 (マツブサ科) は落葉性[11][12][13][14]互生または対生単葉葉柄をもち、葉脈は羽状 (図1, 下図2)、気孔は不規則型または平行型[11][12][13][14]

は放射相称であり、両性花、あるいは単性花雌雄同株または雌雄異株[11][12][13][14]花被片は不特定多数、らせん状につき、萼片花弁の分化はないが、ときに外側から内側へ連続的な形態変異を示す[11][12][13][14] (下図3a, b)。雄しべはふつう不特定多数、らせん状につき、花糸は糸状で細いもの (トリメニア科) から扁平で葉状なもの (アウストロバイレヤ科) まである[13][14][15] (下図3a)。雌しべを構成する心皮は離生 (離生心皮)、嚢状心皮、トリメニア科ではふつう1個だが、他では不特定多数の心皮がらせん状 (シキミ属では輪生状) についている[11][12][13][14][15] (下図3a, b)。果実はふつう液果だが (下図3c)、シキミ属 (マツブサ科) では袋果[11][12][13][14]

上記のようにアウストロバイレヤ目に共通する形質は見られるが、その多くはおそらく共有原始形質であり、明瞭な共有派生形質は見つかっていない[7][6]

系統と分類

[編集]

マツブサ科シキミ科トリメニア科アウストロバイレヤ科は、古くから原始的な被子植物であると考えられ、モクレン目クスノキ目に分類されていた (マツブサ科とシキミ科は独自のシキミ目に分類されることもあった)[16][17][18][19]。ただしこれらの間に明瞭な類縁関係が認められていたわけではない。

20世紀末以降の分子系統学的研究により、これらの科が単系統群を形成し、被子植物の初期分岐群の1つであることが示された。その後、この系統群にはアウストロバイレヤ目の名が充てられるようになった[20]。現生被子植物の中では、最初にアンボレラ目、次にスイレン目が分岐し[注 1]、3番目にアウストロバイレヤ目が他と分かれたと考えられている[2] (系統樹)。

上記のようにアウストロバイレヤ目の中にはマツブサ科シキミ科トリメニア科アウストロバイレヤ科が認識されていた[20]。ただし、このうちマツブサ科とシキミ科は明らかに近縁であり、共通する特徴も多いため1つの科 (広義のマツブサ科) にまとめることが提唱され[23]、2020年現在ではこれが一般的となっている。そのため、2020年現在では、ふつうアウストロバイレヤ目の中にマツブサ科、トリメニア科、アウストロバイレヤ科の3科を分類している[2][4] (下表1)。この3科の中では、アウストロバイレヤ科が最初に分岐し、トリメニア科とマツブサ科が姉妹群であるとする仮説が示されることが多い[2] (下図4)。ただし一部の研究では、最初にトリメニア科が分岐したとする仮説が示されることがある[2]

アウストロバイレヤ目

アウストロバイレヤ科

トリメニア科

マツブサ科

4. アウストロバイレヤ目の系統仮説[2]

表1. アウストロバイレヤ目の分類体系[2][4]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ アンボレラ目スイレン目が単系統群を構成し、これが被子植物の中で最初に分岐したとする仮説もある[21][22]

出典

[編集]
  1. ^ Angiosperm Phylogeny Group III (2009). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III”. Botanical Journal of the Linnean Society 161 (2): 105–121. doi:10.1111/j.1095-8339.2009.00996.x. 
  2. ^ a b c d e f g h i j Stevens, P. F. (2001 onwards). “Austrobaileyales”. Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017. 2021年8月9日閲覧。
  3. ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “生物分類表”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 1645. ISBN 978-4000803144 
  4. ^ a b c 大場秀章 (2009). 植物分類表. アボック社. p. 20. ISBN 978-4900358614 
  5. ^ 長谷部光泰 (2020). 陸上植物の形態と進化. 裳華房. pp. 口絵1, 口絵41, 225. ISBN 978-4785358716 
  6. ^ a b Kabeya, Y. & Hasebe, M.. “アウストロベイレア目”. 陸上植物の進化. 基礎生物学研究所. 2021年8月9日閲覧。
  7. ^ a b c 伊藤元己 (2012). “ITA群”. 植物の系統と進化. 裳華房. pp. 151–152. ISBN 978-4785358525 
  8. ^ a b 伊藤元己 & 井鷺裕司 (2018). “基部被子植物”. 新しい植物分類体系. 文一総合出版. pp. 22–23. ISBN 978-4829965306 
  9. ^ Soltis, P. S. & Soltis, D. E. (2013). “Angiosperm phylogeny: a framework for studies of genome evolution”. Plant Genome Diversity Volume 2. Springer. pp. 1-11. ISBN 978-3-7091-1160-4 
  10. ^ Judd, W.S., Campbell, C.S., Kellogg, E.A., Stevens, P.F. & Donoghue, M.J. (2015). “ANA grade”. Plant Systematics: A Phylogenetic Approach. Academic Press. p. 244. ISBN 978-1605353890 
  11. ^ a b c d e f g h Watson, L. & Dallwitz, M.J. (1992 onwards). “Austrobaileyaceae (Croiz.) Croiz.”. The Families of Angiosperms. 2021年8月8日閲覧。
  12. ^ a b c d e f g h Watson, L. & Dallwitz, M.J. (1992 onwards). “Trimeniaceae Perk. & Gilg”. The Families of Angiosperms. 2021年8月7日閲覧。
  13. ^ a b c d e f g h i Watson, L. & Dallwitz, M.J. (1992 onwards). “Schisandraceae Bl.”. The Families of Angiosperms. 2021年8月8日閲覧。
  14. ^ a b c d e f g h i Watson, L. & Dallwitz, M.J. (1992 onwards). “Illiciaceae S.F. Gray”. The Families of Angiosperms. 2021年8月8日閲覧。
  15. ^ a b 長谷部光泰 (2020). 陸上植物の形態と進化. 裳華房. pp. 225–227. ISBN 978-4785358716 
  16. ^ Melchior, H. (1964). A. Engler's Syllabus der Pflanzenfamilien mit besonderer Berücksichtigung der Nutzpflanzen nebst einer Übersicht über die Florenreiche und Florengebiete der Erde. I. Band: Allgemeiner Teil. Bakterien bis Gymnospermen 
  17. ^ 井上浩, 岩槻邦男, 柏谷博之, 田村道夫, 堀田満, 三浦宏一郎 & 山岸高旺 (1983). “モクレン目”. 植物系統分類の基礎. 北隆館. p. 221 
  18. ^ Cronquist, A. (1981). An integrated system of classification of flowering plants. Columbia University Press. ISBN 9780231038805 
  19. ^ 加藤雅啓 (編) (1997). “分類表”. バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統. 裳華房. p. 270. ISBN 978-4-7853-5825-9 
  20. ^ a b Angiosperm Phylogeny Group (2003). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG II”. Botanical Journal of the Linnean Society 141 (4): 399-436. doi:10.1046/j.1095-8339.2003.t01-1-00158.x. 
  21. ^ Bell, C. D., Soltis, D. E. & Soltis, P. S. (2010). “The age and diversification of the angiosperms re‐revisited”. American Journal of Botany 97 (8): 1296-1303. doi:10.3732/ajb.0900346. 
  22. ^ Xi, Z., Liu, L., Rest, J. S. & Davis, C. C. (2014). “Coalescent versus concatenation methods and the placement of Amborella as sister to water lilies”. Systematic Biology 63 (6): 919-932. doi:10.1093/sysbio/syu055. 
  23. ^ APG III (2009). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III”. Botanical Journal of the Linnean Society 161 (2): 105–121. doi:10.1111/j.1095-8339.2009.00996.x. 

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]
  • Kabeya, Y. & Hasebe, M.. “アウストロベイレア目”. 陸上植物の進化. 基礎生物学研究所. 2021年8月9日閲覧。
  • Stevens, P. F. (2001 onwards). “Austrobaileyales”. Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017. 2021年8月9日閲覧。 (英語)