裏送り
裏送り(うらおくり)とは、放送のネットワークを通じての番組配信(ネット番組)において、キー局が自局で放送しているものとは別の番組・番組素材を系列ローカル局に送ること[1]。または、その番組・番組素材自体。
「オンエアされている裏で別のやりとりを行う」ためにこの名がある。ローカル局側では裏送りの素材を受けた状態を裏受け(うらうけ)[1][2]と呼ぶ。
概説
テレビ番組・ラジオ番組において、裏送りは、次のような場合になされる。
- 生放送の報道番組などで、各局送信の番組素材をキー局がリアルタイムに編集・放送する場合[3]
- 全国ネットの番組を放送中、キー局のみが、同一時刻に全国ネットとは異なる番組を放送する場合
- 全国ネットの番組を放送中、特定の系列ローカル局が、同一時刻に全国ネットとは異なる番組を放送する場合
裏送りには、一般的な中継放送同様、光ファイバー回線や人工衛星回線などが用いられる。裏送り・裏受けに用いる回線は放送に用いられる中継系統とは別に構築される。スタジオや副調整室以外での裏送り・裏受け回線は中継放送同様「臨時回線」と呼ばれる。
系列ローカル局において、番組編成上の事情で、送られてきた番組を同時刻に放送せず、あらかじめ素材をもらって全国時間より前倒しで放送する(先行ネット)、あるいは裏送り素材を自局で収録しておき(裏録り[1])、遅れた時間帯に放送する場合(遅れネット)も、裏送り・裏受けが行われる[4]。
事例
- 制作局で休止になった回は、臨時的にインターネット上で配信される場合がある。
- キー局で政見放送を行う場合に裏送りを行う例がある。日本放送協会(NHK)を例に取ると、選挙期間中、首都圏で政見放送(および時間調整のフィラー番組)が編成される場合、放送センター制作全国番組は裏送り放送となる。
- NHK総合テレビの金曜日編成のうち、放送センター制作首都圏ローカル番組(『首都圏情報 ネタドリ!』など)が枠拡大で20時台も放送する場合は、『チコちゃんに叱られる!』が放送センターからの裏送りにより地域情報番組を編成しない局向けの先行放送となる(この場合、首都圏などでは土曜8:15からの再放送が番組表で本放送扱いとなる)。
- キー局がスポーツ中継を延長するかたわら、中継をネット受けしていないか、または延長せず打ち切ったネット局向けに、定時でレギュラー放送を送る例がある。
- 朝日放送テレビは毎年8月、全国高等学校野球選手権大会を生中継放送するため、普段毎週土曜日に生放送している『朝だ!生です旅サラダ』はネット局向けに撮って出し収録したものを放送する(内容によってはまれに生放送を行うことがある)。毎週日曜日放送の「プリキュアシリーズ」はネット局向けに連動データ放送を含めて先行して放送する。
- ラジオのプロ野球中継の全国放送は、ローカル局がクロスネットを敷いている場合が多く、2大ネットワーク(NRN・JRN)のやり取りを曜日ごとに変える取り決めなどのため、裏送りの体制が非常に複雑となっている。各局の具体的な事例については日本プロ野球中継番組一覧#ラジオ参照。
- TBSラジオは、プロ野球中継の自局放送から撤退して以降も、DeNA主催試合を中心に地方局向けの裏送りを継続している。
- 文化放送は、土曜日のナイター中継を地方局向けに裏送りしているが、2020年シーズン以降、裏受けしているのは山口放送のみである。
- 制作局向けとビジターチーム本拠地のネット局向けに別々で制作する例。
- 地元チームの試合をほぼ全試合放送する局では、ビジターの試合は開催地のネット局の制作で中継を行うことが多い。例として、ニッポン放送が巨人対阪神戦を放送する裏で、同時にヤクルト対広島戦を中国放送に送信するなど[注 1]。
- ビジターチーム本拠地の局が2局以上ある地域(北海道・東海・関西・福岡)では、キー局がそれぞれの局向けに多重制作を行う。通常は片方の制作系統を担当外ネット局向けとする二重系統で、裏側(自局で流れない側)の中継についてはビジターチーム側のネット局から制作を受託する扱いとなるため、ネット局側の番組の体裁に合わせて制作されることが多い。聴取率調査期間などを中心に自局のみ系統・JRNネット局系統・NRNネット局系統の三重で制作されることもある。
- JRN/NRNクロスネットの1局しかない地域の制作局(仙台・広島・その他地方開催[注 3]の場合)がホームチーム本拠地の全国中継を行う場合も、二重系統が組まれることがある。
- テレビのプロ野球中継全国放送の事例。
- 1960年代初期には、クロスネットや系列外ネットおよび制作要員派遣のの都合で、ホームチーム側の地元局が自局で流れない裏送り中継を制作することが通例だった。例として1963年6月20日、中国放送は、自局でTBS系のネット番組を放送し、日本テレビ系向けに広島対巨人戦を裏送りした[5]。同日に広島県では広島テレビがフジテレビ系向けの中継を放送していた。当時はテレビ4局放送地域で同一カードの放映担当局を各地方でネットワーク別に分散する「並列放送」を行う取り決めになっていたためだった。
- テレビネットワークの整備が完了して以降は、ホームチーム側の放送局の制作受託による純粋な裏送りとなる例はほとんど見られなくなった。ビジターチーム側の放送局が素材を受ける場合、球場に直接乗り込んで中継する場合と、ホーム側の系列局ないし球団指定の公式中継素材提供会社の制作協力となる例が大半である。例としてヤクルト対広島戦をテレビ新広島が放送する場合、フジテレビおよびヤクルト球団指定映像制作会社「フジ・メディア・テクノロジー」の技術協力による自主制作となり、実況のみ自社スタジオからのオフチューブで行う。
脚注
- ^ a b c 日テレ広告ガイド テレビ営業用語集 ア行 日本テレビ放送網
- ^ 業界用語辞典 「裏受け」 TMS東京映画映像学校
- ^ 業界用語辞典 「裏送り」 TMS東京映画映像学校
- ^ 日本民間放送連盟編 編『放送ハンドブック:文化をになう民放の業務知識』(第4刷 p350-351)東洋経済新報社、1992年3月16日(原著1991年5月23日)。ISBN 4492760857。
- ^ 同日の読売新聞岡山版テレビ・ラジオ欄、中国新聞テレビ・ラジオ欄
- 注