石に泳ぐ魚

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石に泳ぐ魚』(いしにおよぐさかな)は、柳美里の処女小説。『新潮1994年9月号初出。同年12月、柳はこの作品のモデルとなった韓国人女性により、出版差止めを求める裁判を起こされた。

あらすじ[ソースを編集]

訴訟と社会への反響[ソースを編集]

モデルとなった当時大学院生の女性は作品を読み、自分の国籍、出身大学、専攻、家族の経歴や職業などがそのまま描写され、自身の顔の腫瘍を陰惨な表現で描写されたことを知り、著者の柳美里に出版を止めるよう懇願した。

柳は女性に対し単行本化の取りやめを約束したにもかかわらず、それを破り出版に踏み切ったことから、女性は出版差止めの仮処分を申請した。

その後、東京地方裁判所に出版社(新潮社)と柳に対する訴訟を提起して、出版差し止めと慰謝料を請求した。

訴訟は最高裁判所で柳側敗訴の判決が言い渡され確定した[1]

柳美里によるプライバシー及び名誉侵害行為によって、被害者が重大な損害を受けるおそれがあり、かつその回復を事後に図ることが困難になる。被害者は大学院生にすぎず公共的立場にあるものではなく、雑誌掲載小説が単行本として出版されれば被害者の精神的苦痛が倍増され、平穏な日常生活を送ることが困難になる。文学的表現においても他者に害悪をもたらすような表現は慎むべきである旨を、最高裁は判決理由で指摘した。

しかし裁判後、柳美里と新潮社は、単行本の出版を強行した。これは、内容を修正すれば出版可能と考えられたためである[2]

この一連の騒動は、仮処分の段階から柳に対する非難や擁護や「文学における表現の自由」をめぐっての論議が起き、マスコミ・論壇・文学界から大きな注目を集めた。

憲法学においては、この最高裁判決は名誉・プライバシー権と表現の自由をめぐる重要判例の一つとされている[3]

文献[ソースを編集]

石に泳ぐ魚[ソースを編集]

  • 「石に泳ぐ魚」文芸誌『新潮』1994年9月号に掲載
  • 改訂版『石に泳ぐ魚』新潮社、2002年10月、ISBN 4104017019
  • 同『石に泳ぐ魚』新潮文庫、2005年10月、ISBN 4101229309

柳美里の主張[ソースを編集]

  • 「表現のエチカ」初出:『新潮』1995年3月号
    『窓のある書店から』角川春樹事務所、1996年12月、ISBN 4894560704
    『窓のある書店から』ハルキ文庫、1999年5月 ISBN 4894565285
  • 『世界のひびわれと魂の空白を』 新潮社、2001年9月
    『「石に泳ぐ魚」裁判をめぐる経緯について答える』初出:『創』1999年9月号
    『「朝日新聞」社説と「大江健三郎氏」に問う』初出:『新潮45』1999年8月号
  • Webダ・ヴィンチ柳美里インタビュー」(2002年、改訂版刊行時のインタビュー)
  • インタビュー(東京新聞2002年12月4日夕刊)
  • 『柳美里不幸全記録』新潮社、2007年11月 ISBN 9784104017096
    「交換日記」(『新潮45』2003年1月号 - 7月号)
    『交換日記』新潮社、2003年8月(p210-p213, p218-p233, p257-258, p262-p267, p271, p275-p278)

新潮社の主張[ソースを編集]

評論[ソースを編集]

  • 新日本文学』1995年3月
    林浩治「民族を背負うことなく――柳美里『石に泳ぐ魚』の新しさ」
  • 鹿砦社編集部編『「表現の自由」とは何か? プライバシーと出版差し止め』鹿砦社、2000年6月、ISBN 4846303837
    丸山昇「芥川賞作家・柳美里の処女作『石に泳ぐ魚』浮沈の危機」
  • 青弓社編集部編『プライバシーと出版・報道の自由』青弓社、2001年2月、ISBN 4787231812
  • 『文學界』文藝春秋、2001年5月
    『特集「石に泳ぐ魚」裁判をめぐって』
  • 『文芸誌 そして No.12』2001年9月
    小嵐九八郎「私小説とモデル小説の間」
    宮原昭夫『「あちら側」と「こちら側」』
  • 加藤典洋『ポッカリあいた心の穴を少しずつ埋めてゆくんだ』クレイン、2002年5月
  • 法学セミナー編集部編「法学セミナー」2003年1月第577号、2002年12月[1](以下を掲載)
    「柳美里『石に泳ぐ魚』最高裁判決をめぐって 判決が投げかけているもの」(座談会: 木村晋介三田誠広・田島泰彦)
    山家篤夫「『石に泳ぐ魚』 公共図書館での掲載雑誌の利用制限をめぐって」
    資料: 柳美里訴訟の概要、一審・二審判旨、最高裁判決、引用判例
  • 宝島社編『まれに見るバカ女 社民系議員から人権侵害作家、芸なし芸能人まで!』宝島社、2003年1月、ISBN 4796630988
  • 『en-taxi No.01』扶桑社、2003年3月、ISBN 4594603246
    佐藤卓己「図書館の自由を脅かすもの―『石に泳ぐ魚』マスキング事件から」
    清水良典「〈欠落〉に棲むもの―『オリジナル』『改訂版』を読み比べて」
    呉善花「〈〉を乗り越える日のために」
  • 皓星社編『過去への責任と文学 記憶から未来へ』皓星社、2003年8月、ISBN 477440361X
  • 石井政之編『文筆生活の現場 ライフワークとしてのノンフィクション』中公新書ラクレ 2004年5月 ISBN 412150139X
  • 福田和也「解説」(改訂版『石に泳ぐ魚』新潮文庫、2005年10月 ISBN 4101229309
  • 川村湊編『現代女性作家読本8 柳美里』鼎書房、2007年2月 ISBN 4907846398
    清水良典『「生きにくさ」の証としての傷痕』
    馬場重行「強烈な〈毒素〉があばく青春の悲痛な姿」
  • 中村美帆「小説『石に泳ぐ魚』出版差し止め判決――日本における自由権的文化権保障の現状」(『文化資源学』文化資源学会、2007年)
  • 小谷野敦「柳美里裁判とその周辺」(『現代文学論争』筑摩選書、2010年10月 ISBN 978-4480015013

関連人物[ソースを編集]

最高裁の裁判官及び裁判長
上田豊三(裁判長)
金谷利廣
奥田昌道
濱田邦夫
上記以外
木村晋介 - 原告側弁護士
坂本忠雄 - 『新潮』掲載時の編集長

関連項目[ソースを編集]

[ソースを編集]

  1. ^ 最高裁判所第三小法廷平成14年9月24日判決
  2. ^ 曽我部真裕「プライバシー侵害と表現の自由」憲法判例百選第5版141頁
  3. ^ しかし、判決は具体的論点に踏み込んでいないという指摘もある。曽我部前掲140頁など。

外部リンク[ソースを編集]

判決[ソースを編集]

全て須賀博志の憲法講義室による。

その他[ソースを編集]