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[[ファイル:Fukuzawa Komakichi.jpg|thumb|福澤駒吉]]
[[ファイル:Fukuzawa Komakichi.jpg|thumb|福澤駒吉の肖像写真]]


'''福澤 駒吉'''（ふくざわ こまきち、[[1891年]]（[[明治]]24年）[[1月5日]] - [[1945年]]（[[昭和]]20年）[[3月18日]]）は、[[大正]]から昭和初期にかけて活動した[[日本]]の[[実業家]]。
'''福澤 駒吉'''（ふくざわ こまきち、[[1891年]]（[[明治]]24年）[[1月5日]] - [[1945年]]（[[昭和]]20年）[[3月18日]]）は、[[大正]]から昭和初期にかけて活動した[[日本]]の[[実業家]]。


「電力王」と呼ばれた実業家[[福澤桃介]]の長男で、[[福澤諭吉]]の孫にあたる。父の電気事業に参加したほか、[[化学工業]]を起して東亞合成化学工業（現・[[東亞合成]]）初代[[社長]]となった。
「電力王」と呼ばれた実業家[[福澤桃介]]の長男で、[[福澤諭吉]]の孫にあたる。父の[[電力会社|電気事業]]に参加し[[矢作水力]]社長などを務めたほか、[[化学工業]]を起して東亞合成化学工業（現・[[東亞合成]]）初代[[社長]]となった。


== 経歴 ==
== 経歴 ==
=== ソーダ事業の起業 ===
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福澤駒吉は1891年1月5日、福澤桃介（旧姓岩崎、福澤家に[[婿取婚|婿入り]]）の長男として生まれる<ref name="momo_p110"/>。母は福澤諭吉次女の房（ふさ）<ref name="momo_p110"/>。当時父桃介は[[北海道]]で[[炭鉱]]と[[鉄道]]を経営する[[北海道炭礦鉄道]]（北炭、後の[[北海道炭礦汽船]]）に勤めており、房を連れて[[東京]]から北海道へと赴任していたが、出産にあたって東京に帰ったため、駒吉は東京[[三田 (東京都港区)|三田]]の諭吉邸で生まれた<ref name="momo_p110">大西理平（編）『福澤桃介翁伝』、福澤桃介翁伝編纂所、1939年、110-116頁</ref>。駒吉が生まれた後、父桃介は実業家として成功を収める。
[[ファイル:Fukuzawa Momosuke 45-year-old.jpg|thumb|left|upright|父・福澤桃介]]


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福澤駒吉は[[1891年]]（明治24年）[[1月5日]]、[[福澤桃介]]（旧姓・岩崎、福澤家に[[婿取婚|婿入り]]）の長男として生まれた<ref name="momo-110">[[#momo|『福澤桃介翁伝』]]110-117頁</ref>。母は[[福澤諭吉]]次女の房（ふさ）<ref name="momo-110"/>。当時桃介は[[北海道]]で[[炭鉱]]と[[鉄道]]を経営する[[北海道炭礦鉄道]]（北炭、後の[[北海道炭礦汽船]]）に勤めており、房を連れて[[札幌市|札幌]]へと赴任していたが、出産にあたって東京に帰ったため、駒吉は東京[[三田 (東京都港区)|三田]]の諭吉邸で生まれた<ref name="momo-110"/>。駒吉が生まれた後、桃介は実業家として成功を収める。桃介は1910年代を通じて[[愛知県]]の電力会社[[名古屋電灯]]の経営にあたり、[[1921年]]（大正10年）からは[[木曽川]]開発などを手掛ける大手電力会社[[大同電力]]の社長の座に就くなど、[[電力会社|電気事業]]の経営が実業界での活動の中心であった。父に関連して駒吉も電力会社に関係したが、駒吉は父がほとんど関係してこなかった[[化学工業]]の経営に注力した<ref name="momo-390">[[#momo|『福澤桃介翁伝』]]390-399頁</ref>。
[[1913年]]（大正2年）、[[慶應義塾大学|慶應義塾大学部]]法律科を卒業<ref name="toa_p1"/>。同年[[アメリカ合衆国]]を遊学する<ref name="toa_p1">東亞合成化学工業株式会社社史編集室（編）『東亞合成化学工業株式会社社史』、[[東亞合成|東亞合成化学工業]]、1966年、1頁</ref>。帰国後、父桃介から[[ソーダ工業]]の事業化を指示される<ref name="toa_p308"/>。駒吉は化学者[[山崎甚五郎]]の指導の下、[[1916年]]（大正5年）4月、事業化に向けた試験を行うために東海曹達工業所を[[愛知県]][[名古屋市]]に設立した<ref name="toa_p308"/>。用地は、父が当時社長を務めていた名古屋の電力会社[[名古屋電灯]]の社有地であった<ref>『東亞合成化学工業株式会社社史』、307頁</ref>。同年12月、試験結果を踏まえて東海曹達株式会社が発足、駒吉は同社の初代社長に就任した<ref name="toa_p308">『東亞合成化学工業株式会社社史』、308-309頁</ref>。当時25歳で、これが実業家としてのスタートとなった<ref name="toa_p1"/>。東海曹達は翌1917年12月に工場の操業を開始し、以降順調に事業を拡大した<ref name="toa_p308"/>。


駒吉は[[1913年]]（大正2年）[[慶應義塾大学大学院法学研究科・法学部|慶應義塾大学部法律科]]を卒業、その後[[アメリカ合衆国]]を遊学する<ref name="toa-1">[[#toa|『社史 東亞合成化学工業株式会社』]]1-10頁</ref>。帰国後、父桃介から、化学者[[山崎甚五郎]]が研究中のビリター・ライカム (Billiter-Leykam) 式[[電解法#隔膜法|隔膜電解法]]による[[水酸化ナトリウム|苛性ソーダ]]製造について事業化を実現するよう指示をうける<ref name="toa-307">[[#toa|『社史 東亞合成化学工業株式会社』]]307-310頁</ref>。まず駒吉は山崎の指導の下、[[名古屋市]]中心部にあった名古屋電灯社有地を借りて試験工場の建設に取り掛かり、[[1916年]]（大正5年）4月「東海曹達工業所」を設立した<ref name="toa-307"/>。8月から工場の操業を始めると苛性ソーダの製造は当初から順調で、[[次亜塩素酸カルシウム|さらし粉]]製造に問題が生じたものの改良の結果好成績を収めることができた<ref name="toa-307"/>。12月工業所における試験が終了、事業化を目的に桃介や[[三菱財閥]]の[[岩崎久弥]]らの出資によって[[資本金]]100万円の東海曹達株式会社が立ち上げられた<ref name="toa-307"/>。駒吉は同社の初代社長に就任する<ref name="toa-307"/>。当時25歳で、これが実業家としての第一歩となった<ref name="toa-1"/>。
[[1922年]]（大正11年）4月、父が設立に参加した電力会社[[矢作水力|矢作水力株式会社]]の取締役副社長に就任<ref name="y_p146">『矢作水力株式会社十年史』、矢作水力、1929年、146頁。{{NDLJP|1031632}}</ref>。6月には、名古屋電灯の後身で父が相談役を務める大手電力会社[[東邦電力|東邦電力株式会社]]の[[取締役]]にも就任し、後に常務取締役に昇格した（1933年退任）<ref>東邦電力史編纂委員会（編）『東邦電力史』、東邦電力史刊行会、1962年、108頁および巻末「役員在任期間一覧表」</ref>。[[1928年]]（昭和3年）4月、[[井上角五郎]]の後任として矢作水力社長となる<ref name="y_p146"/>。同社は同じ福澤系の[[天竜川電力]]や[[白山水力]]を合併し、企業規模を拡大していく<ref>中部電力電気事業史編纂委員会（編）『中部地方電気事業史』上巻、[[中部電力]]、1995年</ref>。さらには余剰電力の受け皿として[[窒素]]工業に進出し、[[1933年]]（昭和8年）5月に（第一次）[[矢作水力#矢作工業|矢作工業株式会社]]を設立、[[硫酸アンモニウム|硫安]]などの製造を始めた。駒吉はこの矢作工業の社長を兼任した<ref>『東亞合成化学工業株式会社社史』、2-6頁</ref>。電気事業では他にも、父が初代社長であった[[大同電力|大同電力株式会社]]の監査役に[[1931年]]（昭和6年）12月就任し、[[1939年]]（昭和14年）3月まで務めている<ref>大同電力社史編纂事務所 『大同電力株式会社沿革史』、1941年、65頁</ref>。


東海曹達の創業に際し、駒吉はソーダ製造に熱中して自らソーダ製造法を発明し[[特許]]を得るほどのソーダ通となったという<ref name="myomi">[[#myomi|『仕事の妙味』]]538-553頁</ref>。同社では[[名古屋港]]四号地（名古屋市[[港区 (名古屋市)|港区]][[築地町 (名古屋市)|築地町]]）に本格的な[[ソーダ工業|ソーダ工場]]を建設、[[1917年]]（大正6年）6月より製品の出荷を開始した<ref name="toa-307"/>。[[戦後恐慌]]に際しては操業効率改善のためアレン・ムーア (Allen-Moore) 式隔膜電解法の導入を決定し[[1922年]]（大正11年）完成させる<ref name="toa-307"/>。その後も四号地には工場拡張用地があったが、付近で宅地化が進みつつあったため工場を移転して土地を売却することに決定<ref name="myomi"/>、東海曹達の株主を中心として別途新会社昭和曹達株式会社が[[1928年]]（昭和3年）12月に設立された<ref name="toa-310">[[#toa|『社史 東亞合成化学工業株式会社』]]310-317頁</ref>。資本金は150万円で、東海曹達同様に駒吉が社長に就いている<ref name="toa-310"/>。アレン・ムーア法による昭和曹達の新工場は名古屋港七号地（港区[[昭和町 (名古屋市)|昭和町]]）に建設され、翌[[1929年]]（昭和4年）12月操業開始に至った<ref name="toa-310"/>。
一方、ソーダ事業では東海曹達の後継会社として昭和曹達株式会社を1928年12月に設立。これも社長を兼任し、工場を翌[[1929年]]（昭和4年）12月名古屋市[[港区 (名古屋市)|港区]]昭和町に新設する<ref>『東亞合成化学工業株式会社社史』、310-311頁</ref>。昭和曹達も順調に業績を伸ばしたことから続いて姉妹会社の設立に乗り出し、[[1934年]]（昭和9年）5月[[鶴見曹達|鶴見曹達株式会社]]を設立し[[横浜市]]に、[[1935年]]（昭和10年）5月四国曹達株式会社を設立し[[香川県]]に、それぞれソーダ工場を建設した<ref>『東亞合成化学工業株式会社社史』、315-316頁</ref>。


東海曹達は昭和曹達の操業開始と引き換えに閉鎖・会社解散となる予定であったが、折からの需要増加に伴い7年後の[[1936年]]（昭和11年）末まで設備そのままで存続した<ref name="toa-307"/>。駒吉の[[固定資産]][[減価償却|償却]]を重視するという経営方針によってすでに工場建設費の償却を終えていたため、金を掛けずにできる限り稼働させてから閉鎖する方針となったことによる<ref name="myomi"/>。[[石山賢吉]]が1936年に工場を訪れた際には老朽化が酷く漏れた[[塩酸]]の臭いがただよう工場であったという<ref name="myomi"/>。
[[1940年]]（昭和15年）3月、矢作水力は（第一次）矢作工業を吸収合併<ref>『東亞合成化学工業株式会社社史』、10頁</ref>。また同年10月、同社の[[会長]]に就任する<ref>『中部地方電気事業史』下巻、357頁</ref>。しかし矢作水力は[[太平洋戦争]]開戦に伴って強化された電力国家管理政策により、[[1942年]]（昭和17年）4月、国策電力会社である[[日本発送電]]および[[中部電力|中部配電]]に電気事業設備を出資して[[解散]]した<ref>『中部地方電気事業史』上巻、359頁</ref>。解散直前、矢作水力の窒素工業部門は（第二次）矢作工業として独立、駒吉は矢作水力にかわって同社の社長となった<ref>『東亞合成化学工業株式会社社史』、11-13頁</ref>。


=== 電気事業の経営 ===
戦局の悪化につれて効率性向上が急務となったため、駒吉が社長を務める化学メーカーは事業統合を推進した。まず1942年6月昭和曹達が姉妹会社の鶴見曹達・四国曹達を合併。続いて[[1944年]]（昭和19年）7月には、（第二次）矢作工業と昭和曹達に[[三井化学|三井化学工業]]系の北海曹達およびレーヨン曹達を加えた合計4社が合併し、ソーダ工業と窒素工業を擁する化学メーカー東亞合成化学工業（現・[[東亞合成]]）が発足した<ref>『東亞合成化学工業株式会社社史』、14-15・316頁</ref>。三井化学工業から[[荘原和作]]が会長に就任し、駒吉は引き続き社長を務めることとなった<ref name="toa_p15"/>。しかしながら東亞合成発足のころから体調を崩し、同年11月に社長を辞任。以後療養生活を送るが、翌1945年3月18日に[[神奈川県]][[鎌倉市]][[扇ヶ谷]]の別邸で死去した<ref name="toa_p15">『東亞合成化学工業株式会社社史』、15-18頁</ref>。満54歳没。
[[ファイル:Yasuoka power station.jpg|thumb|矢作水力が建設した[[泰阜ダム]]と泰阜発電所]]

東海曹達の起業後、[[木曽川電力|電気製鋼所]]（[[大同特殊鋼]]の前身）の[[寒川恒貞]]・[[下出義雄]]が製鋼用[[電極]]の自給を図るべく企画した東海電極製造（現・[[東海カーボン]]）の設立に駒吉も参加し、[[1918年]]（大正7年）4月の会社設立とともに取締役に就任した<ref>[[#carbon|『東海カーボン七十五年史』]]136-138頁</ref>。同社には死去するまでの27年間にわたり取締役として関係することになる<ref>[[#carbon|『東海カーボン七十五年史』]]210頁</ref>。次いで翌[[1919年]]（大正8年）3月、[[矢作水力]]の設立とともに同社の取締役に就任<ref>「[[商業登記]] 株式会社（設立）」『[[官報]]』第2051号、1919年6月6日付。{{NDLJP|2954164/8}}</ref>、さらに3か月後の6月にも[[白山水力]]の設立とともに取締役の一人となった<ref>「商業登記 株式会社（設立）」『官報』第2156号、1919年10月10日付。{{NDLJP|2954269/11}}</ref>。どちらも父桃介が設立に関与した電力会社で、矢作水力は[[矢作川]]水系での電源開発を、白山水力は[[北陸地方]]での電源開発をそれぞれ設立目的としていた<ref name="jin-149">[[#jinteki|『人的事業大系』電力篇]]149-158頁</ref><ref>[[#hokuriku|『北陸地方電気事業百年史』]]152-154頁</ref>。

このうち矢作水力は設立時より[[井上角五郎]]が社長を務めたが、土木技術者出身の専務[[杉山栄]]が事実上の主宰者であった<ref name="jin-149"/>。設立3年後の1922年4月24日、駒吉も首脳陣に加わり副社長に就任<ref name="y-146">[[#yahagi|『矢作水力株式会社十年史』]]146-148頁</ref>。次いで1928年4月28日、矢作川開発の一巡を機に井上が引退したため、駒吉がその跡を襲って矢作水力第2代社長に就任した<ref name="jin-149"/><ref name="y-146"/>。ただし社長とはいえ駒吉が会社の実務に関与することは少なく、後任副社長に昇格した杉山栄が引き続き主宰者であったという<ref name="jin-149"/>。社長就任2か月後の1928年6月、父桃介が実業界引退を宣言し、当時務めていた大同電力社長・[[天竜川電力]]社長などから退く<ref>[[#momo|『福澤桃介翁伝』]]年譜23頁</ref>。駒吉はこのうち天竜川電力の後任社長となった<ref>「天竜川電総会」『東京朝日新聞』1928年6月27日付朝刊</ref>。同社は大同電力などが出資する[[天竜川]]開発のための電力会社である<ref name="daido-367">[[#daido|『大同電力株式会社沿革史』]]367-371頁</ref>。

駒吉が共通の社長となったこともあり、矢作水力と天竜川電力の合併が具体化され[[1931年]]（昭和6年）11月合併成立に至った<ref name="daido-367"/>。翌12月、旧天竜川電力の親会社・大同電力でも駒吉は監査役に就任し、以後同社解散直前の[[1939年]]（昭和14年）3月まで在任している<ref>[[#daido|『大同電力株式会社沿革史』]]65頁</ref>。続いて[[1933年]]（昭和8年）、矢作水力は同じ福澤系の白山水力も合併する<ref name="jin-149"/>。相次ぐ合併により矢作水力は資本金が設立時の500万円に比して16倍超となる8435万円に達し、大同電力など業界大手（五大電力という）に次ぐ規模の電力会社に発展した<ref name="jin-149"/>。

また矢作水力副社長直後にあたる1922年6月、関西電気改め[[東邦電力]]の取締役に就任した<ref>[[#toho|『東邦電力史』]]108-109頁</ref>。同社は1910年代を通じて父桃介の本拠であった名古屋電灯（末期は関西電気）と、[[北部九州]]を地盤とする福澤系の[[九州電灯鉄道]]などが合併して成立した、資本金1億円超の大規模電力会社である<ref name="jin-38">[[#jinteki|『人的事業大系』電力篇]]38-51頁</ref>。当初副社長、1928年以降は社長を務める[[松永安左エ門]]が経営を主宰した<ref name="jin-38"/>。この東邦電力では、駒吉は翌[[1923年]]（大正12年）下期より[[神谷卓男]]の後任として常務取締役に昇格する<ref>「東邦電力株式会社大正12年下半期営業報告書」（J-DAC「企業史料統合データベース」収録）</ref>。同社では常務兼総務部長という地位にあったが<ref>[[#kaisha32|『日本全国諸会社役員録』第32回]]上編88頁。{{NDLJP|936463/112}}</ref><ref>[[#kaisha35|『日本全国諸会社役員録』第35回]]上編79頁。{{NDLJP|1077355/111}}</ref>、[[1927年]]（昭和2年）5月の職制変更で部長からは外れ、専務[[田中徳次郎 (東邦電力)|田中徳次郎]]・取締役[[岡本桜]]とともに松永副社長の決裁事務に参与する、という役回りとなった<ref>「[http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.jsp?METAID=00056763&TYPE=IMAGE_FILE&POS=1&LANG=JA 東邦電力重役大改選反松永派一掃さる 職制にも大改革を加う]」『[[大阪毎日新聞]]』1927年5月29日付（神戸大学附属図書館「新聞記事文庫」収録）</ref>。その後1929年下期をもって常務から退き<ref>[[#toho|『東邦電力史』]]巻末「役員在任期間一覧表」</ref>、1933年5月の役員改選を機に取締役からも退任した<ref>「東邦電力株式会社昭和8年下半期営業報告書」（J-DAC「企業史料統合データベース」収録）</ref>。

=== 東亞合成初代社長就任 ===
駒吉率いる矢作水力では、天竜川水系における電源開発実施に際し、開発した電力を自家利用して窒素工業事業を立ち上げる方針を定めた<ref name="toa-1"/>。多量の電力を投じた[[電気分解]]で原料[[水素]]を生成し、次いで[[アンモニア]]を合成、そこから[[硫酸アンモニウム]]（硫安）・[[硝酸]]を製造する、という工程からなる事業である<ref name="toa-1"/>。工場建設中の1933年5月、化学事業は資本金300万円の子会社・矢作工業（第一次）に移される<ref name="toa-1"/>。駒吉は同社社長も兼任した<ref name="toa-1"/>。矢作工業は1933年末からアンモニア合成に着手、翌年から順次硫安・硝酸の製造を始めた<ref name="toa-1"/>。

一方のソーダ事業では、1930年代に入ると好況の波に乗って名古屋港の昭和曹達工場において増産を重ねたのに加え、昭和曹達の姉妹会社2社を新設した<ref name="toa-310"/>。一つは[[横浜市]][[鶴見区 (横浜市)|鶴見区]]での新工場建設のため[[1934年]]（昭和9年）5月資本金150万円で設立した[[鶴見曹達]]、もう一つは[[香川県]][[綾歌郡]]坂出町（現・[[坂出市]]）での新工場建設のため翌[[1935年]]（昭和10年）5月資本金150万円で設立した四国曹達である<ref name="toa-310"/>。両社とも駒吉が社長を兼ねた<ref name="toa-310"/>。鶴見工場は1935年4月、坂出工場は1936年4月にそれぞれ竣工している<ref name="toa-310"/>。

[[日中戦争]]勃発を機に硫安事業と電気事業に対する国家統制が強化されたことに伴い、[[1940年]]（昭和15年）3月に矢作水力は矢作工業を合併した<ref name="toa-1"/>。続いて同年10月31日付で矢作水力の経営陣異動があり、副社長の[[成瀬正忠]]（元白山水力社長<ref name="jin-149"/>）が第3代社長に就任し、駒吉は初代会長に就任した<ref>[[#chubu|『中部地方電気事業史』下巻]]357-358頁</ref>。しかしその1年半後の[[1942年]]（昭和17年）4月、電気事業に関する国家統制の深度化によって、矢作水力は国策会社[[日本発送電]]および[[中部配電]]へと電気事業を[[現物出資|出資]]して会社[[解散]]に至る<ref name="toa-11">[[#toa|『社史 東亞合成化学工業株式会社』]]11-16頁</ref>。解散に際し化学工業部門については再度独立させる方針が採られ、同年3月31日付で矢作工業（第二次）が新設された<ref name="toa-11"/>。駒吉は2か月後の5月30日付で矢作工業の取締役社長に就任している<ref name="toa-68">[[#toa|『社史 東亞合成化学工業株式会社』]]68-69頁</ref>。戦時下の影響はソーダ事業にも及んでおり、翌6月、事業効率化のため昭和曹達と鶴見曹達・四国曹達の合併が実施された<ref name="toa-310"/>。

[[太平洋戦争]]の戦局が悪化しつつあった[[1944年]]（昭和19年）4月、限られた資金・資材を活用し一層の増産を図るべく、福澤系の矢作工業・昭和曹達と[[三井化学|三井化学工業]]系の北海曹達・レーヨン曹達（両社とも[[富山県]][[伏木町|伏木]]に工場設置）の4社合併が決定<ref name="toa-11"/>。7月17日付で合併が成立し、存続会社の矢作工業が社名を改めることで、ソーダ工業・窒素工業の両部門を擁する資本金4088万円の化学メーカー「東亞合成化学工業」（現・[[東亞合成]]）が発足した<ref name="toa-11"/>。東亞合成化学工業の経営陣には、株式の4分の1を持つ三井化学工業から[[荘原和作]]が会長に就任し、駒吉は矢作工業から引き続いて社長を務めることとなった<ref name="toa-11"/>。

東亞合成初代社長に就任した駒吉であったが、会社発足のころから体調を崩しており、半年後の11月29日に実施された取締役改選を機に社長から退いた<ref name="toa-17">[[#toa|『社史 東亞合成化学工業株式会社』]]17-18頁</ref>。以後療養生活を送るが、翌[[1945年]]（昭和20年）[[3月18日]]、[[神奈川県]][[鎌倉市]][[扇ヶ谷]]の別邸で死去した<ref name="toa-17"/>。満54歳没。死去時まで東亞合成取締役には在職していた<ref name="toa-68"/>。


== 人物 ==
== 人物 ==
[[1918年]]（大正7年）1月、[[いとこ]]（福澤諭吉の長男[[福澤一太郎|一太郎]]の娘）の八重子と結婚。このとき父桃介は当時[[立憲政友会]]総裁の[[原敬]]、[[慶應義塾]]塾長[[鎌田栄吉]]など有名人500余名を招き[[築地精養軒]]で豪華な祝宴を催した<ref>『福澤桃介翁伝』、107-108頁</ref>。
[[1918年]]（大正7年）1月、[[いとこ]]（福澤諭吉の長男[[福澤一太郎|一太郎]]の娘）の八重子と結婚。このとき父桃介は当時[[立憲政友会]]総裁の[[原敬]]、[[慶應義塾]]塾長[[鎌田栄吉]]など有名人500余名を招き[[築地精養軒]]で豪華な祝宴を催した<ref>[[#momo|『福澤桃介翁伝』]]107-108頁</ref>。


趣味は[[自動車]]。数台の自動車を保有して自ら運転し、自動車販売会社も経営した<ref name="momo-390"/>。自動車販売会社は「[[ミツワ自動車|三和自動車]]」といい、1931年7月に設立され、駒吉自身は監査役を務める<ref>「商業登記 株式会社設立」『官報』第1439号、1931年10月14日付。{{NDLJP|2957907/12}}</ref><!-- 前身・三柏商会には関係していない模様 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2956192/8 -->。同社は[[赤坂 (東京都港区)|赤坂溜池]]にある、アメリカ・[[パッカード]] (Packard) の総代理店であった<ref>「広告 パッカード自動車（三和自動車株式会社）」『官報』第1900号、1933年5月5日付。{{NDLJP|2958372/17}}</ref>。
趣味は[[自動車]]。数台の自動車を保有して自ら運転し、自動車販売会社も経営した<ref>『福澤桃介翁伝』、398-399頁</ref>。


== 参考文献 ==
== 主な役職 ==
* 電気事業
** [[矢作水力]]取締役 ： 1919年3月 - 1942年4月
*** 1922年4月から副社長、1928年4月から社長、1940年10月から会長
** [[白山水力]]取締役 ： 1919年6月 - 1933年2月
** [[東邦電力]]取締役 ： 1922年6月 - 1933年5月
*** 1923年下期から1929年下期にかけて常務
** [[天竜川電力]]取締役社長 ： 1928年6月 - 1931年11月
** [[大同電力]]監査役 ： 1931年12月 - 1939年3月
* 化学事業
** 東海曹達取締役社長 ： 1916年12月 - 1936年12月
** 昭和曹達取締役社長 ： 1928年12月 - 1944年7月
** 東亞合成化学工業取締役社長 ： 1942年5月 - 1944年11月（現・[[東亞合成]]）
*** 社長退任後も1945年3月まで取締役
* その他
** 東海電極製造取締役 ： 1918年4月 - 1945年3月（現・[[東海カーボン]]）

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author=[[石山賢吉]] |title=仕事の妙味 |publisher=[[千倉書房]] |year=1936 |id={{NDLJP|1229033}} |ref=myomi }}
* {{Cite book|和書|author=大西理平（編）|title=福澤桃介翁伝 |publisher=福澤桃介翁伝編纂所 |year=1939 |ref=momo }}
* 商業興信所（編）『日本全国諸会社役員録』
** {{Cite book|和書|author= |title=日本全国諸会社役員録 |volume=第32回 |publisher=商業興信所 |year=1924 |id={{NDLJP|936463}} |ref=kaisha32 }}
** {{Cite book|和書|author= |title=日本全国諸会社役員録 |volume=第35回 |publisher=商業興信所 |year=1927 |id={{NDLJP|1077355}} |ref=kaisha35 }}
* {{Cite book|和書|author=大同電力社史編纂事務所（編）|title=大同電力株式会社沿革史 |publisher=大同電力社史編纂事務所 |year=1941 |ref=daido }}
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2021年8月30日 (月) 09:30時点における版

福澤駒吉の肖像写真

福澤 駒吉（ふくざわ こまきち、1891年（明治24年）1月5日 - 1945年（昭和20年）3月18日）は、大正から昭和初期にかけて活動した日本の実業家。

「電力王」と呼ばれた実業家福澤桃介の長男で、福澤諭吉の孫にあたる。父の電気事業に参加し矢作水力社長などを務めたほか、化学工業を起して東亞合成化学工業（現・東亞合成）初代社長となった。

経歴

ソーダ事業の起業

父・福澤桃介

福澤駒吉は1891年（明治24年）1月5日、福澤桃介（旧姓・岩崎、福澤家に婿入り）の長男として生まれた[1]。母は福澤諭吉次女の房（ふさ）[1]。当時桃介は北海道で炭鉱と鉄道を経営する北海道炭礦鉄道（北炭、後の北海道炭礦汽船）に勤めており、房を連れて札幌へと赴任していたが、出産にあたって東京に帰ったため、駒吉は東京三田の諭吉邸で生まれた[1]。駒吉が生まれた後、桃介は実業家として成功を収める。桃介は1910年代を通じて愛知県の電力会社名古屋電灯の経営にあたり、1921年（大正10年）からは木曽川開発などを手掛ける大手電力会社大同電力の社長の座に就くなど、電気事業の経営が実業界での活動の中心であった。父に関連して駒吉も電力会社に関係したが、駒吉は父がほとんど関係してこなかった化学工業の経営に注力した[2]。

駒吉は1913年（大正2年）慶應義塾大学部法律科を卒業、その後アメリカ合衆国を遊学する[3]。帰国後、父桃介から、化学者山崎甚五郎が研究中のビリター・ライカム (Billiter-Leykam) 式隔膜電解法による苛性ソーダ製造について事業化を実現するよう指示をうける[4]。まず駒吉は山崎の指導の下、名古屋市中心部にあった名古屋電灯社有地を借りて試験工場の建設に取り掛かり、1916年（大正5年）4月「東海曹達工業所」を設立した[4]。8月から工場の操業を始めると苛性ソーダの製造は当初から順調で、さらし粉製造に問題が生じたものの改良の結果好成績を収めることができた[4]。12月工業所における試験が終了、事業化を目的に桃介や三菱財閥の岩崎久弥らの出資によって資本金100万円の東海曹達株式会社が立ち上げられた[4]。駒吉は同社の初代社長に就任する[4]。当時25歳で、これが実業家としての第一歩となった[3]。

東海曹達の創業に際し、駒吉はソーダ製造に熱中して自らソーダ製造法を発明し特許を得るほどのソーダ通となったという[5]。同社では名古屋港四号地（名古屋市港区築地町）に本格的なソーダ工場を建設、1917年（大正6年）6月より製品の出荷を開始した[4]。戦後恐慌に際しては操業効率改善のためアレン・ムーア (Allen-Moore) 式隔膜電解法の導入を決定し1922年（大正11年）完成させる[4]。その後も四号地には工場拡張用地があったが、付近で宅地化が進みつつあったため工場を移転して土地を売却することに決定[5]、東海曹達の株主を中心として別途新会社昭和曹達株式会社が1928年（昭和3年）12月に設立された[6]。資本金は150万円で、東海曹達同様に駒吉が社長に就いている[6]。アレン・ムーア法による昭和曹達の新工場は名古屋港七号地（港区昭和町）に建設され、翌1929年（昭和4年）12月操業開始に至った[6]。

東海曹達は昭和曹達の操業開始と引き換えに閉鎖・会社解散となる予定であったが、折からの需要増加に伴い7年後の1936年（昭和11年）末まで設備そのままで存続した[4]。駒吉の固定資産償却を重視するという経営方針によってすでに工場建設費の償却を終えていたため、金を掛けずにできる限り稼働させてから閉鎖する方針となったことによる[5]。石山賢吉が1936年に工場を訪れた際には老朽化が酷く漏れた塩酸の臭いがただよう工場であったという[5]。

電気事業の経営

矢作水力が建設した泰阜ダムと泰阜発電所

東海曹達の起業後、電気製鋼所（大同特殊鋼の前身）の寒川恒貞・下出義雄が製鋼用電極の自給を図るべく企画した東海電極製造（現・東海カーボン）の設立に駒吉も参加し、1918年（大正7年）4月の会社設立とともに取締役に就任した[7]。同社には死去するまでの27年間にわたり取締役として関係することになる[8]。次いで翌1919年（大正8年）3月、矢作水力の設立とともに同社の取締役に就任[9]、さらに3か月後の6月にも白山水力の設立とともに取締役の一人となった[10]。どちらも父桃介が設立に関与した電力会社で、矢作水力は矢作川水系での電源開発を、白山水力は北陸地方での電源開発をそれぞれ設立目的としていた[11][12]。

このうち矢作水力は設立時より井上角五郎が社長を務めたが、土木技術者出身の専務杉山栄が事実上の主宰者であった[11]。設立3年後の1922年4月24日、駒吉も首脳陣に加わり副社長に就任[13]。次いで1928年4月28日、矢作川開発の一巡を機に井上が引退したため、駒吉がその跡を襲って矢作水力第2代社長に就任した[11][13]。ただし社長とはいえ駒吉が会社の実務に関与することは少なく、後任副社長に昇格した杉山栄が引き続き主宰者であったという[11]。社長就任2か月後の1928年6月、父桃介が実業界引退を宣言し、当時務めていた大同電力社長・天竜川電力社長などから退く[14]。駒吉はこのうち天竜川電力の後任社長となった[15]。同社は大同電力などが出資する天竜川開発のための電力会社である[16]。

駒吉が共通の社長となったこともあり、矢作水力と天竜川電力の合併が具体化され1931年（昭和6年）11月合併成立に至った[16]。翌12月、旧天竜川電力の親会社・大同電力でも駒吉は監査役に就任し、以後同社解散直前の1939年（昭和14年）3月まで在任している[17]。続いて1933年（昭和8年）、矢作水力は同じ福澤系の白山水力も合併する[11]。相次ぐ合併により矢作水力は資本金が設立時の500万円に比して16倍超となる8435万円に達し、大同電力など業界大手（五大電力という）に次ぐ規模の電力会社に発展した[11]。

また矢作水力副社長直後にあたる1922年6月、関西電気改め東邦電力の取締役に就任した[18]。同社は1910年代を通じて父桃介の本拠であった名古屋電灯（末期は関西電気）と、北部九州を地盤とする福澤系の九州電灯鉄道などが合併して成立した、資本金1億円超の大規模電力会社である[19]。当初副社長、1928年以降は社長を務める松永安左エ門が経営を主宰した[19]。この東邦電力では、駒吉は翌1923年（大正12年）下期より神谷卓男の後任として常務取締役に昇格する[20]。同社では常務兼総務部長という地位にあったが[21][22]、1927年（昭和2年）5月の職制変更で部長からは外れ、専務田中徳次郎・取締役岡本桜とともに松永副社長の決裁事務に参与する、という役回りとなった[23]。その後1929年下期をもって常務から退き[24]、1933年5月の役員改選を機に取締役からも退任した[25]。

東亞合成初代社長就任

駒吉率いる矢作水力では、天竜川水系における電源開発実施に際し、開発した電力を自家利用して窒素工業事業を立ち上げる方針を定めた[3]。多量の電力を投じた電気分解で原料水素を生成し、次いでアンモニアを合成、そこから硫酸アンモニウム（硫安）・硝酸を製造する、という工程からなる事業である[3]。工場建設中の1933年5月、化学事業は資本金300万円の子会社・矢作工業（第一次）に移される[3]。駒吉は同社社長も兼任した[3]。矢作工業は1933年末からアンモニア合成に着手、翌年から順次硫安・硝酸の製造を始めた[3]。

一方のソーダ事業では、1930年代に入ると好況の波に乗って名古屋港の昭和曹達工場において増産を重ねたのに加え、昭和曹達の姉妹会社2社を新設した[6]。一つは横浜市鶴見区での新工場建設のため1934年（昭和9年）5月資本金150万円で設立した鶴見曹達、もう一つは香川県綾歌郡坂出町（現・坂出市）での新工場建設のため翌1935年（昭和10年）5月資本金150万円で設立した四国曹達である[6]。両社とも駒吉が社長を兼ねた[6]。鶴見工場は1935年4月、坂出工場は1936年4月にそれぞれ竣工している[6]。

日中戦争勃発を機に硫安事業と電気事業に対する国家統制が強化されたことに伴い、1940年（昭和15年）3月に矢作水力は矢作工業を合併した[3]。続いて同年10月31日付で矢作水力の経営陣異動があり、副社長の成瀬正忠（元白山水力社長[11]）が第3代社長に就任し、駒吉は初代会長に就任した[26]。しかしその1年半後の1942年（昭和17年）4月、電気事業に関する国家統制の深度化によって、矢作水力は国策会社日本発送電および中部配電へと電気事業を出資して会社解散に至る[27]。解散に際し化学工業部門については再度独立させる方針が採られ、同年3月31日付で矢作工業（第二次）が新設された[27]。駒吉は2か月後の5月30日付で矢作工業の取締役社長に就任している[28]。戦時下の影響はソーダ事業にも及んでおり、翌6月、事業効率化のため昭和曹達と鶴見曹達・四国曹達の合併が実施された[6]。

太平洋戦争の戦局が悪化しつつあった1944年（昭和19年）4月、限られた資金・資材を活用し一層の増産を図るべく、福澤系の矢作工業・昭和曹達と三井化学工業系の北海曹達・レーヨン曹達（両社とも富山県伏木に工場設置）の4社合併が決定[27]。7月17日付で合併が成立し、存続会社の矢作工業が社名を改めることで、ソーダ工業・窒素工業の両部門を擁する資本金4088万円の化学メーカー「東亞合成化学工業」（現・東亞合成）が発足した[27]。東亞合成化学工業の経営陣には、株式の4分の1を持つ三井化学工業から荘原和作が会長に就任し、駒吉は矢作工業から引き続いて社長を務めることとなった[27]。

東亞合成初代社長に就任した駒吉であったが、会社発足のころから体調を崩しており、半年後の11月29日に実施された取締役改選を機に社長から退いた[29]。以後療養生活を送るが、翌1945年（昭和20年）3月18日、神奈川県鎌倉市扇ヶ谷の別邸で死去した[29]。満54歳没。死去時まで東亞合成取締役には在職していた[28]。

人物

1918年（大正7年）1月、いとこ（福澤諭吉の長男一太郎の娘）の八重子と結婚。このとき父桃介は当時立憲政友会総裁の原敬、慶應義塾塾長鎌田栄吉など有名人500余名を招き築地精養軒で豪華な祝宴を催した[30]。

趣味は自動車。数台の自動車を保有して自ら運転し、自動車販売会社も経営した[2]。自動車販売会社は「三和自動車」といい、1931年7月に設立され、駒吉自身は監査役を務める[31]。同社は赤坂溜池にある、アメリカ・パッカード (Packard) の総代理店であった[32]。

主な役職

  • 電気事業
    • 矢作水力取締役 ： 1919年3月 - 1942年4月
      • 1922年4月から副社長、1928年4月から社長、1940年10月から会長
    • 白山水力取締役 ： 1919年6月 - 1933年2月
    • 東邦電力取締役 ： 1922年6月 - 1933年5月
      • 1923年下期から1929年下期にかけて常務
    • 天竜川電力取締役社長 ： 1928年6月 - 1931年11月
    • 大同電力監査役 ： 1931年12月 - 1939年3月
  • 化学事業
    • 東海曹達取締役社長 ： 1916年12月 - 1936年12月
    • 昭和曹達取締役社長 ： 1928年12月 - 1944年7月
    • 東亞合成化学工業取締役社長 ： 1942年5月 - 1944年11月（現・東亞合成）
      • 社長退任後も1945年3月まで取締役
  • その他

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c 『福澤桃介翁伝』110-117頁
  2. ^ a b 『福澤桃介翁伝』390-399頁
  3. ^ a b c d e f g h 『社史 東亞合成化学工業株式会社』1-10頁
  4. ^ a b c d e f g h 『社史 東亞合成化学工業株式会社』307-310頁
  5. ^ a b c d 『仕事の妙味』538-553頁
  6. ^ a b c d e f g h 『社史 東亞合成化学工業株式会社』310-317頁
  7. ^ 『東海カーボン七十五年史』136-138頁
  8. ^ 『東海カーボン七十五年史』210頁
  9. ^ 「商業登記 株式会社（設立）」『官報』第2051号、1919年6月6日付。NDLJP:2954164/8
  10. ^ 「商業登記 株式会社（設立）」『官報』第2156号、1919年10月10日付。NDLJP:2954269/11
  11. ^ a b c d e f g 『人的事業大系』電力篇149-158頁
  12. ^ 『北陸地方電気事業百年史』152-154頁
  13. ^ a b 『矢作水力株式会社十年史』146-148頁
  14. ^ 『福澤桃介翁伝』年譜23頁
  15. ^ 「天竜川電総会」『東京朝日新聞』1928年6月27日付朝刊
  16. ^ a b 『大同電力株式会社沿革史』367-371頁
  17. ^ 『大同電力株式会社沿革史』65頁
  18. ^ 『東邦電力史』108-109頁
  19. ^ a b 『人的事業大系』電力篇38-51頁
  20. ^ 「東邦電力株式会社大正12年下半期営業報告書」（J-DAC「企業史料統合データベース」収録）
  21. ^ 『日本全国諸会社役員録』第32回上編88頁。NDLJP:936463/112
  22. ^ 『日本全国諸会社役員録』第35回上編79頁。NDLJP:1077355/111
  23. ^ 「東邦電力重役大改選反松永派一掃さる 職制にも大改革を加う」『大阪毎日新聞』1927年5月29日付（神戸大学附属図書館「新聞記事文庫」収録）
  24. ^ 『東邦電力史』巻末「役員在任期間一覧表」
  25. ^ 「東邦電力株式会社昭和8年下半期営業報告書」（J-DAC「企業史料統合データベース」収録）
  26. ^ 『中部地方電気事業史』下巻357-358頁
  27. ^ a b c d e 『社史 東亞合成化学工業株式会社』11-16頁
  28. ^ a b 『社史 東亞合成化学工業株式会社』68-69頁
  29. ^ a b 『社史 東亞合成化学工業株式会社』17-18頁
  30. ^ 『福澤桃介翁伝』107-108頁
  31. ^ 「商業登記 株式会社設立」『官報』第1439号、1931年10月14日付。NDLJP:2957907/12
  32. ^ 「広告 パッカード自動車（三和自動車株式会社）」『官報』第1900号、1933年5月5日付。NDLJP:2958372/17

参考文献

  • 石山賢吉『仕事の妙味』千倉書房、1936年。NDLJP:1229033。 
  • 大西理平（編）『福澤桃介翁伝』福澤桃介翁伝編纂所、1939年。 
  • 商業興信所（編）『日本全国諸会社役員録』
    • 『日本全国諸会社役員録』 第32回、商業興信所、1924年。NDLJP:936463。 
    • 『日本全国諸会社役員録』 第35回、商業興信所、1927年。NDLJP:1077355。 
  • 大同電力社史編纂事務所（編）『大同電力株式会社沿革史』大同電力社史編纂事務所、1941年。 
  • 中部電力電気事業史編纂委員会（編）『中部地方電気事業史』 下巻、中部電力、1995年。 
  • 東亞合成化学工業社史編集室（編）『社史 東亞合成化学工業株式会社』東亞合成化学工業、1966年。 
  • 東海カーボン75年史編纂委員会（編）『東海カーボン七十五年史』東海カーボン、1993年。 
  • 東邦電力史編纂委員会（編）『東邦電力史』東邦電力史刊行会、1962年。 
  • 北陸地方電気事業百年史編纂委員会（編）『北陸地方電気事業百年史』北陸電力、1998年。 
  • 松下伝吉『人的事業大系』 電力篇、中外産業調査会、1939年。NDLJP:1458891。 
  • 矢作水力（編）『矢作水力株式会社十年史』矢作水力、1929年。NDLJP:1031632。 
ビジネス
先代
井上角五郎 		矢作水力社長
第2代：1928年 - 1940年 		次代
成瀬正忠
先代
（会長制実施） 		矢作水力会長
初代：1940年 - 1942年 		次代
（会社解散）
先代
（会社設立） 		東亞合成化学工業社長
初代：1942年 - 1945年 		次代
橋本幸造
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