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「交響曲第6番 (ベートーヴェン)」の版間の差分

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[[File:Beethoven AlmanachDerMusikgesellschaft 1834.jpg|thumb|"Almanach der Musikgesellschaft" に描かれた「田園交響曲を作曲しているベートーヴェン」(1834年、[[チューリヒ]])]]
{{出典の明記|date=2010年11月}}
'''交響曲第6番 ヘ長調'''(こうきょうきょくだい6ばん ヘちょうちょう)は、[[ドイツ]][[古典派音楽|古典派]]の[[作曲家]][[ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン]](1770年 - 1827年)が[[1808年]]に完成させた6番目の[[交響曲]]。[[作品番号]]68。作曲者によって『'''田園'''({{lang-de|Pastorale}})』の標題が付されている。
{{Portal クラシック音楽}}
演奏時間は約39分(第1楽章:11分、第2楽章:13分、第3楽章 - 第4楽章 - 第5楽章:15分)と紹介する例があるが{{sfn|門馬|1948|p=1}}、反復の有無、指揮者の解釈や時代による演奏様式の変化により演奏時間には幅がある。
{{試聴
|header = {{PAGENAME}}。{{仮リンク|スキッドモア大学|en|Skidmore College}}管弦楽団による演奏。
|filename = Ludwig van Beethoven - symphony no. 6 in f major 'pastoral', op. 68 - i. allegro non troppo.ogg
|title = 第1楽章
|filename2 = Ludwig van Beethoven - symphony no. 6 in f major 'pastoral', op. 68 - ii. andante molto mosso.ogg
|title2 = 第2楽章
|filename3 = Ludwig van Beethoven - symphony no. 6 in f major 'pastoral', op. 68 - iii. allegro.ogg
|title3 = 第3楽章
|filename4 = Ludwig van Beethoven - symphony no. 6 in f major 'pastoral', op. 68 - iv. allegro.ogg
|title4 = 第4楽章
|filename5 = Ludwig van Beethoven - symphony no. 6 in f major 'pastoral', op. 68 - v. allegretto.ogg
|title5 = 第5楽章
}}
[[ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン|ベートーヴェン]]の'''交響曲第6番ヘ長調'''(こうきょうきょくだい6ばんヘちょうちょう)'''作品68『田園』'''('''{{lang-de|Sinfonie Nr. 6 F-Dur op.68 (Pastorale)}}''')は、[[1807年]]から[[1808年]]にかけて作曲されたベートーヴェンの6番目の[[交響曲]]で、代表作の一つである。


ベートーヴェンの9つの交響曲の中においては、唯一の5楽章で構成されている交響であること、各楽章に題がけられていこと、の2点において非常に独特な作品である
古典派交響曲としては異例の5楽章で構成されており、全及び各楽章に描写的な標題がけられるなどベートーヴェンが完成させた9つ交響曲の中では[[合唱]]を導入した[[交響曲第9番 (ベートーヴェン)|交響曲第9番]]と並んで独特の外形的特徴を持つ{{sfn|クーパー|1997|p=134}}
また、徹底した[[モチーフ (音楽)|動機]]展開による統一的な楽曲構成法という点で、前作[[交響曲第5番 (ベートーヴェン)|交響曲第5番]](作品67)とともにベートーヴェン作品のひとつの究極をなす{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=72}}。


== 作曲 ==
== 標題について ==
[[File:BeethovendenkmalHeiligenstaedterPark.jpg|thumb|300px|ハイリゲンシュタッター公園のベートーヴェン像([[ウィーン]]、[[ハイリゲンシュタット (ウィーン)|ハイリゲンシュタット]])]]
[[交響曲第5番 (ベートーヴェン)|交響曲第5番]]とほぼ同時期に作曲された。
第6交響曲は、[[ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン|ベートーヴェン]]の交響曲の中で標題が記された唯一の作品である。ベートーヴェンが自作に標題を付した例は、他に[[ピアノソナタ第26番 (ベートーヴェン)|「告別」ピアノソナタ]](作品81a)などがあるが、きわめて珍しい。とくにこの第6交響曲は、[[エクトル・ベルリオーズ|ベルリオーズ]]や[[フランツ・リスト|リスト]]の[[標題音楽]]の先駆をなすものと見られている{{sfn|門馬|1948|pp=1–2}}。


標題は、初演時に使用された[[ヴァイオリン]]のパート譜にベートーヴェン自身の手によって「シンフォニア・パストレッラあるいは田舎での生活の思い出。絵画描写というよりも感情の表出」と記されている{{sfn|クーパー|1997|p=134}}{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=66–67}}{{sfn|門馬|1948|pp=1–2}}。
楽譜は[[ブライトコプフ・ウント・ヘルテル]]社より出版された。


また、各楽章についても次のような標題が付されている{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=64–65}}。
== 初演 ==
# 「田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め」
[[1808年]][[12月22日]]、[[オーストリア]]・[[ウィーン]]の[[アン・デア・ウィーン劇場]]にて「交響曲第5番」として初演。現在でいう[[交響曲第5番 (ベートーヴェン)|第5番]]は、同じ演奏会で第6番として初演された。この演奏会の詳細は[[交響曲第5番 (ベートーヴェン)|交響曲第5番]]の記事を参照のこと。
# 「小川のほとりの情景」
# 「田舎の人々の楽しい集い」
# 「雷雨、嵐」
# 「牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」


これらの標題は楽譜以外にも認められ、1808年12月17日付『ウィーン新聞』に掲載された初演演奏会の予告には「田舎の生活の思い出」という副題が見られる。ベートーヴェンが使用していたスケッチ帳にも同様の記述があり、「性格交響曲(Sinfonia caracteristica) あるいは田舎の生活の思い出」とされ、「シンフォニア・パストレッラ」は音による絵画的描写ではなく感情の表現であることが強調されている{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=66–67}}。
== 影響 ==
[[ベルリオーズ]]をはじめとする、[[ロマン派音楽|ロマン派]]以降の[[標題音楽]]の作曲家に大きく影響を与えたと{{要出典範囲|date=2010年11月|いわれている}}。
{{節stub}}


ベートーヴェンが「絵画的描写ではなく感情の表出」と強調したことについては、以下の理由が挙げられている。ひとつには、ベートーヴェン自身の理想主義的な作曲理念からのものであり、模倣のための模倣である描写語法を安易なものとして退け、音楽的脈絡や全体的構成の中で不可欠かつ必然性を持たせること、言い換えれば、描写語法のより高い次元での用法をめざしたのである{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=66–67}}。
== 編成 ==
スケッチ帳に書かれた「性格交響曲」についても同様であり、この言葉は創作者の世界観を表す純音楽という意味で用いられている。ベートーヴェンは、「誰でも田園生活の考えさえあれば、多くの説明がなくとも、作者の意とするところを自ら考えることができる」といって標題を詳しくすることを避けた{{sfn|門馬|1948|p=2}}。
{{管弦楽編成

|フルート=2, [[ピッコロ|Fl.picc.]] 1 (第4楽章)
もうひとつは、ベートーヴェンの作曲当時までによく書かれていた自然描写音楽への[[アンチテーゼ]]である{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=66–67}}。
|オーボエ=2
その典型的なものとして、ベートーヴェンより少し早い世代の作曲家[[ユスティン・ハインリヒ・クネヒト]](1752年 - 1817年)に15の楽器のための『自然の音楽的描写』(1784年)という標題音楽があり、この作品の5つの楽章は本作とほとんど同じ標題を持つ{{sfn|門馬|1948|p=2}}。
|クラリネット=2 (B管)
また、クネヒトには『雷雨によって妨げられた牧人の喜びのとき』(1794年)という[[オルガン]]作品もあった。ベートーヴェンがこれらの作品を知っていたかどうかについては現在まで確認されていないものの、田園交響曲との標題内容との一致から、ベートーヴェンがこれらの先行作品を意識していたことはほぼ確実と考えられている{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=66–67}}。
|ファゴット=2

|ホルン=2 (F管、B管)
ベートーヴェンは田園を好み、[[ウィーン]]では近郊を歩き回り、夏には田舎に生活して大自然に親しんだ。彼のスケッチ帳には「森の中で―自分は幸福だ―樹々は語る―汝を通して―おお神よ―なんと素晴らしい……」、「どの樹もみな自分に語るではないか。聖なるかな。聖なるかな。森の中は恍惚たり」などと書き付けてある。日本の音楽評論家[[門馬直衛]]は、こうした心情を音楽で語ったのがこの第6交響曲であるとする{{sfn|門馬|1948|p=1}}。
|トランペット=2 (C管、Es管、第3楽章以降)

|トロンボーン=[[アルトトロンボーン|アルト]]、テナー各1 (第4・5楽章)
== 作曲時期 ==
|ティンパニ=● (第4楽章)
[[File:Beethoven sym 6 script.PNG|thumb|ベートーヴェンによる交響曲第6番のスケッチ]]
|第1ヴァイオリン=●
1807年暮れからスケッチが開始され、[[交響曲第5番 (ベートーヴェン)|第5交響曲]]がほぼ完成した後の1808年初春から1808年初秋にかけて作曲された{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=65}}。
|第2ヴァイオリン=●

|ヴィオラ=●
従来、交響曲第5番と第6番は同時期の作曲と見られていたが、ベートーヴェンのスケッチ研究の成果によって、両者の作曲時期はそれほど重なっていないことが明らかにされている。第6番のスケッチは、主として1808年初頭から同年9月ごろまでにベートーヴェンが使用していた「パストラール・シンフォニー・スケッチ帳」で確認できることから、実質的な作曲時期は1808年春からの約半年間である。一方、同スケッチ帳には第5番のスケッチはまったく現れておらず、第5番は前年の1807年中に筆が進められ、1808年の初頭には仕上げに入ったものと考えられる{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=65}}。
|チェロ=● (第2楽章は2人で独立した声部を受け持つ)

|コントラバス=●
過去の研究では、19世紀の音楽学者[[グスタフ・ノッテボーム]](1817年 - 1882年)によって、第6交響曲のスケッチは1806年に始まり、翌1807年夏ごろから本格的に取りかかり、1808年に仕上げに入って同年6月ごろ完成とされていた{{sfn|門馬|1948|pp=2–3}}。
}}
こうした事情から、これまで『田園』交響曲に対する見方は『運命』交響曲との比較論が中心で、両曲の性格の相違が強調される傾向にあった。例えば、『運命』での極度の精神的緊張、創造力の爆発的な噴出に対して、ベートーヴェン自身が精神的バランスを維持するための創造形式が『田園』である、といった見方である。しかし、このような情緒的解釈は、交響曲様式の革新性において第5番に劣らない本作の意義を見落としかねない{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=65–66}}。
交響曲第5番に続いて、[[ピッコロ]]と[[トロンボーン]]が使用されているが、ピッコロが第4楽章雷雨の場面の描写的及び心理的に緊迫した場面に限定して効果的に使われているのに対して、トロンボーンは同様の場面の他に第5楽章の喜ばしくも敬虔な感情を主にハーモニーで支える形で使用されている。なお、一般的には2菅編成の場合でもトロンボーンはアルト・テナー・バスの3本が使われるのが古典〜ロマン派における管弦楽法の通例だが、この曲では低音のバストロンボーンを欠いているのが特徴的である。

なお、1803年6月ごろから1804年4月ごろまで使用していた「ランツベルク6」と呼ばれるスケッチ帳に第6番の主題のわずかな萌芽を見ることができる。1807年7月から8月にかけて使用された「ハ短調ミサ・スケッチ帳」にも第6番第1楽章の主題に発展する原形が見られるが、これらはすべて断片的であり、本格的な創作は「パストラール・シンフォニー・スケッチ帳」使用期と見られる{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=65}}。

== 初演・出版 ==
[[1808年]][[12月22日]]、[[オーストリア]]・[[ウィーン]]の[[アン・デア・ウィーン劇場]]において、[[ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン|ベートーヴェン]]自身の指揮によって初演{{sfn|門馬|1948|p=1}}。
[[交響曲第5番 (ベートーヴェン)|第5交響曲]]や[[ピアノ協奏曲第4番 (ベートーヴェン)|ピアノ協奏曲第4番]]、[[合唱幻想曲]]などとともに演奏された。このとき、本作は「第5番」とされ、現在でいう第5番が「第6番」となっていたが、1809年に出版されたパート譜では現在の番号となっている{{sfn|門馬|1948|p=3}}。

[[フランツ・ヨーゼフ・マクシミリアン・フォン・ロプコヴィッツ|ロプコヴィッツ]]侯爵、[[アンドレイ・ラズモフスキー|ラズモフスキー]]([[:en:Andrey Razumovsky]])伯爵に献呈された{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=64}}<ref group="注" name="門馬 1948">[[門馬直衛]]は献呈相手を「ロプコヴィッツ公(侯)、ラウドニッツ公、ラズモフスキー伯」としている(門馬 p.1)が、ラウドニッツ公については他の文献で確認できないため、ここでは挙げなかった。 ロプコヴィッツ侯はラウドニッツ公でもあったことから錯誤か? </ref>。
1809年5月に管弦楽パート譜、1826年5月に総譜が、ともに[[ライプツィヒ]]の[[ブライトコプフ・ウント・ヘルテル]]社より出版された{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=64}}{{sfn|門馬|1948|p=1}}。

== 楽器編成 ==
* [[ピッコロ]] 1、[[フルート]] 2、[[オーボエ]] 2、[[クラリネット]] 2、[[ファゴット]] 2
* [[ホルン]] 2、[[トランペット]] 2、[[トロンボーン]] 2(アルト、テノール)
* [[ティンパニ]]
* 弦5部(第1[[ヴァイオリン]]、第2ヴァイオリン、[[ヴィオラ]]、[[チェロ]]、[[コントラバス]]){{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=65}}

前作第5番と比較すると、[[コントラファゴット]]が使用されず、トロンボーンは3管から2管に減少しているものの、通常の2管編成に加えてピッコロやトロンボーンが使用されており、これらの楽器の定着化と楽器編成の拡大が推し進められている{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=66}}。


== 曲の構成 ==
== 曲の構成 ==
新しい交響曲形式として5楽章構成が試みられている。この時期のベートーヴェンは楽章構成上の有機的な統一感を追求しており、前作[[交響曲第5番 (ベートーヴェン)|第5番]]同様の切れ目のない楽章連結を受け継ぎつつ、ここではさらに徹底して、第3楽章以降の3つの楽章が連結されている{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=66}}。
[[Image:Beethoven AlmanachDerMusikgesellschaft 1834.jpg|thumb|"Almanach der Musikgesellschaft" (Zurich, 1834) に描かれた「田園交響曲を作曲しているベートーヴェン」]]
第4楽章の「嵐」は、実質的に第3楽章と第5楽章の間の長い挿入句であり、交響曲全体の中で果たす役割は、[[ソナタ形式]]の展開部の機能に似ている。このことは、ベートーヴェンは田園交響曲においてソナタ形式の構成を作品全体に拡張しようとしたともいえる{{sfn|クーパー|1997|p=134}}。
5つの楽章で構成されている。通常の構成の第3楽章と終楽章の間に短い楽章がひとつ挟まった形で、第3楽章から終楽章まで続けて演奏される。各楽章には表題が付けられている。


=== 第1楽章 ===
演奏時間は第1楽章、第3楽章の繰り返しを含めると、約45分である。<!--但し、[[カラヤン]]/[[ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団|ベルリン・フィル]]の演奏のように40分を切る時間(第一楽章の繰り返しは省略)で演奏されることもある。-->ただし、近年では作曲当時の演奏習慣の研究が進んだ結果、ベートーヴェンのメトロノーム指示が尊重される傾向が強まり、繰り返しを含めて40分を切る演奏も珍しくなくなっている<ref>[[クラウディオ・アバド]]指揮[[ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団]](2001年録音)、[[リッカルド・シャイー]]指揮[[ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団]](2009年録音)など。</ref>。
[[File:B6-1 Intro&Motif.jpg|thumb|第1楽章:第1主題とその動機展開]]
* 第1楽章「田舎に到着したときの晴れやかな気分」 Allegro ma non troppo [[ヘ長調]] 2/4拍子
;「田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め」
: 原題は''Erwachen heiterer Gefühle bei der Ankunft auf dem Lande''.[[ソナタ形式]](提示部反復指定あり)。同時に作曲された[[交響曲第5番 (ベートーヴェン)|交響曲第5番]]と同様のリズムを持つ第1主題で始まる。晴朗で親しみやすいメロディーで、第5番に並ぶ有名な旋律。田舎に着いた時の晴れ晴れした愉快な気分が表現される。流れるような第2主題は第1ヴァイオリンで提示され、コデッタも続く。提示部の反復は省略される例も多い。展開部は第1主題を中心に展開され、第1主題の動機が巧みに利用される。再現部は第1主題が第2ヴァイオリンとヴィオラで再現され、第2主題、コデッタも型どおりの再現となる。第1主題に始まるコーダも例によって長大なものだが、楽章全体を通して平和に満ちたものとなっている。
アレグロ・マ・ノン・トロッポ、[[ヘ長調]]、2/4拍子{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=64}}


[[ソナタ形式]]。弦のほかは木管とホルンのみが使用される。
* 第2楽章「小川のほとりの情景」 Andante molto mosso [[変ロ長調]] 12/8拍子
チェロとヴィオラの5度の保続音の上に第1ヴァイオリンが第1主題を出す。4小節で独立しており{{sfn|門馬|1948|p=14}}、半終止の[[フェルマータ]]は、第5交響曲の冒頭と呼応している{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=67}}。
: 原題は''Szene am Bach''. ソナタ形式。流麗で長閑なメロディーにより小川のほとりの情景が表現される。楽章を通して小川のせせらぎの音が弦楽合奏で奏でられ、曲の終結部では[[サヨナキドリ|夜鶯]]や[[鶉]]、[[カッコウ]]の鳴き声が木管で模倣される。第1ヴァイオリンの奏する第1主題で曲はのどかに開始する。応答句を経て、第1主題が確保されてから第2主題も第1ヴァイオリンで提示され、大きく揺れ動くしっとりとした旋律に発展する。まもなく第1主題によるコデッタとなる。展開部は第1主題を中心に扱う。再現部は第1主題の確保はないが、型どおりに進み、鳥の鳴き声でコーダが始まる。フルートは夜鶯、オーボエは鶉、クラリネットはカッコウを表している。
木管の3連符とヴァイオリンの経過句で[[ト長調]]となり、第2主題は[[ハ長調]]、4小節の単純な句が第1ヴァイオリンから次第に低い弦に移っていく{{sfn|門馬|1948|p=14}}。


展開部では徹底的に第1主題[[モチーフ (音楽)|動機]]を扱う{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=68}}。
* 第3楽章「農民達の楽しい集い」 Allegro - Presto ヘ長調 3/4拍子(トリオ部は2/4拍子)
[[変ロ長調]]から[[ニ長調]]、ト長調へと転調しつつ、主題の動機を36回繰り返す。一段落すると、今度はト長調から[[ホ長調]]、[[イ長調]]へと転調しつつ同様な反復となる。
: 原題は''Lustiges Zusammensein der Landleute''. [[複合三部形式]]([[スケルツォ]])。楽しく素朴な農民の集いを踊りや田舎の楽隊(音域の狭いオーボエ、「ファ」と「ド」の音しか出せないファゴット)を模した旋律で表現したスケルツォ。ABABA'の構成で、3拍子のA部で2拍子のB部を挟むというオーストリアの田舎のダンス音楽の形をとっている。複合三部形式だがトリオ部のBも含むAB部を繰り返し演奏するやや自由な形式であり、明確な[[コーダ (音楽)|コーダ]]部は無く次楽章に切れ目無く続く。ABの反復は[[交響曲第4番 (ベートーヴェン)|交響曲第4番]]・[[交響曲第7番 (ベートーヴェン)|第7番]]のそれと違い、反復記号のみによる繰り返し指示となっている。<!--そのためか[[ヘルベルト・フォン・カラヤン]]は反復を省略し、ABA'のみで第4楽章へと続けている。-->


再現部では第2ヴァイオリンとヴィオラによって第1主題が示される。4小節目の半終止の代わりに第5小節から第1ヴァイオリンの軽快な句が現れるが、これは第5番の第1楽章再現部でのオーボエの叙唱句と同様の筆法である。第2主題では型どおりにヘ長調をとる。コーダでは展開部と同じように始まるが、すぐに転調して木管と弦のかけあいから弦のみとなり、クラリネットとファゴットの重奏、ヴァイオリン、フルートと続いて全合奏で終わる{{sfn|門馬|1948|p=14}}。
* 第4楽章「雷雨、嵐」 Allegro [[ヘ短調]] 4/4拍子
: 原題は''Gewitter und Sturm''. 特に決まった形式はない。本楽章のみ[[ピッコロ]]と[[ティンパニ]]が加わり、楽しい村民の集いを突然襲った昼下がりの激しい[[驟雨]]の様子を活写する。低弦が遠雷の様子を、中高弦・木管が怪しい風音・閃光と雨足を、全管とティンパニが激しい雷鳴と大地の鳴動を表現し、最終部では雨足が遠のき雷雲が去って晴れ間が差した清々しい麗らかな田舎の情景が奏でられる。第2のスケルツォと位置付けることもでき<!--、前述カラヤンの演奏は、第4楽章を第3楽章の第2トリオと見なした解釈とも考えることができ-->る。コーダではフルートの澄んだ旋律が流れる。


=== 第2楽章 ===
* 第5楽章「牧人の歌-嵐の後の喜ばしく感謝に満ちた気分」 Allegretto ヘ長調 6/8拍子
[[File:B6-2 Birds.jpg|thumb|300px|第2楽章:結尾での小鳥の模倣部分(上段フルート、中段オーボエ、下段クラリネット)]]
: 原題は''Hirtengesänge. Frohe und dankbare Gefühle nach dem Sturm''. 自由な[[ロンドソナタ形式]]。雨が上がり、日が差し、自然への畏敬と感謝の牧歌が歌い上げられる。従前の作品では終楽章にAllegroのテンポを取ってきたベートーヴェンが、この曲ではAllegrettoという中庸のテンポを採用しており、6/8拍子のリズムとも相まって、長閑で穏やかな牧歌の印象を際立てている。形式的には[[ロンド形式]]と[[ソナタ形式]]が混成したロンドソナタ形式をとっており、いくつかの経過句を挟んで長閑な主題を次々に展開する。牧笛を模したクラリネットとホルンによる導入句が象徴的で、そこから第1主題に成長する。第1主題は第1ヴァイオリンで提示され、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ホルンへ受け継がれる。経過句を経て下降する音型の第2主題も第1ヴァイオリンで提示されるが、すぐにコデッタとなり展開部へ入る。展開部は第1主題を主に扱い、再現部も型どおりのものである。提示部、展開部、再現部ともに小規模であるが、要となる前奏部と終結部では必ず両楽器が印象的な句を奏でる。コーダは全体の4割を占める長大なもので、穏やかな内にホルンの句によって全曲が閉じられる。
;「小川のほとりの情景」
アンダンテ・モルト・モッソ、[[変ロ長調]]、12/8拍子{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=64}}

ソナタ形式。チェロとコントラバスのピチカートに、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、独奏チェロ(2人が弱音器を付けて弾く)が小川のせせらぎのような音型を加え、その上に、第1ヴァイオリンが静かな第1主題を示す{{sfn|門馬|1948|pp=4&ndash;5}}。
第2主題はヘ長調、第1ヴァイオリンが高音域から分散下行、分散上昇するが、さらにファゴットが歌う主題に他の楽器が集まって発展する{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=68}}。

展開部では主として第1主題を扱いながら転調していく{{sfn|門馬|1948|pp=4&ndash;5}}。
ここでは木管楽器の充実した書法が特徴的であり、木管のフレーズは再現部でも装飾的用法として現れる{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=68}}。

やがてヘ音の持続上にフルートが第1主題を示して再現部となる。再現部は短縮されている{{sfn|門馬|1948|pp=4&ndash;5}}。
ヴァイオリンにしばしば現れる[[トリル]]は、小鳥のさえずりを象徴化したもので、この小鳥の描写はコーダに入ると明確に注釈入りで示されることとなり{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=68}}、フルートが[[サヨナキドリ]](ナイチンゲール)、オーボエが[[ウズラ]]、クラリネットが[[カッコウ]]をそれぞれ模倣して鳴き交わす結びとなる{{sfn|門馬|1948|pp=4&ndash;5}}。

=== 第3楽章 ===
[[File:B6-3 Scherzo V1.jpg|thumb|第3楽章:スケルツォ主部の木管主題]]
[[File:B6-3 Scherzo 2.4 Piano.jpg|thumb|第3楽章:中間部主題([[フランツ・リスト|リスト]]による[[ピアノ]]用編曲版)]]
;「田舎の人々の楽しい集い」
アレグロ、ヘ長調、3/4拍子{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=64}}

[[複合三部形式]]をとり、事実上の[[スケルツォ]]楽章{{sfn|門馬|1948|pp=5&ndash;6}}。
主部は弦のスタッカート主題(ヘ長調)に木管の旋律がニ長調で応答する。これが繰り返されると今度は弦がニ長調のまま主題を出し、木管はハ長調となる。ハ長調は主調であるヘ長調の属和音([[ドミナント]])調であり、総奏へと昂揚してヘ長調に戻る。ベートーヴェンが自然な音楽の流れの中できわめて見事な調的コントラストを見せる部分である{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=69}}。
主部の後半では、オーボエの軽やかな主題がクラリネットからホルンへと受け継がれて、この作品の大きな特徴である管楽器の効果的な活用が強調される{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=69}}。
また、オーボエの旋律にファゴットが単純な音型で合いの手を入れるのは、[[オーストリア]]の田舎の楽隊が、演奏中に居眠りしながらふと目を覚まして楽器を持ち直したりする様子をユーモラスに描いたものと解釈されている{{sfn|門馬|1948|pp=5&ndash;6}}。

中間部では2/4拍子となり、ここからトランペットも加わって盛り上がる{{sfn|門馬|1948|pp=5&ndash;6}}。
以上が繰り返され、テンポ・プリモから主部がやや変化した形で戻る。プレストに速度を上げてクライマックスを築くと、[[アタッカ]]で第4楽章へとつづく{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=69}}{{sfn|門馬|1948|pp=5&ndash;6}}。

=== 第4楽章 ===
[[File:B6-4 Piano.jpg|thumb|第4楽章(リストによるピアノ用編曲版)]]
;「雷雨、嵐」
アレグロ、[[ヘ短調]]、4/4拍子{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=64}}

ティンパニ、トロンボーン(2本)、ピッコロが加わる。全曲でもっとも描写的な部分{{sfn|クーパー|1997|p=134}}{{sfn|門馬|1948|p=6}}。

第3小節に現れる動機が主要な材料となっているものの、古典的な形式には当てはまらない{{sfn|門馬|1948|p=6}}。
音楽進行がリアルタイムを表現しており、時々刻々と変化する自然の様相が決して時間的に復帰することがないように、音楽形式の一般的構造である開始主部とその再現的な反復という枠組み構造に従っていない{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=69&ndash;70}}。
[[和声]]的には、主調の短6度上の[[変ニ長調]]から始まり、さまざまな調性領域を通って終楽章の属調である[[ハ長調]]に収束する。こうした和声的な不安定さは、相対的に他の楽章の安定性を際だたせている{{sfn|クーパー|1997|p=134}}。

まず、低弦が遠雷のような[[トレモロ]]を示し、第2ヴァイオリンの慌ただしい走句を経てやがて全合奏の嵐となる{{sfn|門馬|1948|p=6}}。
ここには、この作品で追求された重要な革新的語法が認められる。変ニ長調から[[変ホ短調]]、ヘ短調へと転調する中でバス声部は半音階上行するが、これには各調の根音省略体の第1転回形(導音バス)による[[減七の和音]]が用いられている。同時にデュナーミクの面でもピアニッシモからフォルティッシモへと変化し、不安と緊張を表すという減七和音の性格が二重の意味によって利用されている{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=70}}。
ヘ短調の確立後、バス声部でチェロは5連符による5度上行、コントラバスは4連音による4度上行が重ねられ、一種の[[トーンクラスター]]的な[[不協和音]]を生じている{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=70}}。
この両バス声部の軋りに、ティンパニの連打、管楽器の咆哮、ヴァイオリンの走句が激しい風雨や稲妻の閃光を暗示する{{sfn|門馬|1948|p=6}}。

この楽章に用いられているもうひとつの注目すべき語法は、強弱の急転換によるコントラストである。嵐は一時落ち着くかに見えるが、遠くの雷鳴に突然の稲光のようなピアニッシモと強打が交互に現れる発展の中で再び激しくなっていく様子が示される{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=70}}。
嵐の猛威は、ピッコロの燦めき、減七和音を伴った半音階句の上下行によって表出される。ようやく嵐が凪ぐと、オーボエによるハ長調のうららかな旋律が聞かれる{{sfn|門馬|1948|p=6}}。
ここでは、楽章冒頭の変ニ長調の8分音符の音型が4倍に拡大され、2分音符の動きとなって優しく歌われ、雲がとぎれて日の光が差し始める兆しがうかがえる{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|p=71}}。
そして、フルートの愛らしい上昇音型(第7小節ですでに示されていた音型)となり、アタッカで第5楽章につづく{{sfn|門馬|1948|p=6}}。

=== 第5楽章 ===
[[File:B6-5 Theme.jpg|thumb|360px|第5楽章:第1主題とチェロの経過句]]
;「牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」
アレグレット、ヘ長調、6/8拍子{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=64&ndash;65}}

[[ロンド形式]]と[[ソナタ形式]]の混成による[[ロンドソナタ形式]]{{sfn|門馬|1948|pp=6&ndash;7}}。
冒頭、クラリネットの素朴な音型にホルンが音程を拡大して応えるが、「ホルン5度」による純粋かつ自然な響きが浄化された感じを高める{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=71&ndash;72}}。
加えて、ヴィオラとチェロによる第1楽章同様の空白5度の保持音を伴っており、牧歌風が強調される{{sfn|門馬|1948|pp=6&ndash;7}}。

チェロのピチカートの上に第1ヴァイオリンが前奏に出た音型の転回形に基づく主要主題(第1主題)を示し、第2ヴァイオリン、さらに低弦とホルン、木管へと移っていく。副主題(第2主題)はハ長調で第1ヴァイオリンに示され、第1楽章の第1主題との関連がある。この終止とともに冒頭主題が回帰してくる{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=71&ndash;72}}{{sfn|門馬|1948|pp=6&ndash;7}}<ref group="注" name="ベートーヴェン事典 1999">なお、門馬は副主題(第2主題)を「第1挿入句」、この後の中間主題を「第2挿入句」と呼んでいるが、ここでは『ベートーヴェン事典』の表記に従った。 </ref>。

新しい中間主題は[[変ロ長調]]、クラリネットとファゴットのオクターヴで現れ、これに第1主題に基づく展開風な経過句がつづく{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=71&ndash;72}}{{sfn|門馬|1948|pp=6&ndash;7}}。

やがて第1主題の前奏がフルートに帰ってきて、クラリネットがこれに応えると、再現部となる。第1主題は第2ヴァイオリンに出るが、同時に主要主題に基づく変奏が[[常動曲|無窮動]]風な16分音符の[[オブリガート (クラシック音楽)|オブリガート]]対旋律となって、第1ヴァイオリンから第2ヴァイオリン、ヴィオラとチェロへと受け継がれて高揚していく{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=71&ndash;72}}{{sfn|門馬|1948|pp=6&ndash;7}}。
第2主題はヘ長調で戻ってくる。ここから変奏的展開となり、大きな高揚を示す。その過程では、クラリネットやファゴットの短いリズム音型に第2楽章の小鳥のさえずりを思い起こさせる音色や響きも出る{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=71&ndash;72}}。

チェロとファゴットに16分音符のオブリガート対旋律が再び出ると、ここから無窮動風な律動が大きなうねりとなって最後のクライマックスを呼び起こす。頂点から急速に音量を落としてピアニッシモで弦楽が主要動機を示し、コーダとなる。最後は弱音器を付けたホルンが楽章冒頭のクラリネットの原主題を回想し、各弦楽が弧を描くようなオブリガート音型を受け渡しながら下行し、全曲を閉じる{{sfn|ベートーヴェン事典|1999|pp=71&ndash;72}}。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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{{脚注ヘルプ}}
{{試聴
|header = {{PAGENAME}}。{{仮リンク|スキッドモア大学|en|Skidmore College}}管弦楽団による演奏。
|filename = Ludwig van Beethoven - symphony no. 6 in f major 'pastoral', op. 68 - i. allegro non troppo.ogg
|title = 第1楽章
|filename2 = Ludwig van Beethoven - symphony no. 6 in f major 'pastoral', op. 68 - ii. andante molto mosso.ogg
|title2 = 第2楽章
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|title5 = 第5楽章
}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group=注}}
=== 出典 ===
{{reflist|2}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{Portal クラシック音楽}}
* [[交響曲第5番 (ベートーヴェン)]]
* [[パストラル]]:[[羊飼い]]の生活や田園風景を題材にした文学、美術、音楽、演劇。[[パストラール]]、田園曲、牧歌とも。
* [[田園交響曲]] (曖昧さ回避)
* [[ピアノソナタ第15番 (ベートーヴェン)]]:ベートーヴェンが1801年に完成した[[ピアノソナタ]]。「田園」の通称があるが、作曲者自身が付けたものではない。
* [[ファンタジア (映画)]]
* [[田園交響楽]]:フランスの作家[[アンドレ・ジッド]]の[[小説]](1919年)。本作がモチーフとして使われている。
* [[セロ弾きのゴーシュ]]
* [[田園交響楽 (漫画)]]:日本の漫画家[[藤子不二雄Ⓐ]]の[[漫画]]作品(1972年)。本作の楽章構成を下敷きにしている。
* [[田園交響曲]]:曖昧さ回避項目

== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author=バリー・クーパー原著監修|translator=[[平野昭]]、[[西原稔]]、[[横原千史]]|year=1999|title=ベートーヴェン大事典|publisher=[[平凡社]]|isbn=4582109225|ref={{SfnRef|クーパー|1997}}}}
* {{Cite book|和書|author=[[平野昭]]、[[土田英三郎]]、[[西原稔]] 編|translator=|year=1999|title=ベートーヴェン事典|publisher=[[東京書籍]]|isbn=4487732042|ref={{SfnRef|ベートーヴェン事典|1999}}}}
* {{Cite book|和書|author=[[門馬直衛]](解説)|year=1948|title=ベートーヴェン 第六交響曲|publisher=[[音楽之友社]]|isbn=|ref={{SfnRef|門馬|1948}}}}


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==

2013年5月17日 (金) 13:49時点における版

"Almanach der Musikgesellschaft" に描かれた「田園交響曲を作曲しているベートーヴェン」(1834年、チューリヒ

交響曲第6番 ヘ長調(こうきょうきょくだい6ばん ヘちょうちょう)は、ドイツ古典派作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770年 - 1827年)が1808年に完成させた6番目の交響曲作品番号68。作曲者によって『田園ドイツ語: Pastorale)』の標題が付されている。 演奏時間は約39分(第1楽章:11分、第2楽章:13分、第3楽章 - 第4楽章 - 第5楽章:15分)と紹介する例があるが[1]、反復の有無、指揮者の解釈や時代による演奏様式の変化により演奏時間には幅がある。

古典派交響曲としては異例の5楽章で構成されており、全曲及び各楽章に描写的な標題が付けられるなど、ベートーヴェンが完成させた9つの交響曲の中では合唱を導入した交響曲第9番と並んで独特の外形的特徴を持つ[2]。 また、徹底した動機展開による統一的な楽曲構成法という点で、前作交響曲第5番(作品67)とともにベートーヴェン作品のひとつの究極をなす[3]

標題について

ハイリゲンシュタッター公園のベートーヴェン像(ウィーンハイリゲンシュタット

第6交響曲は、ベートーヴェンの交響曲の中で標題が記された唯一の作品である。ベートーヴェンが自作に標題を付した例は、他に「告別」ピアノソナタ(作品81a)などがあるが、きわめて珍しい。とくにこの第6交響曲は、ベルリオーズリスト標題音楽の先駆をなすものと見られている[4]

標題は、初演時に使用されたヴァイオリンのパート譜にベートーヴェン自身の手によって「シンフォニア・パストレッラあるいは田舎での生活の思い出。絵画描写というよりも感情の表出」と記されている[2][5][4]

また、各楽章についても次のような標題が付されている[6]

  1. 「田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め」
  2. 「小川のほとりの情景」
  3. 「田舎の人々の楽しい集い」
  4. 「雷雨、嵐」
  5. 「牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」

これらの標題は楽譜以外にも認められ、1808年12月17日付『ウィーン新聞』に掲載された初演演奏会の予告には「田舎の生活の思い出」という副題が見られる。ベートーヴェンが使用していたスケッチ帳にも同様の記述があり、「性格交響曲(Sinfonia caracteristica) あるいは田舎の生活の思い出」とされ、「シンフォニア・パストレッラ」は音による絵画的描写ではなく感情の表現であることが強調されている[5]

ベートーヴェンが「絵画的描写ではなく感情の表出」と強調したことについては、以下の理由が挙げられている。ひとつには、ベートーヴェン自身の理想主義的な作曲理念からのものであり、模倣のための模倣である描写語法を安易なものとして退け、音楽的脈絡や全体的構成の中で不可欠かつ必然性を持たせること、言い換えれば、描写語法のより高い次元での用法をめざしたのである[5]。 スケッチ帳に書かれた「性格交響曲」についても同様であり、この言葉は創作者の世界観を表す純音楽という意味で用いられている。ベートーヴェンは、「誰でも田園生活の考えさえあれば、多くの説明がなくとも、作者の意とするところを自ら考えることができる」といって標題を詳しくすることを避けた[7]

もうひとつは、ベートーヴェンの作曲当時までによく書かれていた自然描写音楽へのアンチテーゼである[5]。 その典型的なものとして、ベートーヴェンより少し早い世代の作曲家ユスティン・ハインリヒ・クネヒト(1752年 - 1817年)に15の楽器のための『自然の音楽的描写』(1784年)という標題音楽があり、この作品の5つの楽章は本作とほとんど同じ標題を持つ[7]。 また、クネヒトには『雷雨によって妨げられた牧人の喜びのとき』(1794年)というオルガン作品もあった。ベートーヴェンがこれらの作品を知っていたかどうかについては現在まで確認されていないものの、田園交響曲との標題内容との一致から、ベートーヴェンがこれらの先行作品を意識していたことはほぼ確実と考えられている[5]

ベートーヴェンは田園を好み、ウィーンでは近郊を歩き回り、夏には田舎に生活して大自然に親しんだ。彼のスケッチ帳には「森の中で―自分は幸福だ―樹々は語る―汝を通して―おお神よ―なんと素晴らしい……」、「どの樹もみな自分に語るではないか。聖なるかな。聖なるかな。森の中は恍惚たり」などと書き付けてある。日本の音楽評論家門馬直衛は、こうした心情を音楽で語ったのがこの第6交響曲であるとする[1]

作曲時期

ベートーヴェンによる交響曲第6番のスケッチ

1807年暮れからスケッチが開始され、第5交響曲がほぼ完成した後の1808年初春から1808年初秋にかけて作曲された[8]

従来、交響曲第5番と第6番は同時期の作曲と見られていたが、ベートーヴェンのスケッチ研究の成果によって、両者の作曲時期はそれほど重なっていないことが明らかにされている。第6番のスケッチは、主として1808年初頭から同年9月ごろまでにベートーヴェンが使用していた「パストラール・シンフォニー・スケッチ帳」で確認できることから、実質的な作曲時期は1808年春からの約半年間である。一方、同スケッチ帳には第5番のスケッチはまったく現れておらず、第5番は前年の1807年中に筆が進められ、1808年の初頭には仕上げに入ったものと考えられる[8]

過去の研究では、19世紀の音楽学者グスタフ・ノッテボーム(1817年 - 1882年)によって、第6交響曲のスケッチは1806年に始まり、翌1807年夏ごろから本格的に取りかかり、1808年に仕上げに入って同年6月ごろ完成とされていた[9]。 こうした事情から、これまで『田園』交響曲に対する見方は『運命』交響曲との比較論が中心で、両曲の性格の相違が強調される傾向にあった。例えば、『運命』での極度の精神的緊張、創造力の爆発的な噴出に対して、ベートーヴェン自身が精神的バランスを維持するための創造形式が『田園』である、といった見方である。しかし、このような情緒的解釈は、交響曲様式の革新性において第5番に劣らない本作の意義を見落としかねない[10]

なお、1803年6月ごろから1804年4月ごろまで使用していた「ランツベルク6」と呼ばれるスケッチ帳に第6番の主題のわずかな萌芽を見ることができる。1807年7月から8月にかけて使用された「ハ短調ミサ・スケッチ帳」にも第6番第1楽章の主題に発展する原形が見られるが、これらはすべて断片的であり、本格的な創作は「パストラール・シンフォニー・スケッチ帳」使用期と見られる[8]

初演・出版

1808年12月22日オーストリアウィーンアン・デア・ウィーン劇場において、ベートーヴェン自身の指揮によって初演[1]第5交響曲ピアノ協奏曲第4番合唱幻想曲などとともに演奏された。このとき、本作は「第5番」とされ、現在でいう第5番が「第6番」となっていたが、1809年に出版されたパート譜では現在の番号となっている[11]

ロプコヴィッツ侯爵、ラズモフスキー(en:Andrey Razumovsky)伯爵に献呈された[12][注 1]。 1809年5月に管弦楽パート譜、1826年5月に総譜が、ともにライプツィヒブライトコプフ・ウント・ヘルテル社より出版された[12][1]

楽器編成

前作第5番と比較すると、コントラファゴットが使用されず、トロンボーンは3管から2管に減少しているものの、通常の2管編成に加えてピッコロやトロンボーンが使用されており、これらの楽器の定着化と楽器編成の拡大が推し進められている[13]

曲の構成

新しい交響曲形式として5楽章構成が試みられている。この時期のベートーヴェンは楽章構成上の有機的な統一感を追求しており、前作第5番同様の切れ目のない楽章連結を受け継ぎつつ、ここではさらに徹底して、第3楽章以降の3つの楽章が連結されている[13]。 第4楽章の「嵐」は、実質的に第3楽章と第5楽章の間の長い挿入句であり、交響曲全体の中で果たす役割は、ソナタ形式の展開部の機能に似ている。このことは、ベートーヴェンは田園交響曲においてソナタ形式の構成を作品全体に拡張しようとしたともいえる[2]

第1楽章

第1楽章:第1主題とその動機展開
「田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め」

アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ヘ長調、2/4拍子[12]

ソナタ形式。弦のほかは木管とホルンのみが使用される。 チェロとヴィオラの5度の保続音の上に第1ヴァイオリンが第1主題を出す。4小節で独立しており[14]、半終止のフェルマータは、第5交響曲の冒頭と呼応している[15]。 木管の3連符とヴァイオリンの経過句でト長調となり、第2主題はハ長調、4小節の単純な句が第1ヴァイオリンから次第に低い弦に移っていく[14]

展開部では徹底的に第1主題動機を扱う[16]変ロ長調からニ長調、ト長調へと転調しつつ、主題の動機を36回繰り返す。一段落すると、今度はト長調からホ長調イ長調へと転調しつつ同様な反復となる。

再現部では第2ヴァイオリンとヴィオラによって第1主題が示される。4小節目の半終止の代わりに第5小節から第1ヴァイオリンの軽快な句が現れるが、これは第5番の第1楽章再現部でのオーボエの叙唱句と同様の筆法である。第2主題では型どおりにヘ長調をとる。コーダでは展開部と同じように始まるが、すぐに転調して木管と弦のかけあいから弦のみとなり、クラリネットとファゴットの重奏、ヴァイオリン、フルートと続いて全合奏で終わる[14]

第2楽章

第2楽章:結尾での小鳥の模倣部分(上段フルート、中段オーボエ、下段クラリネット)
「小川のほとりの情景」

アンダンテ・モルト・モッソ、変ロ長調、12/8拍子[12]

ソナタ形式。チェロとコントラバスのピチカートに、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、独奏チェロ(2人が弱音器を付けて弾く)が小川のせせらぎのような音型を加え、その上に、第1ヴァイオリンが静かな第1主題を示す[17]。 第2主題はヘ長調、第1ヴァイオリンが高音域から分散下行、分散上昇するが、さらにファゴットが歌う主題に他の楽器が集まって発展する[16]

展開部では主として第1主題を扱いながら転調していく[17]。 ここでは木管楽器の充実した書法が特徴的であり、木管のフレーズは再現部でも装飾的用法として現れる[16]

やがてヘ音の持続上にフルートが第1主題を示して再現部となる。再現部は短縮されている[17]。 ヴァイオリンにしばしば現れるトリルは、小鳥のさえずりを象徴化したもので、この小鳥の描写はコーダに入ると明確に注釈入りで示されることとなり[16]、フルートがサヨナキドリ(ナイチンゲール)、オーボエがウズラ、クラリネットがカッコウをそれぞれ模倣して鳴き交わす結びとなる[17]

第3楽章

第3楽章:スケルツォ主部の木管主題
第3楽章:中間部主題(リストによるピアノ用編曲版)
「田舎の人々の楽しい集い」

アレグロ、ヘ長調、3/4拍子[12]

複合三部形式をとり、事実上のスケルツォ楽章[18]。 主部は弦のスタッカート主題(ヘ長調)に木管の旋律がニ長調で応答する。これが繰り返されると今度は弦がニ長調のまま主題を出し、木管はハ長調となる。ハ長調は主調であるヘ長調の属和音(ドミナント)調であり、総奏へと昂揚してヘ長調に戻る。ベートーヴェンが自然な音楽の流れの中できわめて見事な調的コントラストを見せる部分である[19]。 主部の後半では、オーボエの軽やかな主題がクラリネットからホルンへと受け継がれて、この作品の大きな特徴である管楽器の効果的な活用が強調される[19]。 また、オーボエの旋律にファゴットが単純な音型で合いの手を入れるのは、オーストリアの田舎の楽隊が、演奏中に居眠りしながらふと目を覚まして楽器を持ち直したりする様子をユーモラスに描いたものと解釈されている[18]

中間部では2/4拍子となり、ここからトランペットも加わって盛り上がる[18]。 以上が繰り返され、テンポ・プリモから主部がやや変化した形で戻る。プレストに速度を上げてクライマックスを築くと、アタッカで第4楽章へとつづく[19][18]

第4楽章

第4楽章(リストによるピアノ用編曲版)
「雷雨、嵐」

アレグロ、ヘ短調、4/4拍子[12]

ティンパニ、トロンボーン(2本)、ピッコロが加わる。全曲でもっとも描写的な部分[2][20]

第3小節に現れる動機が主要な材料となっているものの、古典的な形式には当てはまらない[20]。 音楽進行がリアルタイムを表現しており、時々刻々と変化する自然の様相が決して時間的に復帰することがないように、音楽形式の一般的構造である開始主部とその再現的な反復という枠組み構造に従っていない[21]和声的には、主調の短6度上の変ニ長調から始まり、さまざまな調性領域を通って終楽章の属調であるハ長調に収束する。こうした和声的な不安定さは、相対的に他の楽章の安定性を際だたせている[2]

まず、低弦が遠雷のようなトレモロを示し、第2ヴァイオリンの慌ただしい走句を経てやがて全合奏の嵐となる[20]。 ここには、この作品で追求された重要な革新的語法が認められる。変ニ長調から変ホ短調、ヘ短調へと転調する中でバス声部は半音階上行するが、これには各調の根音省略体の第1転回形(導音バス)による減七の和音が用いられている。同時にデュナーミクの面でもピアニッシモからフォルティッシモへと変化し、不安と緊張を表すという減七和音の性格が二重の意味によって利用されている[22]。 ヘ短調の確立後、バス声部でチェロは5連符による5度上行、コントラバスは4連音による4度上行が重ねられ、一種のトーンクラスター的な不協和音を生じている[22]。 この両バス声部の軋りに、ティンパニの連打、管楽器の咆哮、ヴァイオリンの走句が激しい風雨や稲妻の閃光を暗示する[20]

この楽章に用いられているもうひとつの注目すべき語法は、強弱の急転換によるコントラストである。嵐は一時落ち着くかに見えるが、遠くの雷鳴に突然の稲光のようなピアニッシモと強打が交互に現れる発展の中で再び激しくなっていく様子が示される[22]。 嵐の猛威は、ピッコロの燦めき、減七和音を伴った半音階句の上下行によって表出される。ようやく嵐が凪ぐと、オーボエによるハ長調のうららかな旋律が聞かれる[20]。 ここでは、楽章冒頭の変ニ長調の8分音符の音型が4倍に拡大され、2分音符の動きとなって優しく歌われ、雲がとぎれて日の光が差し始める兆しがうかがえる[23]。 そして、フルートの愛らしい上昇音型(第7小節ですでに示されていた音型)となり、アタッカで第5楽章につづく[20]

第5楽章

第5楽章:第1主題とチェロの経過句
「牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」

アレグレット、ヘ長調、6/8拍子[6]

ロンド形式ソナタ形式の混成によるロンドソナタ形式[24]。 冒頭、クラリネットの素朴な音型にホルンが音程を拡大して応えるが、「ホルン5度」による純粋かつ自然な響きが浄化された感じを高める[25]。 加えて、ヴィオラとチェロによる第1楽章同様の空白5度の保持音を伴っており、牧歌風が強調される[24]

チェロのピチカートの上に第1ヴァイオリンが前奏に出た音型の転回形に基づく主要主題(第1主題)を示し、第2ヴァイオリン、さらに低弦とホルン、木管へと移っていく。副主題(第2主題)はハ長調で第1ヴァイオリンに示され、第1楽章の第1主題との関連がある。この終止とともに冒頭主題が回帰してくる[25][24][注 2]

新しい中間主題は変ロ長調、クラリネットとファゴットのオクターヴで現れ、これに第1主題に基づく展開風な経過句がつづく[25][24]

やがて第1主題の前奏がフルートに帰ってきて、クラリネットがこれに応えると、再現部となる。第1主題は第2ヴァイオリンに出るが、同時に主要主題に基づく変奏が無窮動風な16分音符のオブリガート対旋律となって、第1ヴァイオリンから第2ヴァイオリン、ヴィオラとチェロへと受け継がれて高揚していく[25][24]。 第2主題はヘ長調で戻ってくる。ここから変奏的展開となり、大きな高揚を示す。その過程では、クラリネットやファゴットの短いリズム音型に第2楽章の小鳥のさえずりを思い起こさせる音色や響きも出る[25]

チェロとファゴットに16分音符のオブリガート対旋律が再び出ると、ここから無窮動風な律動が大きなうねりとなって最後のクライマックスを呼び起こす。頂点から急速に音量を落としてピアニッシモで弦楽が主要動機を示し、コーダとなる。最後は弱音器を付けたホルンが楽章冒頭のクラリネットの原主題を回想し、各弦楽が弧を描くようなオブリガート音型を受け渡しながら下行し、全曲を閉じる[25]

脚注

注釈

  1. ^ 門馬直衛は献呈相手を「ロプコヴィッツ公(侯)、ラウドニッツ公、ラズモフスキー伯」としている(門馬 p.1)が、ラウドニッツ公については他の文献で確認できないため、ここでは挙げなかった。 ロプコヴィッツ侯はラウドニッツ公でもあったことから錯誤か?
  2. ^ なお、門馬は副主題(第2主題)を「第1挿入句」、この後の中間主題を「第2挿入句」と呼んでいるが、ここでは『ベートーヴェン事典』の表記に従った。

出典

関連項目

参考文献

  • バリー・クーパー原著監修 著、平野昭西原稔横原千史 訳『ベートーヴェン大事典』平凡社、1999年。ISBN 4582109225 
  • 平野昭土田英三郎西原稔 編『ベートーヴェン事典』東京書籍、1999年。ISBN 4487732042 
  • 門馬直衛(解説)『ベートーヴェン 第六交響曲』音楽之友社、1948年。 

外部リンク