ピアノ協奏曲第4番 (ベートーヴェン)

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『ピアノ協奏曲第4番作品58』総譜初版表紙
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Beethoven Piano Concerto No.4 Op.58 - ダニエル・バレンボイムP独奏と指揮、シュターツカペレ・ベルリンによる演奏。EuroArts公式YouTube。
Beethoven:Klavierkonzert Nr.4 G-Dur op.58 - ティル・フェルナーのP独奏、アイヴィン・オードラン指揮バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団による演奏。南西ドイツ放送(SWR)公式Webサイトより。
Beethoven:Klavierkonzert Nr.4 G-Dur op.58 - セルゲイ・クドリャコフのP独奏、アンドルー・マンゼ指揮シュトゥットガルト放送交響楽団による演奏。南西ドイツ放送(SWR)公式Webサイトより。

ピアノ協奏曲第4番(ピアノきょうそうきょくだい4ばん)ト長調作品58は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが遺したピアノ協奏曲のひとつ。

概要[編集]

1807年3月の初演会場の主、ロプコヴィッツ侯爵
当楽曲の献呈先となったルドルフ大公

ピアノ協奏曲第3番ハ短調』を完全な形で書き上げられてから最初に演奏された翌年にあたり、またベートーヴェン唯一のオペラ作品『フィデリオ』の元となった作品『レオノーレ』初稿の初演が行われた年でもある1805年に作曲に着手、翌1806年に完成させている[1][2]

オーケストラを従えてピアノ等の独奏楽器が華々しく活躍する協奏曲はピアニスト等の独奏楽器を奏でるプロ演奏家にとって自身の腕前を披露するのに適したものとされていたこともあり、従来の協奏曲ではオーケストラは伴奏役に徹するのが常で、実際の作品では、例えば冒頭部分に於いて、オーケストラが前座宜しく先にメロディを奏でていると後から独奏楽器が、まるで花道上に現れ歩みを進める主役の如く、やおら登場し華々しく歌い上げることが多いのであるが、進取の気風に満ちていたベートーヴェンは当楽曲でいきなり独奏ピアノによる弱く柔らかな音で始めるという手法を採り入れた。これは聴衆の意表を突く画期的なものとされ、驚きと感動をもたらしたと伝えられている[2][3]

更にベートーヴェンは伴奏役に徹しがちなオーケストラとピアノという独奏楽器を“対話”させるかのように曲を作るという手法も採り入れている。作曲当時使われていたピアノは現在流通しているものと比べて音量が小さく、それでいてオーケストラと対等に渡り合えるようにすべく、独奏ピアノの側にあっては分散和音トレモロを駆使して音響効果を上げる一方、オーケストラの側にあっては楽章により登場楽器を限定したりしている《第1楽章ではティンパニトランペットを参加させず、第2楽章は弦楽合奏のみに限定》[2]

当楽曲は完成の翌年・1807年の3月に先ずウィーンロプコヴィッツ侯爵邸の大広間にて小規模オーケストラを使って非公開ながら初演され、翌1808年の12月22日に同じくウィーンに所在するアン・デア・ウィーン劇場に於いて公開による初演を行っている[注 1]。何れもベートーヴェン自身がピアノ独奏を務めているが、かねてから自身の難聴が進行していたこともあり、当楽曲が自身のピアノ独奏により初演された最後のピアノ協奏曲となった[2][6]

なお当楽曲は、ベートーヴェンの最大のパトロンであり、また彼にピアノと作曲を学んだともいわれるルドルフ大公に献呈されている[7]

楽器編成[編集]

独奏ピアノ、フルート1、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦5部

曲の構成[編集]

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Debbie Hu (P) and Orch.

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全3楽章で構成されており、演奏時間は36分《第1楽章20分、第2楽章6分、第3楽章10分》[7]

第1楽章 Allegro moderato ト長調 4/4拍子
協奏的ソナタ形式。前述のように「運命の動機」を含む穏やかな主題がピアノ独奏でいきなり奏されると、オーケストラはロ長調によりそれに応え、新鮮な印象を受ける。
カデンツァはベートーヴェン自身により2種類が書かれている。一つは100小節あり、多くのピアニストはこちらを演奏している。もう一つは50小節あり、マウリツィオ・ポリーニアルフレート・ブレンデルパウル・バドゥラ=スコダ等が演奏した録音により確認することが出来る。この他、ブラームスクララ・シューマンゴドフスキーブゾーニメトネルフェインベルクなどの名だたるピアニスト・コンポーザーたちがカデンツァを書いている。
第2楽章 Andante con moto ホ短調 2/2拍子
自由な形式。オーケストラが低音に抑えられた弦のユニゾンだけとなり、即興的で瞑想的な音楽を歌うピアノと、淡々と対話を続ける。
第3楽章 Rondo Vivace ト長調 2/4拍子
ロンド形式。ト長調であるが、主題はハ長調に始められる。
カデンツァはベートーヴェン自身により1種類書かれ、35小節ある。ヴィルヘルム・バックハウス作によるドラマティックで技巧的なカデンツァも有名。

幻の初演改訂版[編集]

一般には1806年完成時の楽譜が出版されている[8]。1808年の公開初演時にはさらに手を加えて演奏したとされていたが、その楽譜は長らく公にされていなかった[注 2]。しかし、写譜屋が作成していた写譜の中の作曲者による注釈を元にして、音楽学者のバリー・クーパーが「改訂版」として復元に成功した[10]ロナルド・ブラウティガム独奏、アンドルー・パロット指揮のノールショピング交響楽団演奏によるCDが2009年BISから発売されている。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ このアン・デア・ウィーン劇場に於ける公開初演は、当楽曲の他、交響曲第5番「運命」同第6番「田園」等の自身作曲の楽曲の初演も兼ねたものとなっていたが、厳しい寒さに演奏の稚拙さも相俟って散々な結果に終わったといわれている[4]《客席は半分しか埋まらなかったとの話も伝わってきている[5]
  2. ^ 尤も、その公開初演に際してベートーヴェン自身の手により改訂された譜面のうち第1・3両楽章のヨーゼフ・クルンパールによる筆写譜面がウィーン楽友協会に保存されている[9]

出典[編集]

  1. ^ 寺西基之 (2016年4月30日). “第806回定期演奏会Cシリーズ(小泉和裕 都響デビュー40周年記念)”. 曲目解説. 東京都交響楽団. 2017年1月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月19日閲覧。 “「第806回定期演奏会」公演要項はここより参照《》
  2. ^ a b c d 梅津時比古 (2017年2月22日). “第208回定期演奏会・曲目解説”. 大阪交響楽団. 2017年3月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月19日閲覧。《》
  3. ^ 小宮正安 (2016年1月30日). “都響スペシャル”. 曲目解説. 東京都交響楽団. 2016年6月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月19日閲覧。 “当該「都響スペシャル」公演要項はここから参照《》
  4. ^ 第72回定期演奏会(公演プログラム) (PDF)”. 上越交響楽団 (2014年3月16日). 2017年3月19日閲覧。 “『プログラム&曲目解説』内”■ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調作品67「運命」”より”→アーカイブ (PDF)
  5. ^ “ベートーベン交響曲初演を再現 200年迎え”. 共同通信(47NEWS). (2008年12月23日). オリジナル2017年3月19日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170319121127/http://www.47news.jp/47topics/election/e/82726.php 2017年3月19日閲覧。 《》
  6. ^ 樋口隆一. “明治学院バッハ・アカデミーCD販売”. 明治学院サービス. 2016年10月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月19日閲覧。 “当該頁中程『「ベートーヴェン交響曲第4番ピアノ協奏曲第4番」(1枚)』紹介文から”
  7. ^ a b ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調”. ピアノ曲事典. 全日本ピアノ指導者協会(PTNA). 2016年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月19日閲覧。《》
  8. ^ イネディタ(レーベル)”. SARABANDE.NET. (株)サラバンド. 2016年7月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月19日閲覧。 “当該頁中程に掲載の『ベートーヴェン・レアリティーズ Vol.7』CD紹介文から”《》
  9. ^ 土田英三郎 (PDF). 「いっそうの普及と収益のために」~編曲家としてのベートーヴェン (Report). 国立音楽大学. p. 6. http://www.ri.kunitachi.ac.jp/lvb/rep/tsuchida00.pdf#page=6 2017年3月19日閲覧。. →アーカイブ (PDF)
  10. ^ ブラウティハム ~ ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番(1808年改訂版)、ピアノ協奏曲ニ長調(ヴァイオリン協奏曲のピアノ編曲版)

外部リンク[編集]