欧州連合の政治
| 欧州連合 |
|---|
| 欧州連合の政治 |
欧州連合の政治では、その独特の性質のためにほかの国際機関や国家とは異なる様態をもつ欧州連合の政策の決定や執行について概説する。
欧州連合の構成上の根拠やその組織は基本条約に基づくものである[1]。とくにその中核となっている2つの条約[どれ?]は幾度の修正が加えられ、欧州連合の権能を強化したり、その機関の間における関係を再設定したりしてきた。
基本条約において、欧州連合は間接民主制を基礎とすることが謳われており、また人間としての尊厳の尊重、自由、民主主義、平等、法の支配、マイノリティに属する人びとの権利を含む人権の尊重という価値観を基礎とするものとしている。
権能
[編集]欧州連合は国家連合に近いもので、多くの政策分野が法令を作ることができる機関の管轄のもとに置かれている。しかし、通常の国家とは異なり、外交政策、防衛政策、直接課税については権限が限られており、理事会において多数決ではなく全会一致で決定することになっている。このような分野については、一定の範囲までは協力の枠組みがあるものの、基本的には加盟国が司っている。
排他的権限を有するのは、法令で前もって定められている場合で、欧州連合は指令を作り、国際協定を締結できる。一例として、以下のようなものが挙げられる。
以下のような欧州連合が共有的権限を行使した分野においては、加盟国は自らの権限を行使することができない。
- 域内市場
- 基本条約で定められているような社会政策
- 経済・社会・領域における結合
- 農業、海洋生物資源の管理を除く漁業
- 環境
- 消費者保護
- 運輸
- 欧州横断ネットワーク
- エネルギー
- 自由・安全・司法の領域
- 基本条約で定められているような公衆衛生における共通の安全対策
支援的権限として、以下のような分野に関して、欧州連合は加盟国の行動を支援、調整、補完するような行動を実行することができる。
- 人間の健康の保護と改善
- 工業
- 文化
- 観光
- 教育、青少年、スポーツ、職業訓練
- 市民保護(防災)
- 行政上の協力
EU法
[編集]欧州連合が権能を付与されている分野においては、欧州連合が加盟国に対して拘束力を持つ直接的な法令を制定することができる。EU法は加盟国の国内法に優越し、その政策分野は過去の国家連合に比べると多岐にわたる。欧州連合が成立させることのできる拘束力を持つ法令の形態には、加盟国において直接的に法律としての効果を持つ規則、目的の枠組みを定め、加盟国の法令がその目的に合致するようにさせる指令、特定の案件にのみ適用される決定の3つがある[2]。欧州連合は補完性原理を基本としているため、負託された権限を超えたり、加盟国や地方において行なうほうが適切であったりするような立法は制限されている。
外交
[編集]欧州連合の外交は共通外交・安全保障政策を基調としており、また欧州委員会による経済・通商協議を通じて実行される。欧州連合の外交の最高責任者は外務・安全保障政策上級代表である。
機関
[編集]欧州連合の機構には、政府間主義と超国家主義の要素が混在している。主要機関として、欧州議会、欧州理事会、理事会、欧州委員会がある。
欧州議会と理事会は、立法や予算に関する権限を共有している。通常立法手続では、欧州委員会が欧州議会と理事会に法案を提出する。欧州議会と欧州委員会は理事会に対して修正案を送ることができ、理事会はその修正案を採択するか、「共通の立場」を送り返すことができる。理事会による「共通の立場」案に対して欧州議会は承認するか、修正を審議する。理事会が欧州議会の修正法案を承認しなかった場合は「調停委員会」が設置される。調停委員会は理事会と欧州議会のそれぞれから出される同数の代表者で構成され、立場の一致を模索する。両者の立場が一致すれば、法案はふたたび欧州議会において絶対過半数でもって承認されなければならない[3][4]。また通常立法手続以外にも、欧州議会の権限が制限されるような分野では特別な手続が適用される。
欧州議会は、欧州連合における二院制の一翼を担っているものの、欧州議会は一部の分野において理事会よりも権限が押さえられており、また立法における発案権を持たない。しかしながら欧州議会は理事会が持たない、欧州委員会に対する権限を持っている[5]。
理事会(閣僚理事会ともいう)は加盟国の閣僚で構成され、立法権と限定的な執行権を持ち、欧州連合の主要な政策決定機関となっている。議長国は6か月ごとに持ちまわっている。議題によって理事会の構成が変わり、たとえば農業にかかわる案件について協議する場合には、各国の農業担当閣僚で構成されることになる。出席者は自国政府を代表し、自国の政治制度において説明責任を負う。採決では多数決または全会一致が採られ、多数決での各国の持ち票数はそれぞれの人口によって配分されている[6]。
欧州理事会は、欧州連合加盟国の元首または政府の長による会議体で、欧州連合における最高位の政治機関とされている[7]。毎年4度の会議で欧州連合の政策指針を定め、統合への推進力を与えている。欧州理事会議長は、EU大統領とも呼ばれている。
欧州委員会は加盟国から1人ずつ任命された委員で構成されるが、委員は出身国の利益から独立した立場であるものとされている。欧州委員会はすべての欧州連合の法令の草案を起草し、立法における発案権を独占している。一方、欧州議会と理事会に対して説明責任を負っている。また、欧州連合の日常業務を担い、欧州連合の法令や「基本条約の守護者」としての使命を負っている[8]。
欧州委員会委員長は欧州理事会議長が指名し、欧州議会がこれを承認する。指名にあたっては、直前の欧州議会議員選挙の結果を考慮しなければならない[9]。ほかの委員は加盟国が委員長との協議のうえで指名し、委員長によってそれぞれの担当職域が割り当てられる。その後理事会は指名された委員の名簿を採択する。理事会による欧州委員会の採択では、特定多数決方式によって承認される。欧州議会は委員候補に対して聴聞を行い、任命の採決を行う。各委員候補に対する聴聞は個別に行なわれるが、欧州議会としての承認の採決は欧州委員会の総体に対して行なわれ、個別の委員に対する任命の是非を決めることはできない。欧州議会から承認が得られれば、委員はただちにその任に就くことができる[8]。
加盟国
[編集]イギリスがEUを離脱した2020年以降、欧州連合には27の加盟国がある。加盟国は一部権限を委譲しているかわりに、理事会の採決における票数、欧州議会における議席数、欧州委員会委員などが割り当てられている。加盟国の政体はそれぞれで異なっており、大統領制、君主制や連邦制、ミニ国家などがあるが、すべての加盟国はコペンハーゲン基準で言及される民主主義、人権の尊重、自由市場経済を有することを遵守しなければならない。1958年の原加盟6か国に始まり、加盟国は長い期間を経て増えている。
加盟国の中には特定の領域で欧州連合における統合の枠組みの外にある国があり、たとえば統一通貨ユーロには全27か国中21か国の参加となっている。一方で、欧州連合に加盟していない多くの国でも、ユーロ、シェンゲン協定、単一市場(EEA)、防衛といった欧州連合の活動にかかわっている[10][11][12]。
政党
[編集]それぞれの加盟国における政党は、政治志向が近いほかの加盟国の政党と連携して欧州規模の政党を結成している。欧州政党は、理事会、欧州委員会といった主要な機関において水平的にかかわっているが、もっとも活動が活発であるのは欧州議会である。また、欧州連合は、欧州政党に対して、活動資金を拠出している。
欧州議会の任期の冒頭で、各政党はほかの欧州政党や国内政党、無所属議員と政治会派を結成する。これまでの欧州議会議長の選任にあたっては、中道右派の欧州人民党と中道左派の欧州社会党の2大政党の間で連携がなされている[13][14]。
なお、政治的思想に関しては、一般的な左派と右派という分け方のほかにも、欧州統合に対して賛成する汎ヨーロッパ主義と、反対する欧州懐疑主義といった分け方もある。
問題点
[編集]2007年から2013年の欧州連合の財政見通しが2005年に定められ、加盟国は欧州連合の予算の規模を域内総生産の 1.045% に固定することで合意した[15]。イギリスの首相トニー・ブレアは、1984年にマーガレット・サッチャーがとり決めた対英払戻措置の見直しに同意した。フランス大統領ジャック・シラクは予算規模の増大によって、欧州連合の予算から農業や研究・技術開発といった共通の政策に資金を出すことができるものだとした。このときフランスが求めていた、外食産業における付加価値税の減税要求は却下されている[16]。財政に関する協議では、対英払戻措置、フランスが受けている共通農業政策からの利益、ドイツやオランダの欧州連合の予算への負担、欧州地域開発基金改革や、欧州議会がブリュッセルとストラスブールの2か所に拠点を置き続けていることへの是非が争点となった。
欧州憲法条約は欧州連合の憲法を制定することが企図された条約であった。ところがこの条約はフランスとオランダで実施された国民投票で否決され[17]、この結果はほかの国でも実施される予定だった国民投票や批准手続の延期や中止につながった。この条約にかわって「改革条約」と位置づけられるリスボン条約が署名され、すべての加盟国による批准が完了したことを受けて2009年12月1日に発効した。
欧州連合への新規加盟は主要な政治課題となっており、欧州連合をどこまで拡大させるかということが議論となっている。拡大は欧州連合の発展を助ける大きな政策手段とする考え方があるいっぽうで、欧州連合の過剰拡大と希薄化を懸念する考え方もある[18][19]。
脚注
[編集]- ↑ “The EU at a glance > Treaties and law” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ “Glossary > Community legal instruments” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ “Parliament's powers and procedures” (英語). European Parliament. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ “Decision-making in the European Union” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ “Welcome to the European Parliament” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ “The Council of the European Union” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ van Grinsven, Peter (2003年). “The European Council under Construction 'Clingendael'” (PDF) (英語). Netherlands Institute of International Relations. 2010年3月28日閲覧。
- 1 2 “The European Commission” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ 欧州連合条約第17条第7項
- ↑ “Introduction > Use of the euro” (英語). European Central Bank. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ “The Schengen area and cooperation” (英語). EUROPA. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ “The EU Battlegroups” (PDF) (英語). European Parliament (2006年9月12日). 2010年3月28日閲覧。
- ↑ “European Political Parties & Groups in the European Parliament” (英語). EurActiv.com. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ Kreppel, Amie (2002年). “The European Parliament and Supranational Party System” (PDF) (英語). Cambridge University Press. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ “Financial Perspective 2007?2013” (PDF) (英語). Council of the European Union (2005年12月17日). 2010年3月28日閲覧。
- ↑ Kanter, James (2006年1月30日). “Poles block EU deal on lower VAT” (英語). The New York Times. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ Mulvey, Stephen (2005年6月1日). “Varied reasons behind Dutch 'No'” (英語). BBC NEWS. 2010年3月28日閲覧。
- ↑ “Draft report on division of powers” (PDF) (英語). European Parliament (2002年2月6日). 2010年3月28日閲覧。
- ↑ “Q&A: EU enlargement” (英語). BBC NEWS (2007年1月1日). 2010年3月28日閲覧。



