在外日本人国民審査権訴訟

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最高裁判所判例
事件名 在外日本人国民審査権確認等、国家賠償請求上告、同附帯上告事件
事件番号 令和2(行ツ)255
2022年(令和4年)5月25日
判例集 民集第76巻4号711頁
裁判要旨

1 最高裁判所裁判官国民審査法が在外国民(国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民)に最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査に係る審査権の行使を全く認めていないことは、憲法15条1項、79条2項、3項に違反する。
2 国が在外国民(国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民)に対して国外に住所を有することをもって次回の最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査において審査権の行使をさせないことが憲法15条1項、79条2項、3項等に違反して違法であることの確認を求める訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法である。
3 国会において在外国民(国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民)に最高裁判所の裁判官の任命に関する国民の審査に係る審査権の行使を認める制度を創設する立法措置がとられなかったことは、次の(1)~(3)など判示の事情の下では、平成29年10月22日に施行された上記審査の当時において、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける。
(1)国会においては、平成10年、在外国民に国政選挙の選挙権の行使を認める制度を創設する法律案に関連して、在外国民に審査権の行使を認める制度についての質疑がされた。
(2)平成17年、最高裁判所大法廷判決により在外国民に対する選挙権の制約に係る憲法適合性について判断が示され、これを受けて、同18年の法改正により在外国民に国政選挙の選挙権の行使を認める制度の対象が広げられ、同19年、在外国民に憲法改正についての国民の承認に係る投票の投票権の行使を認める法律も制定された。

(3)在外国民に審査権の行使を認める制度の創設に当たり検討すべき課題があったものの、その課題は運用上の技術的な困難にとどまり、これを解決することが事実上不可能ないし著しく困難であったとまでは考え難い。
大法廷
裁判長 大谷直人
陪席裁判官 菅野博之山口厚戸倉三郎深山卓也三浦守草野耕一宇賀克也林道晴岡村和美長嶺安政安浪亮介渡邉惠理子岡正晶堺徹
意見
多数意見 全会一致
意見 宇賀克也
反対意見 なし
参照法条
(1~3につき) 憲法79条2項、憲法79条3項、憲法79条4項、最高裁判所裁判官国民審査法4条、最高裁判所裁判官国民審査法8条、(1、3につき) 憲法15条1項、(2につき) 行政事件訴訟法4条、(3につき) 国家賠償法1条1項
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在外日本人国民審査権訴訟(ざいがいにほんじんこくみんしんさけんそしょう)は、日本国外に在住する在外国民が最高裁判所裁判官国民審査における国民審査権の行使を認められていないことが日本国憲法に違反しているとして、当時の最高裁判所裁判官国民審査法の違憲確認と損害賠償を求めた、日本における訴訟である[1]

概要[編集]

2017年10月22日最高裁判所裁判官国民審査の投票が行われたが、国政選挙とは異なり在外選挙の法規定がないために、在外日本人は投票できなかった。米国在住の映画監督の想田和弘ら在外日本人5人は最高裁判所裁判官国民審査に投票できないのは違憲として、1人あたり1万円の損害賠償を国に求める訴訟を起こした[2]

国は、国政選挙とは異なり、最高裁判所裁判官国民審査の場合は、対象の裁判官の氏名を記載した投票用紙を準備して海外に送付するため、物理的に間に合わないとして、在外日本人が最高裁判所裁判官国民審査に投票できないのはやむをえないと主張していた[2]

2019年5月28日東京地裁は投票用紙の問題について「投票者に裁判官の氏名を記入する記名式を導入すれば投票は可能」として、やむを得ない理由があったとは到底いえないとして違憲判決を出し、国に対して原告5人に各5000円の賠償を支払うよう命じる判決を言い渡した[2]。国は控訴した。

2020年6月25日東京高裁は東京地裁と同様に「投票者に裁判官の氏名を記入する記名式を導入すれば投票は可能」として、やむを得ない理由はないとして違憲判決を維持したものの、立法措置を怠ったとまではいえないとして賠償は命じなかった[3]。国は上告した。

2022年5月25日最高裁大法廷は国民審査権について「主権者である国民の権利として、選挙権と同じように平等に行使することが憲法で保障されている」として、在外日本人の投票を制限することはやむを得ない事情がなければ原則許されず、裁判官の氏名を印刷した投票用紙を外国に送付するために物理的に間に合わないという国の主張について「別の投票方式を採ることもできることから、やむを得ない事情があるとは到底言えない」とし、在外日本人が最高裁判所裁判官国民審査に投票できないことは、国民に公務員の選定や罷免をする権利を保障した日本国憲法第15条や国民審査制度を定めた日本国憲法第79条に違反するとした違憲判決を維持し、国会は在外審査制度を創設する立法措置を怠ったとして国に原告1人当たり5000円の賠償を支払う判決が言い渡され、確定した[4]。最高裁が法律を違憲とする判決において国に賠償を命じたのは2005年の在外日本人選挙権訴訟以来2例目である[4]宇賀克也裁判官は「投票日や結果の確定日について若干の違いが生じても憲法には違反しない」とする補足意見を述べた[4]

2022年11月11日に国会で裁判官の氏名の代わりに告示順を示す数字を印刷して投票用紙を事前に用意するという手法で在外日本人が国民審査に投票することを可能とする最高裁判所裁判官国民審査法改正案が成立した[5]

脚注[編集]

  1. ^ 吉田京子「憲法訴訟のために実務家と研究者にできること――在外日本人国民審査権訴訟の留書き」『法律時報』第1181号、日本評論社、2022年8月、118頁。 
  2. ^ a b c 「国民審査に違憲判断 東京地裁 在外邦人の投票制限」『読売新聞読売新聞社、2019年5月29日。
  3. ^ 「在外邦人除外 2審も違憲 国民審査 賠償請求は退ける」『読売新聞』読売新聞社、2020年6月26日。
  4. ^ a b c 「国民審査 在外投票は不可 違憲 最高裁判決「選挙権と同じ」」『読売新聞』読売新聞社、2022年5月26日。
  5. ^ 在外邦人の国民審査制度創設 改正法成立、違憲判断受け」『日本経済新聞日本経済新聞社、2022年11月11日。2022年12月2日閲覧。

関連項目[編集]