ルクセンブルク語
| ルクセンブルク語 | |
|---|---|
| Lëtzebuergesch | |
| 発音 | IPA: ˈlətsəbuəjəʃ |
| 話される国 | |
| 地域 | 西ヨーロッパ |
| 話者数 | 30万人 |
| 言語系統 | |
| 表記体系 | ラテン文字 |
| 公的地位 | |
| 公用語 |
|
| 少数言語として 承認 |
|
| 統制機関 | Conseil Permanent de la Langue Luxembourgeoise (CPLL) |
| 言語コード | |
| ISO 639-1 |
lb |
| ISO 639-2 |
ltz |
| ISO 639-3 |
ltz |
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| |
| 消滅危険度評価 | |
| Vulnerable (Moseley 2010) | |
ルクセンブルク語(ルクセンブルクご、Lëtzebuergesch, 標準ドイツ語: Luxemburgisch, フランス語: Luxembourgeois)は、ルクセンブルクの国語、公用語のひとつ。
ルクセンブルク語は、もともと西ゲルマン語群に分類されるドイツ語(高地ドイツ語)のうち、中部ドイツ語に属するモーゼル・フランケン方言の一方言である[1]。
ルクセンブルクではドイツ語系の言語が話される一方でフランス語の使用地域にも近く、法令などの公文書には主にフランス語が使われ、日常語としてはドイツ語が一般に使われる[2][3]。このルクセンブルクで使用される「ドイツ語方言」を、「国語」として整備したのが「ルクセンブルク語」である。1984年にルクセンブルクの公用語として採用された[4][5]。
ルクセンブルク語はドイツ語の単なる一方言ではなく、語彙などが異なっている。フランス語由来の外来語を多く含むのがその理由の一つである。通常のドイツ語を会話する者がルクセンブルク語を理解することは比較的簡単であるが、フランス語の影響のため、それを適切に話すのは難しいと言われる。
ベルギーのリュクサンブール州アルロン行政区とリエージュ州ブルク=ロイラントおよびザンクト・フィート周辺地域、フランスロレーヌ地域圏モゼル県北西部、ドイツラインラント=プファルツ州西部のビットブルク、トリーア周辺地域で使用されるほか、米国やルーマニアのトランシルバニア地方においても、これらの地域からの移民によって使用される。話者は全世界で30万人である。なお、日本語の文献では、(日本で一般的な「ルクセンブルク」と語形がやや異なるが)原音に近いレッツェブルグ語あるいは単にレッツェブルギッシュなどとして紹介されることもある。

文字
[編集]正書法制定の経緯
[編集]ルクセンブルク語の統一的な最初の正書法は、ルクセンブルク語教育が初等教育に義務教育として導入されることを契機に1916年に導入されたルネ・エンゲルマンによる正書法である。この正書法は既にドイツ語正書法を習得している人がルクセンブルク語を表記する事を前提に創出されたものであり、ルクセンブルク語の独自性という点では弱い面もあったものの、新聞などでドイツ語に触れる機会の多かった庶民にとっては理解しやすい事から急速に普及する事となった[6]。 その後ナチス・ドイツによる占領下でゲルマン化政策への抵抗としてドイツ語離れとアイデンティティとしてのルクセンブルク語という意識が急速に醸成される[2]中、1944年に当時の教育大臣ニコラ・マルグの依頼で音声学者ジャン・フェルテスによって考案したルクセンブルク語の音声に忠実な新正書法(マルグ・フェルテスの正書法)が公布された[7]が、従来の綴り方から大きく乖離し習得に一定の努力が必要であった事から普及せず、引き続きドイツ語に似た表記法ではあったもののそれゆえ習得難易度の低かったエンゲルマンの正書法の方が使われ続ける事になった[8]。
その後、1950年に辞書委員会が刊行した『ルクセンブルク語辞典』第1巻において新たな表記法案が示された。その後『ルクセンブルク語辞典』の編纂が進む中で当初の表記法案で示された規則に対する例外事項の表記方法が段階的に決定されてゆき、最終的には1975年の最終第23巻刊行とともに同辞書で採用されていた表記法が公式の新正書法として発表されるに至った[9]、現行正書法はこれを1999年に改正したものとなっている[10][4]。
アルファベート
[編集]ルクセンブルク語の現行正書法では、ラテン文字(Alphabet)基本26文字にウムラウト(Ä, ä; Ë, ë)とアキュート・アクセント(É, é)を加えた29文字を使用する。また、ドイツ語やフランス語由来の借用語を原語の綴りで使用する場合もあるため、実際に使用される文字数はこれよりも多い。
| A | B | C | D | E | F | G | H | I | J | K | L | M | N | O | P | Q | R | S | T | U | V | W | X | Y | Z | É | Ä | Ë | À | È | Ù |  | Ê | Î | Ô | Û | Ï | Ö | Ü | Ÿ | Ç | Œ | Æ | ẞ |
| a | b | c | d | e | f | g | h | i | j | k | l | m | n | o | p | q | r | s | t | u | v | w | x | y | z | é | ä | ë | à | è | ù | â | ê | î | ô | û | ï | ö | ü | ÿ | ç | œ | æ | ß |
各字母の名称
[編集]
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発音
[編集]母音
[編集]ルクセンブルク語の母音は以下の通り。一部を除き短母音と長母音の区別がある他、二重母音が4つある。
| 前舌 | 中舌 | 後舌 | ||
|---|---|---|---|---|
| 非円唇 | 円唇 | 非円唇 | 非円唇 | |
| 狭 | [i(ː)] | [yː] | [u(ː)] | |
| 広め狭 | [ʏ] | |||
| 半狭 | [e(ː)] | [øː] | [o(ː)] | |
| 中央 | [ə] | |||
| 半広 | [ɛ] | [œ] | ||
| 狭め広 | [ɐ] | |||
| 広 | [a(ː)] | |||
二重母音:[ai][a(ː)u][ɛːi][iə]
実際の文字の綴りと発音の関係は以下の通り。なお、ドイツ語由来の借用語ではöとüが、フランス語由来の借用語ではèがそれぞれ原語通りの発音となるため注意が必要。
| 文字 | IPA | 備考 |
|---|---|---|
| a | [a] | 強勢なし、または後続する子音が2個以上 |
| [aː] | 強勢あり、かつ後続する子音が1個以下 | |
| aa | ||
| ai | [ai] | |
| ei | ||
| äi | [ɛːi] | |
| au | [a(ː)u] | 長短の区別は単語による |
| ä | [ɛ] | |
| è | ||
| e | 強勢あり | |
| [ə] | 強勢なし | |
| ë | ||
| é | [e] | |
| ee | [eː] | |
| i | [i] | 強勢なし、または後続する子音が2個以上 |
| [iː] | 強勢あり、かつ後続する子音が1個以下 | |
| ie | ||
| ii | rの前 | |
| [iə] | 上記以外 | |
| er | [ɐ] | 母音と子音の間、または語末 |
| o | [o] | 強勢なし、または後続する子音が2個以上 |
| [oː] | 強勢あり、かつ後続する子音が1個以下 | |
| oo | ||
| ö | [œ] | 強勢なし、または後続する子音が2個以上 |
| [øː] | 強勢あり、かつ後続する子音が1個以下 | |
| u | [u] | 強勢なし、または後続する子音が2個以上 |
| [uː] | 強勢あり、かつ後続する子音が1個以下 | |
| uu | ||
| ü | [ʏ] | 強勢なし、または後続する子音が2個以上 |
| [yː] | 強勢あり、かつ後続する子音が1個以下 |
子音
[編集]ルクセンブルク語の子音は以下の通り。
| 唇音 | 歯茎音 | 硬口蓋音・軟口蓋音 | 後部歯茎音 | 声門音 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 破裂音 | 無声 | /p/ | /t/ | /k/ | ||
| 有声 | /b/ | /d/ | /g/ | |||
| 鼻音 | /m/ | /n/ | /ŋ/ | |||
| 摩擦音 | 無声 | /f/ | /s/ | /x/ | /ʃ/ | /h/ |
| 有声 | /v/ | /z/ | /ɣ/ /ʁ/ | /ʒ/ | ||
| 破擦音 | 無声 | /t͡s/ | ||||
| その他 | /l/ | /j/ | ||||
実際の文字の綴りと発音の関係は以下の通り。
| 文字 | IPA | 備考 |
|---|---|---|
| b | /b/ | 下記以外 |
| /p/ | 語末(合成語となり語中に移動した場合も含む) | |
| p | ||
| m | /m/ | |
| w | /v/ | 母音の前 |
| /f/ | 語末(合成語となり語中に移動した場合も含む) | |
| f | ||
| v | /v/ | フランス語からの借用語で |
| /f/ | 上記以外 | |
| d | /d/ | 下記以外 |
| /t/ | 語末(合成語となり語中に移動した場合も含む) | |
| t | 下記以外 | |
| /t͡s/ | zの前 | |
| z | ||
| n | /n/ | |
| s | /z/ | 母音の前 |
| /ʃ/ | p, tの前 | |
| /s/ | 上記以外 | |
| ss | ||
| l | /l/ | |
| g | /g/ | 語頭および一部の語の語中 |
| /ɣ/ | a, o, uの後 | |
| /j/ | 上記以外の語中 | |
| /x/ | 語末の-ag, -aagの綴りで | |
| /ʃ/ | 語末の-eg, -eegの綴りで | |
| k | /k/ | |
| ng | /ŋ/ | |
| ch | /x/ | 語末の-ag, -aagの綴りで |
| /ʃ/ | 語末の-eg, -eegの綴りで | |
| sch | ||
| k | /k/ | |
| q | u+母音の前 | |
| r | /ʁ/ | 母音扱いのer以外 |
| j | /ʒ/ | フランス語からの借用語で |
| /j/ | 上記以外 | |
| x | /ks/ | 単語により発音が異なる |
| /gz/ |
語彙
[編集]ルクセンブルク語は多くのフランス語を借用している。例としてバスの運転手を指す語は Buschauffeur であるが、これはドイツ語では Busfahrer でありフランス語では chauffeur de bus である。いくつかの語は標準ドイツ語と異なるが、ドイツ語の方言に対応するものがある。例えば、じゃがいも(複数)は Gromperen、ドイツ語では Kartoffeln。他にルクセンブルク語特有の語もある。
| 日本語 | ルクセンブルク語 | 標準ドイツ語 | フランス語 |
|---|---|---|---|
| こんにちは | moien | guten Morgen, guten Tag | bonjour |
| さようなら | äddi | ade | adieu |
| どうぞ | wann ech gelift | bitte | s'il vous plaît |
| ありがとう | merci | danke | merci |
| ルクセンブルク | Lëtzebuerg | Luxemburg, Lützelburg | Luxembourg |
| はい | jo | ja | oui |
| いいえ | nee(n) | nein | non |
| しばしば | dacks | oft | souvent |
| 清潔 | propper | sauber | propre |
| 傘 | Prabbli, Präbbeli | Regenschirm | parapluie |
| フォーク (食器) | Forschett | Gabel | fourchette |
| 子供 | Kanner | Kinder | enfants |
| 通り、街路 | Strooss | Straße | rue |
| 情報 | Informatioun | Information | information |
| 紙 | Pabeier | Papier | papier |
| ナンシー | Nanzeg | Nancy, Nanzig | Nancy |
| パリ | Paräis | Paris | Paris |
| ブリュッセル | Bréissel | Brüssel | Bruxelles |
| たぶん | Vläicht | vielleicht | probablement |
| ジャガイモ | Gromper | Kartoffel | pomme de terre |
| マッチ | Fixfeier | Streichholz, Zündholz | allumette |
| ドイツ語/フランス語/英語を話しますか? | Schwätzt dir Däitsch/Franséisch/Englesch? | Sprechen Sie Deutsch/Französisch/Englisch? | Vous parlez allemand/français/anglais ? |
文法
[編集]文法は基本的にドイツ語に共通するが、ドイツ語と比較すると属格が消失した点、代名詞を除いた男性名詞において主格と対格が融合した点など、格変化において違いがある[11]。
脚注
[編集]参考文献
[編集]- 田原憲和『ルクセンブルク語入門』大学書林、2013年1月20日。ISBN 978-4-475-01894-4。
- 田原憲和『ルクセンブルク語分類単語集』大学書林、2018年5月30日。ISBN 978-4-475-01163-1。
- 田原憲和「方言から言語へ : ルクセンブルク語形成をめぐって」『立命館法学』別冊 島津幸子教授追悼論文集「ことばとそのひろがり」(6)、立命館大学法学会、2018年8月、347-365頁、CRID 1390853649745259520、doi:10.34382/00006520。
- 田村健一「V ルクセンブルク語の世界」『ヨーロッパのおもしろ言語』(CD付)白水社〈ニューエクスプレス・スペシャル〉、2010年6月30日。ISBN 978-4-560-08540-0。
- 『ルクセンブルク大公国 徹底解説』(PDF)株式会社ユニカルインターナショナル 訳、ルクセンブルク政府広報局出版部門、2015年3月。ISBN 978-2-87999-260-0。2024年8月10日閲覧。
関連項目
[編集]- 中部ドイツ語
- モーゼル・フランケン方言
- ジーベンビュルゲン・ザクセン語(ルーマニア・トランシルヴァニア地方で使用されるトランシルヴァニア・ザクセン人(中部ドイツ語に属するフランケン語の系統)の言語)
- ルクセンブルク・フランス語