グルーミング (性犯罪)

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性犯罪におけるグルーミングとは、性交等または猥褻な行為などをする目的で、未成年者を手なずけるする行為である[1]「チャイルド・グルーミング」とも呼ばれる[2][3]

手段[編集]

未成年者への「性的なグルーミング」は、何らかの事情で孤立した対象を標的にして、標的からの信頼を積み上げて関係性を支配してから、性的な行為に及ぶものである[4]。公認心理士の斎藤梓は、子供との立ち位置によって、「実際に近い人[注 1]から」「あまり近くない人[注 2]から」「オンラインでの行為」に分類している[4][5][6]。加害者は「悩みを抱えていて孤立の傾向がみられる子ども」を標的にして、その子の「大人に認められたい、誉められたい」という欲求を利用して近づいてくる[4]。子供に共感を与え、誉める認めるを繰り返すことで親密感を増し、子どもが『加害者に依存』するようになってから、最終的にはその子に性加害を行うのが目的である[4]

だが、標的とされた子どもは「信頼できる大人がそんなことをしてくるわけがない」と思い込まれているため、「性暴力被害を受けた」とは気づきにくい[4]。また、標的の子ども単体だけではなく、その周囲の家庭や環境からの信頼を得てから、性加害を行うこともある[4]。子どもにとっては「いい人」に感じる行動をとるが、それは「標的の子に性加害を行うための作戦」でしかない[3]

学校教諭をはじめ、家庭教師、塾教師、スポーツコーチなど、指導を受けている子供たちの「信頼」を得ている立場を悪用したグルーミングも行われている。話や悩みを聞いてくれたり、承認欲求を満たしてくれることから、子どもが加害者に不用意に近づいていくことも多い[7]

被害対象は女子児童に限らず、男子児童も同様の手口で被害に遭っている[5][8]

オンライングルーミング[編集]

SNSやコミュニケーションツールを使って知りあい、オンラインで徐々に子供の信頼を積み上げた上で、現実に会う約束をしたのちに性加害を行う[2]。加害者はTwitter, Instaglam, TikTok, カカオトークなどの若者に人気のSNSを通じて知り合い、中にはオンラインゲームボイスチャット機能を使って知り合うこともある[2][3]。誰でも動画をライブ配信できる無料アプリを使い、女子児童を巧みに誘導して性的な動画背信を行わせる事例もある[9]

SNSで知り合い、悩み相談や趣味の話で盛り上がってから、直接会う約束を取り、『外じゃ話せないから家で』『家で有料コンテンツを見たい』と相手の自宅に誘われたら、突然で性的行為をされてしまうのが「典型的な手法」である[6]。まさか自分の体に興味を持たれているとは思っていない[6]。加害者は相手と一晩中」メールやLINEでやり取りを繰り返し、子供の愚痴やつぶやきにも共感することで、寂しさを感じている子供にとっては、「画面の先の相手」がかけがえのない存在に変わっていく[6]

グルーミングで入手した「児童ポルノ」コンテンツは、世界的なアンダーグランドマーケットで高値で売買されることも珍しくない[8]。2020年に摘発されて閉鎖された児童ポルノ販売サイトは、会員数2万人で毎月億単位の売り上げがあり、元暴力団員を含む運営者3人は逮捕された[8]他、このサイトに児童ポルノを出品していた人物のうち23人も逮捕された[8]

グルーミングは世界的に問題であり、ニュージーランドでは2020年6月から政府主導で子どもの安全なネット利用を啓発するメディア・キャンペーンが行われた[2]。ニュージーランドでは、若者の40%が面識がない相手とネット内でやり取りをしたことがあるという[2]。またイギリスNational Society for the Prevention of Cruelty to Childrenでは、2020年4月からの1年間で5441件のグルーミング犯罪が発生しており、件数は2017年からの1年間の件数より70%増加した。犯罪の約半分にはコミュニケーションアプリが用いられており、Instaglamが約3/1、Snapchatも全体の4/1以上を占めていた[2]韓国では2021年9月に「改正青少年性保護法」が施行され、被害に遭った女性の証言を基にした「おとり捜査」が可能となり、改正法の施行から1か月のうちに合計35件のおとり捜査が行われ、58人が検挙された[10]

調査[編集]

NHKがNPO法人ぱっぷすと共同で、「架空の14歳の女子」のSNSアカウントを作成して「友達が欲しい」を投稿したところ、わずか2分で12件のメッセージが届き、中には堂々と「エロ垢」を名乗ったり、「男性の下半身の動画」を送ってきたメッセージもあった[8]。開始から2か月で200件近いメッセージが寄せられ、そのほとんどは性的な内容だった[8]。そんな中、性的なメッセージを書かずに「少女」を気遣う内容を毎日送り続けた男性がいたが、NPO側が「愚痴をこぼした」ところ、その男性の態度が豹変し、性行為を求めるメッセージが届くようになったため、調査陣はこの男性と現実に会うことにした[8]。男性は今までのメッセージの内容に反して、現実に会ったNPOスタッフに嘘をつき、30分以上話しても非を認めなかった[8]

対策[編集]

2021年9月16日、法務大臣上川陽子は、法制審議会で性犯罪に関する刑法の改正について諮問し、まとめられた10項目の中に「六 性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪を新設すること」が盛り込まれた[11][12]。これには、性暴力被害者支援を行っている弁護士が、予想外の驚きをTwitterに投稿した[13][11]。法務省の検討会に出席した、性暴力被害者支援認定看護師の山本潤は、「グルーミングは、被害者本人が性的に虐待されているという事実さえ認識できない恐ろしい犯罪」「手なずけと洗脳操作という独特の加害者戦略がある」との意見を言った[11]

2022年3月、東京地方裁判所は、オンライングルーミングを用いて、わいせつな動画を自分のスマートフォンに送らせ、強制わいせつと児童買春・ポルノ禁止法違反の罪に問われた元力士の男に、実刑有罪判決を言い渡した[14]

だが、現行法上、13歳以上の児童を対象にしたグルーミングは、「性交同意年齢」に達しているため、「強制性交罪」としては扱わることは少なく、暴行・脅迫がなく、相手児童が抵抗できない場合でもないときは、各都道府県の青少年保護育成条例違反(淫行条例違反)が適用されることが多く、事件を担当した弁護士は「刑罰があまりにも軽すぎる」と嘆く[6]

イギリスでは、グルーミングを用いて性的な目的で子どもと会おうとする行為が処罰対象となり、ドイツではグルーミングそのものが処罰対象となっている[8][6]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ 親戚、教師、コーチ、団体職員、親の交友者など。
  2. ^ 公園や町で声をかけてきた人など。

出典[編集]

  1. ^ 「時計の針を戻さずに審理を」性犯罪の刑法改正、被害当事者らが訴え - 弁護士ドットコム
  2. ^ a b c d e f 子どもがSNSで性的被害にあう理由--「オンライングルーミング」の手口とは? - CNET Japan
  3. ^ a b c 子どもたちを「チャイルドグルーミング」から守るために -モバプリの知っ得![129] - 琉球新報Style - 沖縄の毎日をちょっと楽しく新しくするウェブマガジン。
  4. ^ a b c d e f 性的行為を目的に子どもを手なずける「グルーミング」の手口とは。被害者が刑法改正に望むこと | ハフポスト
  5. ^ a b 子どもを手なずけ性搾取 “グルーミング”の卑劣な実態、被害急増中の「SNSを使った手口」 | 週刊女性PRIME
  6. ^ a b c d e f 子ども性被害の背景に「グルーミング」 オンラインで知り合い、妊娠した中学生も - 弁護士ドットコム
  7. ^ 学校は、教員から子どもへの性犯罪を無くせるのか | 子どもは3密で育つ!?~コロナ時代の学校から | 岡崎勝 | 毎日新聞「医療プレミア」
  8. ^ a b c d e f g h i 追跡・SNS性犯罪~ ネット上で狙われる子どもたち - NHK クローズアップ現代+
  9. ^ <ユースク> ライブ配信の闇 中学生の性的動画、視聴者が巧妙誘導:中日新聞Web
  10. ^ SNSで少女操る「グルーミング」、性犯罪目的なら検挙…韓国でおとり捜査も : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン
  11. ^ a b c 子どもが懐柔される「グルーミング」を知っていますか(小川たまか) - 個人 - Yahoo!ニュース
  12. ^ 「時計の針を戻さずに審理を」性犯罪の刑法改正、被害当事者らが訴え - 弁護士ドットコム
  13. ^ shouwarameのツイート(1438514888981188608)
  14. ^ SNSで子どもを手なずけ性犯罪…被害児童数が高止まり 求められる「オンライングルーミング」対策:東京新聞 TOKYO Web