エリア放送

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エリア放送(エリアほうそう)は、地上一般放送の一種である。

定義[編集]

総務省令放送法施行規則第142条の「一般放送の業務に用いられる電気通信設備の規模等からみて受信者の利益及び放送の健全な発達に及ぼす影響が比較的少ない一般放送」という総務大臣に届出を要する一般放送として、 同条第2号に「一の市町村特別区を含み、地方自治法第252条の19に規定する指定都市にあつては区とする。以下同じ。)の一部の区域(当該区域が他の市町村の一部の区域に隣接する場合は、その区域を併せた区域とする。)のうち、特定の狭小な区域における需要に応えるための放送」と規定 [1] している。

引用の促音の表記は原文ママ

概要[編集]

放送法施行規則第142条第2号にはその種類として

イ テレビジョン放送
ロ その他

としている。つまり、FM放送によるコミュニティ放送放送区域(同一市区町村内)より更に狭小な地域、例えば公会堂や競技場、商店街などにテレビ放送をすることを基本的に想定している。 また、展示会やスポーツ試合などのイベントに応じて臨時に放送することも考慮している。これはイベント放送に相当するものであるが、数日間といったごく短期間のものでも免許される。

参入[編集]

事業者は地上基幹放送と同様にハード(送信設備)とソフト(番組)の一致も分離も可能である。

ハード・ソフト一致

事業者は電波法に基づく一般放送用地上一般放送局の免許取得と放送法に基づく地上一般放送事業者としての届出を要する。 地上基幹放送の特定地上基幹放送事業者に相当する。

ハード・ソフト分離

無線局の免許人となる事業者は電波法に基づく電気通信業務用地上一般放送局の免許の取得を、放送をする事業者は放送法に基づく有線一般放送事業者の届出を要する。

地上基幹放送の基幹放送局提供事業者認定基幹放送事業者に相当する。

届出一般放送事業者は、放送法第146条により番組基準の策定や番組審議会の設置を必要としない。

地上一般放送局[編集]

周波数割当て

地上波テレビ放送のホワイトスペースを利用して実施するものとして、総務省告示周波数割当計画に、二次業務として470MHzから710MHz(物理チャンネル13-52ch)の地上波テレビ放送用周波数を割り当てられている。 これは基幹放送より優先度が低いことを意味している。 また、特定ラジオマイクも同周波数帯に二次業務として割り当てられているが、特定ラジオマイクにも劣後するもの [2] としている。すなわち、基幹放送や特定ラジオマイクを妨害してはならず、また基幹放送や特定ラジオマイクからの混信等を容認しなければならない。 使用可能な周波数は「ホワイトスペースチャンネル検索」 [3] により、申請者が自ら検索するものとされる。

技術基準

無線設備規則第4章第2節の13に送信機の技術基準が規定[1]されており、第37条の27の24第4項で空中線電力は占有周波数帯域幅5.7MHzで130mW以下、占有周波数帯域幅468kHzで10mW以下とされる。

占有周波数帯域幅により、地上基幹放送と同様なフルセグ方式(5.7MHz)とワンセグ方式(468kHz)およびこれ以外のNull付ワンセグ方式の3種類がある。 Null付ワンセグとは、フルセグ放送の帯域幅の中でワンセグ放送をする(5.7MHzを占有するが中央の468kHzしか使用しない)もので、実験試験局から継続使用している場合に暫定的に免許される[4]

送信機は特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則により技術基準適合証明の対象[1]とされ、適合表示無線設備として技適マークの表示が必須であり、技術基準適合証明番号又は工事設計認証番号の表示も要する。 エリア放送用送信機を表す記号は、技術基準適合証明番号の4-5字目のDS[5]である。 なお制度化当初は工事設計認証番号にも記号の表示を要した。

技適マーク#沿革を参照
免許

周波数を公示してその期間内に申請を行う地上基幹放送と異なり、随時総合通信局沖縄総合通信事務所を含む。以下同じ。)にて申請を受け付けている。 総合通信局では、先願順に処理すること及び同一日の複数の申請により周波数が不足する場合は協議により一本化などの調整がされない限り免許しないことが告示[6] されている。 免許申請にあたっては他業務との調整が必須となるので、「TVホワイトスペース等利用システム運用調整協議会」(電波技術協会内)に入会しネットワークIDを取得しなければならない。

無線局の目的コードはGBC、通信事項コードはABC[7]

適合表示無線設備を用いれば、簡易な免許手続の対象[8]になり予備免許落成検査を経ることなく免許される。 簡易な免許手続の適用外でも、登録検査等事業者等による点検ができるので、この結果に基づき落成検査が一部省略される。

免許の有効期間は5年。但し、これ以下の期間を申請することは妨げられず再免許も可能である。 呼出符号(コールサイン)はJOXZで始まり、その後に1数字(0-9の地域番号)と2英字、最後に「-AREA」がつく。

運用

無線局運用規則第5章地上基幹放送局及び地上一般放送局の運用では、原則として地上基幹放送局と同等に扱っており、緊急警報信号を使用する、すなわち緊急警報放送を実施することができる。 また、第138条では放送の開始及び終了には呼出符号又は呼出名称を放送しなければならないとされるが、同条ただし書きによる告示による場合はこの限りではないとされ、これに基づく告示[9]により、呼出符号又は呼出名称の放送を省略できる。

一方、第139条の3では「エリア放送を行う地上一般放送局にあつては、自局の発射する電波が他の無線局の運用又は放送の受信に支障を与え、又は与えるおそれがあるときは、速やかに当該周波数による電波の発射を中止しなければならない。」と規定しているので、

  • 特定ラジオマイクの利用により、一時的に運用を停止する
  • 地上基幹放送の中継局の開設により、当該周波数での運用を廃止する

などがありうる。

引用の促音の表記は原文ママ

操作

原則として第三級陸上特殊無線技士以上の無線従事者による管理を要する。 但し、適合表示無線設備を用いれば、「簡易な操作」を規定する電波法施行規則第33条第6号(5)に基づく告示[10]により無線従事者を必要としない。

検査
  • 落成検査は、上述の通り簡易な免許手続の対象であれば行われず、登録検査等事業者等の点検により一部省略することもできる。
  • 定期検査は、電波法施行規則第41条の2の6第3号の2により行われない。
  • 変更検査は、落成検査と同様である。

廃止[編集]

事業廃止の際は、地上一般放送事業者、有線一般放送事業者は放送法による届出、地上一般放送局は電波法による届出を要する。

沿革[編集]

前史[編集]

2009年(平成21年)
2010年(平成22年)
  • 3月 - 日本空港ビルデングが羽田空港での実証実験第2段階および福岡空港での実証実験開始[13]
  • 8月 - 検討チームの報告書がまとめられ、これを受け「ホワイトスペース特区」の募集を実施[14]
  • 9月 - 総務省はホワイトスペース活用の全国展開を目指す「ホワイトスペース推進会議」を開催[15]
  • 10月22日 - ホワイトスペース推進会議の議論を踏まえ、通信・放送事業者、メーカー等の関係者による任意団体「エリアワンセグシステム開発委員会」が設立[16]
2011年(平成23年)

ここまでは無線従事者を必要とする実験試験局によるものであった。

制度化以降[編集]

2012年(平成24年)
  • 4月2日 - エリア放送が制度化
    • 周波数割当計画に二次業務としてエリア放送に470MHzから710MHzが割当て[24]
    • エリア放送と地上一般放送局の定義、技術基準の規定、送信機が技術基準適合証明の対象とされ記号はDS、簡易な免許手続の対象にも[1]
    • 簡易な操作の対象に規定[25]
    • 年度内に免許されるものの有効期限は「平成25年3月31日」まで[26]
    • 無線局の目的コードは一般放送用地上一般放送局がABC、電気通信業務用地上一般放送局がBAC、通信事項コードはABC[27]
    • 電波利用料額の変遷は下表参照
  • 4月17日 - 周波数割当計画に特定ラジオマイクも同周波数帯を使用することに[28]
  • 5月 - エリア放送はワンセグ型とフルセグ型の両方の実施できることに伴い、エリアワンセグシステム開発委員会は「エリア放送開発委員会」と改称[16]
  • 7月3日 - 電波産業会が放送分野標準規格「STD-B55 エリア放送の伝送方式」[29]と放送分野技術資料「TR-B35 エリア放送運用規定」[30]を策定
2013年(平成25年)
  • 1月17日 - 「TVホワイトスペース利用システム運用調整連絡会」が発足[31]
  • 4月1日
    • 免許の有効期間は電波法施行規則第7条第7号に規定するとおりの5年に[26]
    • 工事設計認証番号にエリア放送用送信機を表す記号の表示は不要に[32]
2014年(平成26年)
  • 3月25日 - TVホワイトスペース利用システム運用調整連絡会は、「TVホワイトスペース利用システム運用調整協議会」と改称[31]
  • 4月 - 総務省電波利用ホームページに「エリア放送ホワイトスペースチャンネル検索」が公開
  • 5月7日 - 地上一般放送局の無線局の目的コードは、すべてGBC[33]
2016年(平成28年)
  • 9月29日 - エリア放送開発委員会は、エリア放送高度化方式の制度化に伴うIP型データの活用を検討する「ISDB-T/IP多目的利用研究会」を設立[34]
電波利用料額
年月 料額 備考
2012年(平成24年)4月[注 1] 31,800円 料額は電波法別表第6第9項の「その他の無線局」が適用された。
  • 別表第6の備考第10号及び電波法施行規則第51条の9の6第3号により、占有帯域幅が半分にみなされ「3MHz以下」が適用された。
2014年(平成26年)10月[35] 1,000円 電波法別表第6第9項の中に「基幹放送以外の放送をする無線局」が規定された。
  • 電波法施行規則第51条の9の6第3号の規定は削除された。
2017年(平成29年)10月[36] 1,200円
2019年(令和元年)10月[37] 1,800円
2022年(令和4年)10月[38] 1,900円

事業者一覧[編集]

事業者とは、地上一般放送事業者でかつ一般放送用地上一般放送局の免許人。

リモコンキーID
  • 地上基幹放送事業者の使用が皆無である11の使用が多い。以下、特記がないものは11
  • 12は、地上基幹放送では過去に放送大学が使用していたのみで廃局後の使用者は無い。
  • 6は、TBSテレビのみで自社の地上基幹放送と同じ。
特定地上基幹放送事業者
登録有線一般放送事業者
地方公共団体
学校
一般企業

2023年(令和5年)10月31日現在、免許の有効期間が1年未満のものは省略。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ エリア放送制度化時点は平成23年法律第60号による改正電波法の規定が適用
  2. ^ 地方公共団体でもあるが、有線テレビジョン放送事業者として自主放送を行い、エリア放送と連携しているのでこの項に分類

出典[編集]

  1. ^ a b c d 平成24年総務省令第23号による放送法施行規則等改正の施行
  2. ^ 周波数割当計画脚注J89
  3. ^ エリア放送ホワイトスペースチャンネル検索 総務省電波利用ホームページ - 無線局情報検索
  4. ^ 参考資料2 エリア放送の制度化と今後の検討スケジュールについて 情報流通行政局 平成24年5月 p.5(総務省 - 情報通信審議会 - 会議資料 - 放送システム委員会 - 情報通信審議会情報通信技術分科会 放送システム委員会(第30回)(2012年5月22日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  5. ^ 特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則様式7
  6. ^ 平成24年総務省告示第123号 エリア放送を行う地上一般放送局の免許の申請書及び申請書に添付する書類の提出に係る取扱い(総務省 - 放送政策の推進エリア放送 - 参入マニュアル 参考資料4 関係法令集pp.136~137)(2012年4月4日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  7. ^ 平成16年総務省告示第860号 無線局免許手続規則別表第2号第1等の規定に基づく無線局免許申請書等に添付する無線局事項書の無線局の目的コードの欄及び通信事項コードの欄に記載するためのコード表(総務省電波利用ホームページ - 総務省電波関係法令集)
  8. ^ 無線局免許手続規則第15条の4
  9. ^ 昭和34年郵政省告示第509号 無線局運用規則第138条第1項ただし書の規定による呼出符号又は呼出名称の放送を省略できる基幹放送局及び地上一般放送局第4項(総務省電波利用ホームページ - 総務省電波関係法令集)
  10. ^ 平成2年郵政省告示第240号 電波法施行規則第33条の規定に基づく無線従事者の資格を要しない簡易な操作第1項第2号(総務省電波利用ホームページ - 総務省電波関係法令集)
  11. ^ 羽田空港での「エリア限定型ワンセグおよびマルチメディア放送技術」実証実験のお知らせ(日本空港ビルデング ニュースリリース一覧 2009年10月7日) - ウェイバックマシン(2013年5月23日アーカイブ分)
  12. ^ 「新たな電波の活用ビジョンに関する検討チーム」の発足 -(総務省報道資料 平成21年11月25日)(2012年3月2日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  13. ^ 羽田空港での「エリア限定型ワンセグおよびマルチメディア放送技術」実証実験第2段階のお知らせ(日本空港ビルデング ニュースリリース一覧 2010年2月25日) - ウェイバックマシン(2011年7月19日アーカイブ分)
  14. ^ 「新たな電波の活用ビジョンに関する検討チーム」報告書の公表及び「ホワイトスペース特区」先行モデル決定(総務省報道資料 平成22年8月6日)(2012年3月2日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  15. ^ 「ホワイトスペース推進会議」の開催(総務省報道資料 平成22年9月3日)(2010年10月12日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  16. ^ a b 関連情報(エリア放送開発委員会) - ウェイバックマシン(2014年2月19日アーカイブ分)
  17. ^ 「ホワイトスペース特区」の決定(総務省報道資料 平成23年4月8日)(2011年4月11日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  18. ^ ホワイトスペースを活用して羽田エリアワンセグサービス実証実験開始について(日本空港ビルデング ニュースリリース一覧 2011年4月20日) - ウェイバックマシン(2011年6月13日アーカイブ分)
  19. ^ 富士スプリントカップで、「ホワイトスペース特区」によるワンセグ放送(CAR Watch・2011年10月28日) - ウェイバックマシン(2013年5月23日アーカイブ分)
  20. ^ 「ホワイトスペース特区」の認定を受け、六本木ヒルズで実証実験を開始(森ビル ニュースリリース 2011年10月14日) - ウェイバックマシン(2011年10月17日アーカイブ分)
  21. ^ 放送開始!南相馬チャンネル(広報みなみそうまフォトレポ 2011年7月20日)(2013年3月1日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  22. ^ 荒川エリアワンセグ社会実験について(荒川下流河川事務所 記者発表 2011年8月22日)(2011年9月1日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  23. ^ 北仲スクール エリアワンセグプロジェクト - ウェイバックマシン(2014年12月23日アーカイブ分)
  24. ^ 平成24年総務省告示第136号による周波数割当計画改正の施行
  25. ^ 平成24年総務省告示第119号による平成2年郵政省告示第240号改正の施行
  26. ^ a b 平成24年総務省令第23号による放送法施行規則等改正附則第2項
  27. ^ 平成24年総務省告示第121号による平成16年総務省告示第860号改正
  28. ^ 平成24年総務省告示第172号による周波数割当計画改正
  29. ^ 標準規格概要(STD-B55) ARIB - 標準規格等一覧
  30. ^ 技術資料概要(TR-B35) ARIB - 標準規格等一覧
  31. ^ a b 議会とは(TVホワイトスペース利用システム運用調整協議会) - ウェイバックマシン(2015年4月5日アーカイブ分)
  32. ^ 平成23年総務省令第163号による特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則改正附則第4項の経過措置終了
  33. ^ 平成25年総務省告示第143号による平成16年総務省告示第860号改正の施行
  34. ^ 活動状況(ISDB-T/IP多目的利用研究会) - ウェイバックマシン(2023年7月10日アーカイブ分)
  35. ^ 平成26年法律第26号による電波法改正
  36. ^ 平成29年法律第27号による電波法改正
  37. ^ 令和元年法律第6号による電波法改正
  38. ^ 令和4年法律第63号による電波法改正
  39. ^ 株式会社豊多
  40. ^ エリアポータル株式会社

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

総務省

エリア放送開発委員会

エリア放送 電波技術協会

電波産業会