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イブリース

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

イブリース(アラビア語: إِبْلِيسْ、ローマ字表記: Iblīs)[1]、別名:エブリス[2]、シャイターンとも呼ばれる存在は、イスラム教における悪魔(シャイターン)の首領である。クルアーンによれば、イブリスはアダムの前にひれ伏すことを拒んだため、天界から追放された。スーフィー宇宙論において、イブリスは神の愛の内在的側面と神の怒りの超越的側面を隔てるとされる宇宙のヴェールを体現する。キリスト教のサタンとよく比較されるのは、両者ともそれぞれの宗教的叙述において天界から追放された存在であるためである。スーフィズムにおける宇宙的幻想の支配者としての役割では、仏教のマーラ概念と類似した機能を果たす[3][4]。

イスラム神学(カーラム)は、イブリスを神が地獄(ナール)で罰する属性と行為の例と見なす。イブリスの起源と本質については、二つの異なる見解がある[5][6]。一説ではイブリスは天使であり、他説では全てのジン族の祖であるとする。クルアーン注釈(タフスィール)と預言者物語(キサーサ・アル=アンビヤー)は、イブリスの起源物語をより詳細に展開している。イスラムの伝統において、イブリスはアッ=シャイターン(「悪魔」)と同一視され、しばしば「アル=ラージーム」(アラビア語: ٱلرَّجِيم、直訳「呪われし者」)という称号が伴う[7]。通常、シャイターンは誘惑者としての役割を示すためにイブリスに適用され、イブリスは彼の固有名詞である。

一部のイスラム学者たちは、シャイターンという用語を悪の勢力にのみ限定しつつ、イブリスに対してより曖昧な役割を主張している。彼らはイブリスを単なる悪魔ではなく「最も真の一神教徒」(タウヒード・イ・イブリス)と見なす。なぜなら彼は創造主のみにひざまずき、被造物にはひざまずかないからである[8][9][10]。一方、イブリスへの同情を強く否定する者もおり、それはイブリスによる欺瞞的な扇動によるものだと見なしている。ルーミーの詩作『マスナヴィー』はこの欺瞞の手法を詳細に描く:イブリスがムアウィヤを朝の礼拝に起こす場面では、当初は善意に見えたが、実は本心を隠した悪意の表れであったと明かされる。イブリスの両義的な役割はイスラム文学でも扱われている。ハフェズはイブリスを天使と見なし、天使は感情表現ができないため、イブリスは敬虔さを模倣しようとするが、情熱をもって神を崇拝することはできないと記す。ムハンマド・イクバルによれば、イブリスは人間が自己中心的な傾向を克服することを教えるために試練を与える。

イブリスはイスラム伝統において最も著名な超自然的存在の一人であり、イスラム圏内外の美術・文学・現代メディアに広く登場している。

脚注

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  1. ↑ Gardet, Louis; Wensinck, A. J. (1971). "Iblīs". In Bosworth, C. E.; van Donzel, E. J.; Heinrichs, W. P.; Lewis, B.; Pellat, Ch.; Schacht, J. (eds.). Encyclopaedia of Islam, Second Edition. Vol. 3. Leiden: Brill Publishers. doi:10.1163/1573-3912_islam_SIM_3021. ISBN 978-90-04-16121-4.
  2. ↑ Briggs, Constance Victoria (2003). The Encyclopedia of God: An A-Z Guide to Thoughts, Ideas, and Beliefs about God. Newburyport, Massachusetts: Hampton Roads. ISBN 978-1-612-83225-8.
  3. ↑ Leon, Dai (2009-06-30). Origins of the Tarot. Berkeley, Calif: Frog Books. p. 221. ISBN 978-1-58394-261-1. OCLC 233264740。
  4. ↑ Barry, Michael; Todd, Jane Marie; Smith, Michael B. (2013). "Jews, Islamic Mysticism, and the Devil". A History of Jewish-Muslim Relations: From the Origins to the Present Day. Princeton University Press. pp. 884–885. ISBN 978-0-691-15127-4. JSTOR j.ctt3fgz64.72. Retrieved 2025-03-19.
  5. ↑ Awn, Peter J. (1983). Satan's Tragedy and Redemption: Iblīs in Sufi Psychology. Numen Book Series. Vol. 44. Leiden and Boston: Brill Publishers. doi:10.1163/9789004378636_003. ISBN 978-90-04-37863-6. pp. 24-26.
  6. ↑ Mahmoud, Muhammad (1995). "The Creation Story in 'Sūrat al-Baqara,' with Special Reference to al-Ṭabarī's Material: An Analysis". Journal of Arabic Literature. 26 (1/2): 209–210. doi:10.1163/157006495X00175. JSTOR 4183374. pp. 209-210.
  7. ↑ Silverstein, Adam J. (January–March 2013). "On the Original Meaning of the Qurʾanic Term ash-Shayṭān ar-Rajīm". Journal of the American Oriental Society. 133 (1). American Oriental Society: 21–33. doi:10.7817/jameroriesoci.133.1.0021. LCCN 12032032. OCLC 47785421. p. 23.
  8. ↑ Awn, Peter J. (1983). Satan's Tragedy and Redemption: Iblīs in Sufi Psychology. Numen Book Series. Vol. 44. Leiden and Boston: Brill Publishers. doi:10.1163/9789004378636_003. ISBN 978-90-04-37863-6. p. 46.
  9. ↑ Rustom, Mohammed (September 2020). Touati, Houari (ed.). "Devil's Advocate: ʿAyn al-Quḍāt's Defence of Iblis in Context". Studia Islamica. 115 (1). Leiden and Boston: Brill Publishers: 65–100. doi:10.1163/19585705-12341408. S2CID 226540873. p. 65.
  10. ↑ Campanini, Massimo (2013). The Qur'an: The Basics. Abingdon, England: Routledge. ISBN 978-1-1386-6630-6. p. 47.

関連項目

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