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アドーニス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ピーテル・パウル・ルーベンスの1635年の絵画『ヴィーナスとアドニス』。メトロポリタン美術館所蔵。

アドーニス古希: Ἄδωνις, ラテン文字表記:Adōnis)は、ギリシア神話に登場する、美と愛の女神アプロディーテーに愛された美少年。ポイニーケーの王キニュラースとその王女であるミュラーの息子[1]

長母音を省略してアドニスとも表記される[1][2]。彼の名は、美しい男性の代名詞としてしばしば用いられる[3]

解説

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神話の舞台となる場所がギリシア以外であり、元来は非ギリシア系の神話の人物である[1]。元々アドーニスという名はセム語で「主」を意味するアドーン (Adon) が語源であり、本来はバビュローニアータンムーズ神と同じ神で農耕神だった[4]ビュブロスパポスにおいて信仰されていた[2][5]。アドーニスは収穫の秋に死んで、また春に甦って来る。アプロディーテーが冥府の女王ペルセポネーとアドーニスを頒つのは、植物の栄える春夏と、枯れて死ぬ冬との区別である[6]

神話

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ティツィアーノ・ヴェチェッリオの1554年の絵画『ヴィーナスとアドニス』。プラド美術館所蔵。

キニュラースはパポスにおけるアプロディーテー・アスタルテー崇拝の創建者であった[7]。しかし、王女ミュラーはアプロディーテーへの祭を怠ったため女神はミュラーが実の父であるキニュラースに恋するように仕向けた[8]。父親を愛してしまったミュラーは、乳母の仲介で別の女を装い父と12夜にわたって床を共にした[8]。しかし、その後、父に娘だと知られてしまい、怒った父は彼女を殺そうとしたが、神々に祈ってミュラーは没薬(スミュルナー)の木に変身した[8]

やがて、月満ちてその木の幹からアドーニスが生まれた[8]。そして、そのアドーニスがとても可愛かったためアプロディーテーは赤ん坊のアドーニスを箱の中に入れると、神々に秘して冥府の王ハーデースの妻で、冥府の女王のペルセポネーの所に預けた[8]。しかし、ペルセポネーは密かに箱の中を覗き見てしまった[8]。すると、その中には美しい赤ん坊のアドーニスが入れられていて、彼を見たペルセポネーもアドーニスを自分のものにしたくなった[8]。そのためアプロディーテーが迎えにやって来てもペルセポネーはアドーニスを渡そうとしなかった[8]。2柱の女神は争いになり、ゼウス(あるいはゼウスに命じられたカリオペー[4])の審判により、1年の3分の1はアドーニスはアプロディーテーと過ごし、3分の1はペルセポネーと過ごし、残りの3分の1はアドーニス自身の自由にさせるということとなった[8]。しかし、アドーニスは自分の自由になる期間も、アプロディーテーと共に過ごすことを望んだ[8][9]

その後、アドーニスは狩りの際にアルテミスないしアレース(またはヘーパイストスないしアポローン)の怒りに触れてに突かれて死んだとされる[4]

やがてアドーニスの流した血から、アネモーネーの花が咲き、彼の死を悼むアプロディーテーの涙からは薔薇が生まれたとされる[10][4]。また、女神の願いによりアドーニスは毎年4ヶ月間地上に蘇ることをゼウスに許されたともいわれる[11]

脚注

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  1. 1 2 3 『神の文化史事典』41頁(「アドニス」の項)。
  2. 1 2 『図説ギリシア・ローマ神話文化事典』14頁(「アドニス」の項)。
  3. 『図説ギリシア・ローマ神話文化事典』15頁(「アドニス」の項)。
  4. 1 2 3 4 『ギリシア・ローマ神話辞典』21頁。
  5. 『世界神話辞典』27頁(「アドーニス」の項)。
  6. 呉茂一『ギリシア神話』212頁。
  7. 『ギリシア・ローマ神話辞典』106頁。
  8. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 呉茂一『ギリシア神話』206,207頁。
  9. アポロドーロス、3巻14・4
  10. オウィディウス『変身物語』10巻708行-739行
  11. 『西洋古典学事典』86頁。

参考文献

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  • 松村一男、平藤喜久子、山田仁史編 編『神の文化史事典』白水社、2013年2月。ISBN 978-4-560-08265-2 
  • 『図説ギリシア・ローマ神話文化事典』マルタン, ルネ監修、松村一男訳、原書房、1997年7月。ISBN 978-4-562-02963-1 
  • コッテル, アーサー『世界神話辞典』左近司祥子宮元啓一、瀬戸井厚子、伊藤克巳、山口拓夢、左近司彩子訳、柏書房、1993年9月。ISBN 978-4-7601-0922-7 
  • 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店、1960年 ISBN 4-00-080013-2
  • 呉茂一『ギリシア神話』新潮社、1994年
  • 松原國師『西洋古典学事典』京都大学学術出版会、2010年
  • アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫 1953年
  • オウィディウス変身物語(上・下)』中村善也訳、岩波文庫 1981年・1984年

関連項目

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