アッラーフ
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アッラーフ (الله、الله、Allāh) あるいはアッラー、アラーは、イブラーヒームの宗教[注釈 1]の唯一神ヤハウェに対するアラビア語呼称のひとつ。
尚、現代日本ではアッラーフ表記は稀となっており[注釈 2]、本項では便宜上アッラー表記で統一する。
イスラーム教におけるアッラー[編集]


アッラーがクルアーンを授けたとされるムハンマド・イブン=アブドゥッラー(以下「ムハンマド」)は、神(アッラー)より派遣された大天使ジブリールから神(アッラー)の受託をアラビア語で語った使徒であり、最後にして最大の預言者とされる。ムハンマドは飽くまで神(アッラー)から被造物である人類のために人類のなかから選ばれた存在に過ぎない。そもそもアッラー(神)自体が「生みもせず、生まれもしない」、つまり時間と空間を超越した絶対固有であるため、キリスト教神学におけるイエス・キリスト像のように、ムハンマドを「神(アッラー)の子」と見なすような信仰的・神学的位置付けもされていない。
「 | 言え、「かれは神、唯一の御方であられる。神(アッラー)は自存され、御産みなさらないし、御生まれになられたのではない、かれに比べ得る何もない。[注釈 3]」 | 」 |
—『クルアーン』第112章1-4節 |
全知全能唯一絶対であり、すべてを超越する。「目無くして見、耳無くして聞き、口無くして語る」とされる(精神だけの)存在であるため、あらゆる時にあらゆる場にあり得て(遍在)、絵画や彫像に表すことはできない。イスラーム教がイメージを用いた礼拝を、偶像崇拝として完全否定しているのも、このためである(バーミヤン仏教遺跡爆破事件)。世界のどこにいても、聖地メッカの方角を向いてその場で礼拝する定めになっている。
イスラームの教えは先行するユダヤ教・キリスト教を確証するものであるとされるため、アッラーはユダヤ教・キリスト教のヤハウェと同じであるとされる[1]。一方でユダヤ教、キリスト教はこれを認めていない。神(アッラー)は六日間で天地創造しており、また最後の日には全人類を死者までも復活させ、最後の審判を行う「終末」を司る。
なお、一切を超越した全能の神(アッラー)が休息などするはずがない[Quran 2:255]、という観点から、創造の六日間の後に神が休息に就いたことを否定するなど違いはある。これはイスラームがユダヤ教やキリスト教を同じ「啓典の宗教」として尊重しながらも、それらの教えに人為的改変あり、と見なしてきたことの顕著な例でもある。クルアーンが現在の形になったのはムハンマドの死後であるが、イスラム教徒は神(アッラー)が遣わせた大天使ジブリールからムハンマドに言わせた言葉が現在のクルアーンに、完全に再現されていると考えている。
アラビア語ならびに他宗教におけるアッラー[編集]

元来、アラビア語でアッラーは英語でいうGodである。そのため、現在ではアブラハムの一神教といわれるユダヤ教、キリスト教、イスラム教の共通の唯一絶対神を指す。ちなみにアラブ地域の聖書ではヤハウェを「アッラー」と表記している。例えば、東方正教会のアンティオキア総主教庁、アッシリア東方教会(ネストリウス派)、シリア正教会 (非カルケドン派)などでは、創造主を「アッラー」と訳している。しかしながらマレーシアではイスラム教徒以外が用いることが制限されており、同国でカトリック系新聞『ヘラルド』が掲載した際には、政府から使用禁止が命じられた[注釈 4]。この使用禁止命令は、一時はマレーシアの高等裁判所により取り消され、使用を認める判決が下されたが、2013年10月14日、マレーシアの上訴裁判所は高裁判決を破棄して、イスラム教徒でない人々が神を表す言葉として「アッラー」を使うことを禁じる判決を下した[2]。その後、2021年3月10日、新たな判決により、イスラム教以外の宗教が神の呼び名としてアッラーを使用することが認められた[3]。
また、前述のとおりアッラーはアラビア語で特定の神を指し示す言葉であることから、イスラーム発祥当時のアラビア語を母語とするユダヤ教徒・キリスト教徒も唯一神であるヤハウェをさしてアッラーと呼んでいた[4]。ムハンマドに啓示が下された後、イスラームにおいても万物を創造し、かつ滅ぼすことのできる造物主こそが唯一とされ、その超越性が強調されるようになった。
ただし、考古学的見地では[誰?]、ヤハウェとイスラーム教の唯一神アッラーは別の起源であり、イスラム教の唯一神アッラーは、630年以前は、カアバ神殿に祭祀されていた最高神の呼称である。イスラム教でいうジャーヒリーヤ(無明時代)に、カアバ神殿に祭祀されていた360の神々の最高神がアッラーとされていた。アッラーの下には、アッラート、マナート、アル・ウッザーの3女神が付き従っていたという。これらの女神はアラブの部族神であり広く信仰されていたが、クルアーンにおいて否定された。月からの隕石とされていたカアバの黒石は、アッラートの御神体とされていた。もちろん、偶像崇拝を禁じるイスラム教では、信仰及び崇拝の対象になってはいないが、ハッジ(メッカへの巡礼)においてこの石に触れることができれば大変な幸運がもたらされるとされている[注釈 5]。
語源[編集]
アッラーフ (الله, Allāh) は、「神」を意味するイラーフ (إله, ilāh) に定冠詞アル (ال, al) がついたアル・イラーフ (الإله) の短縮形[5]、あるいはなまったものである[6]。ユダヤ教では神をエロヒム、エルと呼ぶが、これらの発音が互いに似ているのはアラム語、ヘブライ語、アラビア語などが同じアフロ・アジア語族のセム語派だからである。
エピソード[編集]
日本語でのカタカナ表記としては、アラー、アッラーともに併存しており、前述の通りアッラーフと表記されることは稀である。 入力時は "ا ل ل ه"と入力することで、"الله"を表示することができる。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ クルアーン第4章163-164節、クルアーン第46章12節
- ^ “イスラム教徒以外の「アッラー」使用禁じる マレーシア上訴裁”. 産経新聞. (2013年10月15日) 2013年10月16日閲覧。
- ^ https://www.reuters.com/article/us-malaysia-allah-court-idUSKBN2B214U
- ^ 井筒俊彦『イスラーム生誕』中央公論社〈中公文庫〉、1990年、208頁
- ^ ハミルトン・A・R・ギブ『イスラム入門』加賀谷寛訳、講談社学術文庫、2002年、86頁。ISBN 4061595571。
- ^ 竹下政孝「アッラー」『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館、コトバンク