フンババ

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フンババアッカド語:Humbaba、シュメール語:Huwawa フワワ)は、メソポタミア神話の『ギルガメシュ叙事詩』に登場する怪物である。太陽神ウトゥにより育てられた巨人 (伝説の生物)[1]、「恐怖」とあだ名される。フンババはエンリルによって神々の住まうレバノン杉の森の番人を任されていた。すなわち「エンリルはフンババに人間たちにとっての恐怖としての役割を与えた」。

風貌[編集]

フンババの顔はライオンである。その他以下のように描写されている。「彼が誰かに目を向けたとき、それは死を意味する」[2]、「フンババの咆哮は洪水であり、彼の口は死を意味し、吐息はまさに火炎である! 何者かが森に踏み入ったとすれば、彼は100リーグ離れた場所からどんな森のざわめきも聞き分ける![3]」。残っている彫像の多くでは、彼の顔はちょうど動物の腸のように一本の管をぐにゃぐにゃと丸めたような形で表現され、見るものに不吉な印象を与える[4]

ゲオルク・ブルクハルト(Georg Burckhardt)の訳ではギルガメッシュはフンババを「ライオンの前足をもち、体はとげのようなうろこで覆われ、後ろ足にはハゲタカの爪を持ち、頭には野牛の角が生えている。さらには尾と男根の先端が蛇になっている」と描写している。

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フンババはギルガメシュ叙事詩の粘土板2にて初めて言及される。ギルガメシュエンキドゥが初めての戦いの後に親友になると、フンババを殺すためにレバノン杉の森を目指して出発し、7つの山脈を越える。ギルガメシュはエンキドゥに語っている。「人が死を免れない存在であるというのならば、私は名声を得るために山々へと入りたい」[2]。いざフンババと対峙したギルガメシュは妹たち差し出すからという提案でフンババをだまして、彼の7つの「輝き」を脱ぎ捨てさせる。フンババが油断したところを見計らい、ギルガメシュはフンババをぶん殴り、その怪物を捕らえた。フンババはギルガメシュに慈悲を請う。しかしエンキドゥはフンババを殺すようにとギルガメシュを説得する。最後の足掻きとフンババが逃亡を試みるが、エンキドゥによって、あるいはバリエーションによっては2人によってフンババの首が切り落とされた。彼の首は皮の袋に入れられ、フンババを森の番人に任命したエンリルに届けられた。エンリルは憤慨し、フンババの7つの「輝き」を各所に分配した。「彼は1つ目の輝きを草原に与えた。彼は2つ目の輝きを川に与えた。彼は3つ目の輝きを葦原に与えた。彼は4つ目の輝きをライオンたちに与えた。彼は5つ目の輝きを宮殿に与えた(債務奴隷とする版もある)。6番目の輝きを森へ与えた(丘とする版もある)。7つ目の輝きをヌンガル(Nungal、冥界の女神)へ与えた」[5]。エンリルは彼らに直接復讐するようなことはしなかったが、次のように非難している。「本当ならフンババは今だってお前たちの食べるパンを食べているはずだったのだ。お前たちの飲んでいる水をのんでいるはずだったのだ! 本当なら彼は讃えられているはずだったのだ」。

フンババの「輝き(またはオーラ、恐怖)」を脱ぎ捨てさせるためにギルガメシュは次に挙げるものをフンババに提案している[6]

  1. 彼の姉妹、マトゥル(Ma-tur)
  2. (文献の欠落)
  3. エチャの粉(eca-flour、神々の食べ物)
  4. 大きな靴
  5. 小さな靴
  6. 半貴石
  7. 枝の束

こうしてギルガメシュが森の番人の気をひき、だましている間に、彼が連れてきた15名の未婚の男たちが木を切っては枝を払い、ふもとに積み上げて運び去る準備をしていた。そのためこの冒険はそれ自体に木材の強奪、すなわち木材資源の乏しいメソポタミアへと木材を持ち帰る目的があったことが判明する。

ギルガメシュはその後、自らの死を意識するようになると、じょじょに罪悪感に苛まれるようになる。神々はことあるごとにギルガメシュに彼のしたことを、すなわち「特別な木を盗んだこと、フンババを殺したこと」を思い出させた[7]

切断されたフンババの頭部は美術表現に用いられていた。じっと見据える目ともじゃもじゃのひげと髪の毛は邪気祓いとしての役割を担っていた。この切断されたフンババの頭部という表現はバビロン第1王朝からネオ・アッシリアまで継続して見られ、そしてアケメネス朝の支配とともに衰退していった。この表現はギリシアのペルセウスの物語の中に類似性を見つけることができる[8]。この場合メドゥーサの頭部が同じ役割を果たしており、神話の中でペルセウスはやはりメドゥーサの頭部を皮の袋に入れている[9]。同様に魔よけの意味を持っていた古代ギリシアのゴルゴネイオンはひげを蓄えており、ゴルゴーンが女性であることを考えると不自然である。ジュディス・マッケンジー(Judith McKenzie)はナバテア王国ペトラフリーズ (建築)にフンババを見つけたと主張している[10]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ "Utu, I never knew a mother who bore me, nor a father who brought me up! I was born in the mountains—you brought me up!" (Gilgamesh and Huwawa, version A), or "The mother who bore me was in a cave in the mountains. The father who engendered me was a cave in the hills. Utu left me to live all alone in the mountains!" (Gilgamesh and Huwawa, version B)
  2. ^ a b Gilgamesh and Huwawa, version A
  3. ^ Epic of Gilgamesh, Tablet II.
  4. ^ Stephanie Dalley, Myths From Mesopotamia, (Oxford University Press) 1989; S. Smith, "The face of Huwawa," Journal of the Royal Asiatic Society 26 (1926:440–42).
  5. ^ Nungal, the goddess of prisoners.
  6. ^ [1](lines 140–150)
  7. ^ "The death of Gilgamesh" Segment F from Me-Turan
  8. ^ Noted at an early date by Clark Hopkins, "Assyrian elements in the Perseus–Gorgon story," American Journal of Archaeology 38 (1934:341-ff).
  9. ^ Judith McKenzie, A.T. Reyes and A. Schmidt-Colinet, "Faces in the rock at Petra and Medain Saleh," Palestine Exploration Quarterly 130 (1998) 37, 39 with references. Not all decapitation scenes are identifiable as Gilgamesh and Humbaba: in 1928 C. Opfer claimed to find only one (Opfer, "Der Tod des Humbaba," Altorientalische Forschungen 5 (1928:207ff).
  10. ^ Judith S. McKenzie, "Keys from Egypt and the East: Observations on Nabataean Culture in the Light of Recent Discoveries" Bulletin of the American Schools of Oriental Research, No. 324, Nabataean Petra (November 2001:97–112) especially p 107f.

参考文献[編集]