アクシオン

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アクシオン
組成 素粒子
相互作用 電磁相互作用
重力相互作用
発見 未発見
電荷 0
スピン 0
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アクシオン英語: Axion)、あるいはアキシオンとは、素粒子物理学において、標準模型の未解決問題のひとつである強いCP問題を解決する仮説上で、その存在が期待されている未発見の素粒子である。冷たい暗黒物質の候補の一つでもある。

概要[編集]

標準模型にはCP対称性を破る位相パラメーターが2つ存在する。1つはCKM行列の位相であり、もうひとつは量子色力学の位相である。CKM行列の位相はベル実験を始めとするB中間子崩壊の精密測定によって測られており、CKM行列はCP対称性を大きく破っていることが知られている。一方、量子色力学におけるCP対称性の破れ中性子電気双極子などを通して観測できるが、量子色力学では極めて高い精度でCP対称性が成立していることが分かってきた。この両者の違いは標準模型の破綻を必ずしも意味しないが、何らかの説明を必要とする不自然なものであると考えられた。この問題は強いCP問題と呼ばれている。

アクシオンは強いCP問題の解決策の1つとして提唱された未発見の粒子である[1]。アクシオンはペッチェイ・クイン対称性英語版自発的対称性の破れに伴って出現する(擬)南部・ゴールドストーン粒子である。ペッチェイ・クイン対称性は量子色力学に対してアノマリーを持ち、この性質によりアクシオンは量子色力学の位相を動的に吸収することが可能となっている。

呼称[編集]

エネルギー量により呼称が変わる[2]

〜 100 keV : 標準アクシオン(実験で否定)
〜 meV : 太陽アクシオン
〜 µeV : 宇宙アクシオン

想定される性質[編集]

様々な実験や観測を考慮した結果、アクシオンの質量電子の約1億分の1以下という非常に微小なものだと考えられている。

光子と非常に弱いながらもお互いに反応するため[3]、見つけようとする場合には、光子との反応を使ったものとなっている[4]。特に、磁場とアクシオンの反応によって光子を作る逆プリマコフ変換を利用した実験は数多くある[4]

そして、アクシオンは、原子核を一つにまとめる「強い力」に必要とされる[5]

また、一部の科学者たちは同じような種類の似たような粒子がいくつか存在し、変換のしやすさは粒子によって異なるのではないかと提言している[3]

観測実験[編集]

様々な理論により観測が試みられている[2][6]

代表的な検出原理[2]

  1. プリマコフ効果でアクシオンを光子に転換
  2. 光子を検出
    • X線領域 : 太陽アクシオン - 半導体検出器による検出
    • マイクロ波領域 : 暗黒物質アクシオン - CARRACK , ADMX[7]

アクシオンは強い磁場の中でに変わると予測されており、この性質を利用した検出が世界各国で試みられている。たとえば東京大学のグループは、太陽から飛来するアクシオンを強磁場を印加してX線に変換し検出する試みを行っている。暗黒物質の候補にもあげられているため、京都グループはリドベルグ原子を用いて検出する独自の着想により探索を続けている。アメリカのグループは、超伝導磁石を用いた強磁場の元で暗黒物質のアクシオンが電磁波に変換して検出を試みる最先端にいる。最近では素粒子実験物理学のメッカであるヨーロッパのCERNにおいても、太陽から飛来するアクシオンを大変高い感度で検出を試みる実験が進められている。

観測機器[編集]

望遠鏡
太陽中心では原子核や電子と黒体放射光子の相互作用により、平均エネルギー 4KeV のアクシオンが作られている可能性がある。このアクシオンを直接観測するため太陽アクシオン望遠鏡(東京アクシオンヘリオスコープ)が作られ観測が行われている[8]。この望遠鏡は、磁場中でアクシオンをX線に変換することにより観測を試みている[8][9]
CARRACK
強磁場中に置かれた共振空胴内で光子に転換したアクシオンをリュードベリ原子[10][11]に吸収させる。そしてこの原子のみをイオン化しその電子を計数する方式[12][6]

観測成果[編集]

2019年、京都大学東北大学の研究グループは、原始惑星系円盤の観測によるアクシオンの探査法とその研究結果について発表した[13][14][15]。原始惑星系円盤は同心円状の偏光パターンを持っており、アクシオンが存在すれば偏光パターンに渦巻き状の乱れが生じるとされる[13][14]。研究グループはすばる望遠鏡の取得した原始惑星系円盤の観測データを用いて分析を試みたが、偏光パターンの乱れは見つからなかった。この研究により、アクシオンが光に与える影響度合いを示す「結合定数」の上限値を、これまでの研究の10分の1以下に小さく更新することに成功した[13]

2020年6月、イタリアのグランサッソ国立研究所で実施されているXENON1T実験において、「予想外の過剰な事象」が検出され、この原因としてアクシオンが関与している可能性が発表された[16][17]。ただし、同じエネルギースペクトルにはトリチウムの崩壊によって生じる電子があるほか、ニュートリノが関与している可能性も排除されていない。

観測の精度は過去最高の99.98%に達したが、素粒子物理学の世界で発見と認められるには、99・9999%が必要とされる[18]。そのため、今後さらに大規模で高感度なXENONnT実験によって真因が明らかになることが期待されている。

暗黒物質の候補でもあるが、2020年6月に3σで検出されたアクシオンは暗黒物質とは直接関係しない別のタイプのものとなる[18][17]

脚注[編集]

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出典[編集]

  1. ^ 理学系研究科・理学部ニュース 36巻 2号 2004年7月 東京大学 大学院理学系研究科・理学部 (PDF) , 蓑輪眞「研究ニュース : 望遠鏡ものがたり4」『東京大学理学系研究科・理学部ニュース』第36巻第2号、東京大学大学院理学系研究科・理学部、2004年7月、 20-21頁、 NAID 120001507202
  2. ^ a b c 時安敦史, 「アクシオン探索実験 ~CARRACK実験~ 2017.1.28 (PDF)
  3. ^ a b 未知の素粒子アクシオンは見つかるのか?チャンドラを使った「万物の理論」についての検証(sorae 宇宙へのポータルサイト)” (日本語). Yahoo!ニュース. 2020年6月18日閲覧。
  4. ^ a b axionのお話” (日本語). HiggsTan. 2020年6月18日閲覧。
  5. ^ 未発見の素粒子、手掛かりか=暗黒物質検出実験で―東大など” (日本語). gooニュース. 2020年6月18日閲覧。
  6. ^ a b 小川泉, 「ダークマターアクシオン探索実験CARRACK (PDF)
  7. ^ ダークマターの正体かもしれない謎の粒子「アクシオン」を検出する最新機器の開発に成功 GIGAZINE 2018年04月14日
  8. ^ a b 秋本祐希, 蓑輪眞, 「太陽アクシオンの探索(最近の研究から)」『日本物理学会誌』 65巻 1号 2010年 p.25-29, doi:10.11316/butsuri.65.1_25
  9. ^ 森山茂栄, 「強磁場を用いた太陽アクシオン探索実験(素粒子物理学の新展開,研究会報告)」『素粒子論研究』 98巻 4号 1998年 p.D59-D61, doi:10.24532/soken.98.4_D59
  10. ^ 山本克治, 「[http://www.nucleng.kyoto-u.ac.jp/Groups/Gr4/Gr4-1/reports/qsec-s-20021021.pdf リュードベリ原子を用いた共振空洞での単一光子検出とダークマターアクシオン探索への応用 (PDF) 」 京都大学
  11. ^ 今月のキーワード 2010年 physical science magazine 物理の雑誌「パリティ」
  12. ^ 野代翔平, 高橋成企, 鷲野将臣, 小川泉, 時安敦史, 松原明, 今井憲一, 澤田安樹, 松木征史, 「28aSJ-12 ダークマターアクシオン探索実験CARRACK : バンチ化リドベルグ原子ビームの開発(2)」『日本物理学会講演概要集』 2015年 70.2巻 セッションID:28aSJ-12, p.333-, doi:10.11316/jpsgaiyo.70.2.0_333
  13. ^ a b c “暗黒物質の正体に迫る新しい探査法を提唱 -原始惑星系円盤の偏光パターンからアクシオンを探索-” (プレスリリース), 京都大学, (2019年6月6日), http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2019/190514_2.html 
  14. ^ a b “惑星形成の現場を見れば暗黒物質の正体に迫れる 暗黒物質の新しい探査法を提唱” (プレスリリース), 東北大学, (2019年6月4日), https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2019/06/press-20190603-axion.html 
  15. ^ Fujita, Tomohiro; Tazaki, Ryo; Toma, Kenji (2019). “Hunting Axion Dark Matter with Protoplanetary Disk Polarimetry”. Physical Review Letters 122 (19). doi:10.1103/PhysRevLett.122.191101. ISSN 0031-9007. 
  16. ^ “暗黒物質直接探索実験 XENON1T が電子散乱事象の超過を観測”. 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構. (2020年6月17日). https://www.ipmu.jp/ja/20200617-XENON1T-ExcessEvents 2020年6月18日閲覧。 
  17. ^ a b 未発見の素粒子に手掛かりか|ニフティニュース” (日本語). ニフティニュース. 2020年6月18日閲覧。
  18. ^ a b 未知の素粒子「アクシオン」の兆候か 東大など国際チームが観測(産経新聞)” (日本語). Yahoo!ニュース. 2020年6月18日閲覧。

外部リンク[編集]