暗黒物質

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現代宇宙論
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ビッグバンブラックホール
宇宙の年齢
宇宙の年表
暗黒物質に囲まれた地球の想像図

暗黒物質(あんこくぶっしつ、: dark matterダークマター)とは、天文学的現象を説明するために考えだされた「質量は持つが、光学的に直接観測できない」とされる、仮説上の物質である。"銀河系内に遍く存在する"、"物質とはほとんど相互作用しない"などといった想定がされており、間接的にその存在を示唆する観測事実は増えているものの、その正体は未だ不明である。

概要[編集]

アンリ・ポアンカレは1902年、著書「科学と方法」で銀河に気体分子運動論を適用した結果が光る星のみを望遠鏡で観測した結果とおおよそ合致していることから、「暗黒なる物質はない、少なくとも光る物質程にはない」[1]と記した。1933年にフリッツ・ツビッキー銀河団中の銀河の軌道速度における"欠損質量" (missing mass ミッシングマス) を説明するために仮定した[2][3]。彼は、ビリアル定理かみのけ座銀河団に適用し、未観測の質量証拠を得た(と考えた)。ツビッキーは、銀河団の全質量をその周縁の銀河の運動に基づいて推定し、その結果を銀河の数および銀河団の全輝度に基づいて推定されたものと比較した。そして、彼は光学的に観測できるよりも400倍もの推定される質量が存在する、と判断した。銀河団中の可視的な銀河の重力はそのように高速な軌道に対して小さすぎるので、何らかの外部要因が必要であった。これは「質量欠損問題 (missing mass problem)」として知られている。これらの結論に基づき、ツビッキーは銀河団を互いに引き寄せる十分な質量や重力を及ぼす目に見えない物質が存在するはずであると推測した。

その後、宇宙の暗黒物質の存在を示唆する観測が報告されている。銀河の回転速度弾丸銀河団のような銀河団による背景物体の重力レンズ効果、そして銀河および銀河団を取り巻く熱い気体の温度分布などの観測結果である。暗黒物質の存在の「間接的な発見」は、1970年代にヴェラ・ルービンによる銀河の回転速度の観測から指摘された[4]水素原子の出す21cm輝線で銀河外縁を観測したところ、ドップラー効果により星間ガスの回転速度を見積もることができた。彼女はこの結果と遠心力・重力の釣り合いの式を用いて質量を計算できる、と考えた。すると光学的に観測できる物質の約10倍もの物質が存在するという結果が出た。この銀河の輝度分布と力学的質量分布の不一致は銀河の回転曲線問題と呼ばれている。この問題を通じて存在が明らかになった、光を出さずに質量のみを持つ未知の物質が暗黒物質と名付けられることとなった。

暗黒物質が存在する場合、その質量によりが曲げられ、背後にある銀河などの形が歪んで見える重力レンズ効果が起こる。銀河の形の歪みから重力レンズ効果の度合いを調べ、そこから暗黒物質の3次元的空間分布を測定することに日米欧の国際研究チームが初めて成功したことが2007年1月に科学誌『ネイチャー』に発表された[5]。同年5月15日アメリカ航空宇宙局の発表によれば、米ジョンズ・ホプキンズ大学の研究チームがこれを利用して、ハッブル宇宙望遠鏡で暗黒物質の巨大なリング構造を確認したという。同研究チームは、10億〜20億年前に2つの銀河団が衝突した痕跡で直径が約260万光年、衝突によりいったん中心部に集まった暗黒物質がその後徐々に環状に広がっていったもの、とした。

2013年4月3日、欧州合同原子核研究機関において、サミュエル・ティンマサチューセッツ工科大学教授)らの研究グループが「暗黒物質が実際に存在する可能性を示す痕跡を発見した」と発表した。国際宇宙ステーション (ISS) に取り付けたアルファ磁気分光器を使い、陽電子を観測した。暗黒物質がニュートラリーノであると仮定すると、互いに衝突して消滅する際に陽電子が飛び出すと考えられている。

宇宙に占める暗黒物質の割合の推定[編集]

1986年宇宙の大規模構造が発見された。このような構造を形成するための宇宙の物質の総量が見積もられたが、予想よりも質量が少ないため構造の成長には、ハッブル則から導かれる宇宙の年齢(ハッブル時間):100億 - 200億年[注釈 1] よりも、さらに長い時間を要すると計算された (missing mass problem)。この少なすぎる質量を補うものとして、それまでにいくつかの研究で提案されていた暗黒物質(: dark matter ダークマター)の存在が仮定された。この仮定は、いくつかのシミュレーションによってもハッブル則の範囲内で現在のような銀河集団の泡構造が出来上がることを支持している(例として[6]など。)。

その後、宇宙の加速膨張が発見され、さらにインフレーション理論の説明のためダークエネルギーの概念が導入された。宇宙背景放射を観測するWMAP衛星の観測に基づいて、宇宙全体の物質エネルギーのうち、74%が暗黒エネルギー、22%が暗黒物質で、人類が見知ることが出来る物質の大半を占めていると思われる水素ヘリウムは4%ぐらいでしかない、と説明されるようになってきている。この観測結果は、宇宙の大規模構造のシミュレーションから予測されているダークマターの値と、ほぼ一致している。このように2つの方法から推測したダークマターの量がほぼ合うということから、この考えに妥当性がある、と考えられている。2013年3月、欧州宇宙機関プランクの観測結果に基づいて、ダークマターは26.8%、ダークエネルギーは68.3%、原子は4.9%と発表した[7]

暗黒物質の候補[編集]

暗黒物質とは具体的に何で構成されるのかについては現状不明であるが、後述のように複数の候補が挙がっており、大別して素粒子論からの候補と天体物理学からの候補に分けることができる。また、熱い暗黒物質冷たい暗黒物質の2種類に分けることもある。

素粒子論からの候補はWIMPと呼ばれ、天体物理学からの候補はMACHOと呼ばれる。また、宇宙の晴れ上がりの時に、その暗黒物質の運動エネルギーが質量エネルギーを上回っていた場合は熱い暗黒物質、そうではないものを冷たい暗黒物質と呼ぶ。2010年代時点では冷たい暗黒物質シナリオが有力視されている[8]が、その候補粒子は未だ検出されていない。

素粒子論からの候補[編集]

ニュートリノ以外は、存在が未確認であり、推測や予言の域を出ず、実在しない可能性を持つ候補もある。

ニュートリノ
熱い暗黒物質の代表例。従来ニュートリノの質量は0であると思われていたが、1996年から1998年にかけての東大宇宙線研究所による観測によって質量を持っている事が証明された。ニュートリノは宇宙全体に存在する数が非常に多い(計算では〜100個/cm3)ので、質量が10eV程度あれば暗黒物質の候補になるとされていた。しかしながら、ニュートリノの寄与は臨界密度の高々1.5%程度であることが分かってきたので、現在では主要な暗黒物質であるとは考えられていない。さらに、ニュートリノが暗黒物質の主成分だとすると銀河形成論的に困ったことがおこる。銀河団以下のスケールの構造が生まれなくなってしまうのである (free streaming mixing)。これは、ニュートリノ同士の相互作用がほとんど無く互いに通り過ぎてしまい、圧力が生じないことによる。従って、ニュートリノ説は否定された[9]
ニュートラリーノ
超対称性粒子のうち、電気的に中性である粒子。超対称性粒子は現在見つかっていないことから不安定であると考えられており、宇宙の初期にほとんどが通常の素粒子と、より軽い超対称性粒子に崩壊していったと考えられている。しかし、超対称性粒子に特有のRパリティ保存則により、最も軽い超対称性粒子 (Lightest Supersymmetric Particle: LSP) は崩壊できず宇宙に残っていると考えられている。電荷を持つLSPがあるならば既に見つかっているであろうから、現在考えられている宇宙暗黒物質としてのLSPは電荷を持たないLSPである。ニュートラリーノの質量は数GeV〜数百GeVの範囲で原子核との散乱断面積は10-4以下と考えられている。
アキシオン
冷たい暗黒物質の代表例。強い相互作用を記述する量子色力学に関連してその存在が期待されている仮説上の素粒子。その質量は と想定される[9]
ミラーマター
パリティ対称性を保つように標準模型を拡張したとき、その存在が予言される物質。重力の他は、光子-ミラー光子混合、ヒッグス-ミラーヒッグス混合を経由した相互作用しかしないため、もし存在したとしても、見ることも触ることも(どちらも光子を媒介とした電磁気力による相互作用である)不可能。重力レンズ効果の観測や、重力波干渉計などを用いた観測が期待される。
LKP
Lightest KK Particleの略。特定の高次元模型では標準模型と同じ電荷を持ち質量のみが異なるKK粒子の内最も軽いものが、余剰次元方向に対する運動量保存則により安定となる。LKPが中性だった場合暗黒物質の候補となるが、その質量は余剰次元の直接検証等から最低でも600GeV程度以上となり非常に冷たい暗黒物質となる。

天体物理学からの候補[編集]

いずれもバリオンからなる。ビッグバン仮説においては、バリオンの存在量が予言できる。その値は、臨界密度の4%程度である。ところが、実際の宇宙の物質密度は臨界密度の22%程度であると見積もられている。したがって、以下の候補を全て考慮に入れたとしても元々のバリオンの量が足りない。そのため、非バリオン暗黒物質の存在を仮定する必要があることに変わりはない[10]

ブラックホール
恒星質量ブラックホールは、超新星爆発のときに生成される。質量が太陽の数百万倍から数十億倍もあるような超大質量ブラックホールは銀河中心で観測されているが、まだ成因はよく分かっていない。恒星質量ブラックホールが銀河系内にいくつくらい存在するのか、その質量分布がどのような物か、等も未だ明らかではないため、これは暗黒物質の候補となる。また、原子核大のマイクロブラックホールも多量に存在しているかも知れない。さらに、宇宙誕生後3分頃に生成されたブラックホールについては、上記のバリオン存在量の制限から逃れることができる。だが、ブラックホールの質量はダークマターに匹敵するものではないため、可能性は低いとされている。
白色矮星中性子星
比較的小質量の恒星が燃え尽きると白色矮星・中性子星になる。こうした星が自分で出す光が小さい場合、暗黒物質の候補となりうる。
褐色矮星
恒星誕生の際、核融合が起こるほどのガス質量がなかった場合、明るく輝かないために観測は困難となる。近年、観測精度の向上によって褐色矮星が観測されるようになった。
惑星
観測できる多数の恒星がそれぞれ観測できない惑星を持っている可能性があり、これが暗黒物質の候補になる。
MACHO
Massive Astrophysical Compact Halo Objectの略。銀河ハロー内に存在する、小さくて光学的に観測の不可能(あるいはきわめて困難)な天体の総称。上記の白色矮星、恒星ブラックホールもその一種である。

「暗黒物質」という考え方への反論[編集]

プラズマ宇宙論を用いると、直接観測できない正体不明のダークマターの存在を無理に仮定しなくても、銀河の回転曲線問題などを綺麗に説明できる。またこの理論はビッグバンの存在を否定する。しかし宇宙マイクロ波背景放射に関する観測事実を上手く説明できないことや、ビッグバン仮説を裏付ける多くの観測事実が存在するため、現在ではあまり議論の俎上に登らない理論である[注釈 2]

探索の歴史[編集]

いくつかの方法で探索が行われている。

  1. 加速器実験:大型ハドロン衝突型加速器などの加速器により人工的に暗黒物質を生成。暗黒物質は大きなエネルギーを持ち去るので、Missing energy を検出する[13]
  2. 間接実験:暗黒物質同士の対消滅により発生するエネルギー(粒子)を観測する[13]
  3. 直接検出実験:暗黒物質による原子核の反跳を観測する[13]
    • 暗黒物質と通常の物質によって発生するエネルギーを観測する事で[14]、複数の観測方法が提唱されている[13][9][15]。しかし観測されるエネルギー(信号)は、背景ノイズとして存在しているガンマ線や中性子による原子核反跳と暗黒物質由来の原子核反跳は区別が付かない。そのため暗黒物質由来の信号を得るためには背景ノイズの低減が課題である。また観測機器を構成する機器の材料中の放射性物質(放射性同位体)もノイズとして大きな影響を与えている[9]
  • 1980年代 - ゲルマニウム半導体検出器を使用し、暗黒物質と通常の物質の反応断面積に上限があることが判明した[14]
  • 1998年 - イタリアの研究グループ(DAMA)が、6月に最大となり12月に最小となる季節変動があることを報告した[14][16]。しかし他機関による研究では否定的な結果が得られている[17][18]
  • 2000年 - DRIFTが観測開始。
  • 2003年 - CDMS(英語版)が観測開始。
  • 2010年 - XMASSが観測開始。
  • 2019年 - 重力波望遠鏡を使用した観測方法が提案された[19]
主な実験名称と方法
実験名称 方法 標的
DAMA シンチレーション NaI(ヨウ化ナトリウム)
CoGeNT 電離 Ge(ゲルマニウム)
CDMS フォノン、電離 Ge
EDELWEISS フォノン、電離 Ge
XENON シンチレーション、電離 Xe(キセノン)
XMASS シンチレーション Xe

※中山和則(2011)「暗黒物質直接検出の現状と展望 (解説)」より引用[13]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ 1992年WMAPCMBの観測以前は、ハッブル定数は 50 - 100 km/s/Mpc というおおまかな値が与えられていた。なお、2014年までの理論では、ハッブル定数は過去から一定ではなかった(宇宙の加速)とされている。
  2. ^ ビッグバン仮説に修正を迫る観測事実としては2013年に発見されたヘルクレス座・かんむり座グレートウォールU1.27の発見がある[11]。ビッグバン直後の均質な宇宙において初期揺らぎから最初に銀河が生まれ、発生した銀河が規模と数を増しつつ宇宙へ拡散し、銀河団、超銀河団、宇宙の大規模構造へと進化したとするボトムアップ説を採用するビッグバン仮説では比較的初期の宇宙(現在から100億年前、宇宙誕生から38億年後)にヘルクレス座・かんむり座グレートウォールのような全長100億光年にも達する超巨大な構造が形成されるに至ったメカニズムが理論の修正なくして説明不能である[12]。逆に比較的初期の宇宙に100億光年に達する巨大構造が形成されていたという事実は大規模構造となる巨大なガスのかたまりが最初に生まれ、その次に超銀河団のもととなる塊が分裂し、銀河団、個々の銀河へとスケールダウンするように小さい構造が作られたとするトップダウン説を採るプラズマ宇宙論に有利な観測結果と言える。

出典[編集]

  1. ^ アンリ・ポアンカレ『科学と方法』吉田洋一訳、岩波書店、1927年9月5日、243頁。
  2. ^ Zwicky, F. (1933). “Die Rotverschiebung von extragalaktischen Nebeln”. Helvetica Physica Acta 6: 110-127. http://adsabs.harvard.edu/cgi-bin/nph-bib_query?bibcode=1933AcHPh...6..110Z. 
  3. ^ Zwicky, F. (1937). “On the Masses of Nebulae and of Clusters of Nebulae”. The Astrophysical Journal 86: 217. Bibcode1937ApJ....86..217Z. doi:10.1086/143864. ISSN 0004-637X. 
  4. ^ Rubin, V. C. et al. (1980). “Rotational properties of 21 SC galaxies with a large range of luminosities and radii, from NGC 4605 /R = 4kpc/ to UGC 2885 /R = 122 kpc/”. The Astrophysical Journal 238: 471. Bibcode1980ApJ...238..471R. doi:10.1086/158003. ISSN 0004-637X. 
  5. ^ 宇宙の暗黒物質の空間分布を初めて測定 ─ “ダークマターの中で銀河が育つ”銀河形成論を観測的に検証, , すばる望遠鏡 (国立天文台), (2007年1月7日), http://subarutelescope.org/Pressrelease/2007/01/07/j_index.html 2020年1月16日閲覧。 
  6. ^ 銀河形成&宇宙論”. 筑波大学宇宙物理理論研究室. 2012年1月21日閲覧。
  7. ^ “N°7-2013: Planck reveals an almost perfect Universe” (プレスリリース), 欧州宇宙機関, (2013年3月20日), http://www.esa.int/Newsroom/Press_Releases/Planck_reveals_an_almost_perfect_Universe 2014年7月1日閲覧。 
  8. ^ Frenk, C.S.; White, S.D.M. (2012). “Dark matter and cosmic structure”. Annalen der Physik 524 (9-10): 507-534. arXiv:1210.0544. Bibcode2012AnP...524..507F. doi:10.1002/andp.201200212. ISSN 00033804. 
  9. ^ a b c d 蓑輪眞, 「暗黒物質直接探索の現状」『日本物理学会誌』 60巻 8号 2005年 p.609-615, 日本物理学会, doi:10.11316/butsuri1946.60.609
  10. ^ E. Kolb, M. Turner The Early Universe
  11. ^ Universe's Largest Structure is a Cosmic Conundrum”. Discovery Communications, LLC. (2013年11月19日). 2014年9月24日閲覧。
  12. ^ Fractal dimension as a measure of the scale of homogeneity”. Oxford University Press (2010年7月1日). 2014年9月24日閲覧。
  13. ^ a b c d e 中山和則, 「暗黒物質直接検出の現状と展望 (解説)」『日本物理学会誌』 66巻 9号 2011年 p.675-682, doi:10.11316/butsuri.66.9_675
  14. ^ a b c 中村輝石, 身内賢太朗, 「NEWAGE: 方向に感度をもつダークマター直接検出実験」『日本物理学会誌』 71巻 7号 2016年 p.469-473, doi:10.11316/butsuri.71.7_469
  15. ^ 蓑輪眞, 暗黒物質(ダークマター)の探し方 (PDF) 東京大学大学院理学系研究科物理学教室
  16. ^ 「ダークマター」の正体に迫れるか? 宇宙の謎を巡る研究に方向転換の動き WIRED.jp 2019年2月11日
  17. ^ D. B. クライン, 暗黒物質ニュートラリーノを追う 日経サイエンス 2003年6月号
  18. ^ DAMA/LIBRA実験を検証できなかったCOSINE-100〜暗黒物質を巡って深まる混迷 放射線ホライゾン 2019年01月25日
  19. ^ 重力波望遠鏡を利用して暗黒物質の正体に迫る新手法を考案 2019年09月18日 京都大学。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]