迫撃砲弾

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迫撃砲弾(はくげきほうだん)は、迫撃砲で使用される砲弾である。

概要

弾頭」部の内側には信管が組み込まれ、保管・輸送時は砲弾と分けられており射撃前に装着される。「弾体」部は弾種に応じて炸薬などが充填され、細くなった筒状の箇所は「発射薬筒」で発射薬(装薬)が詰められる。矢羽状のものは「安定翼」で、飛翔中の弾道を安定させ着弾角度がより垂直に近くなるよう落下中の姿勢を補正する。

迫撃砲の砲弾は弾体と発射薬が一体化されており(カートリッジ方式)、榴弾砲で見られるような砲弾と薬嚢(装薬を包んだ袋)が別になった分離装填方式をとらない。ただし、射程の延伸を図るため、発射薬筒に増加発射薬(チャージ)を1から複数個取り付ける例(モジュール方式)が一般的である。50mm以下の小型砲弾の場合は最大射程が短いこともあり増加発射薬を取り付けていない。一般的には工場出荷状態で最大数の増加発射薬が取り付けられた状態でケースに収納されており、使用する直前に必要に応じて取り外すようになっている。また、ライフリングされた砲の場合は安定翼が不要なため、その部分に増加発射薬を取り付けることもある。ロケット補助推進弾(RAP)の場合は弾体部の炸薬を減じて推進剤に換える。使用される信管は初期から現代まで着発式が多用されているが、最近では高度な電子技術による空中炸裂信管も登場している。

歴史

日露戦争爆弾を遠くへ飛ばすための武器として迫撃砲が誕生した、初期の迫撃砲弾は手榴弾臼砲などの砲弾の流用であり、迫撃砲専用として設計されたものではなかった。第一次世界大戦でも初期のものは手榴弾の改造であったが、後期には迫撃砲専用砲弾となった。第二次世界大戦以降は完全に迫撃砲専用の砲弾として設計されるようになった。

砲弾の種類

81mm迫撃砲の主な砲弾。
上からM374A2榴弾(HighExplosive)、M375A2発煙弾(WhitePhosphorus)、M301A3照明弾(Illumination)
榴弾
迫撃砲砲弾として最も一般的に使用されている。
化学兵器
第一次世界大戦のころは毒ガスの詰まったガスボンベを投射していたが、第二次世界大戦のころには専用砲弾が開発された。化学兵器は榴弾ほど効果が安定しないことと化学兵器禁止条約によって製造と貯蔵が禁止されたことから、現在では製造されていない。
照明弾
大きな仰角で打ち上げられるとパラシュートが開いて光りながらゆっくり降下してくる。
発煙弾
視界をさえぎる煙幕を張る場合と、着弾地点に目印をつけるために使用される場合がある。迫撃砲では着弾位置を遠くから観測するために用いられる。
ロケットアシスト弾(Rocket Assisted Projectile
ポーランド軍の120mmロケットアシスト弾。上の黒い部分が炸薬で下の黄色い部分がロケットである
射程距離を伸ばすために砲弾にロケットエンジンを内蔵した物。
主に砲弾が大きい120mmクラスで用いられており、120mm常砲弾が射程7㎞程であるのに対して、12-15㎞にまで延長される。誘導砲弾などと組み合わせることも多い。
ストリックス迫撃砲弾(STRIX)
赤外線画像誘導により移動する戦車に対しても高い命中率を誇る。
対装甲破片榴弾(PRAB)
レーザー誘導迫撃砲弾XM395
M984 120mm迫撃砲弾
ロケットアシストと誘導装置を組み合わせた長射程と高い命中率を持ち、DPICMにより高い威力を発揮する。
戦術核砲弾
初期の核砲弾は小型化が進んでいなかった時代にはソビエトでは口径420mmや280mmなどの大口径砲弾が作られている。

砲弾のサイズ

現代においては60mm・81mm・120mmの三種類が標準的な口径になっているが、政治的事情による98mmやさらに威力増大を狙った160mmなども存在する。

37mm
ソビエト軍が個人携帯用の37mm軽迫撃砲として使用していたが、それ以外では事例が無い。
50-51mm(2インチ)
1-3名で小隊レベルで運用される軽迫撃砲で主に使用されている。インチ法の国では口径が50.8mmや51mmであることも多い
砲弾重量は0.85-1.02kgぐらいで、八九式重擲弾筒の八九式榴弾は793gと軽めである。
60mm
歩兵部隊の火力支援中隊で直接支援用として広く使用されている口径である。近年ではこの役目を80mmクラスが担うようになり、個人用の軽迫撃砲の砲弾として使用されることも多くなってきている。
砲弾重量は1.36-2.2kgぐらいで、同じ口径でも長射程の物は砲弾が長く重めになっている。
80-82mm(3.2インチ)
第一次世界大戦で迫撃砲の始祖となったストークス・モーターで採用されて以来、81mmが現代でも中迫撃砲の標準的な口径である
第二次世界大戦のドイツ軍が80mmを、第二次世界大戦のソビエトが82mmを使用していた。
98mm
1990年11月に署名された欧州通常戦力(CFE)条約において口径100mm以上の火砲の保有数が制限されたため、条約制限外兵器として新たに作られた。現時点でこの口径を使うのはポーランド製のM-98迫撃砲のみである。
100mm
中国が独自に制式化した口径である。中国では71式80式89式の三種類の迫撃砲が生産されているが、同国以外でこの口径を使用する迫撃砲は生産されていない。
107mm(4.2インチ)
第二次世界大戦期に採用された口径。アメリカ製のM2 107mm迫撃砲M30 107mm迫撃砲が有名であるが、ソ連製の107mm迫撃砲GVPM-38やイギリスのML 4.2インチ迫撃砲英語版のみが製造された。
第二次世界大戦後はアメリカと、アメリカから上記の2種類の迫撃砲を供与された国以外では比較的早期に淘汰され、現在ではアメリカを含めた多くの国で120mm迫撃砲への更新が進められている。
120mm
現代の重迫撃砲として標準的な口径である。砲弾重量は18-20Kgにもなり、兵士一名で砲口から装填できる限界の大きさである。
160mm
160mm迫撃砲M-43ソルタムM66 160mm迫撃砲など一部ではあるが現代でも使用されている。
このクラスになると砲弾重量は38.5-40kgにもなり人力で持ち上げて砲口から装填することが困難になる。そのため160mm迫撃砲M-43後装式ソルタムM66 160mm迫撃砲は砲身を動かして砲口の位置を下げる仕組みを持っている。

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信管

イギリス軍が第一次世界大戦2インチ中迫撃砲で使用していたNo105B発着式信管
着弾の衝撃力で点火針が点火薬を激発することで作動する

迫撃砲信管はほぼ全てが弾頭信管である。古くから着発式瞬発信管が用いられてきた。着発式瞬発信管とは砲弾が地面などに着いた瞬間に発破する信管である。 低コストな砲弾ということもあり、かなり近代まで単純な着発式瞬発信管が用いられてきたが、最近では高度な電子技術により地面から数メートルの高さで炸裂するM734マルチオプション信管が使用されるようになった。

迫撃砲の信管の安全解除は単純な安全ピン方式が最も多く使用されてきたが、発着式信管は安全ピンを外してしまうと落としただけでも爆発する危険があり、火薬の不完全燃焼などの事故[1]で手前に落下しても爆発するので安全性に問題があった[2]。また、何かに引っかかってピンが抜けたりする危険や、兵士がうっかり安全ピンを抜き忘れると不発になるという人為的ミスの問題もあり、近代では人為的な安全解除の動作が不要な気流式が主流になっている。 迫撃砲はライフリングが無く、砲弾が回転しないため遠心力式の解除装置が使えない、このため、信管に小さな風車をつけて気流で一定数回転すると安全装置が解除される気流式が主流で用いられている。 風車を用いた気流式の利点は初速に関係なく安全距離が確保できることにある。迫撃砲は射程距離に応じてチャージ数を変えるので遠距離ほど初速が速くなるため初速に関係の無い方式が必要となるのである。 また、気流式は砲弾が発射され一定距離を飛翔しない限り安全装置が解除されないため、装填した砲弾が不発になった場合でも安全に砲弾を取り出すことができる[3]

ギャラリー

脚注

  1. ^ コルダイトなどのニトロセルロース系の装薬は経年劣化する性質があるため、安定剤の技術が未熟だった第一次世界大戦のころは不発や不完全燃焼が多かった。
  2. ^ 迫撃砲の手前には味方の歩兵が展開していることが多いので間違えて数十メートル手前に落下すると味方歩兵の頭上に砲弾が落下することになる。このため、味方の頭上を跳び越すまでは安全装置が解除されない必要がある
  3. ^ 迫撃砲で不発が起きた場合の取り出し方は砲身を外して砲口を下に向けて砲弾を自由落下で砲身から取り出す方式が主流なので、安全ピン式の場合はうっかり地面に落とすと自爆する危険が高く、迫撃砲の不発処理は神経を使ったが、気流式ならそのまま地面に落としても平気である

関連項目