紙巻きたばこ
紙巻きたばこ(かみまきたばこ)とは、刻んだタバコの葉を紙で巻いてあるたばこのことである。シガレット(英: cigarette)とも呼ばれる。
パイプなどと違い他の喫煙器具を要せず、着火装置さえあればたばこ単体でそのまま喫煙可能なように加工されているため広く普及しており、特に日本では単に「たばこ」と言えば紙巻きたばこを指す事が殆どである。
なお、たばこ全体に係る内容については、喫煙の項を参照。
構造と材質
形状は刻みたばこを紙で筒状に巻いたもので、太さは7mm程度[註 1]で長さは85㎜から100㎜程度が一般的であるが[1]、太さ5.4㎜程度の物[1]や9㎜近いものもある[2]あり、長さも短いものは65㎜程度の物もある[1]。
たばこを巻く紙はシガレットペーパーまたはライスペーパーと呼ばれるが[1]、ライスペーパーと言っても原料は稲ではなく、紙の材料は主に麻[2]やパルプである[1]。紙の燃える臭いを押さえ燃焼速度を刻みたばことあわせるためにシガレットペーパーには炭酸カルシウムが加えられており、また国によっては紙にアンモニウム、フォスフェート、炭酸マグネシウム、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウムなどが加えられることも有り、たばこの味に悪影響を与えないように各製造業者ごとに工夫がこなされている[2]。
たばこ葉には匂いをよくするために香料が加えられることが多く、よく使われる香料には糖類、ココア、カンゾウ、メンソール、ラム酒、バニラ等がある[1]。これらの香料はタバコの葉に直接染みこませたり、フィルターもしくはシガレットペーパーに染み込ませたりされる。
紙巻たばこの吸い口は、大別して3種ある。
- 口付(くちつき)……ストロー状の巻紙(口紙という)の吸い口が付いたもの。口紙をつぶして吸う。現在日本では製造されていない。
- 両切(りょうぎり)……刻んだタバコ葉を紙で巻き両端を揃えて切ったもの。口付たばこの次に登場した。現在日本ではゴールデンバットやショートピースが両切りである。
これらは注意しないと刻みたばこ葉が口に入ってくるものである。
フィルター
現在日本で販売されているほとんどの紙巻きたばこの吸い口部分にはフィルターが付いている。フィルター部分を包む紙はシガレットペーパーと区別するためにチップペーパーと呼ばれ、小さな穴を開けるなどして煙を吸い込む際に混ざる空気の量を調節し、味を軽くしたりニコチンやタールを軽減したりする[1]。 以下にその種類と構造を記す。
- アセテートフィルター…アセテートのみで作られたもの。プレーンフィルターとも呼ばれる。
- チャコールフィルター…アセテートにチャコール(活性炭)を混ぜて作ったもの。
- リセスドフィルター…チップペーパーがフィルターよりも長く、フィルターの吸い口に近い部分が中空になっているもの。
- AFTフィルター…フィルター表面に溝があり、煙を吸い込むと同時に溝から外気をより多く取り込む構造になっているもの。
歴史
通説では、1853年から1856年のクリミア戦争の戦地で、パイプを失った兵士が、火薬を包むための紙で刻みたばこ葉を巻いて吸ったのが始まりと言われている。またクリミア戦争起源説とは別に、ヨーロッパでは、1832年エジプト・トルコ戦争においてシリアのアッコを占領したムハンマド・アリー朝エジプトのイブラーヒーム・パシャの軍隊が輸送中の大量のパイプを敵に取られて兵士達が仕方なく刻みたばこを紙で巻いて吸ったという通説が有力である。しかし、実際にはクリミア戦争やイブラーヒーム・パシャ以前にも世界各地で紙巻たばこは少数派ながらも存在し、通説は正しくは無いが、ただクリミア戦争以降に紙巻たばこがヨーロッパ中で普及していったことも確かである[4]。 この19世紀後半にはすでに手工業的に生産されていた。
コロンブス以前にアメリカインディアンは乾燥させたタバコの葉を刻んで植物などで巻いて吸うことを行っており、1700年にはラテンアメリカからスペインに向けて紙巻たばこ用の紙が輸出されている。クリミア戦争以前にも特にスペインでは紙巻たばこが吸われていたと言う。1843年にはオーストリアでシガレットペーパーが試作され、フランスでもシガレットを専売制の元においている。1850年にはドイツ人貴族がシガレットを製造している[5]。
とはいえ、紙巻たばこがたばこの中で主流となったのはヨーロッパや日本・中国では第一次大戦後、アメリカでは第二次大戦後のことである。さらに日本と中国を除くアジア諸国の多くでは1980年代からである[6]。19世紀のヨーロッパでは嗅ぎたばこからパイプたばこまたは葉巻たばこが有力で、紙巻たばこが主流になるのは第一次大戦後、特にスウェーデンでは嗅ぎたばこが好まれ紙巻たばこが主流になるのは第二次大戦後のことである。アメリカでは噛みたばこが好まれ紙巻たばこが50%以上を占めるのはやはり1941年以降のことである。インドでは1950年になっても紙巻たばこは少なく、噛みたばこと水キセルたばこが好まれ1980年代になってやっと紙巻たばこが主流となっている。 日本では古くよりキセルが用いられ、1920年代になって紙巻たばこが主流になっている[6]。
世界では1900年にはたばこ消費者の8%が紙巻たばこを吸い、1950年では57%、そして1980年代になって世界で生産されるたばこの80%が紙巻たばこになっている[7]。
安全性
たばこ会社により、紙巻たばこ1本に含まれるニコチン量のコントロール、喫煙時に摂取するニコチン量の制御が行われている。日本では、たばこ事業法に基づく財務省令により国際標準化機構 (ISO) が定めた方法でタール・ニコチン量が測定されて、たばこ製品の包装に表示されている。現在日本ではたばこ1本あたりのタール量は整数値、ニコチン量は小数点1桁までの数値で表示されることになっている。
実際の喫煙により摂取されるニコチン量は異なるが1 - 3mg前後である。表示上のニコチン量や製品名のマイルド(MildまたはMilds)、ライト (Lights) と言う記載は健康に関する安全性やリスクの軽減を意味しない[8]。 体に入るニコチンやタールの量は吸い方によって大きく違う。長さの1/3まで吸ったところで止め普通の吸い方で吸ったときに比べて、タバコの3/4の長さまで吸い、煙を肺の奥まで思い切り吸い込んだときは吸い込むニコチン量は20-30倍の量になると言う[9]。
たばこ葉には、有毒で習慣性の強いニコチンが含まれているので、乳児等が誤って口にしないよう、吸い殻も含め十分な注意が必要である。たばこを吸う人のうち、約半数はたばこに関連した病気で死亡するとする調査報告[10]や、たばこを吸う人は、そうでない人に比べて寿命が約14年短くなるという指摘も存在する[11]。
脚注
註釈
- ^ 紙巻たばこの太さは直径ではなく円周で表示するのが一般的 -出典 日本専売公社『たばこの話あれこれ』p.100
出典
- ^ a b c d e f g JTたばこワールド・たばこの構造2012.8.30閲覧
- ^ a b c 日本専売公社『たばこの話あれこれ』日本専売公社、1976年、p.100
- ^ 日本専売公社東京工場・工場史編集委員会 編著『たばこと共に七十余年』日本専売公社東京工場発行、1982年、pp.5-10
- ^ 上野堅實『タバコの歴史』大修館書店、1998年、pp.167-168
- ^ ジョーダン・グッドマン 著『タバコの世界史』和田光弘 他 訳、平凡社、1996年、pp.124-126
- ^ a b ジョーダン・グッドマン 著『タバコの世界史』和田光弘 他 訳、平凡社、1996年、pp.124-130
- ^ ジョーダン・グッドマン 著『タバコの世界史』和田光弘 他 訳、平凡社、1996年、pp.131
- ^ タールニコチン含有量推移厚生労働省 最新たばこ情報
- ^ 日本専売公社『タバコの話あれこれ』日本専売公社、1976年、p.97
- ^ BMJ
- ^ NYC
参考文献
書籍
- 上野堅實『タバコの歴史』大修館書店、1998年
- 日本専売公社 編集『たばこの話あれこれ』日本専売公社、1976年
- 日本専売公社東京工場・工場史編集委員会 編著『たばこと共に七十余年』日本専売公社東京工場発行、1982年
- ジョーダン・グッドマン 著『タバコの世界史』和田光弘 他 訳、平凡社、1996年
サイト
- JTたばこワールド・たばこの構造2012.8.30閲覧