国選弁護制度

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。182.167.244.222 (会話) による 2013年6月27日 (木) 02:06個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎報酬・費用)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

国選弁護制度(こくせんべんごせいど)とは、刑事訴訟手続において、被疑者被告人貧困などの理由で私選弁護人を選任することができないときに、国がその費用で弁護人を付することによって、被疑者・被告人の権利を守ろうとする制度である。

大別すると、被告人国選弁護(起訴後)と、被疑者国選弁護(起訴前)との二本立ての制度になっている。この制度によって就任する弁護人を、国選弁護人という。

憲法との関係

日本国憲法第37条3項で、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。」と定めている。したがって被告人国選弁護は、憲法上必置の制度であり、被告人からすればその依頼権(国選弁護人選任請求権)は憲法上の権利となる。

一方で、被疑者国選弁護に関しては、憲法上は何らの定めもない。

被告人国選弁護

被告人は、貧困その他の事由により私選弁護人を選任することができないときは、裁判所に対し、国選弁護人の選任の請求をすることができる(刑事訴訟法36条)。

その際の手続は、必要的弁護事件任意的弁護事件かによって異なる。

必要的弁護事件とは、法定刑死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件、公判前整理手続若しくは期日間整理手続に付された事件又は即決裁判手続による事件のことをいい、弁護人がいなければ開廷することができない(刑事訴訟法289条1項、316条の29、350条の9)。このような必要的弁護事件については、既に私選弁護人が選任されている場合を除き、裁判所は国選弁護人を選任しなければならない(同法36条)。また、被告人の請求がなくても、弁護人がいないときや、弁護人がいても出頭しないときは、裁判長は職権で国選弁護人を付さなければならない(同法289条2項)。

一方、任意的弁護事件(必要的弁護事件以外の事件)については、被告人が国選弁護人の選任を請求するためには、資力申告書(自己の現金、預金等の資産を申告する書面)を提出しなければならない。資力が政令[1]で定める基準額(50万円)に満たないときは、そのまま選任請求ができるが、基準額以上の場合は、いったん、弁護士会に対して私選弁護人選任申出の手続をしなければならない。弁護士会に、弁護人となろうとする者がいないときや、弁護士会が紹介した弁護士が被告人の私選弁護人の受任を断ったときは、被告人は国選弁護人の選任請求ができる(同法36条の3、31条の2)。

このほか、被告人が未成年者であるとき、被告人が70歳以上であるときなど、特に保護を要する場合には、裁判所は、職権で(被告人の請求がなくても)国選弁護人を選任することができる(同法37条、290条)。

被疑者国選弁護

法定刑が死刑又は無期若しくは長期3年を越える懲役若しくは禁錮に当たる事件(第1段階の重大事件のほか,窃盗,傷害,業務上過失致死,詐欺,恐喝など)について、被疑者に対して勾留状が発せられている場合で、被疑者が貧困その他の事由により私選弁護人を選任することができないときは、裁判官に対し、国選弁護人の選任の請求をすることができる(刑事訴訟法37条の2)。

2004年(平成16年)の刑事訴訟法改正(平成16年5月28日法律第62号)により導入され、2006年(平成18年)10月2日に施行される。ただし、被告人(起訴後)の場合と異なり、対象となる事件が一定の重い事件に限られており、かつ、勾留による身体拘束を受けている被疑者に限られる。したがって、逮捕により留置されている状態の被疑者は対象にならない(弁護士会において実施している当番弁護士制度の対象にはなる)。裁判員制度施行前の2009年5月20日までは、被疑者国選の対象が法定刑が死刑又は無期若しくは短期1年以上に限定されていた。

被疑者が国選弁護人の選任を請求するためには、資力申告書を提出しなければならない。資力が基準額(50万円)以上の場合には、弁護士会に対し私選弁護人選任申出の手続をしなければならない(同法37条の3)。

このほか、被疑者に対して勾留状が発せられ、かつ、これに弁護人がない場合において、精神上の障害その他の事由により弁護人の必要性を判断することが困難である疑いがある被疑者について、必要があると認めるときは、裁判官は、職権で国選弁護人を付することができる(同法37条の4)。

国選弁護人選任の手続

日本司法支援センター(法テラス)が2006年(平成18年)10月から開業し、ここが国選弁護制度の重要な部分を担うようになった。

すなわち、裁判所(又は裁判長、裁判官)は、前述のように被告人・被疑者に国選弁護人を付すべきときは、日本司法支援センターに対し、国選弁護人の候補を指名して通知するよう求めるものとされた(総合法律支援法38条1項)。

同センターは、この求めがあったときは、遅滞なく、国選弁護人契約弁護士の中から、国選弁護人の候補を指名して裁判所に通知する(同条2項)。裁判所は、この指名された候補者を国選弁護人に選任する。

候補者の弁護士が選任されると、同センターは、契約に基づき、その弁護士に国選弁護人の事務を取り扱わせる(同条3項)。

報酬・費用

国選弁護人の報酬・費用等は刑事訴訟の訴訟費用となるから(刑事訴訟費用等に関する法律2条3号、総合法律支援法39条2項)、有罪判決の言渡しがあったときは、原則として、その全部又は一部が被告人の負担となる(刑事訴訟法181条1項)。

脚注

  1. ^ 刑事訴訟法第三十六条の二の資産及び同法第三十六条の三第一項の基準額を定める政令(平成18年9月6日政令第287号)